永禄6年(1563年)12月、南近江観音寺城。六角義治による御家騒動である観音寺騒動は一応の終息が試みられた。細川晴元の次男が六角家の養子となり元服、年末に観音寺城に入城し六角左京大夫輝頼と名乗り合わせて近江守護に任じられたのである。
なお、従五位下左京大夫は義賢が持っていた官位でありそれも同時に受け継いだのであった。
そんな中、輝頼は夜中に六角の重臣達を密かに集めたのである。
「夜分に済まない」
「いえ、如何がなさいました?」
重臣達ーー三雲、後藤、蒲生、進藤、目賀田、平井達は夜分に呼ばれた事に訝しみつつも輝頼に平伏する。
「ウム……正直に答えてくれ……六角は国として保てるか?」
『ッ』
輝頼の言葉に六人は息を飲んだ。とても元服したばかりの者が言う言葉ではなかった。表情が硬い六人を見て輝頼は苦笑する。
「心配するな。此処にはアホの幕臣達はおらぬ。宴会で酔っ払っておろう。俺は幕臣達がおらぬこの時に南近江の実情を正直に語ってほしいのだ」
輝頼にこうも言われてはどうしようもないと判断したのか、最初に口を開いたのは進藤山城守であった。
「されば……現状、幕臣達が期待するような三好家を相手にする力は今はございません。先月も領内で徳政令を求める一揆も発生しています」
「……義治殿の美濃攻めか」
「如何にも。美濃攻めは思っていた以上に領内は疲弊しております故、内政に力を入れるべきでございます」
進藤は言いたい事は言ったとばかりに頭を下げるが輝頼は溜め息を吐いた。
「俺もそうしたい。だが、それはちと無理な話だ」
「殿ッ」
「三好修理大夫の件がある」
「修理大夫殿……まさか病ので……」
「あぁ。将軍や幕臣どもが躍起になっている。冬は何とか越せるようだが……夏を越せない噂もあるからな」
「それは……」
「修理大夫殿が居なくなれば将軍や幕臣どもは好機と思っている……馬鹿げた事だがな」
「馬鹿げた事……ですか?」
「あぁ。将軍や幕臣どもが今生きているのは修理大夫殿のおかげだ。修理大夫殿は幕府や朝廷を理解しているからこそ今の将軍達がいる……その修理大夫殿が死ねば……幕府は三好によって崩壊するぞ」
『ッ』
輝頼の言葉に進藤達は驚愕する。まさか、場合によっては三好達は将軍らを……。
「可能性が高いでしょうか?」
「三好家全員が修理大夫殿と同じ考えなら起こり得ない。しかし、修理大夫殿は一人しかおらぬ。それが答えだな」
平井加賀守の言葉に輝頼は溜め息を吐き、改めて全員に視線を向ける。
「六角が国として保つ事が出来るのは数年と理解した……だからこそ六人の身のあり方を決めてもらう」
「殿!?」
「良いのだ平井。養子となった日から覚悟していた。六角の家を潰す事になるが国人、諸君らが生きれば六角の事を覚えている者はいるという事だ」
輝頼はそう言って笑みを浮かべる。
「では殿に何か策が……?」
三雲の言葉に輝頼は笑みを浮かべて口を開くのである。
「全く……まさか基綱の世界とはな……」
会談後、六人が下がった部屋で輝頼はポツリと呟く。
(まさか細川晴元の次男として生きるつもりが六角の養子か……死亡フラグだけは回避しているがはてさて……此処は令和でも無いし死亡フラグは高いからなぁ……でも輝頼って最後は坊主になってたけど……)
一人溜め息を吐く輝頼である。
(取り敢えず次は内乱だったから内乱の終息を遅らせて六角の国力低下、その後に坂田郡をしないとなぁ……大舘兵部を原作通りに使者として出す必要があるな。つか、そのまま兵部を斬り殺して攻めてきても構わんぞ基綱……)
そう思う輝頼、此処まで聞けば勿論お分かりだろう……六角左京大夫輝頼は基綱と同じく現世の人が過去の人に憑依しているのだ。そして憑依した者は基綱を作品として知っている者でもある。
(ぶっちゃけ、『南近江譲り』は原作通りでも構わんな。国人どもの六角ヘイトを俺で集めて最後は井口に捕らわれて……その逃げている最中に六角にいる幕臣どもを処理するか。あれ、アイツら途中でトンズラしたっけ? まぁ良いや)
そんな事を思いながら布団に入る輝頼である。
(やっぱ木綿を布団に入れるのは正解だ。そこは良いぞ基綱……)
永禄10年9月下旬、輝頼の身柄は塩津浜城にあった。そこは朽木基綱の居城であり輝頼は先の戦にて井口越前守によって捕縛されていた。なお、捕縛前に輝頼は共に逃げていた幕臣達を処理していたが数人は戦の前に逃亡していたりする。
(まさか大舘兵部が逃げ仰せるとはな……意外とすばしっこい奴だったか……)
「此方へ」
近習の言葉に輝頼は意識を眼前に戻し襖が開けられた。
「六角左京大夫様をお連れしましたッ」
その言葉に輝頼は部屋に入り多くの者達が迎える中、基綱の前に座る。左の方には朽木に降った進藤らが控えていた。進藤らに視線を向けて輝頼は怒号を発した。
「裏切り者どもが!! うぬら、俺の顔が見れぬか!!」
視線を下げる進藤達であったが笑ったのは朽木基綱であった。
「芝居はもう良いぞ左京大夫殿。舅殿が話してくれた」
「ッ。加賀守ッ」
「……申し訳ありません。されど……」
「……俺を捕らえたのはそれか?」
「いや。主がうつけと聞いていたから馬鹿は追放するに限ると最初は思っていたがな……出仕してきた進藤らの具申もあったからな」
「ほぅ。という事は俺がうつけだったのはギリギリまで知らなかったか。むぅ、最後まで知らなかったら俺の勝ちだったな」
「ハハハ、それもそうかもな。右衛門督を生かしているのは?」
「六角家の嫡男という重圧が解き放たれたのだ。殺すよりも生かして己の道を探したら良い」
輝頼は原作では死ぬ筈の六角義治を生かして今も観音寺城の一角にて軟禁させておいていた。
(何か盆栽に夢中になっていると報告もあったしその道で極めてほしいかな……)
そう思う輝頼である。
「そこでだ左京大夫、朽木に降らぬか? その才は俺も惜しいと思う。それに加賀守らの頼みでもある」
基綱の視線に輝頼は溜め息を吐いた。
「やめた方が良い。俺を担ぐ者は何れ出てくる、俺に力があれば細川の者とかが来る」
「……それは面倒だな」
「だろ? ならばいっその事、近江を追放させてくれた方が助かる」
「殿ッ」
「俺はもう殿では無いぞ加賀守」
「……仕方あるまい、追放としよう。惜しいがな」
基綱はそう判断をし輝頼は頭を下げるのである。そして退出する前、ふと思い出したかのように振り返る。
「そうだ、基綱殿。一つ言っておこう」
「何だ?」
「ホトトギスは鳴くまで待つよりも誘っては如何かな?」
「ッ!? 左京大夫殿、もしやーー」
「お、その顔。基綱殿を驚かせた功績とでもするかな」
驚く基綱を他所に輝頼は笑みを浮かべて完全に退出するのである。この後、輝頼は近江を追放となり、足取りは河内国へ入ったという記録を最後に途絶える事になる。
一説によればそのまま河内国において帰農したと言われるがあくまでも説の一つに過ぎない。また、基綱は八門を使い輝頼を家臣に迎えようとしたが行方は分からなかった。
「憑依しても力が無いのなら民になるしかない。それは三国志の時代からそうでもある」
鍬を持って田を耕す輝頼はそう言って笑みを浮かべるのであった。
ふと漫画を見てた時に受信。輝頼、確か最後は出家するしまぁ変化はあまり無しにしつつの帰農フラグへ。
憑依者でも彼処は多分無理な気も