アークナイツ サイドストーリー ~源野落陽~ 作:丸・ぱそ男
リスカムがジルと共に酒場へと戻ると、バーのカウンター席の中央。そこに腰を落ち着けたガンマンと、距離を取りつつ彼を取り巻き口々に言葉を交わす町の人々の姿が視界に映る。
そして──
「少しだけ見させてもらったけど、あなた凄いわね〜」
ガンマンの隣の席へ着き、聞き慣れた軽い調子で話しかける
「さっきの早撃ち、ウチの社長にも引けを取らないんじゃないかしら?」
彼女の予期しなかった目覚めにリスカムは喜びと安堵から顔を輝かせた。が、直ぐ様表情を取り繕って足早に相棒の側へと近寄って行く。
「フランカ!」
「あら? おっはー優等生さん」
「おっはー、じゃないよ! 怪我は大丈夫なの? いきなり動き出して傷口が開いたり……」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。治療もしてもらってることだし」
「この通りね〜」とフランカは包帯の巻かれている自分の頭を指差した。
相棒の容態の心配からつい声を張ってしまったが、普段と変わらない調子の様子にホッとするリスカム。同時にその痛ましい姿にチクリと胸が痛んだ。
「さっきの騒動を見たって言ってたけど──」
「ええ。ついさっき部屋から降りてきたら丁度ね。目を覚ました時なんてベッドに寝かされてて、その子が部屋の中をグルグルしてたから面食らったわ」
そう言ってフランカがリスカムの隣に立つジルを指で指し示す。
ジルから相棒が目を覚ましたことなど知らされていなかったリスカムは驚いて彼女を振り返った
「ではジルさんはフランカと既に顔を合わせているんですか?」
「う、うん。リスカムさんを心配してたんだけど、フランカさんが様子を見てきていいって許可をくれて……」
彼女は居心地悪そうに指を組みながら白状する。
続けて一般人を危険な場所へ送り出したのか、という非難の視線をフランカへ飛ばすと、彼女はバツが悪そうに反論した。
「そんな訳ないでしょ。その子から簡潔に事情を聞いて、あたしも下に向かうから先に行って待ってなさいって釘を差したわよ」
「まさか飛び出すなんてね……」と栗色の髪の毛を指に巻き付けながらぼやくフランカ。
その姿にリスカムはため息をついてしまった。
確かに、フランカは自身の愛用のレイピアを引っ提げている。
どうやら助太刀する気満々であったようだ。
その装いについ頬を緩めてしまうリスカムだったが、表情を引き締めた。
「でも、火事場を任せる気はこれっぽっちもなかったから」
「人が相棒の窮地に馳せ参じて上げようとしたのに……可愛げがないわね〜」
「当然だよ。病み上がりの怪我人に任せられる訳ないでしょ。それと、ジルさん」
フランカの不満の声をいなしつつ、リスカムは続けて隣のジルを振り返った。
「は、はい」
「私の相棒が部屋を離れてもいいと許可を出していたみたいですが、だとしてもああいった危険な橋を渡るような真似はせず自身の安全を第一に行動してくださいね」
「あの人たちの乱暴してる姿に頭がきて思わず……ごめんなさい」
リーベリの少女がしおらしく反省する姿を確認し、半目になっていたリスカムは一つ息ついて頷いた。
しかし……後先考えず行動するような少女には見えなかったのだが、と首を傾げた。
「俺からも詫びさせてくれヴイーヴルの嬢ちゃん」
疑問に抱いていたリスカムに向けてバーカウンターの中から声が飛んでくる。
「マスター?」
「すまなかった。本来は俺たち大人が率先して止めるべきだったんだが、静止が効かなくてな……一時はどうなるかと肝を冷やした」
フランクの治療が済んだのだろう、上階から降りて来ていたウルサス族の町医者ウォルツに消毒をされているマスターが顔をしかめながら言葉を続けた。
「この人が加勢してくれたお陰で、誰も傷付かずに済んで俺はホッとしたよ」
「俺のことは置いておいて」と、リスカムの視線に苦笑いをした彼は目の前のガンマンへ水を向けた。
「あんたたちのお陰でフランクの奴を連れ戻されずに済んだ。改めて礼を言わせてくれ」
「本当だよ! 尻尾巻いて逃げ出したあいつらの姿ったらなかったぜ!」
「うんうん。ガンマンさんとお嬢ちゃんが盗賊共を撃ってくれた時なんか、あたしゃ胸がスカッとしたね」
盗賊たちが乗り込んで来たさっきまでの沈んだ空気はどこへやら。
住民たちは鬱憤を晴らすかのごとく口々に先程の一幕を語り合っているが、当のガンマンは騒ぎのことなど素知らぬ顔だ。帽子も脱がず、半身の姿勢で座席に浅く腰掛けて出されたコップの中身を口に含んでいた。
フランカもその様子を興味ありげに見守っているが、リスカムは違った。
初めに感じた違和感──盗賊と連れ去られた住民しかいないと聞かされていたクレアモント山脈方面から、蜃気楼のように姿を現したガンマンに対し、己の疑問を尋ねようとしたところ、住民の中から声が上がった。
「ヴイーヴルのお嬢ちゃんたちの力を借りれば、盗賊たちを蹴散らして若い連中を連れ戻せること間違いなしだ!」
「そうだそうだ、この子たちがいれば百人力だよ!」
やいのやいのとホール内が賛同のコールで色めき立つ。
質問を遮られてしまったリスカムは周囲の空気に肩を竦めた。
(まぁ、想定通りの反応だね……)
覚悟の上で盗賊たちへ立ち向かったのだから当然の結果だ。
自ら首を突っ込んでおいてこの後の事は知りません、では彼らの心象も酷いものとなるし、信頼関係も何もなくなってしまう。
そもリスカムの中にはアーチーズタウンの人々に手を差し伸べない、という選択肢は初めからなかったのだか。
「……はい。助けていただいたお礼もあります。乗り掛かった船です、引き受けましょう」
「ほ、本当か!?」
「これで息子も戻って来るんだね……!」
「リスカムさん……」
「すみません……あなたにとっては不本意な状況かもしれませんが、私たちを助けてくれたことへの恩返しはこれくらいしかできませんので。それにBSWの安全保障員として、犯罪者を見過ごす訳にもいきませんから」
住民たちの歓喜に混じる、ジルのか細い声にリスカムは眦を下げる。
だが、少女が助力を望まなくとも引き受けるつもりであった。
「ジルちゃんから簡単に事の経緯は聞いてるけど……リスカムってば本当お人好しよねぇ〜」
「フランカは部屋で安静にしてもらっても大丈夫だよ?」
「冗談」
大袈裟に肩を竦めてヒョイと椅子から降りたフランカがリスカムの隣に立ち、ポンと手を置いた。
「この人たちは命の恩人だもの。当然手を貸すに決まってるじゃない」
それに、と彼女は言葉を切る。
「相棒に貸しばっかり作るのも癪だしね。あなただけに任せっきりなんてごめんだわ」
「……無理はさせないからね」
ウインクして微笑んだヴァルポの相棒の茶目っ気に、リスカムはやれやれと肩を竦める。
同時に、自分たちと盗賊団との彼我の戦力差、地理環境……諸々の要件を脳内で整理しながら現状の打てる手段を模索する。
(話によれば盗賊の数に二十人程。利用可能な物資は回収済みだけど、弾薬の残りは心許ない)
併せて彼我の戦力差も念頭に置いて行動する必要がある。盗賊相手に遅れを取る気は一切ないが……フランカも本調子ではなく、向こうには人質もいる。不安材料は上げればきりがない。
(だからこそ──)
リスカムは視線を滑らせる。
視線の先──帽子の広い庇の下から紫煙を燻らせるガンマンへと。
「先程は加勢していただきありがとうございました」
ざわついていた住民たちが声を潜め、彼らの視線が集まるのを肌で感じつつも意識の外へ追いやる。
「先程の盗賊たちを退けた銃捌き……熟練の拳銃使いとお見受けします」
酒場に足を踏み入れてから一言も言葉を発さず、咥えていた細巻き葉巻を摘んで眺め眇めつするガンマンを真っ直ぐに見つめて言葉を続ける。
「もしかすると、事情を察しているかもしれませんが、この町は危機に陥っています。盗賊たちに食い物にされ、人々が連れ去られ、強制労働を強いられている──見過ごすことはできません」
無言を保つ彼へ一歩二歩と歩み寄り、リスカムは目の前で立ち止まった。
「私たちBSWはこの町、アーチーズタウンの人々の救援要請に応じるのですが、私たちだけでは取れる手段が限られてしまう。だから、あなたの手をお貸りしたいのです」
チラと視線を落とし、彼が纏うポンチョに隠れる腰元に下げられたリボルバー拳銃を見通すように視線を向ける。
しかし、彼は一体何者なのだろう? 世俗から離れたような独特の雰囲気に荒事にも慣れた態度……傭兵か賞金稼ぎか、あるいはそれ以外の?
再び浮かび上がる疑問を脇に追いやりつつ、リスカムは己の意志を示すようにしてガンマンへ手を差し伸べた。
「共にこの町を」
「遠慮させてもらうぜ」
「救ってはいただけ」
「え?」
被せられた答えの内容にリスカムは固まってしまった。
「ど、どうしてですか?」
「理由がないからさ」
「では、先程は何故加勢して──」
「そりゃあ俺の
都合が良いと言えばそれまでなのだが、拒否されるとは考えていなかったため思わず呆気に取られながらも理由を尋ねるリスカム。
対してガンマンは細巻き葉巻を咥え直すと、椅子の上で体を動かしてこちらへと向き直った。
「おたくらの抱えている事情は凡そ見当はつくが……俺の問題じゃない。一緒にどうこうする理由もない」
「慈善活動家じゃないんだ」と、カウンターに寄りかかったガンマンの眼差しがリスカムを捉える。
「それに今は仕事の最中でね。ただの通りすがりだ、悪いが他ぁ当たってくれ」
「そんな──」
彼の言い分はもっともなものであった。
だが、あてが外れたリスカムとしては少しばかりの焦りが生まれる。
「な、何だって?」
「ガンマンさんは手助けしてくれないのかい?」
同時に、成り行きを固唾を呑んで見守っていた町の人々の楽観的な空気が霧散し、拍子抜けした雰囲気と不安が満ち始めた。
彼らの懸念を理解出来るリスカムとしても、翻意させるため食い下がろうと身を乗り出そうとするが……。
「フランカ……」
肩に手を置かれ何事かと振り返ると、微笑を浮かべるフランカと目が合った。
「ここは任せてくれる?」
「ちょっ……」
言うやいなや相棒に押しやられよろめいてしまい、ジルに受け止められることとなった。
「あの、フランカさんは何を……?」
「……私にもさっぱりです」
何を思い付いたのか、気負った様子もないフランカの姿にジルが囁いてくるが、リスカムは首を振るしか出来なかった。
「ねぇおじさま? その仕事ってば急ぎの用なのかしら?」
フランカは両手を後ろ手に組みながらガンマンへと気さくに声を掛ける。
彼は首を巡らせると観察するように足元からヴァルポの尻尾、耳へと視線を移し、最後にフランカの顔を直視した。
「……というと?」
「あなたが良ければだけど、
怪訝そうに目を細めたガンマンを覗き込み、フフと笑ってフランカは人差し指を立てた。
「あたし──いえ、