数珠丸提督、神戸鎮守府に着任す   作:神谷京介

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6.数珠丸参戦

『ククククク。 たった一人でよく頑張ったと言っておこうか。 だが、どうやらここまでのようだな。』

 

「くっ。」

 

 そこは前線。 深紅の戦艦棲姫のいる場所は、当初伊勢と日向が会敵した位置より呉鎮守府後に近づいている。 そしてその場所にはすでに日向はいない。 

 

 そのことに気づいた伊勢は激高し、果敢に戦艦棲姫に挑んだが、圧倒的な力の差を見せつけられて今に至る。

 

『あと一人戦艦がいたようだが、増援を呼ぶために引き上げながら一人で戻ってくるとは、どうやら最後の一人は逃げてしまったようだな。』

 

「ふん。 残念だがあいつはもうだめだ。 戦いを恐れて基地の片隅で震えているよ。 艦娘としてはもう壊れてしまって放置しても何の役にも立たない。」

 

『だから見逃せと? 駄目だね。 今役立たずだとしても艦娘は何かのきっかけで化ける可能性がある。

 だから君を沈めた後で、ゆっくりとどめを刺しに行ってあげよう。』

 

「チッ。」

 

 伊勢の口から小さな舌打ちの音が漏れる。 せめて榛名だけでも助けようと思ったが、どうやら無理のようだ。

 

 せめて基地に残った新しい提督が榛名を連れ出してくれればいいのだが、伊勢にはなぜか確信がある。 榛名は提督に従わず、呉鎮守府と最期を共にするだろうと。

 

「だったら、せめて私のみを犠牲にしてでもあんたをここで止めないとね。」

 

『理解できないな。 なぜそこまでして榛名とやらを庇おうとするのかね。

 そのような臆病者など放置して一人だけ逃げて行ってもいいのではないかね。』

 

「そうかもね。 でも榛名は同じ町、同じ工場で建造された姉さんだからね。 見捨てては行けない。

 それに、まだ妹の日向の仇をとってはいないからね。」

 

『そうかい。 だがその程度の力で私を止められるかな?』

 

 そういうと深紅の戦艦棲姫・カストルは主砲の照準を伊勢に合わせる。

 

「くっ。」

 

 伊勢は咄嗟に回避しようとするが、元から低速艦だったうえ、今までに受けたダメージが多過ぎて満足に回避行動がとれない。

 

『残念だが…、サヨナラだ。』

 

 戦艦棲姫の主砲が発射される瞬間、一発の徹甲弾が飛来して戦艦棲姫に着弾した。

 

 ドグァァァァァン。

 

『グワァァァァァ。』

 

「なっ。」

 

 伊勢は予想外の援護に驚き、背後を振り向くと、そこに立っていたのは榛名だった。

 

「嘘、なんでアンタがここに。 さっき鎮守府で見た時にはとても戦える状態じゃなかったはず。」

 

「ごめんなさい、伊勢さん。 提督が私に勇気を与えてくれました。 榛名はもう大丈夫です。」

 

「ははっ、そっかぁ、あの提督が。 だったらあの提督を守るためにもここは引けないね。」

 

「はい。 二人で頑張りましょう。」

 

 そう言うと、二人は深紅の深海棲艦に向き直る。

 

『くっ、おのれ。 小賢しいことを。』

 

 不意打ちをくらった戦艦棲姫は小さく無いダメージを受け、二人に向き直る。

 こうして伊勢・榛名の二人と深紅の戦艦兵器・カストルとの戦いは、第二ラウンドを迎えるのであった。

 

 

 

 一方、榛名を送り出した数珠丸恒次は、呉鎮守府にまだ残っていた。

 残って何かできることがあるわけではないが、伊勢・榛名を放置して一人で帰る気持ちにはなれなかったのだ。

 

「もどかしいな。 我々刀剣男子の力では海上の戦いに加勢することもできない。」

 

 そういいながら彼女たちの安否を気遣って悶々としていると、近くで誰かがすすり泣いている声が聞こえてきた。

 

 声が聞こえた方に行ってみると、泣いていたのは緑色の戦闘機の側にいるピンク色の髪の妖精だった。

 

 どういうことなのか理由を聞いてみると、自分は日向と一緒にいた瑞雲の妖精であること、日向の仇をとるために伊勢に加勢しようと基地に帰投してみたものの弾薬が残っておらず、何もできないことを嘆いているとのことだった。

 

「そうか・・・。」

 

 そう、このような小さき者までが艦娘たちに加勢しようというのだ。

 それに引き換え、海の上を行けないことが原因で加勢することもできない私。

 

 落ち込みそうになるが、その時一つのアイデアがひらめいた。

 早速妖精に尋ねてみる。

 

「其方、弾薬を運べるということだが、他の物を運ぶことはできるのか?」」

 

 妖精に尋ねてみたところ、機体のサイズ的に人のような大きなものは運ぶことはできないが、2~3KG.程度の物なら運ぶことができるとのことだった。

 

「そうか。 ならば、これを現地に運んで行ってはくれまいか?」

 

 そう言うと、数珠丸恒次は右手に持っているものを妖精に見せたのだった。

 

 

 

 一方、前線では二対一の戦いが続いていた。

 

 深紅の深海棲艦カストルの火の出るような攻撃は、並み居る戦艦でさえも容易に打ち砕くほどの激しいものだった。

 しかし、榛名と伊勢は絶妙のコンビネーションでその攻撃をしのぎ、辛うじて戦線を維持していた。

 

『おのれ、沈みかけの状態で良くもここまで耐えられるものだ。 だが、お前たちの力では私を沈めることはできないだろう。

 みっともなく粘ってないでさっさと諦めた方が良いのではないか?』

 

 戦線こそは維持しているものの、決め手を持てない榛名達に深紅の戦艦棲姫は呼び掛ける。

 

「くっそ。 二人で一点に同時攻撃駅ればなんとかなるかもしれないけど、あいつはそんな隙など作ってくれない。

 正直このままではジリ貧だ。 どうする、榛名。」

 

「このままでいいのです。 伊勢さん。」

 

「え?」

 

「このまま粘れば粘るほど、提督が無事に神戸に戻れる確率が上がります。

 神戸には私たちの次の体も存在します。

 私たちがここで沈んだとしても、私たちの思いを明日につなげることはできるのです。

 だから今は、できる限りの力を使って、精いっぱい頑張りましょう。」

 

「そうか・・・。 そうだね。」

 

『ええい.。 早く沈まないか、うっとうしい。』

 

 こうして激しい砲撃戦を展開している三人は、上空から接近している一機の爆撃機に誰も気づかなかったのである。

 

 

 

『むっ。』

 

「えっ。」

 

「あれは・・・、日向が搭載していた瑞雲。」

 

 上空から聞こえるエンジン音に三人が同時に気づく。 その時には瑞雲は深紅の戦艦棲姫の上空に到達していた。

 

 瑞雲は深紅の戦艦棲姫の真上に到達すると、深紅の戦艦棲姫に向けて何かを投擲した。

 

『くっ、爆撃か?』

 

 咄嗟に身構える戦艦棲姫だったが、投擲されたものは爆弾ではなく、一本の刀であった。

 

『ハーッハッハッハー。 なんだ。 何かと思えばただの棒切れではないか。 そんなもので戦況が変わるとでも思っているのか。』

 

 戦艦棲姫は小ばかにするが、そこに落ちてきた刀はただの刀ではなかった。

 

 刀の中から白い靄が生まれ、それが人の形になると、数珠丸恒次がそこにいた。

 

『なっ。』

 

「うそっ。」

 

「提督。」

 

 不意を突かれた深紅の戦艦棲姫は反応できない。

 

「よくやったぞ、瑞雲。 さあ、これでこの戦いも終わりだ。 成敗!」

 

 そう言うと、数珠丸恒次は深紅の深海棲艦に強烈な斬撃を叩き込むのであった。

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