亡き王女の為の讃美歌   作:ヨマオ

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最終話 少女達の百年あとの祭り

 今日は燦燦とした夏晴れで空気もからっとしており、妖精をぶっ飛ばすには絶好の日だった。だが今日の昼は霊夢と予定がある。魔理沙はおなじみの魔女衣装で箒にまたがり家から飛び立つ。帽子を押さえながら森を超え神社に降り立った。

「来たぜ霊夢」

「いつも悪いわね」

 霊夢は相変わらずの巫女服で出迎えてくれた。

「正念場だな。もう来てるのか?」

「ええ」

 白い雲の漂う晴天の下、2人は神社の社務所に歩いていく。玄関で靴を脱ぎ板敷きの廊下を進む。そして客間の障子を静かに開けた。

「待たせたわね」

 霊夢は座布団で正座する少女に声を掛けた。少女は薄紫のパジャマのような装いで頭のキャップには月やら星のアクセサリーがついている。

 こいつがフランの仲間、パチュリー・ノーレッジか。魔理沙はパチュリーを注意深く窺う。当のパチュリーも心情を悟らせまいという硬い表情で魔理沙を見上げる。

「あなたが霧雨魔理沙ね。初めまして。パチュリー・ノーレッジよ」

「初めまして。霧雨魔理沙だ。待たせてすまない」

 霊夢と魔理沙は座卓を挟んでパチュリーの対面に座った。魔理沙は帽子を脱ぎ脇に置く。

 室内は猛暑と言っていいほどの暑さだった。常に日に晒される客間は、朝からの晴天でじりじりと暑くなっている。漂う薄雲では日光を遮るなんて到底できず、気温が下がる見込みはない。できるだけ外に会話が漏れないよう障子を閉め切っているので風が吹き抜けることもない。魔法を使えば室温を下げられるが、攻撃に転用するかもと無用の緊張を高めることになる。つまりどうしようもない。

 座卓に置かれた湯呑みを窺う。霊夢は珍しく氷屋から一塊の氷を取り寄せた。手間をかけ細かく砕いた湯呑用の氷。数個の氷が入った麦茶は、嵩が減ったようには見えない。

「わざわざ呼び出してごめんなさい」 霊夢がパチュリーに一礼する。 「今日はお互い話し合って、胸の内を理解し合えればと思う」

「そうね」

 パチュリーは仏頂面に背筋を伸ばし、手を腿の上で重ねている。ぎらぎらと光る瞳孔で私たちを交互に窺って、引き締まった口を開いた。

「まずは認識合わせでいいかしら」

「ええ」

 パチュリーは唾を飲み、話し始める。

「今回のフランの異変、その目的は博麗の巫女の抹殺よ。発端は紅霧異変でレミリア・スカーレットを殺されたこと。レミィが殺された復讐を成し遂げるために、フランは異変を起こした」

「そう」 と霊夢。

「紅霧異変の発端は人里にメイドを殺されたこと。私たちの主張はそこにある。私たちは里と共生関係を築いていた。里へ買出しに行くことはあっても、人間を殺したり傷付けたりはなかったわ。それが唐突に、1人のメイドの命が奪われた。里の何者かによって惨殺された」

 淡々と言葉を継ぐ。

「レミィはけじめをつけるよう要求したけど、巫女は拒否。里を巡って争いに発展し、結果として美鈴とレミィが殺された。里に被害はなく、けじめをつけられないまま異変は終息。私たちは降りかかった理不尽と2人の不幸を噛み締めた。私たちは納得できず、今回の計略を起こした。これが事の経緯」

「分かったわ」

「この異変はフランが立案から実行まで手綱を握っていたわ。でもフランはあなたたちに負けた。そしてフランは当分活動できる精神状態じゃなくなってしまった。彼女が倒れた以上、私たちの敗北も決まったわ」

 パチュリーは正座に慣れていないのか足を揺り動かす。動かすたびに柔らかいスカートが擦れ微かに音を立てる。

「1つ確認したいことがあるわ」 とパチュリー。

「何かしら」

「この場の目的について確認しておきたい。お互いのことを話し合い妥協点を探すことが目的だと聞いているわ。つまり私たちに飲んで欲しい条件があるということ?」

「条件はないわ」 淡々と答える霊夢。 「条件ありきじゃなく、話し合って譲れる点を探したいの」

「つまりあなたは戦いを望んでいないと。それで争わないための条件を模索していきたいということ?」

「そうよ。他に質問はないかしら」

「ないわ」

「分かったわ。じゃあ早速、私たちに関して聞きたいことはないかしら」

 パチュリーは口元を触りながら俯く。しばらくして首を起こす。

「まず聞きたいのはフランの処遇について。なぜフランを殺さなかったの? そのうえ神社に匿って風雨を凌がせた。私たちに連絡をしてフランを引き渡した。どうしてそこまでしたのかしら」

「あんたたちを殺したくなかったからよ」

「殺したくない? それはなぜ?」

「私の気持ちよ」

「もう少し詳細な答えが聞きたいわ。殺さなかった先に何があるの?」

「何もない。殺さないこと自体が目的よ」

 パチュリーの硬直した面持ちが崩れ、戸惑いを示す。

「つまり、敵である私たちの生存を無条件で許容すると?」

「そうよ」

「私たちを何かに利用するわけでもないの?」

「ええ」

 パチュリーは沈黙し何かを考え込んだ。霊夢と魔理沙も黙ってパチュリーの返答を待つ。魔理沙の生え際から1粒の汗が浮かんだ。汗は側頭の窪みを超え、頬の膨らみをなぞっていく。そのまま顎を伝い、ぽとりと腿に落ちた。

「解せないわ」

 パチュリーは眉間に皺を寄せる。

「私たちを生かしておいて人里にメリットがあると思えない。むしろ復讐の火種を残す結果になるのよ。なぜそれを無視してまで生かすの?」

「命は軽々しく奪われていいものじゃないって、思うからよ」

 霊夢の睫毛が影を落とした。唇が締まる。

「思うわよね。奪ったじゃないって。そうよ。私は殺した。美鈴に陰陽玉が当たって、取り返しがつかなくなって、レミリアも殺した」

 アブラゼミがけたたましく鳴いていた。夥しい数の蝉たちは息を継ぐ暇もなく、まるで真夏の暑さに浮かされたように、或いは何かに急き立てられるように喉を鳴らす。押し寄せる茶色の濁流の中、霊夢は言葉を継ぐ。

「私は自分に言い訳したの。殺したのはしょうがないって。立場だとか、責任だとか、言い訳を重ねた。殺さなきゃ失うものが増えるって納得しようとした」

 霊夢は口を閉じた。目線は落ちて虚空に投げ出される。霊夢は魔理沙を見た。魔理沙も霊夢を見ていたので、2人の目が合った。睫毛で陰った瞳はしばらく魔理沙を向いて、再び落ちる。少し肩の力が抜けたような気がした。霊夢は皮剥けだらけの手を握り締める。

「私はもう自分に言い訳をしたくない。レミリアたちを殺して正しかったなんて、自分に言い聞かせたくないの」

 霊夢は真っ直ぐパチュリーを見た。パチュリーは何も言わず、紫の靴下を擦り合わせる。

 蝉の鳴き声ばかりが響いている。風なんか吹かなくて、軒先に吊られた風鈴はうんともすんとも言わない。うだるような暑気が汗ばむ身体に纏わりつく。

「……遅いんじゃないかしら」

 パチュリーは眉を顰める。

「その高尚な気持ちが少しでも早く湧いていれば、レミィたちは死ぬことはなかったんじゃないの。何故今になってこんな話をするの」

「魔理沙が……こんな言い方適切じゃないかもしれないけど、許してくれたからよ」

「責任逃れしたいだけなんじゃないの」

 霊夢に突き付けられる視線。

「あなたはレミィたちを殺した罪の重さに圧し潰されそうになった。だからこうやって私たちの許しを請うて荷を下ろしたいんじゃないの」

「そんなことない。私は許してもらいたくて話し合うわけじゃない。あんたたちがもう割りを食わないようにって本気で思ってる」

「確かに負けたのはレミィであり、フランであり、私たちよ。でも、私たちの抱いた感情は消えない。私たちは都合の良い人形じゃないわ」

「都合良くしないための対話だ」

 魔理沙が口を開いた。パチュリーは魔理沙を睨む。

「霧雨魔理沙。力で押さえつけて、少しだけ飴を与えて、要求を呑ませる。あなたたちがやろうとしてることは対話でも何でもないわ。今までと変わらない、強者による利害の強要よ」

「そうならないために話し合うんだ」

 魔理沙は垂れる汗をそのままにパチュリーと真正面から対峙した。

「まずはあんたらのことを知りたいんだ。交渉事は一旦横に置いて、勝者敗者とかいう構図は全部取っ払って、フラットな状態で話し合いたいんだ。そうすればお互いの理解につながって強要するなんてことにはならないんじゃないか?」

 パチュリーの刺すような目に胸が痛んだ。しかしそれをも受け止められるよう、魔理沙は目を離さない。

「話し合いなんて意味ないって思うだろう。強要されるかもって懸念するのも分かる。身勝手だって言われても仕方ない。けど、これだけは言わせてほしい。私たちの気持ちは本物だ。本気であんたらに謝りたいんだ。謝意を示してほしいなら、里を傷付けること以外なら何でもする。望むならフランにも謝りに行く。館の修繕も手伝うし、支援できることは惜しまない。私たちの血肉を、食わせてもいい。霊夢と話し合ったんだ。……あんたらにどれだけ譲歩できるかは分からない。でもどんな思いも受け止める。あんただって、何かを伝えたくてこの場に来たんだろ? だから話して欲しい。頼む」

 魔理沙は卓に手を付き、頭を下げた。

 パチュリーは無言で魔理沙を見下ろしている。

「私はもう誰も殺したくない」 真っ直ぐ目を投げかける霊夢。 「そうならないためにはどうすればいいのか考えた。考えて、こうするしかないと思ったの。横暴だと感じてしまったのなら謝る」

 霊夢は手を使って、恭しく机の横に摺り出た。

「レミリアの時、私は軽く考えていた。弾幕ごっこで勝負をつけれると楽観していたの。その結果2人を殺してしまった。そして今回もフランを含め、多くの人を傷付けた」

 正座したままパチュリーに身体を向ける。そして霊夢は、両手を八の字に畳に置き、その中心に額をつけた。

「この度は謝罪が遅れてしまい申し訳ございません。人里での殺しと、紅霧異変での私の殺し、今回も多くの人を傷付けました。里を代表してお詫びいたします。多大なるご心労をお掛けし、誠に申し訳ございませんでした」

「私も霊夢と一緒に謝ります」 魔理沙も頭を低くしたまま話す。 「申し訳ございませんでした」

 下を向いたので、パチュリーがどんな表情をしているのか分からなかった。空気の巡らない室内で、額の汗がぽたぽたと落ちる。パチュリーはしばらくの間、何も言わなかった。

「頭を上げて。話しづらいでしょう」

 後頭部に言葉が浴びせられる。霊夢が顔を上げたので魔理沙も上げた。

 パチュリーは弱々しい表情をしていた。口元も眉も垂れ下がり、目も伏せられていて視線が合わない。背筋に力が入っていなくて、まるで疲れているようだった。

「……私がこの場を承諾したのは、これ以上私たちの被害を拡大させないためなの」

 やがてパチュリーは伏せた目を浮かせ、私たちの高さに合わせる。

「私たちはレミィを殺されてもおとなしくせず、あまつさえ人里を巻き込んだ復讐を企てた。今度こそ巫女に殲滅される、当然そう考えるわ。そこに降ってきたのがあなたの話し合いの提案。私たちにとって最後のチャンスだった。私はみんなを守るため、必ず優位な条件を勝ち取らなければならない。そう心に決してここに来たの」

 パチュリーは熱病に罹ったように額に手を当てた。

「私は駄目ね。感情的に反論してしまった。あなたの機嫌を損ね、私たちの寿命を縮めたかもしれない」

「そんな結果にはならない」 霊夢が声を張る。 「あんたたちの感情は尤もだ。私はそれを理由に迫害なんてしないし、させない。約束する」

「いざとなれば私が霊夢を止める」 魔理沙も腹に力を入れる。 「約束する」

 パチュリーはポケットに手を入れ、シルクのハンケチを手に取った。そして汗腺から噴き出す汗を余すことなく吸い取るように、じっくりと首元に押し当てる。暑さに慣れていないのか、霊夢と魔理沙より目に見えて肌が湿っていた。風鈴の代わりに聞こえる蝉の喧騒が余計に汗を呼んで、ハンケチはすぐにぐしょぐしょになってしまう。パチュリーは使い物にならなくなった布を卓に広げ対角をきちんと合わせながら畳んでいく。そして畳んだハンケチを重そうにポケットに戻した。

「フランは495年間、ずっと独りで紅魔館の地下にいたらしいわ」

 パチュリーは湯呑を取り茶を飲んだ。

「フランは今も1人で籠りがちで、会話する機会は滅多にないわ。会話できても本人は495年間の生活を話したがらなかった。フランの生活の痕跡は地下にしか残されてなかったわ。私は彼女の留守中に地下を調べることにしたの。いろいろ調べてみて分かったのは、フランは読書が好きなことと魔法研究をし続けていたこと。それと、フランが定期的に地上の様子を窺っていたこと」

 湯呑を置く。小振りになった氷が擦れ、水面の下で音を立てる。

「ここからは私の推測だけど、フランが地上、現実とつながっていた唯一の糸は、レミィだったんだと思う。地下に籠って俗世と隔絶されたフランは、レミィを拠り所に現実が本だけのものでないと実感できた。レミィを媒介に自身の実存を信じることができたんじゃないかしら。つまりフランは、レミィがいないと現実を生きられなかったのよ」

 パチュリーは少しの間、口を噤んだ。またパチュリーの肌に汗が浮く。それが拭われることは終ぞなかった。

「レミィは死んだ。フランと心を通じさせられないままあなたに殺された。それがあの子にとってどんな意味を持ったのか、私には分からない。でも少なくとも、あなたはあの子から小さくはないものを奪ったのよ」

「分かってる」

「分かっていない」

 槍のように言葉が突き刺さる。

「あの子の気持ちはあの子にしか分からない。いや、ひょっとしたらあの子自身にも分かっていないのかもしれない。軽々しく理解したなんて言えないわ」

「……そうね」

 パチュリーは湯呑を両手で包む。再び茶を飲んで静かに置く。

「あの子は孤独よ。これから一生、心に満たされないものを抱え続けるの。だから私は、あの子に寄り添ってあげたい。できるかどうか分からないけど、少しでも満たされないものを満たしてあげたいと思う」

 一瞬、頬が引き攣る。

「あの子からも私たちからも、レミィたちを殺された記憶も気持ちも消えるわけじゃない。でも今のあの子はレミィから離れるべきだと思う」

「どういうことだ?」 と魔理沙。

「私の望みは、放っておいてほしい、それだけ。あなたたちにはフランがレミィのことを思い起こさないよう、私たちに関わらないでほしい」

「分かったわ」 と霊夢。 「あんたたちには介入しない。約束する」

「私も約束する」 魔理沙も口を開く。 「霊夢が約束を破らないように、そして私も約束を破らないように、お互いを見続けるよ」

「あなたは巫女の何なの?」

「霊夢の友達だ」

「……友達ね」

 そよ風が吹き障子を静かに揺らした。だが風に揺らされるはずの風鈴は、いつの間にか短冊に穴が開いていたのか、それとも紐が切れたのか、鳴らなかった。パチュリーは障子越しに揺れる木の影を眺める。

「……レミィは死に際にね、私たちに死なないでって言ったの。だから私は生きてみたい。メイドとフランと一緒に生きたい。肉体的な生だけじゃない。フランの心が死なないよう寄り添うし、みんなの心が死なないよう、いつかは必ずレミィたちの復讐も果たす」

 パチュリーの、深い青に赤みの混ざる瞳が、霊夢と魔理沙を見向く。

「また会いに来るわ。霧雨魔理沙。博麗の巫女」

「また話し合いましょう」

 霊夢の言葉に、パチュリーは何も返さなかった。

 

 パチュリーは待機していた妖精メイドに空飛ぶ馬車を駆らせ、青空の中を帰っていった。

 魔理沙は点になった馬車から目を離し霊夢に向く。

「これからだな、霊夢」

「ええ」

「いやー霊夢さん! お疲れ様でした!」

 頭上から鴉の羽根が仰々しく降り注いだ。社務所の屋根で待機していた射命丸文が背部の翼をはためかせながら境内に着地する。

「まさかまさか幻想郷壊滅を企てた吸血鬼と和解してしまうとは。流石博麗の巫女の度量ですよ! その慈愛は地獄の底よりも深く、極楽浄土のように薄っぺらく広がっていて――」

「感謝はしてるぜ」 魔理沙は話を遮る。 「あんたがパチュリーとの仲介役を買って出てくれたんだからな。約束通り好きに記事にしていいから、もういいだろ」

「悪いようには書きませんよ。なんせ博麗の巫女は子供たちのヒーローなんですからね!」

 文はどこから取り出したのか、お菓子の箱を魔理沙に手渡した。

「ほんのお気持ちです。どうぞ霊夢さんとお楽しみくださいませ。ではではこれにて失礼いたします。どうぞ今後とも御贔屓に~」

 文は翼を忙しなく羽ばたかせ、足早に飛び去った。

「気持ちだってよ」 魔理沙はそれなりの重さの菓子箱をひらひらと振る。 「小判でも入ってるかな」

「興味ないわ。魔理沙にあげる」

「いいのか? じゃあもらっちゃうか」

 ふと物干し竿が目に入る。鼠色の寝巻と相変わらずの巫女服が風に靡いている。

「そういえば服ってあれしか持ってないのか?」

「もう何着か箪笥に入ってるわよ。まあ同じ服と儀式用の装いしかないけど。どうして?」

「いや、霊夢があれ以外の服装してるの見かけたことないなと。もっとお洒落しないのか?」

「あー、面倒くさいのよ。別の服着るの」

「人目を気にしてるってこと?」

「今に満足してるというか、必要性を感じないというか」

「そういう感じなのか。ふーん」

 魔理沙は霊夢から身体を背ける。そしてくっと脚を伸ばすのと同時に、正座で皺のついたスカートを霊夢からは見えないよう直した。

「ねえ魔理沙」

「何だ?」

 魔理沙は振り返る。

 霊夢は少し真面目な顔つきをして、躊躇いがちに身体を斜めに向けている。

「これから私たちはフランと付き合っていかなきゃいけない。いつかフランに襲われるかもしれないし、私が約束を破ってしまうかもしれない。そのたびに魔理沙に頼ることになるわ」

「何だよらしくないな。謝りたいのか?」

「いいえ」

 靴の先が魔理沙を向く。そして身体を正面に、魔理沙と向かい合った。

 風が吹いていた。木の葉たちが風に舞って、緑色から金色へ、金色から緑色へ、森は一瞬ごとに異なる色彩を見せる。青空に浮かぶ雲も、上空の強い風に飛ばされて刻々と様相を変えた。

 移ろう景色の中で霊夢は立っていた。髪とスカートを靡かせながら、糸のように目を細め、柔らかく口元を緩めた。そして、彼女は言った。

「ありがとうって、言いたいの」

 その笑みは日の光をたっぷり受けて、雲のような眩しさと柔らかさに満ちていた。

 あまりに屈託のない笑みだったので、魔理沙もつられて口元を綻ばせてしまった。照れ隠しに頬を掻く。

「謝られないのも何か癪だな。今度ご飯でも奢れよ」

「ええそうね。そういえば最近宴会がないわね。久し振りにやらない?」

「おーいいね。里の連中も呼ぶか?」

 宴会なんていつぶりだろうか。そんなことを魔理沙は考えながら、暑苦しい青空の下、霊夢と横に並び社務所へ歩いていった。




完結です。長い間読んでくださり本当にありがとうございました。
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