アークナイツ サイドストーリー ~源野落陽~ 作:丸・ぱそ男
『──金鉱があるのはここ。渓谷の谷底になってる場所で、山道を道なりに進めば突き当たる』
『金鉱に入って一番手前にある大きな建物がかつての管理棟──今は盗賊たちの寝泊まりするキャンプになってる』
『金鉱の入り口から遠くなるに従って俺たち連れ去られた男連中の宿舎がある……あばら家同然だけどな。そこから先には谷の斜面に掘られた坑道だ』
『その坑道の中をを俺たちは片っ端から掘り返して、隠されてるっていう黄金を探させられてたんだ』
『リスカムさん、フランカさん。それとガンマンさんも。あのろくでなしの盗賊団を叩きのめして皆を救ってくれ。頼んだぞ──!』
◆
怪我で不自由な体だというのにベッドの上で頭を下げたフランクの現地情報と必死の訴えを脳裏で反芻しつつ、リスカムは駄獣の背で揺られていた。
アーチーズタウンを出てから二時間は経っただろうか。
山肌に沿った、曲がりくねった地面剥き出しのなだらかな山道を登り続け、気付けば視界に映っていた緑がまばらになっている。
「そろそろ金鉱跡に到着する頃合いですね」
前方にはアリサという名のエラフィアの女盗賊が乗る四輪駆動車、後ろにはガンマンが跨る珍しい駄獣──彼が呼ぶところの馬──という順番で隊列を組み、これまでの道のりを進んでいた。
駄獣の手綱を握るフランカ(リスカムは駄獣に跨るのが得意ではないので彼女の操る駄獣に相乗ることにしたのだ)が声だけをこちらに向けてくる。
「道中待ち伏せもないし、監視されてる様子もない……彼女のボスのナイジェラって人、本当にあたしたちに会いたいだけなのかも」
「だとしてもそれはそれで別の意図があるとしか思えないけど……」
「ええ……ほんっと、相手の考えが読めないっていうのはイヤよね〜」
軽い調子で肩を竦めた彼女へリスカムも首肯する。
思惑が読めない敵を相手取ること程、厄介なものはないのだから。
「それであたしの駄獣捌きはどうかしら優等生さん? 及第点は貰えると嬉しいんだけど?」
「え? ああうん、何の不安もなく落ち着いて乗っていられるよ。でもフランカが駄獣を乗りこなせるなんて知らなかったよ」
「んふふ、でしょ〜? ま、あなたが『フランカ大先生、駄獣の御し方について私のような堅物石頭ヴイーヴルにも分かるようご教授くださいぃ〜』って、教えを乞うなら一肌脱いであげるのもやぶさかじゃないわよ〜?」
「わー駄獣の揺れのせいで足が滑ったー」
「あいっっだ!?」
意地悪な笑顔で弄りを加えるヴァルポの背中にそれなりの強さで蹴りを進呈する。
そんな調子で相棒との変わらぬコミュニケーションを取るリスカムだったが、視線を前方へ向けると不意に目の前の視界が開ける。どうやら目的地に着いたようだ。
錆び付いた金網のゲートをくぐり金鉱内に入ったリスカムは駄獣の上から周囲を見渡した。
過去に金が発見され、アーチーズタウンのかつての住民たちがこぞって黄金の輝きを求め、いつしか谷間の底に築かれた小さな金鉱山……と銘打ってはいるが規模的には採掘キャンプと呼んでも差し支えない大きさであった。
しかし、結局のところ大した量の金は採れず、町の産業基盤になることもなく早々に閉鎖された金鉱跡には廃棄されたままの機材、敷かれたレール、
敷地内に入ってすぐ脇に目をやれば、フェリーンのマスターが言っていたと思しき接収されたと多くの自動車が有刺鉄線に囲われた駐車スペースに停められている。
視線を上げれば山肌に空く幾つもの暗い穴。ぽっかりと空いた坑道入り口に敷かれたレールに沿って
すぐ傍らには住民たちを監視する盗賊たちの姿もある。
オマケに給水タンクであろう施設には即席の監視所らしき足場が整えられ、底からもボウガンを携えた盗賊が周囲に視線を巡らせていた。
(これじゃ、捕虜収容所そのものじゃないか)
隠された黄金を探させるために百人近い成人男性が連行されているはずだが、人の気配が薄い。
解放される希望も無く、終わりの見えない過酷な労働に疲れ果てた人々が宿舎の前で途方に暮れて、まるで生きる屍のような有様だった。
住民たちに対する仕打ちへの怒りと不快感。犯罪集団でありながら収容所の真似事を維持するナイジェラ一味の統率の取れた動きの厄介さを再確認した覚えた。
「……胸の悪くなる光景ね」
フランカもこちらにだけ聞こえる声で呟いた。
表情は変わらずとも、同じ感情を抱いているのは声音から伝わってくる。
「おい! こっちに来い!」
光景を目に焼き付けていると、荒々しく閉まるドアの音と共に女盗賊が吠えた。
「なによ威張っちゃって。そんな怒鳴る必要ないじゃない」
「お前らがチンタラ移動したせいで予定より帰りが遅れてるんだよ」
彼女の乗ってきた四輪駆動車への同乗を拒否し、それぞれの駄獣に騎乗して金鉱まで移動してきたが……こちらに移動スピードを合わせるはめになって到着が遅れたことにイライラしているのだろう。
「大体、対峙するはずの犯罪者と遠乗り? ドライブ? することがおかしいのよ。ねぇ?」
「フランカの意見ももっともだけど、考えてみれば私たちと話したいってことは何かしら問題を抱えてるのかも。交渉で方がつけられるならそれ越したことはないよ」
「それもそうね」
どういった内容の話になるかは不鮮明だが、まずはアーチーズタウンの人々に対する過酷な仕打ちを止めさせることが最優先だ。
とはいえ盗賊団を野放しにすること出来ない。対処法については次策を考えて行動する必要がある……交渉で解決出来るのであれば、が大前提ではあるが。
フランカもこちらの意見には同意しつつも、お手上げといった様子で肩を竦めた。
「でも、ナイジェラと話がしたいって、おじさまも何を考えてるやら」
「それには同意だね。って、ガンマンさんはどこに……」
リスカムもため息をつきながら話題に挙げたガンマンの姿を探し──先程、エラフィアの女盗賊が降りた四輪駆動車のリアタイヤをブーツのつま先で小突いている彼を発見した。
「──独りでに動く
「……何をしてるんです?」
「靴の汚れでも落としてるの?」
「いや……妙な
「もしかして、自動車を見るのが初めてで?」
不思議そう四輪駆動車を眺めるガンマンの姿からリスカムは目を瞬かせた。
そういえば、盗賊たちとの諍いに加勢してくれた時も彼らの乗ってきた四駆を興味深げに観察していた気もする。
「自動車? なるほどね、名は体をってヤツか」
「車を見たことがないって、今までどんな風に生きてきたのよ……?」
「いや、まあ……鉄道なら
「逆に鉄道は利用したことがあるんですか……」
自動車という存在を初めて知ったくせしてテラにおいて限られた地域でのみ運用されていない移動手段の利用経験がある彼に、リスカムだけでなく流石のフランカも引き気味に困惑する。
直後、エラフィア女盗賊の怒鳴り声が響いた。
◆
エラフィアの女盗賊に先導され管理棟へと入るリスカムたち。
狭い屋内の廊下を進み、扉の前で彼女は足を止めた。
「ここだ。これからリーダーに合わせるが……下手な真似はするなよ」
「それはこちらの台詞です。私たちの取る行動は、あなたたち次第になるんですから」
「ハッ、傭兵風情が偉そうに──入るぞ」
振り向くやいなや凄んできた女エラフィアの忠告を受け流しつつ、リスカムはむしろも牽制を入れると彼女は鼻で笑い、目の前の扉をノックしてから開いた。
「リーダー! 例の奴らを連れてきたぞ」
空っぽの書類棚や机が設置された部屋はかつては鉱山所長室だったのだろう。室内には既に二人の盗賊が待っていた。
内一人はリスカムも見覚えがあった。先日フランクを連れ戻そうとしていたウルサスの盗賊だ。
彼は窓の設えられた壁際で立っており……ガンマンから銃弾をお見舞いされた頭には治療の跡の包帯が巻かれていた。
そしてもう一人が──
「ああよかった。おかえりなさいアリサ」
執務机に腰を下ろすループスの女──黒いベストに黒のパンツスーツ姿の盗賊団のリーダーであるナイジェラが手下である女エラフィアを出迎えた。
「悪いリーダー、戻るのが遅くなった」
「本当よ? てっきり傭兵たちにやられたんじゃないかって心配してたのよ」
「まさかっ。こいつらがここまで来るのに駄獣を使ったもんだから遅くなったんだよ」
立ち上がったナイジェラがエラフィアの女盗賊まで歩み寄るとそのまま彼女を抱き締める。
照れ臭そうににそっぽを向きつつも抱擁を受け入れるエラフィアの女盗賊。そのやけに仲睦まじい光景をリスカムが眺めていると、ナイジェラから切れ長の瞳を向けられた。
「怪我も無さそうで良かった。それで、彼女たちが──」
「BSWの傭兵とガンマンですぜ。ヴァルポの方は初めて見る。が、怪我をしてたって傭兵かと」
エラフィアの女盗賊の代わりにウルサスの盗賊が口を開く。
腕を組む彼はこちらを忌々しげに睨め付けていたが、それは背後のガンマンへ向けられた視線だった。
そのことにガンマンも気付いたようで、帽子の庇越しに微笑みかけた。
「よお。お友達の
「てめぇが手加減したお陰でな。この場でぶっ殺されねぇことをボスに感謝しろってんだ」
「怖いねそりゃあ」
「ケッ、減らず口を」
「……相手の神経を逆撫でする行為は控えてもらえると」
嘯くガンマンへリスカムは釘を差す。敵対する相手を、それも敵地で挑発する真似は賢明とは言えないからだ。
これにはフランカも感心と呆れ混じりのボヤきを漏らした。
「ほんっとおじさまも胆力あるわねぇ」
「まぁまぁ」
ナイジェラが抑えるようウルサスの下っ端へ身振りで制して、続けてこちらへと向き直って名乗り上げた。
「仲良しなのは良いことだけれども、一旦は置いておくわね。はじめまして御三方。私がこの盗賊団のリーダーを務めているナイジェラよ」
「以後お見知りおきを」と彼女は大袈裟な身振りでお辞儀する。それとなく教育と礼儀を教え込まれたであろう流麗な所作に胡散臭さを感じつつ、三人を代表してリスカムが声を上げた。
「それで、対立している私たちと顔を突き合わせてまでしたい話とは何でしょうか?」
「まぁ、随分と単刀直入ね。自己紹介はしていただけないのかしら?」
「こちらの認識としてはあなた方と馴れ合う関係性にはありません。要点だけを簡潔に話してください」
「傭兵さんっては真面目なのね」
リスカムは馴れ合いに来たのではないと態度で示す。
ナイジェラは苦笑交じりに肩を竦めると執務机の縁に腰掛けた。
「でもヴイーヴルお嬢さんの言う通りね。じゃあ率直に申し上げるけど、取り引きしないかしら?」
「取り引き?」
「そう。取り引きよ」
意外な申し出にリスカムは目を瞬かせる。リスカムだけでなくフランカも意外そうに片眉を吊り上げ、仲間であるはずの女エラフィアとウルサスの盗賊まで驚きを露わにしていた。
「リーダー! どういった風の吹き回し──」
「アリサ落ち着いて」
エラフィアの女盗賊を宥め口元に微笑を湛えながら女リーダーは先を続ける。
「あなたたちが取り引きを飲んでくれるなら、私たちはここから立ち去るわ」
「……まずは取り引きの内容を聞かないことにはどうとも言えないわね」
「フランカ」
「取り引き内容はね。私たちが隠された黄金を探しているのはご存じでしょう? その黄金を探す手助けをしてほしいの」
「……つまり、あなたたちの悪行の片棒を担げと?」
「端的言えばそうなるわね」
リスカムが視線を鋭くしてループスの女リーダーへ問い質すが、彼女はあっけらかんと答えるだけだった。
犯罪集団の言いなりとなり鉱山を掘り返せと言うのだ。
「目当ての黄金が見つかれば私たちはこの辺鄙な開拓地から去り、あなたたちは住民たちを取り戻せる。お互いの利益になるわよね」
話にならない。
こちらの足元を見るような提案に憤慨して拒絶の言葉を言い放とうとした瞬間、ガンマンが口を挟んだ。
「
──何だって?
リスカムは自分の耳を信じられず、弾かれたように振り返った。
「実は俺も同じことを考えててな」
取り出した細巻き葉巻を咥え、その眩しげな目をループスの女リーダーへ向けながらガンマンは告げた。
「手ぇ貸してやる。お目当てのお宝探しのな」
本作品を執筆するにあたりアンケートを下記に設けてみました。
執筆の励みにもなりますので、よろしければご回答をお願い致します。
また、よろしければ感想の方もお待ちしております。
小説内でガンマンこと『名無しの男』が口にする用語、映画のオマージュの元ネタなどの解説は必要ですか?
-
ほしい
-
あれば嬉しい
-
無くても大丈夫