私の名前は「間宮」。 「艦娘」と呼ばれている者たちの一人です。
「艦娘」とは、「第二次世界大戦」で活躍した船たちの生まれ変わりだといわれています。
外見こそは普通の人間の女性の姿をしていますが、各々が「第二次世界大戦」で活躍した船と同じ名前を名乗り、海の上を移動する能力と、元になった軍艦の装備を「艤装」として呼び出す能力を持っています。
日本の伝承で言われるところの「付喪神」のような存在と思われます。
そんな私たちは、軍艦の亡霊だといわれ、現在人類に対して無差別な殺戮を繰り返す、「深海凄艦」に唯一対抗できる存在とされています。
実際、少し前までは「深海凄艦」を相手に互角に近い戦いを繰り広げていました。
しかし、ある日を境に何もかもが狂っていったのです。
その日、大本営が保管していた『魂の宝玉』が、何者かによって盗まれてしまったのです。
『魂の宝玉』。 それは「第二次世界大戦」で活躍した船たちの魂を保管する器であり、宝玉に刻まれた艦名の艦娘を作り出す設計図のような存在で、新たな艦娘をこの世に生み出すときに必ず必要になるアイテムです。
『魂の宝玉』に十分な力を持った魂が宿っている場合、それを装備させた工廠に適量の資材を送り込むことで、新たな艦娘を「建造」することができます。
『魂の宝玉』に宿っている魂に十分な力がない場合でも、より多くの資材を送り込み、魂の不足分を補うことで、新たな艦娘を生み出すことができます。 この手法は、「大型建造」と呼ばれています。
また、『魂の宝玉』に全く魂が宿っていない場合でも、まれに戦闘海域で『魂の宝玉』に対応した艦娘の魂を入手した場合、『魂の宝玉』と掛け合わせることで新たな艦娘を生み出すことができます。 私たちの間では、これを「ドロップ」と呼んでいます。
いずれにしても、新たな艦娘を生み出すには、その艦娘の『魂の宝玉』が必要になるのです。
『魂の宝玉』を失うということは、イコール新たな艦娘を生み出すことができなくなり、現在いる艦娘が轟沈してしまうと、二度と復活できないことを意味することになります。
つまり、その日を境に私たちには後がなくなってしまったのです。
意気消沈した私たちに対して圧倒的な物量で大攻勢をかける「深海凄艦」。
激しい攻撃にさらされて、私たち「艦娘」は一人、また一人と轟沈していったのでした。 まるでかつての戦争を再現するかのように・・・。
その結果、私たちは全ての海域の制海権を失い、生き残った少数の艦娘で横須賀・呉・佐世保の各鎮守府を死守することが精いっぱいの状況に追い込まれてしまったのでした。
「失礼します。」
ここは「佐世保鎮守府」。 私は今、特別な任務があるとのことで、提督室に呼び出されたのでした。
現在提督は「大本営」に召集されているため、留守を預かっている長門さんからその命令書を受け取ったのですが、そこには驚くべき内容が記載されていました。
「神戸に新たな鎮守府を建造する? どういうことですか?」
驚いた私は、命令書を手渡してきた長門さんに尋ねてみる。
驚くのも当然だ。 何しろ現在艦娘はごく少数しか生き残っておらず、残っている鎮守府を守ることすら困難な状況なのだから。
今更新しい鎮守府を建造したところで、そこに配備できる艦娘など存在しないだろう。
「うむ。 それについては私も訪ねてみたのだが、どうやら大本営は神戸に鎮守府を建造して新たに艦娘を建造する拠点にしたいようだ。」
「拠点に? まさか盗まれた宝玉が神戸で見つかったということですか?」
「いや、盗まれた宝玉は未だ行方不明のままだ。」
「それではどうして?」
新たに艦娘を建造するには『魂の宝玉』が絶対に必要だ。 しかし、『魂の宝玉』が行方不明の現在、新たな艦娘を建造するのは絶望的である。
そこまで考えたところで、私は新たな可能性に思い至ったのでした。
「まさか、まさか大本営は民間企業に保管されているマスターを使用しろと言っているのですか?」
「その通りだ。 我々のような軍出身の艦娘の場合、大本営の管理している『魂の宝玉』がそのままマスターになる。
したがって宝玉が盗まれてしまった現状では新たな艦娘を建造するのは絶望的といえるだろう。
だが、民間出身の艦娘の場合は状況が異なる。
なぜなら、大本営が管理していた『魂の宝玉』はあくまでコピーであり、艦を建造した民間企業にマスターの宝玉が存在しているのだから。」
「しかし、大本営は『魂の宝玉』が盗まれたことを隠ぺいし、ずっと軍事機密にしていました。」
「ああ。 愚かにもな。 だが、それが原因で何も知らされないまま、長崎の民間企業が深海棲艦に破壊されることとなった。」
「ええ?」
「先日行われた深海棲艦の大攻勢の折、我々佐世保鎮守府を襲った部隊のほかに別動隊が存在し、それが長崎の町に攻撃を加えたそうだ。
我々は佐世保鎮守府を襲った深海棲艦を追い払うのが精いっぱいで、長崎の攻撃を防ぐことができなかった。
我々が長崎に向かった時には、長崎の民間企業の社屋は全て破壊されつくし、保有していた『魂の宝玉』も全て破壊されたり行方不明になったりで、一つも残ってなかったそうだ。」
「それでは・・・」
「ああ。今度は神戸の民間企業が狙われる可能性が高い。 そして神戸の民間企業がもつ『魂の宝玉』が失われれば、もう終わりだ。
だが、神戸周辺には我々の拠点がなく、狙われたら守る手段がない。 また、神戸の守護に現在生き残った艦娘を送り込む余裕もない。
そこで、神戸港に新たに鎮守府を立ち上げ、神戸の民間企業から『魂の宝玉』のマスターを譲り受けて神戸生まれの艦娘だけでも復活させ、
我々の戦力の増強と神戸の『魂の宝玉』を守護するのが今回の作戦の狙いなのだ。」
「なるほど。 それで私に神戸に向かえということですか。」
「ああ。 間宮殿は非戦闘要員だから、短期間ならば戦力の減少幅は小さく、また貴方自身が神戸生まれの艦娘だから他の誰よりも神戸の民間企業に顔が利く。」
「しかし、現在は籠城戦に近い状況。 私がいなくなると今後苦しくなるのでは?」
「それは判っている。 間宮さんが居なくなったら酒匂あたりが盛大にぶー垂れるだろうな。 しかし、戦力の増強を図る最後のチャンスを失うわけにいかんのだ。
もし、神戸生まれの艦娘が出揃って鎮守府に余裕ができれば、戻ってきてくれると嬉しい。」
「了解しました。」
こうして私は戦力の増強を図るため、神戸に向かったのでした。
そして、それが長門さんたちとの今生の別れになったのでした。