アークナイツ サイドストーリー ~源野落陽~ 作:丸・ぱそ男
窓の据えられていた壁が爆ぜると同時に、オフロード車が突っ込んできたことに盗賊たちが悲鳴を上げる。
「うっ!?」
「な、なんだ!?」
「コレでも食らいなさい!」
顔を覆いながら身を屈める彼らへ運転席にいたフランカが吠えると、けたたましい
自分たちを襲う銃撃から逃れようとして彼らはループスの女リーダーに半ば引っ張られて執務机の裏へと逃げ延びた。
「ナイス!」
盗賊たちの虚を突いたタイミングでの奇襲にリスカムは
「フランカ! 弾幕はそのまま維持して!」
「りょーかいっ!」
リスカムは相棒へ指示を飛ばしつつホルスターから愛銃を引き抜いて加勢する。
異なる銃声のコーラスにナイジェラたちはなす術がないようで、執務机の裏で身動きが取れないままアリサの叫びが銃撃の合間から届く。
「だから傭兵なんて信用出来ないって言ったんだ!」
「クソ、ヴァルポの方まで銃を扱うとは聞いてねぇぞ!?」
「ハッ! 残念だったわね! サンクタも顔負けのあたしの早撃ちとくとご覧なさい!」
硝煙と埃、木屑が舞う中で銃撃を浴びせ掛けるフランカ。その声にはナイジェラ一味にこき使われてきたことに対する、個人的な怒りを感じないでもなかった。
「搭乗したら車両を後退させて! 次のフェーズに移るよ!」
「おじさまがまだよ!」
フランカの返事に周囲へ視線を飛ばすと──いた。
扉の側でよろめきながら漂う粉塵を手で払うガンマン。壁をぶち抜いた際の衝撃が想定以上だったのか咥えていた細巻き葉巻が見当たらなかった。
「無事ですか!」
こちらの呼び掛けにガンマンは手を挙げて応じる。
「早く車へ!」
むせる彼を促してリスカムは盾を構えながら前進する。彼を援護するため盗賊たちの視界から遮るように割って入ろうとしたのだが……。
──カチッ、と嫌な音がリスカムの鼓膜を貫く。
「げっ!? 弾が……!」
一拍遅れて苦々しげにフランカの呻き声。
普段銃器を扱うことの少ないフランカが残弾管理をやらかしたのだ。
「っ、
その声を聞き逃さなかったウルサスの盗賊が執務机の向こうから身を躍らせる。
「おれも続く──」
「ッ! させません!」
続こうとしたアリサへリスカムが牽制射撃を加えた一瞬の内、ウルサスの盗賊が鉈を振り上げながら肉薄してきた。
「通しません!」
「どけ! チビ!」
「ぐっ……!?」
ウルサスの盗賊の突進を真正面から盾で受けて立つが、リスカムの小柄な身体では彼の巨躯を受け止め切れずそのまま押し込まれ、背中を車体へと打ち据えられた。
背中に受けた衝撃で一瞬息が止まるが、その隙で十分な時間を与えてしまう。
「ガンマン! まずはおめぇだ!」
リスカムをそのままに、ウルサスの盗賊は殺意を漲らせた目でオフロード車へ乗り込む間際のガンマンへ猪突猛進する。
(不、味──!)
フランカは再装填にもたついている。リスカムは痛みと肺への衝撃でむせつつ拳銃を構えようとするが、間に合わない。
「おめぇの銃弾じゃ死なねぇんだ! なら多少被弾しても相打ちに持ち込みゃ関係がねぇ──!」
「なら
電光石火──砲撃と錯覚する程の重く太い銃声が轟いた。
「ぐわぁっ!?」
ウルサスの盗賊の右肩が一瞬空中に縫い留められたかのように弾かれ、
「マリオ!?」
「あなたは伏せてなさい!」
「っ、リーダー……!」
「く、クソッ! 腕が……!」
板張りの床へともんどり打ったウルサスの盗賊が自らを襲う痛みと、右肩の流血に目を白黒させている。
一瞬唖然とするリスカムだったが、後部座席へ身を躍らせたガンマンの声に我に返る。
「乗れ!」
フランカから大型銃器を毟り取った彼から差し伸べられた腕を取り、リスカムは足をリアタイヤへ掛けてなだれ込む。
「まだだ……っ!」
背後からの声に振り向くと、苦痛に顔を歪めたウルサスの盗賊が右肩を抑えながら立ち向かおうとしてくる。
「まだ、俺ぁやられて──」
カチリ、と頭の上で
「死にやがれ」
ガンマンの死刑宣告にウルサスの盗賊の顔が引き攣り、
「ッ!?」
二つの煌めきが視界の端に映り込み、リスカムはガンマンを押し退けて立ち上がり、反射的に盾を掲げた。
直後、カンカンッと弾ける音と共に軽い衝撃が二度盾越しに伝わった。
覗き窓越しに見やれば、執務机の向こう側で立ち上がったアリサが腕を振りかぶった姿でこちらを睨み付けている。
「マリオ下がれ!」
「す、すまねぇ……」
アリサの怒鳴りに腕を庇いながらウルサスの盗賊は執務机の裏へと後退する。その間にも彼女はジャケットの下に隠していたナイフを掴み取り、投擲しようと身構えている。
「出して!」
──潮時だ。
そう判断したリスカムは振り向いてフランカへ叫んだ。
タイヤの甲高い鳴き声と共に急発進でバックした反動でグンッ、とガンマン共々前の座席に押し付けられる。
壁の残骸を振り撒きながら所長室を脱出し、打った頭を抑えながら駐車スペースとなっている空地へ視線を送ると、人質兼労働力として金鉱に残されていた最後の住民たちが車に乗って発とうとしているところであった。
「まだ脱出してなかったの!?」
「
「とにかく、駐車スペースの前に寄せて! 彼らの脱出を援護するよ!」
てっきり住民の避難が完了していたものと思っていたリスカムはフランカがいいタイミングで突入を掛けてくれた手前強く言い返すことも出来ず、彼らの脱出を最優先にする指示を飛ばした。
フランカが急ハンドルを切って車体を横滑りさせながらオフロード車を停車させる。慣性に体がもっていかれそうになるのを堪え、拳銃に新しい
「ここは任せて、皆さんは急ぎ避難を!」
「あ、ああ!」
「ありがとう、恩に着るよ!」
「早く!」
「隊長! この後も予定通りでいいのね!」
住民たちの乗った車両が土埃を立てて金鉱の敷地を脱するのを目の端で見送って、フランカの呼び掛けに振り返る。
既にガンマンが弾を込めおわっていたのか、いつの間にか彼女の手に再び大型の銃器が握られていた。
「ここで一味の数を減らすよ!」
「集まってきた端からぶっ放してやるわ!」
フランカが大型の銃器──ガンマンの所有する大型銃器の内の一つを拝借したものだ──の
「その銃じゃ致命傷は与えられないんだからね、弾数に物言わせての牽制がその銃の役目だから気を付けてよ!」
「分かってる! ──にしてもアーツを介さず撃てる銃を扱う日が来るなんて思わなかったけど!」
「私もレインボー小隊以外にそういう銃を持っている人がいるとは考えてなかった……よ!」
「ぎゃあ!」
視界に飛び込んできた人影へ鉛球をお見舞いする。騒ぎに気付いたナイジェラ一味の一人が血しぶきを上げながら走り込んできた勢いのまま倒れ伏す。
無力化した一味のメンバーの奥へ視線を飛ばせば、キャンプとしているあばら家や坑道の掘られた山肌の方面から疎らにこちらへ向かってくる盗賊たちの姿を捉えた。
「集まってきたわね~悪党共」
「撃つのは遮蔽のない場所に、しっかり引き付けてからだからね!」
「んな訓練生じゃないんだから言われなくてもわかってるわよ!」
リスカムが相棒と軽い言い合いをしていると、それまで隣からガンマンの呻くようなぼやきが上がった。
「……畜生、暴れ
「だ、大丈夫ですか? どこか打ったってことは……」
「んなことより俺の
「フランカが既に!」
頭を振り、庇の広い帽子を被り直して車内を見渡すガンマンへ彼の銃の所在を伝えると、白い煙とけたたましい銃声を吐き出しながらフランカが撃ち掛かり始める中で、リスカムは駐車スペースを指で指し示す。
「ガンマンさん、事前の手筈通りナイジェラたちは私たちが。あなたは彼らの足を──」
「伏せろ!」
「え?」
突如ガンマンが腕を伸ばし頭を押さえつけてきたことに目を白黒させるリスカムだったが、ヒュンと鼓膜を鳴らした風切り音にハッとすると、彼を押しやり身を翻して盾を滑り込ませた。
カアンッ、と重さを伴った衝撃が盾越しに腕に走る。
(狙撃──!)
リスカムは視線を上げて監視塔と化した給水タンクを睨みつける。
そこには給水タンクの足場から、こちらを見下ろすようにしてクロスボウを構えた盗賊の姿。
「あのヴァルポは……っ」
見覚えのある狙撃手にリスカムは目を細める。以前アーチーズタウンで一悶着を起こしたヴァルポであった。
地の利があるとはいえ五十メートル以上開いている距離を命中させてくるとは……リスカムは盾を掲げたまま発砲するが応戦空しく、こちらからは射程圏外で無駄弾を消費するに終わった。
「フランカ! 給水タンクの上のぉっ!?」
これでは良い的だとフランカへ狙うよう伝えようとした途端、頭の横で轟いた爆音にリスカムは目を白黒させてしまった。
砲撃のような爆発は先程所長室で轟いたガンマンが放った銃声のもので、余りの大きさに頭の横でぶっ放されたリスカムの右耳が瞬間的に聾し、視界にはチカチカと星が瞬いた。
だが爆音に相応しい威力は持ち合わせているようで、間近に着弾したのだろう給水タンクからこちらを狙っていたヴァルポの盗賊が慌てて頭を引っ込めていた。
「まったく、馬鹿力で押しやがって……」
リボルバー拳銃を構えたまましかめ面を浮かべるガンマン。「
「そのリボルバー! 奥の手と呼ぶだけのことはありますね!!」
奥の手──それは彼の手に握られている
昨夜テーブルの上に置かれていた木箱に収められていたもの……彼の右腰のガンホルスターに収まっているものと同形状でありながら一回りも二回りも大きく、古いリボルバー拳銃。彼が持つもう一丁の大型銃と変わらぬ装薬量の弾薬を用いるとんでもないものであった(フランカに貸している大型獣よりも単純な装薬量があるという)。
なんでも有名な元ゲリラの
そして、このリボルバー拳銃を目的地まで届ける依頼を引き受けたのがガンマンであり、その道中通り掛かったのがアーチーズタウンだったという。
博物館に所蔵されるような骨董品が再び本来の武器として使用されることに皮肉を感じつつ、その威力にはリスカムは目を見張っていたのだが……。
「あんの
何を思ったか忌々しげに悪態をつくガンマンの髭に覆われた歪んだ顔を見て、こんな状況だというのにリスカムは愉快になってしまう。
「あなたも! 分かりやすく感情を顔に出すことがあるみたいで安心しました!!」
「そんなに怒鳴るな。聞こえてるよ」
「……あなたが耳の傍で撃ったからですよ!」
少しからかうつもりが鬱陶し気に流されてしまい、声がより大きくなるリスカム。そうしている間にも右耳の聴覚は戻ってきていた。
「……とにかくっ。そちらは任せましたからね!」
「おう。
「お任せください。というか──」
リスカムは右耳から手を放し、オフロード車から飛び降りたガンマンへ車上から叫ぶ。
「私はサヴラではなくてヴイーヴルです! 何回言えば分かってくれるんですかあなたは!」
「ヴイ……大体、その
「ああもうっ、つまり竜ですよ、竜! 理解してもらえましたか!」
むしろルイジアナが何なんですか、と問い質したい気持ちを堪えて捨て鉢にリスカムが吠えると、ガンマンの顎が小さく落ちた。
「竜? 嬢ちゃんが?」
「そうですよ! 何か文句でもありますか!?」
「いや──とにかく、頼んだぜ」
顎鬚を弄りながら肩を竦めたガンマンはそれ以上は何も言わず、駐車スペースの方へ向かっていった
「竜だと? ……お次は天使と悪魔でも出てくるってか」
……妙なぼやきが聞こえたような気もしたが、フランカの放つ銃声によって搔き消されてしまった。
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