アサルトリリィ・ラストバレット・メインストーリー新章【覚醒のスキャルドメール】の終盤、飯島恋花と相澤一葉は戦う。しかし説得も捕縛も覚醒も出来ず、敗北した未来のIFストーリー

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一話

 相澤一葉はそこにいた。

 飯島恋花は、洗脳されて敵対することになった一葉に向けて、声を掛ける。

 

「一葉、泣いてるの?」

「いいえ」

「でもそう見える」

「雨のせいです」

「それで、アンタは一体どうしようっていうの? アタシを」

 一葉は苦しそうに顔を歪める。

 

「いつもそうなんだ、このまま上手くいくんじゃないか?って思うと、こんな風になって。ねぇ、一葉。私を殺したいの?」

「……っ、すみません」

「一葉になら、殺されても良いのかもしれない」

 

 飯島恋花は笑いながら言う。

 

「けど、ごめん。アタシなんかが死んでも、寂しがる良い奴らがいてさ。もう約束してるんだ。死ぬタイミングは決まっているんだ」

「ヘルヴォルの皆ですか?」

「うん」

「羨ましいてすね。でも仕方ありませんね。約束を破ったのは私の方です」

「アタシはまだ、一葉のこと親友だと思っているよ」

「……私もです」

「でも殺すと?」

「はい」

「なら、仕方ない」

「はい、仕方ありません。終わりにしましょう、恋花様」

「残念だけど終わらないよ、一葉はアタシに勝てないもん」

 

 雨は止むことなく降り続き、廃墟の地面を泥濘に変えていた。

 剣戟の音が空気を切り裂き、鋼と鋼がぶつかり合うたびに火花が散る。

 

 飯島恋花と相澤一葉、かつて親友だった二人の少女は、互いの信念を賭けて激しく剣を交わしていた。

 

 恋花の動きは鋭く、しかしどこか一葉を傷つけたくないという躊躇が感じられた。彼女の剣は一葉の刃を弾き、距離を取るたびに叫ぶ。

 

「一葉、一体何をやってる!? 何を背負い込んでる!? 何で一人で抱え込むの!? 私達は他人なの!?  親友じゃなかったの!? 答えてみろ! 相澤一葉!!」

 

 一葉の目は冷たく、まるで感情を凍らせたかのようだった。彼女の力は容赦なく恋花を追い詰め、圧倒的な速さと力で攻め立てる。

 

 恋花の腕をかすめた刃が、赤い血を雨に混ぜた。一葉の動きは機械的で、まるで洗脳された彼女の心を映し出すかのようだった。恋花は歯を食いしばり、防御に徹しながらも一葉の瞳を見つめ続ける。

 

「私は諦めないよ、一葉!」

 

恋花は叫び、剣を振り上げて一葉の攻撃を弾き返した。彼女の声は雨音を突き抜け、一葉の心に届こうと必死に響く。

 

「アンタがどれだけ思い詰めて、どうにもならなくなって、闇に沈んで、暗いところから出られなくなっても、アタシはあきらめてやらない!」

 

 一葉の動きが一瞬止まる。彼女の瞳に、微かな揺らぎが走った。

 

「恋花様を殺します。」

 

だが、その声は無機質で、まるで他人の言葉を繰り返すようだった。剣を握る手は固く、迷いを振り払うように再び恋花へと襲いかかる。

 

「アンタにアタシは殺せない!!」

 

 

恋花は一葉の剣を受け止め、力の限り押し返す。彼女の目は燃えるように強く、一葉の善性を信じる確信に満ちていた。

 

「私は……!」

 

一葉の顔が一瞬、悲しみに歪む。そこには、洗脳の隙間から漏れ出た、かつての親友の心が垣間見えた。

 

「一緒に戻ろう、一葉!!」

 

恋花は叫び、CHARMを握る手を緩め、片手を一葉に向かって伸ばした。その手は雨に濡れ、震えていたが、決して怯むことなく一葉を求めていた。彼女の目は涙と雨で滲み、しかし希望を失わない光を宿していた。

 

 一葉のCHARMが一瞬止まる。彼女の瞳に、恋花の伸ばした手が映る。そこには、かつて共に笑い、戦い、夢を語り合った日々が蘇るかのようだった。だが、洗脳の鎖はまだ彼女を縛り、冷たい声が漏れる。

 

「恋花様……」

 

 次の瞬間、二人の剣が再び交錯する。恋花の伸ばした手は空を切り、雨がその軌跡を洗い流す。戦いはまだ終わらない。恋花の信念と一葉の闇がぶつかり合い、廃墟の街に悲痛な響きを刻み続ける。

 雨音が戦場を支配し、CHARMの衝突がその合間に鋭く響く。

 

 飯島恋花と相澤一葉の戦いは、互いの限界を試すような激しさを増していた。廃墟の地面は泥と血で滑り、雨が二人の視界を滲ませる。

 一葉の剣は冷酷で正確、恋花の動きを寸刻で追い詰めていく。

 

「恋花様は、ここで死ぬ」

 

一葉の声は凍てつく刃のようだった。彼女の瞳には、もはや親友の面影はなく、ただ洗脳の闇が広がっている。CHARMを振り下ろすその一撃は、恋花の肩をかすめ、鮮血を雨に散らした。

 

 恋花はよろめきながらも、笑みを崩さない。

 

「死なない」

 

 彼女の声は力強く、雨音を突き抜けた。

 

「そんなに泣いてる一葉を救い出すまで、死ねない!」

 

 彼女の言葉は信念そのもので、伸ばした手はまだ一葉を求めていた。だが、一葉の次の攻撃は容赦なかった。CHARMが恋花の脇腹を浅く切り裂き、彼女の膝が地面に落ちる。

 

「一葉……!」

 

 恋花はなおも叫ぼうとしたが、視界が揺れ、力が抜けていく。雨に濡れた地面が彼女の頬を冷たく叩き、意識が闇に沈む。最後に見たのは、一葉の悲しげな瞳だった――まるで、彼女自身がこの戦いを望んでいないかのように。

 

 恋花の目がゆっくりと開く。柔らかな光が視界に差し込み、雨の冷たさはどこにもなかった。

 

 彼女はヘルヴォルの控室にいた。

 無機質な机と、壁に貼られた作戦図。見慣れた空間に、ほのかな消毒液の匂いが漂っている。

 

 机の向こうでは、相澤一葉が書類を整理していた。彼女の髪はいつものように整えられ、穏やかな表情でペンを走らせている。

 

「恋花様。おはようございます」

 

  一葉が顔を上げ、静かに微笑んだ。

 

「……ん、私、寝てたの?」

 

 恋花は体を起こし、首を振ってぼんやりとした頭を整理する。体に痛みはなく、服も濡れていない。まるでさっきの戦いは幻だったかのようだ。

 

「はい。四時間ほど」

 

  一葉の声は落ち着いていて、いつもの彼女そのものだった。

 

「マジ?」

 

恋花は目を丸くし、ベッドの縁に腰掛ける。

 

「なんか、凄い夢を見ていた気がするわ〜。でも、思い出せない」

 

 一葉の手が一瞬止まり、彼女は恋花をじっと見つめた。

 

「大丈夫ですか?」

「今の今まで覚えてたんだけど……すごく嫌な夢だった気はするんだけど」

 

  恋花は額を押さえ、記憶をたぐろうとするが、靄がかかったようにぼやけている。CHARMの音、雨の冷たさ、一葉の悲しげな目――何か大切なものが胸に引っかかるのに、形にならない。

 一葉は小さく微笑み、書類を閉じた。

 

「じゃあ起こして正解でしたね」

「うん、助かった」

 

  恋花は立ち上がり、いつもの調子を取り戻して笑う

 

「お礼にラーメン奢ってあげよう!」

 

 一葉はくすりと笑い、書類を片付けながら頷く。

 

「楽しみにしています、恋花様」

 

 控室の窓から差し込む陽光が、二人の姿を暖かく照らした。恋花の胸に残る微かな疼きは、夢の名残か、それとも何か別の予感か――彼女はそれを振り払うように、一葉の肩を軽く叩いて部屋を出た。

 

 

 飯島恋花の意識がゆっくりと戻る。

 

 冷たく湿った石の感触が頬に伝わり、鼻をつくカビと鉄錆の匂いが彼女を現実へと引き戻した。

 

 目を開けると、そこは薄暗い牢獄だった。鉄格子の向こうには、わずかに揺れる松明の光が石壁に影を落としている。

 

 体を動かそうとすると、両手首に重い鎖の感触。記憶が断片的で、雨の中の一葉との戦い、剣の衝突、そして――その先がぼやけている。

 

 

「くっ……ここ、どこ……」

 

恋花は呻き、鎖を鳴らしながら体を起こす。

 

 頭に鈍い痛みが走り、肩の傷が疼く。服はまだ雨で湿ったまま、ところどころに血の染みが広がっていた。

 

 一葉の顔が脳裏に浮かぶ。彼女の冷たい瞳と、しかしどこか悲しげな表情。あれは夢じゃなかった。

 

 突然、遠くで低いうなり音が響き、地面が微かに揺れた。恋花が顔を上げるのとほぼ同時に、轟音が牢獄を揺さぶる。爆発だ。石壁にひびが入り、鉄格子が軋む音が響く。松明が倒れ、床に火の粉が散った。

 

「恋花!」

 

叫び声とともに、煙と埃の中から一人の少女が姿を現す。ヘルヴォルの仲間、初鹿野瑤だ。彼女の髪の毛が爆風に揺れ、手に握られたCHARMが光を反射している。

 

 瑤の目は鋭く、しかし恋花を見つけた瞬間、ほっとした色が浮かんだ。

 

「瑤!?  何!?  どうなって――」

 

  恋花が叫ぶが、瑤は素早く牢の鍵を拳で叩き壊す。

 

「話は後! 行くよ!」

 

瑤は恋花の鎖を一閃で切り裂き、彼女の手を引いて走り出す。牢獄の通路は爆発の余波で崩れかけ、壁から石屑が落ちてくる。背後では強化リリィの怒号と足音が近づいていた。

 

「ここ、実験施設だよ! 一葉が……あんたを連れてったって!」

 

瑤は走りながら叫ぶ。彼女の声には怒りと焦りが混じる。

 

「何が」

「一葉が……?」

 

恋花の胸が締め付けられる。記憶の断片がフラッシュバックする――一葉の無機質な声、

 

「恋花様を殺します」

 

 という言葉。だが、瑤の問いに答える余裕はなかった。通路の先で新たな爆発が響き、炎が一瞬視界を赤く染める。

 

 瑤が恋花を庇うように前に立ち、CHARMを構える。

 

「ヘルヴォルとクエレプレの皆で来た! あんたを置いてくわけないでしょ!」

 

  彼女の言葉に、恋花の目に力が戻る。仲間がいる。まだ終わっていない。

 

 二人は崩れゆく通路を駆け抜ける。瑤の槍が襲い来る強化リリィを薙ぎ払い、恋花は無我夢中でその背を追う。

 

 実験施設の奥からは、不気味な機械音とヒュージの咆哮が響いていた。出口の光が見えた瞬間、恋花は振り返る。一葉の姿はない。だが、彼女の存在がこの施設のどこかに、闇の中に潜んでいる気がしてならなかった。

 

「一葉……待ってて。絶対、取り戻すから」

 

  恋花は呟き、瑤と共に光の中へ飛び出した。爆発の煙が二人を飲み込む。

 

 崩れゆく実験施設の廃墟を背に、飯島恋花は初鹿野瑤と共に夜の森へと逃げ込んだ。

 

 爆発の残響が遠くで響き、ヒュージの咆哮が空気を震わせる。

 

 恋花の肩は血で濡れ、息は荒いが、彼女の目は燃えるように強い。       

 瑤が前を走り、道を切り開く中、恋花の心は一葉へと向かっていた。牢獄での目覚め、雨の中の戦い、そして一葉の冷たく悲しげな瞳――全てが胸に突き刺さる。

 

 森の奥、隠れ家へと続く岩陰で二人は一時的に身を潜めた。瑤が周囲を警戒する中、恋花は膝を抱え、暗闇の中で一葉のことを考える。

 

 彼女の言葉が、まるで魂から溢れるように口をついて出た。そこには誰もいない。だが、恋花は一葉に語りかけるように、静かに、しかし力強く呟いた。

 

「ねぇ、一葉。アタシはアンタに感謝してる」

 

彼女の声は、夜の冷たい風に溶け込む。

 

「アタシは死んでた。生きてるけど死んでた。アタシは罪深いから、誰かを愛したりすることもできないし、生きる意味はないって諦めてたんだ。けどさ、アタシはアンタに救われたんだ。心底救われた。いつも感謝してた。そうは見えなかったかもしれないけど」

 

 恋花の目が潤む。彼女は拳を握り、地面に押し付ける。

 

「アタシはそれ返したいって思ってる。今、アンタが何に巻き込まれているか知らないけど、アンタの下まで行くよ。アンタを救うために。そのためにどんだけの力が必要かわからないけど、必要なものは全部手に入れてアンタの下へ行く」

 

 

彼女は顔を上げ、星のない空を見た。一葉の顔が脳裏に浮かぶ。あの悲しげな瞳、洗脳の鎖に縛られた親友の姿。

 

「アンタは覚悟して待ってて。あのときアタシが殺せなかったことを後悔させてやるから。一人で勝手に絶望して、何もかも背負い込んで、泣きそうになってるアンタの下まで行って、アタシは、アンタに、最高の親友を持ったと言わせてやるからさ」

 

 恋花は立ち上がる。瑤が振り返り、彼女の決意の表情に小さく頷く。

 

「だからアタシも前に進むよ、一葉を救う。諦めてなんかやらない」

 

 恋花の声は、まるで一葉に届くことを信じるように、森の闇に響いた。

 

「恋花、行くよ。追手が近い」

 

瑤が槍を握り直し、合図を送る。

 

「うん」

 

恋花は頷き、傷ついた体に鞭打って走り出す。彼女の心は一葉を救うという一点に向かい、どんな闇も、どんな敵も、彼女を止めることはできない。

 

 親友を救うため、恋花の戦いはまだ続く。森の奥で、ヒュージの咆哮が再び響き、夜は更に深まっていく――。

 

 

 

 


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