亡き王女の為の讃美歌   作:ヨマオ

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第3話 反則吸血鬼ごっこ

 霊夢は勢いよく足を踏み出し、レミリアは翼を羽ばたかせ、両者はほぼ同時に動き出した。

 拳を打ち込まんと腕を引く霊夢。紅い爪を突き立てんと振り被るレミリア。数瞬速かったのは霊夢だった。拳はレミリアの頬を捉え、大きくよろけさせる。

 レミリアは足を踏ん張りナイフのような爪を振るうが、腕で受けられる。すかさずレミリアの両頬は殴打され、芝生に血が飛び散った。レミリアは尚も攻撃を加えようとするが腹部に蹴りを入れられ宙に飛ばされた。

 レミリアは即座に翼を動かして旋回し霊夢に襲い掛かる。レミリアの首に打ち込まれる手刀。霊夢は手を振り抜き、レミリアは噴水に激突した。噴水の縁に沿ってレミリアの背は「く」の字にひしゃげ、口からだらっと血が流れる。

「やっぱり水が流れてない方が良いわね」

 レミリアは噴水をちらりと見やり、平然と立ち上がる。容体を確認するように体を左右に振り、おもむろに腕を前に伸ばす。掌が紅く光り始める。

「ばーん」

 レミリアの掌から、隊列を組む大きな弾と、その隙間を埋めるような細かい弾が無数に放たれた。瞬く間に弾幕が宙を紅く埋め尽くす。霊夢は瞳孔を2、3度大きく動かすと、弾幕のわずかな隙間に糸を通すように入り込んだ。躱した先でも次の弾が迫るが、肌を掠めるように躱す。何度も何度も躱し着実にレミリアに接近していた。

「安直ね」

 レミリアは指鉄砲を作る。指先が瞬いたかと思えば、石のオブジェと共に、霊夢は光線に搔き消された。

 光線の中を突き進む影があった。霊夢の正面には、文様が刻まれた半透明の面が展開されていた。徳の高そうな面にはかすり傷、埃ひとつ付いていない。霊夢を完璧に防御している。それを理解する前にレミリアの腕は地に踏み抜かれた。腕と一緒にレミリアは体勢を崩し、膝をつく。

「なんじゃそりゃ。結界か? 何百年物だよそれ」

「頑丈な奴ね」

 レミリアの腕はぼろ雑巾のように潰れ血が散乱している。レミリアは笑い、霊夢を見上げる。

「屈辱だよこれは。私の腕をぐしゃぐしゃにした挙句土までつけさせるとは。私を見下ろすなんて許されると思ってるの?」

「これで分かったでしょ? あんたは私に勝てないって」

「あんたこそ何も分かっていないね」

 レミリアは一気に立ち上がって足を振り払う。よろける霊夢の腹に、レミリアはすかさず拳を打ち込んだ。霊夢は呻り声をあげ若干後退りする。しかしすぐ気を取り戻し、レミリアの顎を蹴り飛ばした。レミリアはごろごろと芝生を転がる。

「それで? いつまで手加減するつもり?」

レミリアはゆらりと立ち上がる。

「あんたの攻撃1度だって痛いと感じなかったわ。美鈴をKOした攻撃をしていないな? 美鈴に本気出して私に手加減するって意味不明ね。まさかあの美鈴が嘘上手だって?」

「ああそうね手加減しているわ」

 霊夢からあっさりした返事が返ってくる。レミリアは両腕を上げ、ぶらぶらと振って見せる。潰れた腕は何事もなかったかのように治っていた。

「まあどうでもいいけどね。殺しやすくて助かるよ」

「もっと分かりやすく言わなきゃ駄目?」

 霊夢は面倒臭そうに吐き捨てた。レミリアは笑みを浮かべ続ける。

 

 紅く照らされる空に2つの影がひしめき合っている。それらの影は時に離れ、時に近付き鮮血が舞う。一方の攻撃はほとんどいなされ、一方の攻撃はほとんどクリーンヒットしていた。

 レミリアは霊夢の腕を掴む。力を入れて握り潰そうとするがびくともしない。腕の間にごく薄い結界が張られていた。レミリアに打ち込まれる連続ボディブロー。霊夢はレミリアの脚を掴み思い切り投げ飛ばした。飛ばされた先で門の先が胸を貫通する。

 霊夢は門の前に降り立った。レミリアは脱力して空を見上げている。空には紅い月が煌々と照っている。まるで戦いの行末を見つめているように。

「今日の月は本当に綺麗ね」

「気味が悪い月よ」

 翼を羽ばたかせ霊夢の正面に着地する。胸の穴は服と共に塞がっていく。

「うーん、身体がすーすーする」

「全く羨ましい身体よね。あんたらになろうとは思わないけど」

「そういえばさ、何で人間なんか守ろうとしているの?」

「あー?」

 霊夢はさも煩わしそうに声を発す。レミリアは気にも留めず話し続ける。

「いやさあ、あんたは日夜人間を守るために汗水垂らして戦っているんだろう? 何がそんなに原動力になるのかなーって」

「何でそんなこと聞くのよ」

「特に意味はないわ」

「あっそう。私急いでるから」

 霊夢の横に数枚のお札が浮遊している。お札は包まって針に変貌し、何本も何本も打ち出された。レミリアは翼を広げ空中で避け始める。

「人間ってさぁ、前も話したけど理解しがたいものよね。霊夢もそう思わない? びくびく膝抱えて生きていたかと思えば、勢いづいてすぐにつけあがる。自分の身分も忘れてさ、一貫性もなくてよく分からないわよね?」

「あんたも身分を弁えたら?」

「私は弁えているよ? まさか私の力を知らないなんて言うの?」

「本当に力量の見極めが苦手なようね」

「そんなもの不要だからね。私が言いたいのは人間なんか守る意義があるのかっていうこと。そりゃ幻想郷の維持に人間は不可欠だけどさ、たまには一斉クリーニングがあってもいいじゃない」

「あんたはそういうの分かる奴だと思ってたんだけど」

「というと?」

「あんたは仲間の仇討の為に異変を起こしたでしょ? その仲間を慮る気持ちで視点を変えればいいのよ」

 レミリアは嘲笑する。

「無駄な問答だねぇ霊夢」

「どうかしら」

 霊夢は拳を握る。するとまばらに打たれていた針が一斉に発射された。レミリアは避け切れず何本も胴体を穿たれ、回転しながら落下した。地に落ち穴から大量の血が広がっていく。顔を上げると霊夢が佇んでいる。

「まだ勝てると思ってる?」 と霊夢。

 レミリアは飛び退き無数の光線を放つ。しかし全て結界に弾かれ霊夢に関節を極められた。霊夢が口を開く。

「私は幻想郷が好きなの。そして人間も好き。私の役目はそれを守ること。だから妥協するわけにはいかないの。このまま戦って負けるか、今手を引いて負けるか、選んでくれる」

「お前他人殺したことないだろ?」

「あー?」

 骨を折る音。突然、レミリアは骨折しながら身体を捩じって霊夢の顔を鷲掴みにした。霊夢は反応する間もなく石畳の地面に叩き付けられる。レミリアはそのまま紅魔館の方に投げ付け、霊夢は窓を割って転がり込んだ。

「あーこれは咲夜に怒られるな」

 レミリアは針を抜きながら紅魔館に近付く。

「ねー霊夢。私ね、あんたが手加減する理由考えてみたのよ。私を殺したくないから手加減してるんだよね? 美鈴に加減しなかったのはびっくりして咄嗟に出ちゃった感じかな。つまらない結論ね」

 窓枠を乗り越えレミリアは館に入る。霊夢は覚束ない足で立ち上がる。館内は淡く蝋燭が照らしているのみで薄暗い。

「能天気よねぇ」 とレミリア。 「何せ直前までごっこ遊びをすると思ってたんだから」

「まだやる気なの?」

「当然」

 霊夢は飛び上がりレミリアの顔を蹴り抜く。しかし向き直った顔は血を流しつつも見下すような笑みをたたえていた。

「幻想郷が好き? 人間が好きだって? 笑わせるなよ。こんな手緩い蹴りで一体何を守るっていうんだ? 甘ったるい理想論でどう生きるっていうんだ?」

「誰にも死んで欲しくないってだけよ。それの何が悪いの?」

「失うものが増えていくって話だよ」

 レミリアは燭台の蝋燭をもぎ取り妖力を込める。蝋燭を振ると淡い炎は業火と化し、霊夢に襲い掛かった。

 霊夢は結界を展開し業火を防ぐ。しかし完全に防ぐことはできず炎の端が霊夢を焼いた。

「1つ良いことを教えてあげるよ霊夢。今のペースで私を殴り続けていたら、そうさね、死ねるのは数日先になるわ。さあ先に灰になるのはどっちかしら?」

「あぁ分かったわよ」

 霊夢が消えた。速すぎて目で追えなかったというわけではない。文字通りその場から消失した。

 レミリアの後頭部に痛みが走る。頭骨が沈みゆく感覚。それだけでなく身体の内側を直接殴られたような鈍い痛みを感じた。レミリアは吹っ飛び飾られていた花瓶を粉々にした。レミリアが立っていた場所に霊夢が呼吸を荒げて拳を突き出している。

「お望み通り加減をやめてやったわよ」

「私ってお節介よね」

 レミリアは頭を擦りながら平然と立ち上がった。服に燃え移った火を払う。

「確かに痛いわ。妙な魔力を込めているな? こりゃ美鈴も泡吹いて倒れるわけだ」

 霊夢は追撃に動けなかった。脂汗が頬を流れる。

 レミリアは足を引き、背を低く屈める。鋭く広げた翼は撃鉄を髣髴とさせる。翼が振り下ろされたかと思うと、凄まじい風が巻き起こり窓ガラスが砕け散った。霊夢は正面に結界を張る。結界には凄まじい速度でレミリアが激突し、霊夢と共に吹っ飛んで壁にぶつかった。

 勢いをなくしてレミリアが立ち上がったところに、霊夢の蹴りが何発もレミリアの腹を打った。

 レミリアは血を吐きながら後退りする。そして血の滲む歯を露わに笑う。霊夢は乱暴に汗を拭う。

 

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