アークナイツ サイドストーリー ~源野落陽~ 作:丸・ぱそ男
口笛の幻聴に気を取られるリスカムだったが、駄獣乗りの視線が自分から外れた途端その感覚も陽炎のように立ち消え、ハッとして頭を振る。
盾を再び掲げて盗賊三人組……加えて突如現れた駄獣乗りへと意識を向けた。
「おい。何をジロジロ見てやがる」
駄獣の上から観察するような目付きで
「こちとら見せもんじゃねーんだぞ。それにこっちは取り込み中なんだ」
そう言ってわざわざ駄獣乗りの方へにじり寄るヴァルポのがら空きの背中へ一発お見舞いしてやろうかと、邪な考えを抱くリスカムだがここは控えておく。
相手が犯罪者であれ不意打ちは気が引けたし、闖入者へ意識を向けつつも、ウルサスの盗賊が目を光らせている内は
(一体、何者なの?)
それに、盗賊たち同様リスカムも突然乗り込んできた謎の駄獣乗りに対する疑念と困惑はあった。
どこか古めかしさを感じさせる装いだが、年季が入っている訳でもない。それに、クルビア開拓地にいながら貫頭衣──ボリバルの人々が身に着けるポンチョと呼ばれる外套をわざわざ纏っているのは珍しい(決していない訳ではないが)。
騎乗している駄獣は今まで見てきたどの種とも異なる姿をしている……本当に駄獣なのだろうか?
おまけに武装した荒くれ者に囲まれ、凄まれていながらも慣れた様子で
「……おい! スカしてないで答えやがれ」
「言って聞かないならもっと分かりやすい方法で教えてやろうか?」
自分たちの足である自動車を眺め、素知らぬ顔でいる駄獣乗りに無視し続けられ痺れを切らし始めるヴァルポの盗賊と、呼応するように獲物の槍の柄で己の肩を叩く黒いサブラ。
「あの野郎は知り合いか?」
「そんな訳ないでしょう……あなたが誰かは知りませんが危険です。下がってください!」
ウルサスの盗賊のわざとらしい問いを一蹴する。
彼にどういった思惑があるのかは知らないが、部外者を巻き込む訳にもいかない。
リスカムは声を張り、謎に包まれた駄獣乗りへこの場から離れるよう呼び掛けるが、彼はなおも沈黙を保ち立ち去る様子を見せない。
「マリオ」
「おう。ヴイーヴルの嬢ちゃん、あんたは後回しだ」
「っ、ちょっと──」
黒いサヴラの低い呼び掛けにウルサスの盗賊も応じ、駄獣乗りへと得物を向けようと構えを取る。
対してリスカムも蛮行を止めるためホルスターから拳銃を抜き放とうとするが──
「────ネ」
「え?」
「
「…………」
「は?」
駄獣乗りの発言に、拳銃を抜き掛けの姿勢のままリスカムは固まってしまった。
「そこのお嬢ちゃんも含めると……
彼はヴィクトリア語で語りかける、というより自分に言い聞かせるような調子で言葉を続けた。
そのヴィクトリア語にしても、随分古めかしい発音と言葉遣いで意味を飲み込むのに一拍遅れてしまう。
だがそれ以上に──何故自分たちをわざわざ種族の俗称で呼ぶのかが理解出来なかった。
「というよりも私はヴイーヴルなのですが……」
「あんたらのしてる、その
「な、何を訳の分からねぇことを……」
それとなく訂正するリスカムと同様、盗賊たちも言葉の意味を飲み込めない様子である。
対して駄獣乗りは周囲の反応など気にも留めず、ポンチョの下に手を忍ばせた。
「なんだ違うのか……言われてみれば、祭りにしちゃあ人気も少ないな」
ポンチョの下から抜かれた手には煙草──よく見れば葉巻のようだ──が摘まれ、口へと運ぶとマッチで火をつける。
「しかし……
紫煙と共に言葉を吐き出された言葉──『アイルランドジン』が何を指しているかは見当が付かなかった。
だが、それが盗賊たちを皮肉っていることはリスカムにも理解出来た。
「この野郎!」
込められた嫌味に激昂したヴァルポがボウガンの銃床で駄獣の尻を殴り付ける。鈍い音と共に突如襲った衝撃と痛みに驚き、駄獣は嘶きと共に後ろ脚に立ち上がった。
駄獣乗りがバランスを取って宥めようとするが、制御の効かない駄獣は悲しげな嘶きを上げてへ駆け出した。
「っと……!」
進路上にいたリスカムは突っ込れては堪らないと慌てて脇へ避ける。駄獣の背にいた駄獣乗りはというと、駄獣を御し切れずバランスを崩してしまい駄獣から落下……する前に自ら飛び降りてリスカムの目の前にしゃがむように着地した。
「はははっ! ざまぁねぇぜ!」
「スカした野郎め、人をおちょくりやがって」
主人を振り落とした駄獣が通りの向こう側へと走り去る様をリスカムが目で追っていると、背後からヴァルポとサヴラの盗賊の嘲笑が通りに響く。
「ルイジ、ファン。あの地面に這いつくばってる野郎を二度とふざけた口を叩けないようにしてやるぞ」
「おうよ」
「っ、待ちなさい!」
予期しない事態が連続して発生し、完全に後手に回っていた。
リスカムは歯噛みしながらホルスターから愛銃を抜き、駄獣乗りを庇うように盾と共に構えた。
「止めて!」
警告しようとしたリスカムの声が、少女の悲痛な叫びによって遮られる。
「ジルさん!」
リスカムが声のした方へ振り向くと、酒場のスイングドアから飛び出したリーベリの少女の姿に目を丸くした。
「もう止めて! こんなことしたってなにも変わらないのに!」
「なんだぁ?」
「大丈夫ですか? ──町の皆を攫って、枯れた金鉱で出もしない金のために穴を掘らせて何が楽しいの!?」
割って入ってきたジルへヴァルポの盗賊が首を傾げた。
対するジルは地面に両手を着いたまま蹲る駄獣乗りへ駆け寄り、彼を庇うように立ち塞がり、感情を露わにして盗賊たちへ食って掛かる。
「部屋から出ないように言ったはずじゃ」
「ごめんなさい。でも、どうしても気が気でなくて……お父さんだけじゃなく、無関係な人たちまで痛め付けようとして、そんなことをしてまでお金が欲しいの!?」
驚いたリスカムに対してジルは後ろめたそうに目を伏せるが、再び顔を上げて盗賊たちへ言葉をぶつける。
「おいマリオ。このリーベリの嬢ちゃん、保安官の娘だぜ」
「保安官の? ……そうか──おい嬢ちゃん! 今は構ってる暇はねぇんだ。文句なら後で聞いてやるからそこを退きな」
「何を偉そうに……!」
その様子に冷水を浴びた様子の盗賊たちだったが、何かに気付いた黒いサヴラがウルサスの盗賊へ耳打ちする。
彼も何かに気付いた様子で、ジルに下がるように身振りでしめした。
対するジルはというと、盗賊たちを睨み付け反抗する態度を見せる。その瞳に涙を滲ませながら。
「──ともかく、危ないですからジルさんは店内へ戻ってください。あなたも! ここから離れるか、店内へ避難してください」
涙を浮かべるジルにただならぬものを感じつつも、リスカムは彼女の安全のため酒場へと引き下がるよう伝え、背後の駄獣乗りへも語気を強めて促す。
謎の駄獣乗りとジルの乱入。これ以上状況が複雑化して収拾がつかなくなる前に収めようとするリスカムだったが──
「……人の
「え?」
リスカムが振り返ると、立ち上がった駄獣乗りがパンパンと手をはたいて砂を落としている。
「っ、立っちゃ駄目。怪我をしてるかもしれない……」
「なんだと?」
「
先程まで蹲ってい多駄獣乗りが突然立ち上がったことに慌てて止めようとするジル。
言葉の意味を測りかねて疑問を口にした盗賊たちへ視線を送り、ジルの静止を無視した駄獣乗りは細巻きの葉巻を口の端へ咥え直すと、酒場の方へと進んでいく。
スイングドアの向こうで事態を見守っていた住民たちが慌てて顔を引っ込めるが、彼は気にした素振りも見せない。
軒先のボードウォークへ上がり、リスカムたちを見下ろすような位置関係となって駄獣乗りは向き直った。
「人の
ポンチョの裾に右手を掛け──
バサリ、と左肩へと捲くり上げた。
「お前さんたちに教えにゃいかんらしい」
駄獣乗りの動作で僅かにたじろぐ盗賊たち。そしてそれはリスカムも、ジルですら同様だった。
「あなたも、銃を──」
ポンチョにより覆われていた上半身。
そこに潜めていたのは腰に吊るされたガンベルト。
ホルスターに収まる拳銃の
加えて、ここまでのやり取りと世俗離れした空気からリスカムは理解する。
ただの駄獣乗りではない──彼もまた暴力の世界に身を置くガンマンだったのだ。
「この野郎も銃を持ってるとは……」
「まさか、サンクタか?」
あからさまに狼狽えるヴァルポと後退る黒いサブラ。
無理もない。銃器という複雑なアーツ機構を備えた銃器を携行する物好きを、サンクタ以外では
お目にかかる機会がほぼない盗賊であれば尚更だろう。
(にしては
駄獣乗り改めガンマンからはサンクタ族の特徴が窺えないことにどこか既視感を覚えていると、仲間を奮い立たせるようにウルサスの盗賊が声を張り上げた。
「馬鹿野郎! 相手が銃を持ってるくらいでビビることはねぇ」
「だがマリオ、BSWの傭兵も銃を持ってるんだぜ……」
「間合いを詰めれば銃なんざ大して怖くもねぇ。俺とファンに任せてお前は後ろから矢をぶっ放せ」
気後れしたヴァルポの盗賊へウルサスの盗賊が指示を飛ばすのでリスカムは顔をしかめた。
分かっていたことだが、それなりには場数は踏んでいるようで一筋縄ではいかない相手のようだ。
とはあえ、ガンマンの様子から盗賊たちとの諍いに加勢(?)してくれるようではあるので、こちらへの圧力は多少和らぐのはありがたい。
……自体が複雑になっていることはこの際無視することにする。
(ともかく、ジルさんに攻撃が向かないようにしないと)
チラとリーベリの少女を目の端で捉えつつ、彼女を庇いながら無法者たちを無力化する必要がある。
「ジルさん、絶対に私の前に出ないでください」
「う、うん……」
万が一がないようリスカムはジルへ釘を差す。
返ってきた声には部屋を飛び出して来てしまったことへの申し訳なさと、今更ながらの後悔の念が感じられた。
「なんだ、銃を見た途端に及び腰じゃないか」
盗賊たちのやり取りを前にその様子を窺っていたガンマンが煽る。
「今日び
ガンマンは言葉を切り、眩しげに細められた眼差しをより鋭くさせて言い放った。
「お前らみたいな
あからさまな挑発と皮肉。
動揺が走っていた盗賊たちの顔が怒りで赤く染まり、殺意を剥き出しにそれぞれの得物を振り上げた。
「てめぇ──ッ!」
「っ、危な──!」
ガンマンに襲い掛かる盗賊たちの内、彼に最も近いウルサスへ向けリスカムは構えていた愛銃の引き金を引く──
よりも早く、耳をつんざくような甲高い銃声が響き渡った。
「があ!?」
「ぐあっ!?」
「いっ……!?」
直後、同時に倒れ込む
ハッとしてガンマンへ視線を飛ばす。
そこには銃口から白煙を立ち昇らせる拳銃──リボルバー式拳銃のようだ──を腰だめに構え、左手を添えるように被せるガンマンの姿があった。
(まさか、そんなことは……)
一発の銃弾で三人を無力化する?
そんな芸当、サンクタですらやってのけないはず。一体どんな方法を用いたのだろうか。
(違う。
答えは単純。彼は一発で三人を撃ち抜いたのではなく、一人に一発ずつお見舞いしただけのことだった。
ただし余りの早業に三発の銃声が一つに重なり、一発の銃声と錯覚する程の速度である、ということを除けば。
「なんて早撃ち……」
「い、一体何が……?」
紫煙と鼻を突く焦げたような白煙を立ち昇らせるガンマンの早業に、リスカムは驚嘆してしまう。
隣のジルは何が起こったかすら理解が追い付いていないようで、耳を
「つ……こ、この野郎……!?」
「くっ、こんな豆鉄砲で俺たちを、やれると思って……ッ!」
だが、その早撃ちに対し威力は控えめのようだった。
撃たれた痛みに悶え、顔を歪めながらもウルサスとサヴラの盗賊が立ち上がろうと上体を起こしかける。
再びの銃声。
二発の銃声に併せて放たれた銃弾は、ウルサスと黒いサブラの額へと吸い込まれた。
再びの短い悲鳴と共に倒れ伏し、二人の盗賊は今度こそ動かなくなった。
「ち、ちくしょう、よくもマリオとファンを……っ!」
頑強さがあまりなかったヴァルポが遅れて身を起こし、痛みを堪えながら仲間の敵を取ろうとボウガンへ矢を番え放とうとする。
「させません!」
今度こそリスカムは引き金を引き、まさしく矢を放つ間際だったヴァルポの右腕目掛けて発砲した。
「ぐっ!?」
右の二の腕辺りに銃弾を命中させる。
弾みでボウガンを取り落としたヴァルポは被弾した腕を抑えて地面をもんどりうった。
「う、腕が……っ!?」
「妙な動きをすれば次は急所を狙いますよ」
ヒイヒイと喚くヴァルポから視線を外さぬまま、三人の盗賊が無力化されたことを改めて確認しつつも警戒を維持する。
(結果を見ればこちらに被害は出なかったけれど……)
ちらとガンマンを見やると彼と目が合った。
彼は何も言わずに視線をヴァルポの盗賊へ戻し、リボルバーを下ろさぬまま歩み寄って行く。
「ま、待ってくれ! お、俺たちが悪かった!」
腕から血を流し、痛みで蹲っていたヴァルポは再び己へ銃口が向けられていることに気付くと喚き始めた。
が、ガンマンは耳を貸すこと無く真っ直ぐに銃口を向け、無情にも撃鉄を起こした。
カチリ、鳴った
「あ、あんたの駄獣を殴ったことは謝る! それに、すぐ町から出て行くよ! あんたにも、そこの嬢ちゃんたちにも手は出さない! 連れ帰るつもりだった奴もだ! だ、だからみ、見逃してくれ!」
命乞いをするヴァルポの様子に軽く憐れみながらもどの口がとつい思ってしまうリスカム。
が、意外なことにガンマンは引き金を引き切ることはせず、銃口を微かにずらし、横たわる二人の盗賊を指し示した。
「……お仲間連れて、とっとと失せな」
「わ、分かった……」
リスカムは思わず瞠目した。
血が滴る右腕を庇いながらヨタヨタと立ち上がったヴァルポの盗賊。
気絶した仲間のウルサスと黒いサブラを引きずるように抱え、車へと押し込むと自分も運転席へ乗り込み一目散に逃げ出すように去っていった。
エンジンの音を響かせ、空回りするタイヤのけたたましい音と砂煙を残して去っていった盗賊たちを見届けて、リスカムは長く息を吐くと共に構えを解いた。
(何が何だか分からない間に収まっちゃったな……)
だが結果として盗賊たちを追い払い、マークの息子を再び連れ去ることを阻止しことに変わりはない。
それに偶然か意図的かは不明だが、ガンマンが非殺傷弾を装填していたようで死者が出なかったことは喜ぶべきだとリスカムは自分を納得させる。
たとえそれが犯罪者であってもだ。
「ひとまずは良しとしましょう」
これ以上の問題は発生しないはずだ。
……少なくとも今は、だが。
「どなたかは存じませんが、加勢していただきありがとうございました。ですが」
自身のリボルバー式拳銃……傍目に見てかなり旧式と思えるそれを眇めるガンマンへリスカムはお礼を述べた。
同時に助けてもらったとはいえ、どういう魂胆があったにせよ危ない橋を渡るような真似についても自分の考えを伝えることも忘れない。
「あまり相手を挑発して危険に身を晒すのはどうかと思いますよ。あれは私と彼らとの問題だった訳ですし……ジルさんもですよ」
「う……リスカムさんのことが心配でつい……」
「ジルさんに何かあったらマスターに顔向け出来ないじゃないですか。それに、荒事には慣れてますし杞憂でしたよ」
「ご、ごめんなさい……」
約束を破ったジルを半目で見つめると、横にいた彼女が反省した様子で体を小さくした。
「でも……皆のために矢面に立ってくれてありがとう。それとあなたも」
それでも彼女は改まって頭を下げる。
「リスカムさんを助けてくれて、町から盗賊たちを追い払ってくれてありがとうございました」
ジルはガンマンにも向き直り、頭を下げて感謝の念を伝えた。
ホルスターへ銃を収めたガンマンは自分とジルを交互に見るが何も言わず、代わりに口笛を吹いた。
先程まで姿を消していた駄獣が首を下げながら、盗賊たちが逃げ去った通りの反対側からトコトコと姿を見せる。
呼び寄せた駄獣へと歩み寄って手綱を取り、酒場の前まで引き返してきたガンマンは駄獣をウッドウォークの柵へ繋ぎ止めて、嘯いた。
「棺桶は要らなかったな」
リスカムは目をパチクリさせてジルと顔を見合わせた。
冗談ともつかない(冗談とも思えなかった)その台詞に彼女も困惑しており、「ええと……」と口ごもるしか出来ないでいた。
自分も同じような表情をしているだろうなと自覚しつつ、リスカムは『ミランディージャ』の店内へと消えていったガンマンの後を追い、揺れるスイングドアへ手を掛けた。
クロスオーバー作品なのに七話目になるまでクロスキャラがまともに登場しないのはどうなのよと自戒しつつ、やっとこさ登場させられました。プロローグの前書きと前話の終わりに一瞬だけ登場させていましたけども。
とはいえ、クロスキャラの元ネタが分からない方が大多数かと思いますので気になる方は下記を参照してください。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8D%E7%84%A1%E3%81%97%E3%81%AE%E7%94%B7
また、よろしければ感想もお待ちしております。