数珠丸提督、神戸鎮守府に着任す   作:神谷京介

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第二章 熊野 放浪の果てに
1.覚醒、深海熊棲姫


ルソン島西岸サンタクルーズの海底に、一つの影があった。

 

茶色の長髪を後ろに束ね、茶色を基調としたボロボロのセーラー服に身を包んだ姿。 まるで眠っている女子高生のように見えるその姿は、かつて艦娘「熊野」と呼ばれていた存在であった。

 

深海棲艦との決戦で生き延びるものの重度の障害を負い、必死の思いで日本に帰還しようと試みたのだが、たび重なる追撃にさらされて帰還かなわずに撃沈されてしまったのである。 まるでかつての戦いを再現したかのように。

 

かつての戦い、それは死闘の連続であった。

 

レイテ湾での戦いで艦首を切断され、速力12ノットに低下した。 何とか退避しようとするも、艦首がなくなったことで敵艦と間違えられて味方機からも攻撃されてしまう。

 

さらに敵機から繰り出される再三の空襲に晒され、満身創痍になりながらもマニラに到着する。

 

マニラで応急修理されて速力15ノットまで回復し、同じくマニラに停泊していた青葉達とともに帰国の途に就く。

 

しかし、いくらも進まないうちに潜水艦の襲撃を受け、航行不能に。 青葉達と別れてサンタクルーズ港に戻ることになる。

 

しかし、サンタクルーズ港での修理もままならない状態で台風に遭遇。

 

何とか台風を乗り切り、応急修理して出発の準備をしようとするが時すでに遅く、米エセックス級航空母艦・タイコンデロガがサンタクルーズ港に侵攻。

 

幾度もの空襲にさらされ、結局そこが熊野の終焉の地になったのである。

 

 

 

 

 

サンタクルーズの深海で蹲る熊野。 そこに何処からかは判らないが、熊野に問いかける声があった。

 

『力が欲しいか』

 

反応しない熊野。 しかし、続けて声がかけられる。

 

『力が欲しいか。 どんな敵にも抗える力が。 どんな困難にも立ち向かえる力が。

 

 どのような抵抗があろうとも、それに打ち勝ち、故郷に帰ることのできる力が。』

 

それは、失意と絶望に打ちのめされた熊野にはとても魅力的な問いかけであった。

 

 

 

 

 

その日の夜遅く、ルソン島西岸サンタクルーズの海上に一体の深海棲艦が姿を現した。

 

新たな深海棲艦。 その名は深海熊棲姫。

 

彼女は大音声で咆哮すると、北北東に向かって進み始める。 進路は日本、初めて生を受けた地、神戸へ。

 

彼女が立ち去ったあと、熊野が聞いた声と同じ声が響き渡る。

 

『そうだ。 そのまま己が心のまま進むがよい。 行く手を阻む全ての敵を排除してな。

 

 そしてその目的を達成し、気を緩めたその瞬間に・・・、 フフッ、ハハハッ、フハハハハハハハ。』

 

 

 

 

 

「提督。 佐世保鎮守府から連絡が入ってるぜ。」

 

 知らせに来てくれたのは、本日秘書官になっている摩耶だ。

 

 現在当鎮守府の秘書官は持ち回り制になっている。

 戦闘可能な艦娘が七人しかなく、かつ全員建造されたばかりで練度が低いため、秘書官を固定にしてしまうとその艦娘だけ成長が遅れてしまうためだ。

 

 だったら秘書官など付けなければ良いのではないかとは思うが、提督についているのが素人同然の私である。

 ある程度実務に長けた存在がいないと業務が回らなくなってしまうのだ。

 

 私自身早く仕事に慣れようと頑張っているが、刀剣男子の本来の仕事とは作業内容が全然違うため、慣れぬ作業に悪戦苦闘している毎日である。

 

 そして今日、神戸鎮守府で建造された7人の艦娘が演習にてある程度練度が上がってきたことを確認しているときに、佐世保鎮守府から一つの知らせが飛び込んできた。

 

 

 

 摩耶に促される通り通信機に向き直る。 

 

 通信の相手は、現在佐世保鎮守府を仕切っている長門であった。

 

「初めてお目にかかる。 貴方が噂の刀剣男子にして神戸鎮守府の提督を務めている数珠丸殿か。」

 

 問いかけてくる長門に、私は素直に答える。

 

「ああ、紆余曲折会って、現在この鎮守府の提督を務めさせてもらっている。

 それで、こちらに何か要件が?」

 

「まず最初に礼だけ言っておこう。

 大本営壊滅後の深海棲艦の上陸を阻止してくれてありがとう。」

 

「深海棲艦の上陸阻止を実施したのは関東圏に集まっていた刀剣男子たちだ。

 私はずっと関西圏にいたので直接かかわってはいないが、彼らに出会うことがあれば伝えておこう。」

 

「よろしく頼む。

 それで連絡の内容だが、実は宮古島の東200キロの海上に一隻の深海棲艦がいるのだ。」

 

「深海棲艦?」

 

「ああ。 外見は重巡型だが今まで見たことのないタイプだ。

 それが他の深海棲艦と連携をとるでもなく、何らかの軍事行動をとっている様子もなく、ただ日本に近づいているのだ。」

 

「面妖な。」

 

「そして進行方向を精査した結果、奴はまっすぐ紀伊水道を目指している。 恐らく目的地は貴方達の拠点、神戸鎮守府だ。」

 

「!」

 

「それで、申し訳ないがその深海棲艦への対応は神戸鎮守府で行ってほしい。

 大本営壊滅以降、佐世保鎮守府に対しての深海棲艦の攻撃が本格化しており、我々はその対応に追われて出撃できない状況なのだ。」

 

「了解した。 神戸鎮守府の艦娘たちの実戦経験を上げるためにも、その件は我々で対処しよう。」

 

「よろしく頼む。」

 

 

 

 通信を終了して摩耶を見ると、キラキラした笑顔で自分を指さしている。

 何が言いたいのかは言われなくても判る。 自分を出撃メンバーに入れろということだろう。 わかりやすい奴だ。

 

 だが相手の深海棲艦がどのようなものなのかが判らなければ対策の立てようがない。

 一回の出撃で倒せれば問題ないが、そうでない場合、最初の一回目の出撃でできる限りの情報を集め、彼女らの帰投後に対策を練らねばならない。

 そのためには最初の一当り目は高速艦で、尚且つ大破しにくい編成で出撃した方がよいだろう。

 

「仕方ない。 摩耶。 榛名、瑞鶴と艦隊を組んで敵深海棲艦に向かえ。

 最初の会敵で撃破が難しい場合、可能な限り情報を集めて帰投せよ。」

 

 

 こうして、神戸鎮守府としての最初の戦いが幕を開けたのだった。

 

 

 

「それで、何で私たち三人だけなのよ。 安全に勝つことを考えるなら六隻で行動した方が良いのに。」

 

 敵深海棲艦に向かう途上、瑞鶴が摩耶に尋ねる。

 

「よく判らねぇけどよ、敵の情報収集が第一の目的なんじゃないか? 佐世保鎮守府からの連絡では今までに見たことのないタイプだったらしいし。」

 

「だからこの編成ということですか。 

 索敵能力が高く情報収集が得意な瑞鶴、防御力が高く交戦状態になったときに最も大破しにくい私、撤退時に艦載機で追撃を仕掛けられた場合に対応できる摩耶、確かに少数精鋭で情報集めをしようとするのなら私たち三人ですね。」

 

 摩耶の返答に続いて榛名の解説が入る。 

 

「なるほどねぇ。 確かに情報のない相手にいきなり六人編成で挑んで万一負けでもしたらもう後がないし、迎撃を目的とするならもっと鎮守府に引き付けてからの方がやりやすい。

 つまり、私たちの目的は敵の情報収集をした後、最小限のダメージで帰投。 対策後に全力で迎撃するってことね。」

 

「そうそう。 俺もそれが言いたかったんだよ。」

 

 摩耶の回答に対して瑞鶴がジト目で答える。

 

「摩耶。 あんた提督の作戦を全然わかってなかったでしょ。」

 

 

 こうして三人は敵深海棲艦のもとに向かう。

 この時点で彼女たちはまだ気づいていなかった。 この先に待ち受ける戦いがどれほど厳しいものになるかを。

 

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