アークナイツ サイドストーリー ~源野落陽~   作:丸・ぱそ男

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第十三話 許されざる者

 ナイジェラ一味との取り引きを交わし、彼女らによって連れ去られた住民の大多数を黄金の在処を探す手伝いと引き換えに解放したリスカムたちは、彼らを伴って一度アーチーズタウンへの帰路に着いた。

 夫や父、息子の帰還を知り、涙を流して再会を喜ぶ町の人々を前にしてリスカムは盗賊団と取り引きを行った旨を伝えることに対し後ろめたさを覚えたのだが、事実は事実。

 『ミランディージャ』のホールにて取り引き内容を隠すことなく報告したところ、当然の如く喜色に満ちていた住民たちの顔に落胆と失望に覆われてしまった。

 それはそうだろう。退治して住民たちを救ってくれたかと思っていたのに実際は盗賊団の手助けをすることになったのだから。

 盗賊団の手先になることのへショックから住民たちから批判の声が幾つが上がり、リスカムも甘んじて受け入れるつもりであったのだが……。

 

 

 

『奴らの生き死にこだわらないのはあんたたちが決めたことだろう? それとも。こっちのやり方にケチつけるかい?』

 

 

 

 詭弁ではあるが、確かに契約内容通りであり、悪びれた様子のないガンマンの態度に住民たちの勢いも削がれ──

 

 

 

『あの人たちがここからいなくなってくれるならそれでいいと思うの。大体、争いの元になってるあるかどうかも分からない黄金なんてあの人たちにあげちゃえばいいんだわ』

 

 

 

 助け船を出してくれたジルの静かな、有無を言わせぬ姿勢もあって住民たちの批判を不承不承ながらも矛を収めてもらい、リスカムはフランカと共に続けて黄金の発見の如何に問わず、全員を早急に解放するよう引き続き盗賊団と交渉することを明言したことで、住民たちもに納得し事なきを得た。

 盗賊団の目的である黄金の扱いについては一部不満を溢す住民もいない訳ではなかったが、家族や友人、仲間の無事が保証された方が重要だったこともあって主題にはならず、リスカムはホッとした胸を撫で下ろした。

 そして今は……。

 

「どうー? 何か反応はあったー?」

 

「んー……」

 

 背後から反響するフランカの確認にリスカムは渋い反応を示した。

 現在、リスカムたちは金鉱跡に数多く遺る坑道内にいた。

 理由は勿論、黄金探しのためである。

 被るヘルメットに装着したヘッドランプで照らしたデジタル盤に目を向け、反応を見逃さないようリスカムは金属探知機を地面に翳し続ける。

 

「ったく。お宝探しって言ったって、古典的的過ぎよ。見てよこれ」

 

 そう言ってフランカは自分が凭れている道具を手で指し示した。

 

「ツルハシですって! 手持ちの掘削機機械とか、せめてドリルとかで掘らせてほしいわよ! 何よ手掘りって。見つけさせる気あるの?」

 

「仕方ないよ。金鉱に残ってた設備も機械も老朽化して使えなかったんだから。むしろダウジングで反応を探させなかっただけホッとすべきだと思うけどね」

 

「はぁ……盗賊団が町の人たちに発掘させる理由も分かるわね」

 

 相棒の溢す愚痴を流しつつ、リスカムは地雷探知機のような形状の金属探知機を地面に向けながらも内心フランカに同意していた。

 何より大まかな隠し場所が分かったところで、詳細な位置を絞り込めなければ意味がなく、掘り当てるまでにどれだけの時間と労力が掛かるか考えるのも嫌になってくる。

 

「……言いたいことは理解出来るけど、取り引きは取り引きだから」

 

「これじゃあせっかくのレイジアン工業の装備(ストライカー・シリーズ)も宝の持ち腐れだわ。というか」

 

 不意に言葉を切ったフランカがキョロキョロと頭を振って周囲を見渡した。

 

「おじさまは? そもそも、彼が一緒に潜ってツルハシを振るってるところ、あなた記憶ある?」

 

「野郎ならボスと話し込んでるよ。というより」

 

 リスカムが答えるよりも早く別の声が返ってきた。

 振り返ると、杭木に凭れ掛かる黒いサヴラ──確かファンという名前だったか──が呆れ顔で槍を携えたまま腕を組んでいる。

 

「お前らは黙って掘ることも出来ないのか」

 

「しょうがないじゃない目当てのお宝が見つからないんだから。大体、こういう無為な時間って女の子ってお喋りで気を紛らわせるものよ?」

 

「それ、私には当てはまらないからね」

 

 フンッと鼻を鳴らすフランカの自説を切り捨てつつ、リスカムは黙々と探知機を地面と平行させて滑らせる。

 というより……お互い対立する立場でありながら、かつつい先日殺し合いとそう変わらぬ一悶着あったもの同士が轡を並べ、お宝探しの真似事をしていることが奇妙だった。

 

(これも黄金の魔力ってヤツなのかな)

 

 人質となっている住民たちが残っている以上、この上辺の協力関係が瓦解しないよう現状維持するつもりではあるが……手放しで受け入れられる状況ではない。

 しかもだ。取り引きを交わす際ガンマンは何と言ったか?

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 

 

 彼の発言が正気と思えず、思わず詰め寄ってしまったくらい信じられない要求であった。

 実際ナイジェラ一味にしても流石にふざけたことを一触触発の雰囲気になったのだが、リーダーのナイジェラが大笑いしながらもその肝の太さから彼を気に入り、一部を渡す確約を出すことでその場は収まったのだ。

 ……リスカムとしては清々しいくらいにお金に正直な彼のことを少し嫌いになりそうなことは別の話である。

 

「本っ当信じられない……!」

 

「え? どうしたのよいきなり」

 

 思い出すだけでムカついてしまい、つい毒を吐いてしまったせいでフランカから心配そうに覗き込まれる始末である。

 

「……これだから女は扱いに困る」

 

「よく言うわね。女ループスがリーダーのクセに。っていうかあなたは、というよりあなたたちは良いワケ?」

 

 黒いサヴラのボヤきに心外だとでも言いたげにフランカは振り向くと疑問を呈した。

 

「リーダーの判断とはいえガンマンのおじさまにお宝の取り分を持っていかれること、良い気がしないんじゃなくて?」

 

「ボスが決めたことだ。俺たちはそれに従うまでさ」

 

「それにしては不服そうな顔をしていますけど」

 

「……あの野郎には撃たれた借りがあるが、ボスの判断だ。それで納得するには十分だ」

 

「随分と信頼してるのね」

 

「ボスには()()()()()()()()()()()()()

 

 ──見えないものが見える?

 黒いサヴラが語ったそれにリスカムは引っ掛かり、フランカへ目配せすれば彼女も似たような疑念を抱いたようで首を傾げている。

 

「お前たちがどう思おうが知ったこっちゃないがな」

 

 こちらの反応を予期していたように黒いサヴラは鼻を鳴らすだけだった。

 フランカはそれ以上追求する真似はせず、リスカムも今の情報を頭の片隅に置いておくに留め、黄金探しに改めて集中する。

 結局のところ、その日の作業中に黄金が見つかることはなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 収穫もなく、リスカムたちが坑道から撤収すると、時刻は夕方だというのに太陽も山の尾根の後ろに沈んだせいで随分と暗くなっていた。

 

「今日も見つからなかったわね……」

 

「うん……まあ予想した通りになってるけど」

 

 肩にツルハシを担いだフランカの疲労の濃い呻きにリスカムも返事に疲れを滲ませる。

 この後は管理棟のナイジェラへ今日の進捗を報告し町へと戻るのだが……進捗も何もないのだがと胸中ため息をついてしまうリスカムである。

 

「とにかく、早く報告を上げて撤収しよう。じゃないと真っ暗闇の山道を変える羽目になる」

 

「そうね……んー、山の中に長くいたいせいで外が眩しく感じるわ」

 

「おーい、傭兵さんたち」

 

 疲労も露わなフランカを促して管理棟へ向かおうするが、背後から呼び止められリスカムは振り返る。

 声の主はナイジェラ一味との交渉の結果、強制労働から解放することの叶わなかった住民の一団。その中の一人だった。

 

「黄金は見つかったかい?」

 

「いえ……まったくです」

 

「ははは、まぁだろうな。一ヶ月間俺たちが坑道丸ごと掘り返す勢いで探してきたってのに、傭兵さんたちにサクッと見つけられちゃ立つ瀬がなくなっちまうよ」

 

「そりゃ違いないな!」

 

 声を掛けてきた住民とは別の住民が声を上げて笑う。

 彼らが明るく振る舞う様に曇らせてしまうリスカム。

 彼らが今も坑道に潜り、過酷な労働を続けているのは自分たちが交渉の成立を優先した結果に他ならない。

 自らの力不足を彼らに背負わせてしまっている現状が、リスカムの胸中には歯痒さと罪悪感が募っていた。

 フランカも同じ思いなのか何も言わず、難しい顔をして毛先を弄っている。

 

「すみません……我々の力が及ばず、皆さんを解放出来ず──」

 

 思わず謝罪の言葉を口走るが、声を掛けてきた住民は一瞬キョトンとしてすぐに土埃に汚れた顔に笑顔を浮かべた。

 

「気にするなよ傭兵さん。あんたたちのせいじゃない」

 

「むしろ、あんたたちが偶然町に立ち寄ってくれたお陰で他の奴らを解放出来たんだ。俺たちだけじゃ盗賊を追い返すことだって無理だったことを考えれば、希望しかないようなもんさ」

 

「ですが……」

 

「確かに労働は辛いし、黄金を見つけたら盗賊たちにやらなきゃいけないっていうのも癪だが……生きて家に帰れると思えば安いもんだよ」

 

「そうそう、ウチの母ちゃんにも俺が無事だってことも伝えてもらってるしな。嫌でも帰らなきゃいけない理由を拵えちまったことだしな!」

 

「お前、酒の席で奥さんから逃げ出したいっていっつも言ってたもんな」

 

「皆さん……」

 

 笑い合う住民たちを見てリスカムはどこか救われる思いになる。

 彼らの早期解放させる決意を改めて固めていると、ポンと肩を手を置かれそちらを向けばフランカと目が合った。

 

「やることやるしかないわ」

 

「うん。そうだね」

 

「頑張りましょう。ところで──」

 

 明日も頑張ろう、と住民たちと別れの挨拶を交わした後、彼女は訝しむ目付きで監視約の黒いサヴラの盗賊を見やった。

 

「止めなくてよかったの?」

 

 彼は住民たちとのやり取りを遠目に眺めるだけで、介入も何もしてこなかった。フランカはそれが疑問に感じたらしい。

 

「理由もないのに止めてどうする」

 

「あたしたちが住民と談笑してるのをリーダーのナイジェラが知ったら、あなたの立場が無くなるんじゃないの?」

 

「企みごとを相談してるなら別だが、ただの立ち話に態々釘刺す必要があるか?」

 

「……存外融通が効くんですね」

 

 返ってきた黒いサヴラの言葉から柔軟性が見え、意外に感じてリスカムは目を丸くする。

 その反応に対し彼はそれまで組んでいた腕を解いて槍を肩に担ぎ直すと、ぶっきらぼうに言い放った。

 

「今は仕事だからやってるが、カタギをいたぶったって一文の得にもなりゃしないからな」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 翌朝、アーチーズタウンから徒歩で十五分程掛かる場所に、金鉱跡へと向かうその足でリスカムたちは立ち寄っていた。

 

「おじさまも来る?」

 

 屋根を取っ払ったオフロード車──住民たちの解放に併せて取り戻した彼らの所有する中の一台拝借させてもらっていた──の助手席から降りたフランカがガンマンへ声を掛けた。

 

「俺は残るぜ」

 

「オーケー。分かったわ」

 

「では、念のため周囲の警戒をお願いします」

 

 駄獣()に跨ったまま帽子の庇を下げて応じたガンマンを残してリスカムはフランカと並んで歩き始める。

 ……何故ガンマンは自動車に同乗せず、己の駄獣に騎乗しているのか?

 

「……おじさま、移動時間を言い訳にして自分で黄金を探すつもりないわよね? アレ」

 

「向こうでの作業時間も考えて車に同乗して欲しかったけど、頑なだったからね……彼の駄獣は可愛いんだけど」

 

「あ、分かる〜。目がクリクリしてて愛嬌があるわよね」

 

「そうそう。あと、あの子を見てると何故かニアールさんのことが頭に過るんだよね。耳とか尻尾とか」

 

「確かに、言われてみればあたしもフェンちゃんのこと思い出してたかも」

 

 言い出しっぺでありながら汗を流さないガンマンへの不満も発散させつつ、彼が自分の駄獣を(クランタ)呼びする理由に思い至りながら、リスカムとフランカは石畳を進んでいく。

 移動都市ではあまり見かけることのない施設……アーチーズタウンの共用墓地にリスカムたちは訪れていた。

 石垣によって幾つかの区画に分けられた墓地はそれぞれが凡その長方形に整えられ、区画内に立てられた墓石間を行き来するための主道となる石畳が対角線上に敷設されてい?。

 

(普通、こういう場所って格子状に区画分けされてるイメージだけど)

 

 一部色の異なる石材が使われた石畳を見下ろして首を傾げつつ、墓地の中をリスカムは進んでいく。

 そして──とある墓石の前でしゃがみ込む少女の姿を見つけた。

 

 

 

「ジルさん」

 

 

 

 振り向いたリーベリの少女──ジルはこちらを振り返ると笑顔を浮かべて手を振ってくれた。

 

「おはよう。リスカムさん、フランカさん」

 

「おはよジルちゃん。随分と朝早くから出てたのね?」

 

「我々ももう少し早くからお邪魔した方が良かったでしょうか?」

 

「ううん、平気よ。二人とも黄金を探すのに疲れてるだろうし、私も掃除の時間が欲しかったから」

 

 彼女はそこで言葉を切ると、墓石へと向き直って声を投げ掛けた。

 

 

 

()()()()。リスカムさんたちが会いに来てくれたよ」

 

 

 

 ここは人々が永遠の眠りに就く場所であり、彼らが確かに生きてきた証を遺す場所でもある。

 同時に──ジルが訪れているということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……マスターから聞いたわ。ジルちゃんのパパ、町を守ろうとナイジェラ一味に立ち向かっていったのよね」

 

 静かな口調でフランカが問い掛ける。

 クルビアの開拓地、それも町の規模となれば保安官が不在であることはおかしいとリスカムはずっと疑問に思っていたのだが、マスターや住民たち口の重さ、盗賊団の一味がジルを見て放った『保安官の娘』という言葉に加え、彼女自身の発言から嫌な予感がしていたのだが……予想が的中してしまった。

 彼女の父親はアーチーズタウンの保安官であった。

 ナイジェラ一味の襲撃の際、ジルの父は志願者を募り対抗しようとしたのだが……職務に殉じることとなったという。

 

「……盗賊団の中にエラフィアの人がいたでしょう?」

 

 少しの間沈黙を挟んでジルが口を開いた。

 だが、彼女の目線は墓石に掘られた彼女の父の名に向けられたままである。

 

「初めはお父さんと志願した人たちで盗賊団を追い出そうとしたんだけど、あのエラフィアの人一人に返り討ちにされちゃったの」

 

「彼女一人に、ですか」

 

 思わずリスカムは顎に手を添える。

 民間人が相手とはいえ複数人を一人で相手取ったうえで返り討ちとは。『早抜き』なんて通り名が付くだけのことはあるということだろう。

 

「私たちが抵抗出来なくなったらあの人たち、お父さんから情報を聞き出そうとして、暴力まで振るって……」

 

「情報っていうのはつまり──」

 

「『保安官が黄金の隠し場所を示す暗号を知ってるはず』。リーダーのループスの人がそう言って怪我で動けないお父さんを保安官事務所まで引き摺って、情報を吐かせようとしたの。私、そんなこと知りもしなかったし、お父さん自身も何を言われてるか理解してなかった様子だったのに」

 

 言葉を差し込んだフランカの問いに頷いてジルは後を続けた。

 

「私、外から見てたわ。自分の父親があんな風に殴打されるなんて思いもしなかった……それが、耐えられなくて私、考えもなしに止めようと事務所に飛び込んだら、そしたら……エラフィアの人が……」

 

 ジルの喉が引き攣ったように彼女の声が途切れる。

 リスカムはリーベリの少女の隣に膝を着くと、小刻みに震える彼女の肩をそっと抱き寄せた。

 

「あの時……私が飛び込んでなかったら、お父さんは死なずに済んだのに……!」

 

「……ジルさんは何も悪くありません」

 

 両手で顔を覆い、震える声で後悔の念を溢すジルへそっと慰めの言葉を掛ける。

 ……例えそれが何の気休めにもならないことを理解していても。

 

「あなたはお父様の身を案じ、危険であるにも関わらず助けようと行動を起こした。それは決して非難される謂れのないものです。もし咎められるべき者がいるとすれば、それはこの事件の元凶であるナイジェラ一味だけです」

 

「リスカムさん……」

 

「そうよジルちゃん」

 

 いつの間にかジルの反対側にしゃがみ込んだフランカが、神妙な面持ちで首を振った。

 

「自分を責めることはしちゃダメ。あの時取った選択が間違ってなかったと信じるべきだわ。でないと、ジルちゃんを守ったお父さんが浮かばれないでしょう」

 

「フランカさん……」

 

 リスカムも首肯して相棒へ同意を示すと、再びジルへ言葉を掛けた。

 

「約束です。必ず、ナイジェラ一味から皆さんを救ってみせます。そして──」

 

 一瞬言葉にすることを躊躇うが、意を決して宣言した。

 

「私たちが、あなたのお父様の敵を取ってみせます」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「ジルちゃんは強いわね」

 

 父親の元に残ると告げたジルと別れた後、彼女に声が届かない距離まで離れてからフランカが口を開いた。

 

「うん。本当に強い娘だと思う」

 

 頷いて同意するリスカム。

 ジルは肉親を失ったていうのにその素振りを見せず、遭難した自分たちの身を案じてくれていたのだ。

 命を救ってくれた身として、彼女の恩義に報いたい気持ちがリスカムの中で一層強くなっていた。

 

「でもちょっと意外だったわ。あなた、敵討ちなんて安請け合いするタイプじゃなかったでしょ?」

 

「それは……」

 

「『ホイホイ引き受けるな』なんて言うつもりは毛頭ないわよ? 相手はジルちゃんだものね。でも色々念頭に置くべき事も多いから、早々約束を果たすことも難しいと思うワケ」

 

 フランカのもっともな指摘にリスカムも反論出来ず口を曲げることしか出来なかった。

 彼女の言う通り、恩人の父親を殺めた盗賊団の手足となっている現状、未だ強制労働に従事している住民たちの安全の確保、それらに関する取り引きを交わしたという事実などが重なり、リスカム自身もどかしさと苛立たしさで気が重くなっているのは事実だった。

 

「不本意ではあるけれど……敵討ちをするにもまずは諸々の問題を解決するのが優先ね」

 

「……うん。フランカの言う通りだよ」

 

「まずはお宝を見つける。一味に対処するのはその後ね」

 

 「()になるわねまったく」とフランカが後頭頭を掻いているのを横目にしつつ、リスカムは黄金の隠し場所を示す手掛かりとなる言葉を脳裏で呟いた。

 

(黄金の在処を示す暗号、か)

 

 

 

 

 

 ──ジャクソンの腕に抱かれた南十字の元、金色(こんじき)の二羽の鷲は我らがマースと共に羽根を休める。

 

 

 

 

 

 盗賊団のリーダーのナイジェラから聞かされた──彼女はジルの父親から聞き出した──暗号。

 アーチーズタウンに黄金が隠されていることをどこからか聞き付けたナイジェラ一味が、住民たちを拉致してまで金鉱跡を掘り返す理由でもあった。

 

「けど、まさか金鉱のあった渓谷にジャクソン渓谷なんて名前があったなんて」

 

「ん〜、彼らも出鱈目に穴掘り返してたってワケじゃなかったってことね」

 

「でも残りの暗号の意味に関してはナイジェラたちもお手上げたみたいだし……」

 

「もうちょい暗号が解読出来れば、探す場所も絞り込めそうだけれど……」

 

 南十字……は星の連なりをそういう風に呼ぶことがあると耳にした気がする。黄金の二羽の鷲……は文字通り黄金を示しているのだろうが、二羽の鷲(二人のリーベリ)とは? マース……は人の名前なのだろうか?

 憶測を立ててみるものの、それぞれの暗号から手掛かりや関連性見出すことは困難に思われる。

 うーん、と頭を捻るリスカムだがこれといった閃きは浮かんでこなかった。

 

「なんだ、戻って来るなりしかめっ面浮かべて」

 

 不意に鼓膜を揺すったガンマンの声にリスカムはハッとする。

 暗号について考えを巡らせる内に、いつの間にか車を停めた場所まで戻っていていたようだ。

 

「暗号よ、暗号。黄金の隠し場所の詳細を示すっていうアレ。戻るついでに二人で考えていたんだけど、現状把握出来てるのはナイジェラたちと同じ。それ以外はちんぷんかんぷんだわ」

 

 ガンマンの疑問にフランカがお手上げといった様子で答えつつ、オフロード車の助手席側のドアノブに手を掛ける。

 

「おじさまはどう? 何か気付いたこととか、気になったことがあったりなんて──」

 

「いや」

 

 フランカが半ば乗車仕掛けた姿勢で逆に尋ねるが、ガンマンは細巻き葉巻を口から離し、彼女には目もくれず頭を傾けた。

 

「サッパリだ」

 

「まぁそうよね〜」

 

 フランカも期待はしていなかったようで彼の回答を聞くとそそくさと助手席に収まってしまった。

 リスカムも吐息を一つついてオフロード車へ乗り込もうとしてはたと立ち止まり、鞍の上の人であるガンマンへ向き直った。

 

()()、私たちが先行する形になるとは思いますけど──今日こそは作業を手伝ってもらいますからね」

 

「そんなおっかない顔しなくてもわかってるさ」

 

「……本当に分かってます?」

 

 後から来て彼を半目で見上げて黄金の探索に協力するよう釘を差すが、彼は軽い調子で髭に覆われた口元に微笑を浮かべるだけだった。

 食えない人だ、と顔を顰めながらリスカムも運転席へ乗り込むと、助手席で頬杖を着いているフランカがハァとため息をついた。

 

「こんな調子じゃ、黄金を見つけるより先にロドスからの救援チームが到着なんてこともあり得そうね……」

 

 相棒のボヤキを聞き流しつつ、リスカムは金鉱跡地へと向かう道へオフロード車を発進させた。

 ふと、リスカムはバックミラー越しにガンマンの様子を窺う。彼は駄獣に指示も出さず、動くことなく黙って墓地を見つめている。

 言葉なき疑問を発するような、遠のく彼の後ろ姿がリスカムには妙に引っ掛かった。




前々回から設置していました、アンケートへのご回答ありがとうございました。

こちらのアンケート、小ネタ元ネタ、映画のオマージュ元の解説についてですが初めはあとがきに記載していこうかと考えていましたが、本作及びオマージュ元の映画のネタバレに繋がる部分もあるため、元ネタ解説に関するページを個別に作りネタバレにならない程度に都度更新する形を取っていこうと思います。

近い内にこの解説用のページも更新する予定ですので、その際はそちらもご覧頂けると幸いです。
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