5年ほど前から普及した、既存の電子機器や製品などを元にして開発されたサポートデバイス。
それは人々の生活に必要な物となりつつあった。
が、そんな世界で何故か自分のサポートデバイスを持てない少女──大海原(わたのはら)いざなはお世話になっている父娘の家に住み込みつつ、同じ建物内にあるリサイクルショップでサポートデバイスの修理・調整サービスを行っていた。
ある日、彼女へ変わった依頼が届く。
それはサポートデバイスに関して最大の開発・供給元であるMERCURIUS ENIAC(メルクリウスエニアック)からで…?

「──一緒に戦おう」

※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい。

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──数年ほど前
小雨の降る昼下がり。
傘を持った茶髪に青い眼鏡をかけた黒い目の男性が目を向けたのは、リサイクルショップの前で倒れている空色のロングヘアの少女。
「君、大丈夫か?」
少女は男性の声に気づき、透き通るような濃いエメラルドグリーンの目を薄らと開ける。
少女は男性を暫しぼんやりと見つめていたが、男性は少女の様子を見て言葉を続ける。
「君が良ければ、だが。…うちに来るか?」
その言葉に、少女は小さく頷いた。


Code.0 荒ぶ波

 

──リサイクルショップ「大海原(わたのはら)

─朝方

楽器、玩具、日用品、雑貨や食器などが並ぶ、こぢんまりとした店内。

そんな店内の電子機器や家電が所狭しと並んでいるコーナーの一角。

屋台のように簡易的なサービスコーナーの上にある看板のようなものには「サポートデバイスの修理・調整承ります」という字が蛍光カラーで大きく書かれている。

そこで作業をしていた、青いパーカーと緑色のズボンを着た、黒い細リボンの髪飾りを着けた空色のロングヘアにエメラルドグリーンの目の少女は作業の手を止める。

少女の左胸元には「いざな」というネームプレートが見える。

「…よし、サイちゃん!これで修理は終わったよ〜」

言いつつ、少女──大海原(わたのはら)いざなが話しかけたのは手元で先ほどまで修理していたと思われるサイのような見た目をした電子重量計。

分かりやすく命名するなら、ライノスケールと言ったところか。

重量計の状態からサイに近い姿になったそれは少し鳴き声を上げ、彼女の近くを少しばかり移動する。

先ほど彼女が終わらせたライノスケールの修理依頼は「計った時にしっかりとした量が表示されない」「物を乗せた際に本来の重さより軽く表示されたり重く表示されたりする」、この2つを直してほしいというものだった。

その為、ライノスケールのライノセラスモード自体に不具合はない。

作業コーナーの上をライノセラスモードで移動するライノスケールを見て、いざなはニコニコと笑みを浮かべる。

「うんうん、快調そうでなにより」

が、移動していたライノスケールは突然置かれたサンドイッチの乗った皿に阻まれ、軽く横転する。

慌てていざなはライノスケールを両手で支え、皿を置いた人物を見る。

「さぐめちゃん〜…修理したばっかりなんだから、雑に扱わないで〜」

「私はいざな(ねえ)がちゃんと食べたり寝てない方が心配。…というか、2階()にも部屋あるでしょ」

そう言いつつ、彼女に青い目を鋭く向けるのはいざなよりも僅かに顔に幼さが見える少女。

髪は茶髪のミディアムヘアだが、薄水色のリボンカチューシャを着けており、服装は青系のセーラー服。

いざなの義姉妹である、大海原(わたのはら)さぐめだった。

見た目の年齢のみなら、いざなの方が年上である為、彼女はいざなの事を姉として扱っているらしい。

最もいざなからすれば、さぐめの方が義姉であり、傍目からすると変わった呼び方ではあるが。

「だって、こっちで作業した方が落ち着くし…」

「まだ開店前」

「他にも修理依頼来てるし…」

「それ終わらせる前に倒れられたら、私もお父さんも困る」

「お父さんからは好きなようにやりなって言われてるよ?」

「お父さんは店番してるようなもんだからいいの。いざな姉、そもそも学校すらちゃんと通えてないでしょ」

「だから代わりに修理サービスしてるんだけど…」

「ともかくサンドイッチ(これ)食べたら仮眠取るなりちゃんと寝るなりして。…修理終わったデバイスはお父さんの方から依頼人に返すだろうから」

「ん〜…分かった、これ食べたら仮眠取る」

「そうして」

そんな2人の様子を見てか、ライノスケールがさぐめの方を向いて鳴き声を上げる。

「何?」

「怒ってるの?って言ってる」

「…前から思ってたけど、いざな姉だけに聞こえてる()()()()()()()()()()ってなんなの?」

「声は声だよ〜」

「あー…もう。ちゃんとした返事期待した私がバカだった」

「酷くない?!」

いざながサポートデバイスの修理や調整を出来る理由。

それは彼女がデバイスから聞く事の出来る()にあった。

原理は不明でこそあるものの、彼女はデバイスから声が聞けるらしく、依頼された場所以外の不備や不調にも気づく事が出来る。

また会話する事も可能なようで、彼女は修理や調整を終えたデバイスと話している事もしばしば。

「…まだ行くには早くない?」

「部活の朝練。その後は授業」

「あー、そっか」

「とりあえず、開店まで時間あるから食べたら寝る!…分かった?」

「はーい」

「生返事…」

さぐめは溜め息を吐きつつ、裏手口の方へ。

彼女の通学鞄にはキジのような見た目をした警報器(アラート)型のサポートデバイスが付いている。

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃーい」

さぐめを見送りつつ、いざなはサンドイッチに手をつけ、食べ始めたのをライノスケールが不思議そうにジッと見る。

「…いや君にはあげないよ?」

それを聞いたライノスケールは少し大きめな音量で鳴き声を発する。

「怒んないでよ〜…」

 

 

商店街にて。

早朝ながら、軽くステップを踏みながら歩く人影が1つ。

人通りが少ない為か、踊るようにも遊んでいるようにも思えるようなステップを踏みながら歩いているその存在は明らかに浮いていた。

空色の髪に一房の赤いメッシュ、紫色の目の青年。

耳元には黒いピアスが見え、メッシュの部分には黒いヘアピンの上に被せるように白いヘアピンが2本ついており、首元には黒い首輪のようなものが着いている。

上は黒いジャケットの中に長袖のワイシャツと黒いネクタイを着け、下はダメージジーンズという傍目から見れば少し噛み合っていない服装だった。

青年は暫しの間ステップを踏んでいたが、ふとある店の前で止まる。

彼が目をつけたのは亀のような姿をした置き時計、クロックタートル。

一般に出回っているサポートデバイスの大まかな3種類の区分──意思を持たないデバイス、AIによる意思を持つデバイス、自律意思を持つデバイスの中では3番目の自律意思タイプにあたるもの。

使用を続ける事で使用者の生活リズムを学習し、その時間帯にルーティーンとなっている事を忘れていた際に使用者に伝えるだけでなく、クロックモードでは時計部分にある小さな電光掲示板を使い、全文カタカナではあるものの、意思疎通をする事も可能。

移動速度こそ元となった動物に準拠するが、自身でついていくべきと判断した場合は自ら使用者の旅行先などについていく事もある。

タートルモードの愛らしい見た目と合わさり、他の2種より相応に値の張る自律型サポートデバイスの中ではかなりの人気を持つもので、独り立ちした学生や新社会人などにも生活のお供として勧められる事の多いデバイスである。

また、上記の生活リズム学習機能を活用し、子供の生活リズムを整える為に購入する親もいる。

そんなクロックタートルを少し見つめていた彼だったが、躊躇いなく陳列されていたショーウィンドウを壊す。

大きな音と共にガラスが割れ、破片が彼の足元に散らばる。

彼はクロックタートルを店先の陳列棚から奪取し、同時に彼の手から文字化けのような歪な文字が発生してクロックタートルを包み込む。

そのまま、彼はその状態のクロックタートルを天高く放り投げた。

それと共にクロックタートルが変化し、着地する。

無理やり頭を甲羅から出されたような頭部に、目元は横長のディスプレイが強引に貼り付けられており、胴体から両肩・両膝付近はモザイクとも文字とも取れるエネルギーが歪に光りながら揺らめいている。

両足と両脚部分には別の虫のようなものが這っており、それが頭部と同じように無理やり腕と足を形にしている。

片手には長針を模した剣があり、背中部分には時計が焼印のように刻まれている。

「こんなところでいいでしょうか。…タートルディアボロス、貴方に命令を下します」

 

「──この世界に存在する、特殊なデバイスの奪取と…ある存在を拐引(かいいん)してきなさい」

 

 

開店時間から暫くした、「大海原」にて。

下にレギンスを履き、パーカーの上から専用の青い前掛けを着た、茶髪に青い眼鏡をかけた黒い目の男性は店内を見回っていた。

店の性質上、買取や売却などの目的で来る客はまちまちな為、軽い運動と不審人物がいないかの確認を兼ね、こうして見回っているのだ。

男性の左胸元には「みなか」というネームプレートが見える。

「…ん?」

みなかが足を止めたのは楽器コーナー。

基本的にジャンク品や、趣味などをやめた客から買い取った楽器を主に置いているコーナーであり、一部の専門的なものを除けば、素人でも手に取りやすい楽器の多い場所でもある。

そこから聞こえてきたのはクラシックギターの少し弱った音色。

コードを弾こうとしているのではなく、何か確認するように弾いているのが音の出方から分かった。

「……まさかな」

みなかは自転車コーナーに進めようとしていた足を、音のする方へと転換して進む。

そこにいたのは。

「ん、やっぱりこれも違うか」

「…また君か」

先ほどまで弾いていたクラシックギターを元の位置に戻そうとしている人物を見て、みなかはため息を吐く。

下にストレッチジーンズを履き、黒い薄手のタートルネックの上に黄みのある茶色の上着を着た、赤い髪に青い一房のメッシュがある明緑の目の男性はみなかに気づき、視線を其方に。

「よっ。…いつも通りの見回りか?」

「君にそれは言われたくないんだが、海音(かいと)君。いつも適当に軽く楽器を触ってはすぐ店を出るだろう」

キーボード、ギター、ベース、電子ドラム、カスタネット、トライアングル、その他色々。

そう言ったものをふらっと来ては少し演奏し、すぐにいなくなるのが彼の常だった。

近場の住民からは家を出奔しているからどうこう、とは聞いたが詳しい事は本人からも聞いていない。

今のところ聞く気もないが。

「いやいや、俺だって何も考えなしに触ってるわけじゃないんだぜ?」

男性──皇海音(すめらぎかいと)は笑う。

「…聞くだけ聞こうか」

「こう、ガツンと来る音を演奏出来る楽器探してたんだよ。…(ここ)にぶっ刺さって、体中に響くような感じのもんを」

「それなら、専門の楽器屋に行った方がいいんじゃないのか」

「それじゃあ意味ねえんだって!」

「どういう事だ?」

海音は少し口を噤んだ後、言葉を続けた。

「…ここの楽器には音楽を諦めていった奴等の残り香みたいなのがあると思ってる。そんなかで一番強いもんを俺は探してる」

「残り香、か」

それを聞いて、みなかは少しだけ昔の事を思い出した。

若気の至り、故の──

「…いや、あれはもう過ぎた事だ」

そんな小言を呟きつつ、海音が背負っている多少大きめなエレキギターに目が行く。

彼が常日頃から背負っているものだ。

「?」

「こちらの話だ。それで君はそれが目的だと」

「まあ、そうなるな」

「…だが、それとこれとは別だぞ」

「厳しいなぁ、もう」

海音は軽口を叩きつつ、演奏の為に近くに置いてあった他の荷物を手に取り、入り口へと歩みを進める。

「んじゃ、また!」

「おい待て、またって…!」

入り口に早足で向かう海音を追いかけるも、途中でみなかは足を止めた。

海音とほぼ入れ違いに入ってきたと思しき、黒髪の所々に水色のメッシュが入った明紫色の目の青年。

灰色のレギンスを履き、白いパーカーの上に茶色の薄手のジャケットを羽織り、首元には赤いヘッドフォンが見える。

青年は僅かに驚いた顔をしているみなかを気にも止めず、口を開いた。

「大海原いざなって子に用があるんだけど…今いる?」

 

 

青年が「大海原」から立ち去って、少し経った頃。

仮眠を終えたいざなは2階の居住スペースから、店である1階に降りてきていた。

結局、残っている他の依頼が気になってしまい、さほど寝る事は出来なかった。

軽く欠伸をしつつ、修理コーナー(いつもの場所)に戻ろうとしているいざなにみなかが声をかける。

「いざな、今いいか」

「?依頼?」

「依頼と言えばそうなんだが…なんと言えばいいのか」

「修理でも調整でもないの?」

「あぁ。…これだ」

そう言ってみなかが渡したのは1枚の紙。

いざなはそれを受け取り、まじまじと読み込んでいたがある箇所を見て驚いた声を出す。

 

依頼人…──メルクリウスエニアック?!」

 

「声が大きい」

「ご、ごめん。…でも、なんであんな凄いところが?」

MERCURIUS ENIAC(メルクリウスエニアック)

世間一般に普及している各種サポートデバイスの一番大きな供給元であり、開発元。

それ以前から電子機器を販売していた事も手伝い、世間から大企業として認識されている。

「それは俺にも分からん。依頼してきた子も、母親から渡せと言われたの一点張りで他に教えてくれなくてな」

「ん、分かった」

「いいのか?」

「お父さんは知ってると思うけど、基本あんまり依頼人の事情には首突っ込まないようにしてるから。だから大丈夫」

「そうか。…そろそろ昼前だし、買い出しを頼んでいいか?さっきの依頼はその後でも大丈夫だと思ったんだが」

「分かった、そうする」

少しして。

いざなはみなかから渡されたお金の入った小さな財布とスマホのデフォルトメモに書いたものを見つつ、エコバッグを片手に近くのコンビニまで向かっていた。

と言っても、昼食の為に店を閉めておける時間があまり無い為、軽食やレンチンして食べられるものばかりだが。

「…?」

彼女がふと目を向けたのはベンチに座って恐竜のようなデバイスと戯れている青年。

灰色のレギンスを履き、白いパーカーの上に茶色の薄手のジャケットを羽織り、首元には赤いヘッドフォンが見える、黒髪の所々に水色のメッシュが入った明紫色の目の青年はいざなから目を向けられている事に気づく。

「見てたの?」

「あっ、いや…恐竜型のデバイスって珍しいなって思って」

「…近くで見る?」

「いいの?!」

「ん、うん」

青年からの答えを聞いたいざなは彼の座っているベンチの隣へ。

青年が戯れていたデバイスはいざなが言及したように恐竜型。

T-レックスに近い形状をしており、前傾姿勢の状態で2人の周囲を歩いている。

よく見ると両目部分はカメラアイだった。

「母さんが言うには初期型のサポートデバイスの1つなんだって」

「初期型?」

「うん、今出回ってるデバイスの原型になったって聞いた。あと何機かあるみたいだけど…」

それを聞いて暫し黙り込んだまま恐竜型のデバイスを見るいざなを見て、青年は僅かに表情を変える。

「どうしたの?」

「原型になったなら、なんでそれを公表しないのかなって思って。…あと、もしかしてこの子カメラ?」

「そうだけど。…カメラレックス、だっけ」

「自律…はしてないよね、AIでもなさそう?」

「意思はないよ。自動変形もしないし」

「?じゃあどうやって変形するの?」

いざなの一言を聞いた青年は恐竜型デバイス──カメラレックスを手招きし、自分の手元に。

手の中にあるレックスカメラの頭部と尻尾を胴体部分にしまい、胴体の半分を反対側に移動させる。

移動させた側にはデジタルカメラの液晶部分と幾つかのボタンが露出し、胴体部分の右上をスライドさせるとカメラレンズが露出する。

これがカメラレックスの2つ目の形態(モード)である。

「これでカメラモード。ちょっと手間はかかるけど」

「お、おぉ…!」

「そんなキラキラした目を向けられるの、初めてだから変な感じ…」

「写真撮れる?」

「勿論」

「…触ってみてもいい?」

「ん、優しくね」

そう言って青年はいざなにカメラモードのカメラレックスを渡す。

いざながじっくりと見ているのを気にせず、青年は思い出したように言う。

「母さんから渡されてる初期型はもう1つあるんだけど…機能的に今は使うタイミングじゃないからなぁ」

「そうなの?」

「うん」

青年にカメラレックスを返した後、いざなはスマホを確認する。

まだ間に合わなくはないが、急いで買いに行かないと午後からの営業に間に合わない。

突然立ち上がったいざなに今度は青年が疑問を口に出す。

「どうしたの?」

「お父さんからお昼買ってきてって言われてたの、忘れるところだった…!…いや、でも君の持ってるもう1個のデバイスも気になるし〜…!」

いざなは少しの間考えていたが、青年の方に僅かに向く方向を変えながら言う。

「…名前だけでも聞いていい?」

「……。…川星駿河(かわほしするが)

「駿河君ね、覚えた!」

そのまま行こうとするいざなを青年──駿河は呼び止める。

「待って」

「?」

「…ん、約束しよ」

言いつつ彼はいざなにフックのように曲げた小指を出す。

「約束?」

「うん。また会う事があったら、俺が持ってるもう1個見せるっていうの」

「!」

それを聞いたいざなは駿河の小指に同じようにした小指を引っ掛け、指切りする。

指切りした後、いざなは急ぎ足でコンビニへと向かっていった。

それを見送った駿河は彼女がいなくなった後、無自覚に呟いた。

「名前、聞くの忘れてた……」

カメラレックスを自分の鞄に戻し、彼はその場から立ち去った。

 

 

タートルディアボロスは背中に存在する時計の短針と長針を遅め、道ゆく人々の行動速度を遅延させてはそれを剣で切り刻んだり、周囲を破壊していた。

タートルディアボロスを生み出した青年はそれを遠巻きに見ていたが、少し考えるような仕草をした後に0と1が混ざったエフェクトにもモザイクにも見えるものに包まれ、姿を消した。

 

 

──夕方

昼食を食べてから少しした後、いざなは走りながら依頼にあった場所へと向かっていた。

依頼内容はまだ世間一般に公表されていない、かなり特殊なデバイスを取りに行く事。

そして、それを本社まで届けるというもの。

デバイスのある施設自体は本社からそう離れていないようだが、いざなは向かいつつ考えていた。

「でも、なんで私なんだろ…」

サポートデバイスの類であるのなら、社員に回収させるのが無難な線。

それをしないという事は社員にも秘密にしているものなのか。

仮に秘密にしているとして、その理由は?

そんな事を考えていると、眼前に3つの小さなケースが見えてくる。

いざなは3つのケースの前に行くと速度を落とし、中央にあるケースを開ける。

「…なにこれ?」

ケースの中にあったのはセルリアンブルーを基調とした、2つの装填スロットが見える大型のアイテム。

アイテムの右下辺りには「Arkadia(アルカディア)」の彫字が見える。

いざなが恐る恐るそれを手に取ると、アイテムから女性的な音声が。

『起動及びマスターを確認、認証しました』

「えっ?!」

もしや一度起動してしまうと取り消しが出来ないのではと思い、慌てて手を離したが音声は続く。

『私はこのデバイスに搭載されている、自我を持つAIです。よろしくお願いします、マスター』

「あー、えっと…取り消しって出来ない感じ?」

『それは不可能であると返答します』

「…やらかした……!!」

『何か不都合な事がございましたか?』

「いや、うん…君は気にしないで…。こっちの話」

『理解しました。以降、この話題は致しません』

「とりあえずそうして…」

ドライバーの音声が落ち着いたのを確認し、左側のケースを開く。

「…ハンディファン?」

よく見ると持ち手部分には小さなスライドタイプのつまみがついている。

ハンディファンのデバイス──ハンディウィンドを一度ケース近くに置き、アイテムといまいち繋がらないなと思いつつ、先ほどからガタガタと激しく動く右側のケースを開く。

開けたと同時に飛び出してきたのはバッタのような姿をした、緑と茶色のグラデーションの色をしたデバイス。

頭部の辺りにはセンサーのようなものがついている。

バッタのデバイスは飛び出してきた勢いのまま、いざなの額近くにぶつかり、いざなも軽く後ろに倒れかけて尻もちをつく。

「痛い…」

バッタのデバイス──ホッパーセンサーは彼女の周囲を飛び跳ねる。

が、彼女は気にせず()()する。

「うん、まあずっと閉じ込められてたのにいきなり開けられて知らない人がいたら、びっくりするよね…」

それを聞いたホッパーセンサーは彼女の近くで動きを止める。

「ちゃんと声聞いてくれたの、私が初めて?…そっかあ」

ホッパーセンサーが小さくその場で跳ねるのを見ながら、いざなは言葉を続ける。

「…私も、なんでデバイス(君達)の声が聞こえるのかは分かんないんだ。お父さんやさぐめちゃんとか、他の人が使ってるデバイスはなんでか知らないけど、私が使おうとすると上手く反応しなくって。こうして会話は出来るし、修理も調整も出来るんだけど…ちょっとだけ、輪から外れてるみたいで寂しいなって思っちゃうんだよね」

サポートデバイスが本格的に普及するようになったのは約5年前。

といっても中にはまだスマートフォンなどを使用し続けている人もいるにはいるようで、少なくとも国内の割合としては6:4と言えるのが現状。

それでも、いざな(彼女)は自分にとって扱いやすいサポートデバイスを持つ事は出来なかった。

正確には持ちようがなかった、の方が正しいか。

彼女が一般販売されているサポートデバイスの使用を試みた場合、原因不明だが大抵デバイス側が大なり小なり不調や異常をきたす。

但し、修理や調整に限ってはそれが通らないようで、いざながそういったサービスをみなかとさぐめ(あの2人)の店の一部スペースを借りて行っているのはそれが理由だった。

「…ごめん、変な話聞かせちゃって」

ふと近くから何かが破壊されているような音と悲鳴のようなものが聞こえる。

それに反応したアイテムから音声が。

『マスター、向かいましょう』

「っ?!」

『私を使用すれば、該当地点に於ける人命の救出率が僅かなものではありますが向上します。どうしますか、マスター』

その言葉にいざなは恐る恐る口を開く。

 

「──私にも、出来る事が…あるの?」

 

 

いざなは先ほど触れた大型アイテムを持ち、タートルディアボロスの暴れている現場に向かった。

『マスター、デバイスは使用しなくていいのですか?』

「今はやれる事をやるだけ、だから」

『了解しました。対戦闘装着システムの稼働準備を開始します』

「…よし」

《アルカディアドライバー》

Innovation(イノベーション)!》

彼女の腰に自動的に空色の帯が装着され、ドライバーが封印を解かれたかのように全体の色がセルリアンブルーからコバルトブルーに変化。

そのまま右手側部分に上から順にマゼンタ・シアン・イエローの3つの四角いボタンが現れるとそれを上から押していく。

Dynamis(デュナミス)

Energeia(エネルゲイア)

Entelecheia(エンテレケイア)

『装着システム初期作動手順を確認。上部のボタンをもう一度押して下さい』

「上…これか!」

Dynamis(デュナミス)

『確認しました。装着システム展開の為の音声入力キーを設定して下さい』

「えっ、えぇ…っ?!…えっと……」

いざなは困惑しながらも、その為の言葉を告げた。

 

「変身!」

 

『音声入力キーを確認しました。初期装着システムの展開及び稼働を開始します』

同時に薄銀のアンダースーツとその上に薄いセルリアンブルーの装甲が装着。

なんの特徴も見えないセルリアンブルーの仮面が装着され、複眼がエメラルドグリーンに光る。

Twealve(トゥウェルブ):Dynamis(デュナミス)

「えっ、な…なにこれ…?!」

『初期装着システムの展開及び稼働を確認しました。初期ナビゲートを終了します』

「これからは自分でやってって事?!…わっ!」

いざな──否、トゥエルブはタートルディアボロスからの攻撃を咄嗟に回避。

タートルディアボロスは更に剣で攻撃するも、トゥエルブはそれを両手で受け止める。

「とにかく、やれる事をやれるだけ…っ!」

受け止めた剣を払いのけ、そこからどうにか打撃と蹴りを食らわせる。

が、タートルディアボロスには響いていない。

一瞬、違和感を感じたが次の瞬間突然タートルディアボロスに斬られていた。

「っ?!?」

直後、連続して斬撃がトゥエルブを襲い、最後の大きな剣撃と斬撃波によって近くの壁に叩きつけられ、変身解除される。

「これはちょっとまずいかも…。…?」

いざなが呟いた瞬間、彼女には()が聞こえた。

「……こんな事したく、ない…?」

そして、その声を聞いた彼女の足元にはハンディウィンドを背に乗せたホッパーセンサーがいた。

 

 

同時刻、「大海原」にて。

「いざなは無事に依頼をこなせているといいんだが。…大丈夫だろうか」

みなかの近くにはクジラのような姿をした通信機(トランシーバー)──ホエールシーバーが置かれている。

実娘であるさぐめの持つフェザントアラームと同様に、意思を持たないサポートデバイス。

普及の割合はともかく、サポートデバイスを持つ人々の大半は意思を持たないものか、AI意思を持つものを購入するケースが多い。

その為、自律意思を持つデバイスを持つのはその中から更に限られる。

みなかやさぐめの持つデバイスも、そういった意味では珍しくない。

現時点でのホエールシーバーの登録チャンネル・対応周波数はさぐめのフェザントアラートと、いざなが持つスマホのみ。

「さぐめはそろそろ部活を終えて帰ってくるはずだが…あの子は遅いな」

ホエールシーバーが突然電波を受信し、鳴き声を発する。

それに気づいたみなかは慌ててホエールシーバーをトランシーバーモードに変え、周波数を合わせる。

ホエールシーバーが受信したのは。

『……こんな事したく、ない…?』

「…!」

 

 

足元に気づいたいざなは、ホッパーセンサーが半ば投げ渡してきたハンディウィンドをキャッチする。

「わっ」

そのままホッパーセンサーはタートルディアボロスを少し見た後、暫し周囲を飛び回ってから高く飛び上がり、センサーモードとなっていざなの片手に収まる。

「…そうだね、一緒に戦おう」

いざなはハンディウィンドの持ち手部分を左側に折ってからファン近くに移動させ、持ち手部分にあるスライドツマミの下にあるボタンを押す。

同じようにセンサーモードのホッパーセンサーのスライドツマミの下にあるボタンを押す。

《ホッパーセンサー!》

《ハンディウィンド!》

それに反応したのか、ドライバーが再び音声を発する。

『専用デバイスの起動を確認しました。…マスター、何故再び戦う事を判断したのですか』

「1つはまだあの怪物の中にいるデバイスを助けられてないから。…もう1つはこの子達が私に協力しようとしてくれてるのが、分かったから」

『理解しました。ではデバイスを装填し、ボリューム調整を行って下さい』

「装填…あ、こうか」

起動状態の2つのデバイスをアルカディアドライバーに装填。

『センサーのボリュームを5に、ウィンドのボリュームを5に上げて下さい』

音声指示を受け、それぞれのデバイスのボリュームを操作する。

『ナビゲートフィードバックシステム、開始します』

Volume(ボリューム):Five-Lonely phase(ロンリーフェイズ)

Volume(ボリューム):Five-Storm(ストーム)

『デバイスの装填及び調整ボリュームを確認、ライダーシステムの展開を開始します』

その音声と共にいざなは叩きつけられていた壁からどうにか動き、タートルディアボロスを見据えながら右手を前へ、装填された2つのデバイスを左手で優しくなぞりながら、再びその為の言葉を告げた。

 

「──変身!」

 

同時に凄まじい風とバッタの群れがいざなの周囲に現れる。

先ほど変身していたデュナミスの上から、新たに装甲が追加装着。

薄いセルリアンブルーの装甲の上に織部色の装甲が各部に合着、両腕・両足部分には更に複数層のような形で装着され、胴体部分に同色の装甲が展開・合着。

胸部中央の装甲に送風機(ブロワー)が見える赤い球体コアが挿入・固定されると同時に、内部の送風機が回転し出す。

いざなの顔付近にバッタの群れの幾つかが固まり、形を成すとそれはそのままトノサマバッタを思わせる織部色と黄褐色のグラデーションの仮面に変化し、装着。

複眼が黒に近い灰色に光ると共に、周囲の風が先の部分が2つに分かれた赤みのある白い薄手のマフラーとなり、首元に装着。

《──Twealve(トゥウェルブ):GailHopper(ゲイルホッパー)

同時に、いざなの頭に一瞬()()()()()ような感覚が。

「っ?!」

『ナビゲートフィードバックシステムの都合上、間接的に脳内リンクを行いました。負荷は最小限に抑えている為、戦闘後にバックファイアは起こらないと仮定しています』

「…分かった。アシストお願い!」

『了解しました、戦闘ナビゲートをスタートします』

僅かなズレの後、トゥエルブ ゲイルホッパーはタートルディアボロスに向けて駆け出す。

『コアの稼働及びエネルギー生成を開始します』

胸部中央にある赤いコアの中にある送風機が急速に高速回転し、風を纏った打撃と風を纏った蹴りがタートルディアボロスに直撃する。

タートルディアボロスは背面にある焼印された時計の針を回そうとするが、それよりも先にトゥエルブが背後に回り、大きくタートルディアボロスを蹴り上げ、遠くへと突き放す。

「さっきよりも動けてる…?」

『専用デバイスの装填とボリューム操作によるシステム装着を確認した場合、ナビゲートフィードバックシステムが機能します。脳及び身体に関する神経系に対し直接的(ダイレクト)に伝達する為、戦闘経験がない対象が変身しても此方がある程度最適解を導き出した身体の動きが可能です』

「うひゃあ…。普通に出回ってる自律意思持ちとかAI意思持ちとかよりも、とんでもない事してるぅ……」

『勿論、ナビゲートフィードバックシステムを使用中でもマスター個人が別個として体を動かす事は出来ます』

「メリハリはあるってわけね!」

トゥエルブはタートルディアボロスが蹴り飛ばされた地点へ、足裏部分に埋め込まれた超小型ファンと首元のマフラーを稼働させ、飛行して向かう。

上空から着地したトゥエルブにタートルディアボロスはよろよろと立ち上がりながら、剣による攻撃を行おうとするがトゥエルブは剣を受け止め、そのまま無理矢理に刀身を引っ張り、剣を奪って逆に斬撃を食らわせる。

「…今の、が?」

『はい。先ほど説明した、ナビゲートフィードバックシステム内でのマスターによる別個動作です』

「急に動きやすくなったから…」

トゥエルブはそのまま斬撃を連続してタートルディアボロスに直撃させる。

タートルディアボロスは怯みながらも、トゥエルブが地面に突き刺した剣を手に取り、再び攻勢に転じようとする。

が。

『その攻撃方法はフィードバック(学習)済みです』

「っ!」

タートルディアボロスの動きが僅かに遅くなるより先にトゥエルブによる頭部への蹴りがヒットした。

タートルディアボロスが元のデバイス(クロックタートル)から変異させられた事で得た能力、遅延と行動固定。

タートルディアボロスはそれを交互、或いは同時使用する事で対応出来ない攻撃・一方的な攻撃を行っていた──というのがデュナミスの時に攻撃を食らってしまったロジック(からくり)だった。

それが分かってしまえば、それより先に攻撃を仕掛ければいい。

「…中のデバイスはどうやったら助けられる?」

『内部のデバイスは現実世界で例のない悪性コンピュータウィルスに影響を受けている状態です。撃破する事でそれを分離・抑制する事が可能になります』

「分かった!」

『装填デバイスのボリュームをそれぞれ最大に上げて下さい』

トゥエルブは音声指示通り、ホッパーセンサーとハンディウィンドのボリュームをそれぞれ最大(10)にまで操作する。

Volume(ボリューム):Ten-Gregarious phase(グレガリアスフェイズ)

Volume(ボリューム):Ten-Gail(ゲイル)

「っ、っ…!」

織部色の装甲が黄褐色と黒のグラデーションへと変わり、目の色が黒に変化する。

マフラーやトゥエルブの周囲に赤熱した風が発生、そのままトゥエルブは連続してバネのように軽くその場で飛んでから、思いっきり上空へ飛ぶ。

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…っ!!」

赤熱した風が両足蹴り状態になったトゥエルブの両脚の装甲に収束。

そのままタートルディアボロスへ、上空から両脚蹴りが直撃。

GailHopper Millennium Byte(ゲイルホッパーミレニアムバイト)!》

直後、僅かに爆発が起きたが、トゥエルブはタートルディアボロスのいた位置を通り抜けて着地。

装甲の色が黄褐色と黒のグラデーションから織部色に戻り、そのまま落ちそうになっていたクロックタートルをどうにか両手でキャッチする。

「良かった…」

『鎮圧を確認しました。システムを解除します』

その音声と共に変身が解除される。

ホッパーモードに戻ったホッパーセンサーがいざなの肩に乗り、ファンモードのハンディウィンドをドライバーから外す。

「…この子、使用者はいるの?」

『使用者登録はされていないようです。近くにある店に陳列されていたようなので、そちらに返却しに向かいましょう』

「そうしよっか」

ドライバー内部のAIからスマホに共有された案内を見て、いざなはクロックタートルが陳列されていた店へ向かう。

日が暮れていた事もあり、近くにある店も含めて店仕舞いの準備をしている店が殆どだった。

いざなはクロックタートルが陳列されていた店へ急ぎ足で向かう。

「…?」

照明に照らされた店先の陳列棚の近くのガラスが割れている事に気づいたが、一旦それは後にして店主へ声をかけた。

「……すいませーん、陳列されていたデバイスを見つけたので返しに来たんですが…」

いざなの声に気づいた店主が多少せかせかした足取りでやってくる。

いざなからクロックタートルを受け取った店主はいざなに一礼し、口を開く。

「わざわざありがとうございます。早朝から無くなっていたので、てっきり盗まれたのかと…」

「私は偶々見つけただけなので。…ところで」

「どうかしましたか」

「陳列棚…というかショーケースの近くにガラスの破片があったんですけど。無理矢理壊したんですかね…?」

「あぁ!…それなら、防犯カメラに…。少しついてきて貰えますか?」

「は、はい」

店主の後をついていき、録画されていたその時の映像を見せてもらう。

空色の髪に一房の赤いメッシュ、紫色の目の青年。

耳元には黒いピアスが見え、メッシュの部分には黒いヘアピンの上に被せるように白いヘアピンが2本ついており、首元には黒い首輪のようなものが着いている。

上は黒いジャケットの中に長袖のワイシャツと黒いネクタイを着け、下はダメージジーンズの青年がガラスを壊し、クロックタートルを手の内に収め、それをタートルディアボロスに変異させている映像が映っていた。

青年はタートルディアボロスを発生させた後、まるで見られる事を分かっていたかのように一瞬カメラの方へ視点を向けた後、モザイクのような電子エフェクトに包まれて姿を消した。

「妙な人でしょう?クロックタートルが無くなった後、近くの店の人達にも聞いたんですが開店前後に同じ人を見た人はいないと」

「……」

いざなはアルカディアドライバーに触れつつ、AIと小声で会話する。

「…あの子がデバイスをあんな風にしたの?」

『推測になりますが、その可能性は極めて高いと考えます』

「あの…さっき映ってた人の姿って、もう少し拡大出来ます?」

「そこまで倍率は高くないし画像も粗いけど、それでもいいなら」

「ありがとうございます」

店主がカメラの映像を少しではあるが拡大する。

青年の首筋には「00」という数字が粗いながらも見えた。

「…!」

「もう大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございました」

「そうだ、せっかくだしお菓子でも持って帰りなさいな」

「えっ、いやそんな…」

「いいからいいから。持っていきなさい」

 

 

それから暫くして。

「大海原」でいざなはホッパーセンサー、ハンディウィンドを修理サービスコーナーの近くに置き、アルカディアドライバーを両手で持ちながら考えていた。

「うーん…」

『何を考えているのですか、マスター』

「いや、個人的なこと。…結局君達をメルクリウスエニアックに送り届けるのは間に合わなかったしなあ」

いざなが考えていたのは2つ。

1つはドライバー内部のAIに名前をつける事。

もう1つはドライバーと2つのデバイス(ホッパーセンサー、ハンディウィンド)に関する依頼を今日中に終わらせられなかった事をどうするか、だった。

『その点に関して、心配は必要ありません。私や専用デバイスは()()()()()()()()()()()()()物ですので』

「それならそれでいいんだけど…。あと、マスター呼びはちょっと恥ずかしいから、出来たら名前で呼んで欲しいなあって」

『…マスターではなく、いざな様と呼ぶべきでしょうか?』

「本当は呼び捨てとかがいいけど…。まあ、それくらいなら」

『理解しました。以降の呼称を変更します』

その後、いざなは暫くAIの名前を考えていたが、その最中にさぐめが帰宅していた。

「なにしてんの、いざな姉…」

「うーん…」

「いざな姉」

「ん〜……」

「い・ざ・な・ね・え!!」

「わぁっ?!」

「…帰ってきたのに全然反応無いから、どうしたのかと思った。というか、これ何?」

「メルクリウスエニアックに届ける予定だったデバイスと、それを使う為のアイテム?」

「なんでそこで疑問符出てくんの」

「なんか分かんないけど、その…使えちゃったから……」

その言葉を聞いたさぐめは暫し黙っていたが、数刻遅れて反応を返す。

 

「いざな姉が使えるデバイス?!?」

 

「うわびっくりした」

「そうなるに決まってるでしょ。いざな姉、今まで一般販売されてるデバイスの殆どが使えなかったじゃん」

「それはそうなんだけど…」

「だから変だなって」

みなかは閉店準備をしている為、2人の会話に入る事はないが、それを知ればさぐめと同じように驚くであろう事は想像に容易くない。

「で、どうすんの。それ」

「ともかく、明日再挑戦(リトライ)するつもりではあるよ?」

「いざな姉、そういうとこあるよね」

さぐめの言葉を聞き流しつつ、いざなは少し考えていたがアルカディアドライバーを見て言った。

「…アイちゃん!」

『私の事、ですか?』

「うん、名前あった方がいいかな〜って」

『名前をつける必要性を感じませんが』

「安直…」

「分かりやすいって言ってよ〜」

「AIだからアイは()()()安直でしょ。…?お菓子?」

「ちょっと色々あってデバイスを扱ってるお店の人から貰ったんだ〜。食べたかったら食べていいよ〜」

「いざな姉、ホント食べ物に頓着ないよね。…ん、美味しい」

さぐめが近くの椅子に適当に座り、ビニール袋の中にあった小分けのビスケットアソートの袋を開けて一口食べる。

ビスケットを食べているさぐめを横目にいざなは修理コーナーの台の上にいるホッパーセンサーを見る。

「……君達はどうしようか」

自分が初めて使えるデバイスなのは事実。

だが、恐らくメルクリウスエニアックに管理されている可能性が高いのも同じく。

「うーん…」

どうしたものかと考えていると入り口の方で入店音がした。

「私が対応するから、いざな姉は待ってて」

「わ、分かった」

食べていた手を止め、制服の上から青い上掛けを着たさぐめが入り口の方へ向かう。

入り口にいたのは中に水色のシャツに赤紫の細いリボンタイ、白を基調とし、襟元に水色のラインの入ったスーツを着た、濃紫色の髪を上の方で一まとめにし、眼鏡をかけた黄色い目の女性だった。

「すいません。もうすぐ閉店するんですが、なにかご用ですか?」

「こちらにまだ正規利用登録のされていないデバイスがあると聞いたので、確認を。…遅れました、こういう者です」

女性がさぐめに渡した名刺には「MERCURIUS ENIAC 特殊部隊D.A.R.N.E.R(ダナー)所属 (たまき)せつな」と書かれていた。

「D.A.R.N.E.R?」

「『Device.Abuse.Requital.Neutralize.Exert.Regulatory body』の頭文字を取ったものです。正式名称はデバイス悪用に対する制圧力を行使する取り締まり機関、ですが」

「そんな人がどうしてここに?」

「先ほど伝えた通りです」

「…分かりました、少しお待ちください」

女性──せつなの言葉を聞いたさぐめは修理コーナーにいるいざなの元へ。

「どしたの?」

「多分、いざな姉に用がある人。…とりあえず行ってきて」

「ん〜分かった」

いざなはせつなの元へ向かい、先ほどのさぐめと同じように名刺を渡される。

(くだん)のデバイスとドライバーはお持ちですか?」

「…は、はい」

「ではついて来て下さい。其方で幾つか詳しい事を話しますので」

「…?」

 

 

いざながせつなに連れられたのはメルクリウスエニアック本社の地下にある施設。

といっても1000mギリギリにある為、地下鉄などとは比にならないレベルではあるが。

長い地下エレベーターを使って着いたそこは地下であるにも関わらず、煌々(こうこう)とダウンライトが光っている。

音量こそ低いが、ポップスが流れている事に遅れて気づいた。

「まぶしっ」

「エレベーターの照明の方が此方よりも暗かったので、無理もありませんが」

「ぅ〜…」

「せつな、その子が言ってた子?」

「はい、勾梨(くり)さん」

「ええと…」

「ん、初めまして。D.A.R.N.E.Rの解析担当、姫乃勾梨(ひめのくり)だよ〜。よろしくね」

「大海原いざなです。普段はサポートデバイスの修理と調整やってます…」

「デバイスの修理出来るの?凄いじゃん」

青い上着の中に白ブラウスに赤いネクタイを着け、下にラフなズボンを履き、薄紫のショートヘアに濃いピンク色の目をした女性──姫乃勾梨(ひめのくり)がいざなを見てニコニコと笑う。

「それじゃ、デバイスとドライバーちょっと預かるね」

「は、はい」

「では適当なところに座っていただければ」

せつなに促され、近くにある椅子に座る。

「えと、それでなんで私を?…というか、色々聞きたい事はあるんですけど…」

「私()、D.A.R.N.E.Rはサポートデバイスに関する取り締まりが表向きの仕事です。厳密には貴女が今日戦闘を行った存在、ネルウスディアボロス…縮めてディアボロスとも呼称しますが、それに対処するのが本来の仕事です」

「あれ、ちゃんと名前あったんだ…」

「基本的に組織としては私が対処を行っています。…ですが、別系統のドライバーを使用して対処したのは貴女が初めてになります」

「別系統?」

「せつなが使ってるのはフォースドライバーとヘルトストーリーアプリ、そいでもってヴァルキューレアプリ。…君みたいにサポートデバイス自体を使うものではないから」

紫色の上着の中に黒いブラウスに紫色のネクタイ、水色のズボンを履いた灰銀の髪にナイルブルーの目をした男性──鹿島三鷹(かしまみたか)の言葉にせつなは肯定の意味で軽く頷きつつ、話を続ける。

「それに貴女が変身に使っていたデバイスとドライバーは推測にはなりますが、()()正規利用登録のされていないものである可能性が高いかと考え、こうして此方に連れて来たのですが。…ご理解いただけましたか?」

「大体は…。ところでさっき言ってたネルウスディアボロスって一体?」

「現実世界にある既存のファイアーウォールソフトとかアンチソフトとかじゃ防げない悪性のコンピュータウイルスだね〜。今のところはサポートデバイスにだけ感染が確認されてる」

「幸い、撃破と同時にウイルスの抑制が可能な為、現時点で大事には至っていません。…最も現実のウイルスと同じように進化されてしまう可能性があるのが、懸念点ではあります」

いざなの問いに勾梨とせつなが答える。

アルカディアドライバー内部のアイも、戦闘の時に「例のないコンピュータウイルス」だと言っていた覚えがある。

「ウイルスの明確な呼称はまだ決まってないんだけど、その内ちゃんと決まると思うよ」

「そうですか…」

「ところで、雨さんはどうしました?」

「彼奴なら社長の養子を迎えに行ってるんじゃないのか。あの子、しょっちゅうほっつき歩いてるし」

せつなと三鷹の会話を聞きつつ、照明に慣れて来たいざなは目を少し動かす。

ふと目に止まったのは、カエルのような見た目のスピーカーと蛇のように見える剣、そして虎のような見た目のミニチュアサイズより少し大きいフェリー。

カエルと虎は多少自由に動いている。

「…!」

「あ、気になる?…カエルが私のデバイス、フロッグスピーカーね。長いしケロちゃんって呼んでるけど」

「…剣の方は初期型だぞ??」

「ケロちゃん…」

「そう、か〜え〜るのう〜た〜が♪…みたいな?」

「?」

「あれ、知らない?」

「???」

3つのデバイスに興味を示したいざなの様子に嬉々として所持デバイスの事を話す勾梨、多少の当惑を見せる三鷹。

勾梨の説明にいざなは多少疑問符を浮かべた顔をするも、再び輝いた目でデバイスの方を見る。

「…ちゃんと動いてる意思持ちのデバイス、初めて見た…!!」

「あっ、そういう方面の興奮???」

「普段の主な依頼内容が修理や調整なので。それに一般販売されてるデバイスを使おうとしても、上手くいかないのもあって…」

「そういえば、何故貴女はあの時戦う事を選んだのですか?私達の事を知らなかったとはいえ、助けを呼ぶ、或いは待つという選択もあったのでは」

「え?…うーん…」

せつなから質問を受けたいざなは暫し考えた後、口を開いた。

「なんでか分からないんですが、お父さんに拾われた時から区分を問わずにデバイスの声が聞こえるんです。あの時も、中でディアボロスにされてたデバイスの…その、苦しんでる声が聞こえたから。勿論、その場にドライバーや変身出来るアイテムがあったっていうのも事実ではあるんですけど。…それに、こんな私でも出来る事があるならって思ったら…」

「…そうですか」

「だから、もし明日以降に改めてドライバーとデバイスを送り届けたとしても、多分戦うのを止めるかは…分かんないです」

「デバイスの事が本当に大事なんだね、いざなちゃんは。買った自分のデバイスを大事に扱ったりなんだりする人はそこそこいると思うけど、そこまで全体を気にする子はいないよ〜」

「や、やっぱり変ですか?」

「ううん、むしろ褒めてる。…私達にその()は聞こえないからさ。…という事で解析終わったよ。メルクリウスエニアック(うち)が製造元なのは間違いないみたいだし、正規利用登録する事があったらその時は自分で登録してね」

「は、はい」

勾梨から返されたドライバーとデバイス2機を受け取ったいざなを見つつ、せつなは呟いた。

「出来れば、再び戦わない事を祈るしかありませんか…」

「せつな、何か言った?」

「いえ。…では説明と確認も済みましたし、帰りは送ります」

「え、いやそこまでして貰わなくても…」

「もう夜も()ける頃ですし…貴女は高校生のように見えなくはないので、万一です」

「…分かりました、よろしくお願いします」

その後、いざなはせつなに「大海原」まで送って貰い、別れた。

 

 

──いざながD.A.R.N.E.Rの地下拠点で説明を受けていた頃

街灯が点き始めた街中で、駿河はカメラレックスの入った鞄を肩にかけながら散歩していた。

そんな彼に話しかけたのは、カーキ色のジャケットの中に白い薄手のタートルネックとジーンズを着け、首元に青いヘッドホンをかけた橙色の髪に眼鏡をかけた水色の目をした男性。

「まーたほっつき歩いてたのか、駿河。学校はどうした」

「サボった」

「お前な…。幾ら頭いいからって人間関係疎かにしてたら、この先詰むぞ?」

「だってすぐに分かるからつまんないし、面白くないし。…あと、あんまりいい思い出ないし。そういう雨さんは?」

駿河と話している男性──舟酉雨(ふなとりあめ)は軽く溜め息を吐きつつ、言葉を続けた。

「俺はそりゃ、お前の養母さんが心配してるだろうしってんでな。そろそろ帰れよ〜」

「…警官の補導?」

「人の心遣いをマジレスするもんじゃないぞ」

「事実だし」

「そういうところが…。…まあ、ともかく。今日の散歩で気になる奴とか物とかあったか?」

「……俺の持ってる初期型デバイスに興味を示した子がいた」

「お前の持ってるアレにか。確かもう1個あったろ」

「また会ったら見せてない方を見せる約束したんだけど」

「駿河にしては随分がっつりした約束だな。普段は滅多にしないのに」

「──その子の名前、聞くの忘れた」

「はぁ〜…?!……やっぱりお前ちゃんと学校行けって。こっちで調べとくか?」

「ん、いい。次会った時に聞く」

「そうか。…ま、早めに分かるといいな」

「…それ、面白い?」

駿河が目を向けたのは雨が首元にかけている青いヘッドホン。

「どういう答えを求めているのかは分からんが…少なくとも音楽は悪くないだろうな。日本も海外も、結構な数がある。1人のアーティストの曲のアルバムを全部聴くのだけでも、結構な時間はかかるが」

「時間がかかるのにわざわざ聴くの?自分に向けられたものじゃないのに」

「それでも、音楽には大なり小なりその人の感情がこもってる。ロックとかで言うなら、それこそグルーヴか?」

「……。…帰る」

「あっ、ちょおい」

雨を尻目に駿河は1人で帰っていった。

駿河の後ろ姿を見送りつつ、雨は軽く頭を抱える。

「彼奴がそういうのを理解出来るようになるのはまだまだかかりそうだな。さて、俺もそろそろ戻るか。…にしても」

 

「なんでマイア社長は彼奴と養子縁組してんだろうかね」

 

 

──インターネット上のどこかにある電子空間

タートルディアボロスを生み出した青年が1人、そこにいた。

首元にはいざなが確認した「00」という数字も見える。

そして、その眼前には人型のように見える不定形の電子モザイクが。

『──__ ̄ ̄__』

「嫌ですね〜そんな怒らないで頂けます?あちら側にライダーが増えたのは、今後を踏まえても良い結果なのでは?」

『〜〜……──…!!』

「落ち着いて下さい、()()。現時点で完成されたも同然の戦乙女(ブリュンヒルデ)だけにディアボロスに対処されていては()()()()()でしょう。それに──…いえ、これはまだ言及しない方がいいですね」

青年、否──ゼロレイは何かを言いかけて口を噤む。

「なんにしても、()()がライダーになったのは私としても喜ばしい事なのは事実。…なら、今後は多少派手に動いてもいいでしょう?」

ゼロレイがそう発言した直後、1分ほどキーンという耳鳴りのような音が周囲に発生し、彼の眼前にいる電子モザイクから、というより空間全体に僅かに怒気の混じった静かな男性の声が響く。

──自惚れるなよ。()()()()()()()()()()()為でなく、私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけなのだから

声が止むと、耳鳴りも止む。

「…相変わらず()は手厳しいですね。まあ、無理もありませんが」

ゼロレイはそう言いつつ、7枚の薄いプレートタグがまとまっているキーリングを見やる。

プレートにはそれぞれ「Michael(ミカエル)」「Uriel(ウリエル)」「Raphael(ラファエル)」「Haniel(ハニエル)」「Zadkiel(ザドキエル)」「Metatron(メタトロン)」「Gabriel(ガブリエル)」の彫字が見える。

主とも、父とも口にした存在が静まったのを確認したゼロレイはプレートを見ながら言った。

「…頃合いを見て、データの残骸(ロストデータ)から何か拵えましょうか」

彼はキーリングを軽く指で回しながら、再び姿を消した。

 




DATA.0 サポートデバイス
5年前から急速に普及するようになったもの、主に電子機器類を指す。
自律意思を持つもの、AIによる意思を持つもの、意思を持たないものの3つに分かれている。
既存の電子機器や製品の機能が組み合わさっており、意思を持っていなくても都度反応するデバイスもある(例:みなかのホエールシーバー)。

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