アークナイツ サイドストーリー ~源野落陽~ 作:丸・ぱそ男
「傭兵のお嬢さんたちが黄金を探すようになってもう三日ね」
金鉱に残るかつての管理棟内に設けられた所長室。
今日の日和でも尋ねるような調子で聞いてきたリーダーのナイジェラに、アリサは半分呆れつつ正しい経過日数を伝えた。
「四日目だよリーダー。四日目」
「訂正ありがとうアリサ。この五日間、彼女たちも苦労しているみたいね」
「分かり切ってたことじゃないか」
「そんなことはないわ、私は彼女たちに期待してるのよ? でも、この調子じゃあとどれだけの時間をこの山の中で過ごすことになるのか分からないわね」
当初の(目に見えていた)懸念が現実のものとなり、リーダーは懸念を述べているが、その口振りは軽やかでこの状況を楽しんでいる様にしか見えなかった。
「それでどう? 私たちが提供した、隠し場所を示す暗号の謎について気付いたことはあって?」
窓辺に立ち金鉱跡を眺めていた彼女が振り向き、部屋にいるもう一人。アリサにとっての招かれざる客人へ水を向けた。
招かれざる客人──椅子に腰掛け、執務机に長い両足を乗せながら
「私たちが見落としている何かを、掬ってくれるととっても助かるのだけれど」
「そうだな……現状、これだっていうのは浮かんでないな」
「うーん、それは残念。これじゃあ合格点は与えられそうにないわ」
「生憎、こちとら学校とは無縁の人生でね」
「フフフ。なんて、かくいう私も学校は子供の頃に少し通った程度。学歴はあなたとそう変わらないわ」
何を謙遜して、とアリサは胸中で突っ込んだ。
一味のリーダーであるナイジェラの出身地はリターニアである。リターニアは学問と芸術の国らしく(話でしか聞いたことがないから断定は出来なかった)、そういった出自もあり彼女は自分たちとはオツムの出来が異なっていて、これまでの
それはそれとして……窓枠に腰掛けたリーダーの口元に浮かぶ笑みと黄金色の瞳の輝きを見て、アリサはため息が漏れそうになるのをどうにか堪えていた。
(こんな男の何が良いんだか……)
彼女はこの得体の知れない賞金稼ぎとの無益な会話を、明らかに楽しんでいるのだ。
……ガンマンも満更でない態度を隠そうとしないことも、アリサは気に入らなかった。
「とはいえ。あまり進展が無さ過ぎるのも本意ではないし……少し席を外すわ」
不意に、リーダーが会話を切り上げる素振りを見せアリサがハッとすると、苦笑がちな彼女と目が合う。
……感情が顔に出ていたのだろうか、と皺の寄っていた眉間を摘んで揉んだ。
「ウチの実行隊長もこれ以上の停滞は望んでないようだし、私もちょっと
ああ、とアリサは納得した。どうやらリーダーはアーツを使う ようである。
窓枠から腰を上げ、別室へ移ろうとする彼女の背中へ期待を込めて声を投げた。
「天啓でも降ってくれば御の字だな」
「あまり期待しないで。アリサ、彼のことは頼んだわよ。あなたも、彼女と仲良くしてあげてね」
「
目を見張っておけ、と暗に仄めかすリーダーへそう声を掛けると、彼女はヒラヒラと手を振って部屋を出ていった。
するとリーダーが後にした部屋に残るのは必然的に自分と、ガンマンだけになる。
「……あんた、ここにいて良いのか?」
暫くの間部屋の中を無言が支配する。その空気に痺れを切らしたアリサはため息交じりに切り出してしまう。
「そもそも、あんたいつもブラックスチールの二人組とは別れて動いてるみたいだが」
何か企んでいるのではないかと目を光らせているのだが、こうして屋内で時間を持て余しているか金鉱内を目の届く範囲で軽くほっつき歩いているだけである。それがむしろ怪しさ満点で気を抜けない。
こちらの胸の内を悟ったのか、ガンマンは口元に笑みを作った。
「俺に引っ付いているのが難しいなら、一日中見てられるよう
「ケッ、そんなこと願い下げだよ」
アリサは断固として拒否する。
仲間でもない連中と寝食を共にするなど馬鹿げているし、戦争屋と一緒に夜を明かすなど論外である。寝首を掻かれる可能性だって十分にあるのだから。
「黄金に関しちゃ問題ない。
ガンマンはグラスを持った手で自分の頭を指し示した。
「コッチを使って働くさ」
「学校とは無縁何だろう? 期待出来るのか?」
「
「オールドエイブ?」
クルビアの大統領の座に就いた人物は歴史上ただ一人しかいない。そんなことは学のない自分だって知っているというのに。
こんな戯言に付き合ってられない、とアリサは聞き流す。
どうしてリーダーはこんな訳の分からない奴を気に入り、酒を振る舞ったのだろうか。それもわざわざ以前の仕事で偶々手に入った、ドッソレス産の上物のテキーラをだ。
「それに、驚いたことに力仕事は嬢ちゃんたちの方が向いてるようなんでね。そっちじゃ俺は用なしさ……どうせおたくも、おたくのボスも顔に似合わず冗談みたいな力してるんだろう」
尋ねつつもどこか納得いかないような口振りでガンマンはボヤくが、パッと見非力そうには見えないのだが。
人を食ったような奴だな、とアリサは顔を顰める。
「大体、ここに来てからずっとそうだが、あんたらの頭から飛び出てる
「はあ?」
アリサはついに素の声を漏らしてしまう。人類であれば必ず見受けられる各種族の特徴に疑問も持つとは、一体全体どういうことだ(とはいえ目の前のガンマンの見た目にはいずれの種族の特徴を見出すことは出来なかったが)。
付き合ってられない、とアリサは苛立ちを誤魔化すようにジャケットの懐から煙草を一本取り出して口に加え、両手をジャケットのポケットへ突っ込むと、上から見下ろす形でガンマンを睨み付けた。
「ふざけた態度も程々にしろよ。リーダーはあんたのことを気に入ってるみたいだが、おれはそうじゃない。何を目論んでるかは知らないけど、もしそれが黄金探しの妨害になるようなら──」
「
サラリと述べられた台詞に凄むアリサは固まってしまった。
「……何だと?」
微笑を消したガンマンは執務机から足を下ろして立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってくる。そして、動けずにいるアリサの前で足を止めるとジャケットの端を摘んで無造作に捲り上げた。
「なるほどね。だから『早抜き』なんて呼ばれてるのか」
「…………」
「てっきり
腰元、ジャケットの下で
アリサの羽織るジャケットのポケットは
対峙した相手に自分が無手だと誤解させ、油断を誘ったところでナイフを抜き放てるように拵えた、アリサなりの荒野を生きるための工夫である。
それが、手の内を見せる前から見抜かれていたとは……。
「人間、似たようなこと考えるもんさ。そんなことより、ホラ」
威圧して釘を差すつもりが逆に手の内を暴かれていたことに呆気に取られていると、こちらの胸の内を読んだのか含んだ言い方をするガンマン。
その後に距離を取って何かを
見れば、それはマッチ箱であった。
「火、持ってないんだろ?」
「……お気遣いどうも」
「なんだ吸わないのか」
「おれは咥えてるだけでいいんだよ」
「そうか? ……変わった奴だな」
煙草を咥えたまま口の端から息を吐き、マッチ箱を投げ返すとそれを受け取ったガンマンが首を傾げるのでアリサは目を逸らした。
……吸えもしない煙草を咥えているのが、昔のリーダーを真似してだなんてことは絶対に悟られたくなかったからだ。
アリサは自分の子供っぽいところをガンマンなんかに気取られたくなかったので、早口で別の話題へ話を切り替えた。
「そんなことよりも……マリオたちから聞いたけど、あんた麓の町には
中身のテキーラがほとんど減っていないグラスを執務机に置き、ポンチョの下から細巻き葉巻を取り出したガンマンへ、アリサは以前からの疑問を投げ付ける。
「山脈を挟んだ町の反対側に広がるのは荒野だけだ。しかもボリバルとの境界も面してない、本当の意味での荒野だそ? ……あんた、そんな身一つで一体どこから来たんだよ?」
問いを耳にした瞬間、細巻き葉巻から紫煙を燻らせるガンマンが顔を上げる。
その顔を上げた彼の厳しい表情と、薄い青色の瞳に宿る言いしれない感情を真正面から向けられて、アリサは無意識に身構えていた。
「
「は?」
暫く睨み合った後彼が何事かを口走る。だが、アリサにはそれが聞き取れなかった。
正確には言葉の音は聞き取れたが、
「エル……何だって」
「いや──どこだって良いさ」
どこかはぐらかすような態度で細巻き葉巻を摘んだ手を振り、さっきまでリーダーが寄り掛かっていた窓辺へと移るガンマン。
だが、その様子にアリサは何か重要なことを聞き逃したのではないかと勘繰ってしまう。
「ここでの用が済めばどこへとでも消えるんだ。どこから来たかなんて大した問題じゃない」
窓の外へ視線を向けたまま、ガンマンは話を続けた。
「これに関しちゃ、おたくらも俺とそう変わらんと思うがね」
「あんたみたいな得体の知れない奴と一緒にするな」
「そう邪険にするな。しかし、当てがあるみたいだが?」
アリサはつい口を挟んでしまったが、振り返ったガンマンのそれとない興味の色の浮かんだ眼差しに言葉を詰まらせる。部外者の、それも本来なら敵対している相手に一味の計画を伝える必要はないだろう、と自問自答する。
「……黄金を見つけたら、その金でドッソレスに暮らすんだ」
が、アリサは計画の中身を口にしていた。
「ドッソレス?」
「聞いたことないのか? ボリバルにある移動都市だよ」
「移動……何だと?」
「そんなことも知らないのか? いいか、ボリバルっていうのはな──」
険しい顔をして頭に疑問符を浮かべるガンマンへ、アリサはドッソレスがどんなところかを話して聞かせる。
ドッソレス。血に濡れるボリバルの大地にあってただ一つ享楽と繁栄を享受する、『双日都市』。
そして、この大地にあって都市の中に海を内包した稀有な場所でもある。
その
そうすれば、こんな開拓地の端の端である辺鄙な荒野からも、拝金主義のクルビアの大地からもおさらば出来る。
ボリバルの陽気な太陽の下、カードやスロットを回し、日がな一日海辺でボンヤリと酒を煽る生活が待っている。
悪事に対する結果として軍や賞金稼ぎに追われることも、露天の夜雨の寒さに震えることも、灼熱の陽に焼かれ喉の渇きや飢えに苦しむことも、ちょっとした怪我や病気で苦しんだり、死にかける思いをすることから無縁の人生になるのだ。
「──そのためにも、おれたちは黄金を見つけなくちゃならないんだよ」
そこでアリサは言葉を切った。
「おれたちが必死になって探す理由が分かっただろ」
口にしたら自分でも不思議なくらい言葉が止まらず、つい熱くなってしまったと少し恥じ入り、ガンマンの様子を窺った。
「──
こちらの話を遮ることなく思案するように顔を顰めていた彼は、表情を崩さずに短くなった細巻き葉巻を摘み上げ、脇へと放り捨てながらごちた。
「潮っ辛くてベタつくもんで、俺はあんまり好きじゃあないな」
「えっ?」
独りごちたガンマンをアリサはマジマジと見つめた。
「海って匂いがするものなのか?」
怪訝な一瞥を向けられてからしまった、と慌てて取り繕うとする。
「それくらい常識だろう……いや、内陸の生まれじゃ海を見る機会なんてそうないか」
「じゃあするんだな? 匂いが?」
「なんだ。おまえさん、海に興味あるのか」
「あ、いや……」
「大したものでもないし、別に教えてやったって構わないが」
咳払いをして誤魔化そうとしたアリサだが、再びグラスを手に取り、舐めるようにテキーラへ口を付けながら椅子に腰を落ち着けたガンマンからの問いにアリサは一瞬躊躇い……小さく頷いた。
プロファイル
基礎情報
【コードネーム】ガンマン*1
【性別】男
【戦闘経験】不明
【出身地】不明
【誕生日】不明
【種族】不明
【身長】193cm
【鉱石病感染状況】■■
能力測定
【物理強度】普通
【戦場機動】普通/■■
【生理的耐性】標準
【戦術立案】標準
【戦闘技術】優秀
【アーツ適正】■■
健康診断
造影検査の結果、臓器の輪郭は明瞭で異常陰影も認められない。循環器系源石顆粒検査においても、同じく鉱石病の兆候は認められない。以上の結果から、現時点では鉱石病未感染と判定。
【源石融合率】0%
鉱石病の症状は見られない。
【血液中源石密度】非公開
医療部の決定により、関連データは非公開とする。
個人経歴
クルビアの大地を放浪する賞金稼ぎ。寡黙な人物であり、BSWのロドス駐在員であるリスカム、フランカの二名が外勤任務でクルビア開拓地を訪れた際に関係を構築したという。*2その後、両名の紹介と本人の要望により、ロドスの協力者リストに登録をされた。
第一資料
ガンマンの経歴は謎に包まれている。彼の足跡は現地で悪名を馳せた盗賊団による、クルビア辺境に位置するアーチーズタウンという町での事件解決に一役買ったところから始まっており、それ以前の行動履歴は全くの空白である。オペレーター登録の際の人事部による一連の面談に関しても非協力的な態度を表していたため、彼に関する詳細事項は追って更新の必要がある。
荒野での賞金稼ぎという生活が、一種の防衛手段として彼を寡黙にさせたのだと思います。とは思うのですが……十分近くも面接室の自動ドアをマジマジと眺めた挙句、基本的な個人情報を尋ねても口を閉ざすばかり。どうにか名前だけでも聞き出そうとした結果「呼びたいように呼べばいいさ」って……面談に掛けた私の一時間半を返して欲しいのですが!?
──人事部オペレーター
第二資料
情報精査中のため一時非公開とする
第三資料
情報精査中のため一時非公開とする
第四資料
情報精査中のため一時非公開とする
昇進記録
情報精査中のため一時非公開とする
本日の更新に併せてオマケ:小ネタ・元ネタ解説集に十四話中での小ネタに関する解説を追記しました。