神戸鎮守府に帰還する途上、摩耶は榛名に話しかけた。
「なあ、榛名。 ちょっと気になったんだけど深海熊野の奴、何か変なものを背負ってなかったか?」
「変なものですか? 確かに背中の方に、何か爆弾のようなものが刺さっていましたね。」
「ああ。 あの爆弾のようなものだけど何なんだろうな、俺はあんなもの見たことが無いんだけどな。
今までの深海棲艦との戦いのときにも、かつての戦争のときも。」
「うーん。 私は以前に似たようなものを一度見たような記憶があると思うんですが、全然思い出せないんです。」
「まじか?
それにあれは何か変なんだよな。 ミサイルみたいに敵に飛ばすのなら信管らしいところは外に向いてるんだけど、あれはどう見ても深海熊野の本体に刺さっているというか、深海熊野の体内に信管がある様に見えるんだけど。」
「そうですね。 私たち艦娘にミサイルを飛ばす艤装は見たことはありませんが、それを踏まえてもあの刺さり方は不自然でした。
あれはミサイル発射装置というよりも、私には自爆装置のように見えました。」
「うへぇ。 自爆装置ってか。 何か起爆するようなトリガーがあって、条件を満たせばドカンってか。
そいつは勘弁願いてぇな。」
摩耶は大げさにポーズをとると、直ぐに榛名に帰還を進める。
「とにかく早く鎮守府に帰ろうぜ。 ひょっとすると回復以外にも対策をとる必要があるかもしれねぇし。」
「ええ。 急ぎましょう」
そうして二人は黙々と帰途を急ぐが、事態が急変する。
榛名が突然足を止めたのだ。
「何だ、どうしたんだ榛名。」
摩耶は榛名が突然足を止めたことに驚き、振り返る。
見ると、榛名は驚愕の表情を浮かべ、顔色が土気色になっている。
「お、おい。 どうしたんだ? 榛名。」
「思い出しました。 あの爆弾の正体を。」
「マジか。 あれは何なんだ?」
摩耶の質問に対し、榛名は驚くべき内容を伝える。
「あの爆弾は、リトルボーイ。 かつての戦争の末期に使用され、広島の街を壊滅させた原子爆弾です。」
「つまり、その深海棲艦は都市一つを破壊するだけの自爆装置を搭載しているということか。」
榛名、摩耶から報告を受け、深刻そうな口調で数珠丸恒次が訪ねる。
「はい。 恐らく神戸の海上に到達したときに何らかの条件が働いて起爆するものと思われます。」
「畜生。 誰の仕業か判らねぇが、熊野を深海棲艦にしたうえ余計な仕掛けをしやがって。 絶対に許せねぇぜ。」
榛名と摩耶が沈痛な表情で答える。 本来ならこの時点でとても重苦しい雰囲気になっているはずだ。
が・・・。
「で、何で三人とも背中を向けあって明後日の方向を見て話してるのかしら。」
三人の会話を聞きながら、ジト目で突っ込む足柄。
「し、仕方ないだろう。 時間短縮のためとはいえ、あられもない姿で治療中の婦女子に目を向けるわけにはいかないだろう。」
「さ、さすがにこんな格好で提督の前に出るのはちょ、ちょっと。」
「お、俺は別に問題ないんだぜ。 別に体の方は風呂の中に入ったままで提督から見えるのは首から上だけだしな。」
強がっている摩耶に対して衣笠から突っ込みが入る。
「だったら摩耶だけでも提督の方を向いたらいいんじゃないかな。 なんかそっぽ向いている顔が異様に赤く見えるんだけど。」
「う、うるせー。」
一連の言い合いから始まった脱線にため息をつきながら、伊勢が意見を言う、
「兎に角、早いとこ方針を決めた方が良いよ。
そもそも六人揃わないと迎撃できないから榛名達の修理を急いでるんだし、かといって回復が終わるまで待っていられないってことで、工廠に全員集まって緊急会議を開いているんだからさ。」
次いで初風が状況を報告する。
「私も恥ずかしがるよりも会議を進めた方が良いと思うわよ。
さっき瑞鶴さんから報告があったけど、泣きが入っていたわよ。
『機銃の迎撃が正確すぎて艦載機がボコボコ落とされる。』とか『そのせいで攻撃も足止めもままならない。 早く増援を送ってくれ。』とか。」
それを聞いて足柄が顔をしかめる。
「うわー。 かつての戦いで熊野が日本に帰ろうとするエピソードにもそういうのあったわね。
何でも旅の終盤近くでは弾幕を張れなくなるほど機銃の弾が無くなって、ただの機銃でゴルゴ13みたいに狙い撃ちやってたとか、
その迎撃が正確すぎて敵がしっぽ巻いて逃げてったとかね。
まあ、それでも最後は迎撃する弾もなくなってボコボコにされるんだけどね。
でも弾薬が豊富にある状態でそれをやられたら、相手の空母からしたら泣くに泣けない状態よね。」
衣笠も顔をしかめながら続ける。
「それって瑞鶴から見たら七面鳥の再来よね。 トラウマになってなければいいけど。」
「それでも瑞鶴さんには感謝しかありません。
そもそも熊野さんは高速艦。 瑞鶴さんが足止めしなければ、中破している私や摩耶さんよりも先に神戸に着いていた可能性すらあります。
それがこうして回復させてもらって、対策会議をする余裕までできているんですから。」
瑞鶴に感謝する榛名に向かって伊勢が質問する。
「それよりも榛名、さっき言っていた『リトルボーイ』って本当に間違いないのか?
私も呉で大破着底した時に、敵が原爆を使用した一部始終を見ていたけど、遠すぎてとても爆弾の形状なんて確認できなかったんだけど。」
「それは間違いありません。
大破着底時は私も遠すぎてはっきり確認できなかったんですが、
以前の比較的平和だった時期に休暇を取って平和資料館に行ったときに、あの爆弾の模型を間近で見たことがあります。
熊野さんに刺さっていた爆弾は間違いなくその模型と寸分違わない物でした。」
榛名の回答を聞いて足柄が考察する。
「そしてその爆弾が信管ごと深海熊野に刺さっているわけか。
外に飛ばすにしろ、外部から誘導して起爆させるにしろ、信管は外を向いている方が都合がいいわけだし、やっぱり熊野本体の何らかの変化を感知して爆発するか、あるいは時限式かって考えた方がよさそうね。」
足柄の考察に衣笠が補足する。
「時限式の線はないと思うわ。
時限式なら瑞鶴の足止めによる遅延もあるから、もう爆発していてもおかしくない。
私は熊野自身の心境の変化を感知して爆発するものだを思うわ。」
衣笠の意見を聞いて足柄が続ける。
「やっぱりそうよね。
熊野って最後は日本に帰るために執念を燃やし、それでも帰れなくて無念のうちに沈んだ船でしょう?
そんな彼女が無事に神戸に帰ってこれたなら、精神的にものすごく安心すると思うのよね。
もし敵の仕掛けた爆弾が、その時の心境の変化を感知して爆発するように仕向けていたのだとしたら・・・。」
その足柄の意見を聞いて摩耶が激高する。
「おい、いくらなんでもそれはあんまりだろ。
実際に対峙して判ったけど、あいつは日本に帰ることしか考えていなかった。
俺たちが進路を遮るまで見向きもしなかったのに、進路を遮ったときに仕掛けてきた攻撃からは絶対に先に進むんだという物凄い執念を感じた。
熊野に爆弾を仕掛けた奴が誰だか知らねぇけど、そいつは熊野のその執念を利用したってのかよ。
思いが叶って生まれ故郷の神戸に帰って安心した瞬間が、自分と故郷の最後の瞬間になるなんてあんまりすぎるだろ。」
摩耶の怒りの叫びが周囲に響き渡ったのであった。