私は間宮。 今、私は新たなる鎮守府を建造するため、神戸港に来ています。
私が到着した時には、既に鎮守府の用地も確保され、急ピッチで建設が始まっていました。
元々神戸港は五大港の一つであり、国内の海運業の一翼を担っていました。 しかし、ここはあくまでも貿易のための港であり、鎮守府などの軍事基地が作られたことは今まで一度もありませんでした。
しかし、大本営が保管していた『魂の宝玉』が盗まれ、長崎の民間企業は『魂の宝玉』ともども破壊された今、戦艦・空母などの大型艦船の宝玉を所持しているのは最早神戸の民間企業のみなのです。
神戸にある『魂の宝玉』が失われると反撃の可能性が完全に失われるため、、大本営もかなり本気で神戸鎮守府を建設しているようです。
神戸鎮守府の主な目的は、神戸の民間企業に保管されているのマスターの『魂の宝玉』を使って神戸生まれの艦娘を建造し、神戸港とその周辺を守護することです。
深海棲艦の跋扈により使用できなくなった神戸港沖合の空港を改装して鎮守府の中心とし、さらに和田岬と埋立て処分場に支部を置くことで、神戸港全体を守護する構想です。
それぞれ海で隔てられているのですが、艦娘は元々海の上を移動することができるので、彼女たちが着任すれば三か所の基地が一体化し、強力な防御網が構築されるでしょう。
私は順調に建設されていく鎮守府を確認すると、『魂の宝玉』のマスターを受け取るべく、神戸の民間企業に向かいました。
神戸の民間企業では、私の予想通りひと悶着ありました。 大本営が『魂の宝玉』が盗まれたことを今まで隠していたのですから当然です。
しかし、私自身が神戸で建造された艦船の生まれ変わりであること、『魂の宝玉』のマスターを所持していた長崎の民間企業の顛末がすでに伝わっていたことなどから、渋々ながら『魂の宝玉』の譲渡に応じていただいたのでした。
これで私たち艦娘は盛り返すことができる。 私が小さな希望を抱いたのも無理からぬことでしょう。
しかし、その小さな希望も無残に打ち砕かれてしまったのです。
私が『魂の宝玉』のマスターを保管した部屋に案内されたときには、既に何も無くなっていたのですから。
その後、『魂の宝玉』のマスターが何者かに盗まれたことが明らかになり、大騒ぎになりました。
民間企業の幹部からも何度も頭を下げられましたが、元々の騒ぎの発端は、大本営で『魂の宝玉』が盗まれたことが原因であるため、こちらから強く出ることもできません。
結局、『魂の宝玉』のマスターが見つかり次第、神戸鎮守府に届けるとの約束を取り付け、何の成果のなく帰還することになったのでした。
そして、帰還と同時に決定的な悲報を受け取ることになったのです。
深海棲艦の軍団による首都攻撃。 そして大本営の陥落。
本来首都を守護するはずの横須賀鎮守府も別動隊の襲撃を受け、音信不通とのことでした。
「刀剣男子」という私たちとは異なる方たちが介入し、民間に対する無差別攻撃こそ防げたものの、私たちにとっては致命傷に等しい打撃を受けたのでした。
大本営は深海棲艦の総攻撃によって瓦礫と化し、生存者なし。 元帥も提督も、提督候補生もすべて全滅。
私は足元がすべて崩れるような思いでした。 夢も希望も完全に打ち砕かれてしまったのですから。
夕日の中、黙々と続けられる神戸鎮守府の建造。
しかし、そこを守るべき艦娘はいない。 新たに配属される提督もいない。
私は失意と絶望に包まれ、ただ茫然と神戸鎮守府の建造を眺めているだけでした。
そんなところに、数珠丸恒次という一人の刀剣男子が訪ねてきたのす。 失われたはずの『魂の宝玉』を携えて。
失意と絶望のどん底で立ち尽くしていた私の背後から、一人の男性が話しかけてきました。
「あー、申し訳ないが場所を聞きたいのだが、海軍が神戸鎮守府を建造している場所とはここで良いのだろうか。」
振り返ってみれば、軍服に似た青い洋装の上に丈の短い白い上着を纏った男性が立っていたのでした。
腰に日本刀を帯刀しており、歴戦の艦娘にも似た戦人のような雰囲気を感じます。
間違いなく強者と呼べる存在と言えるでしょう。
「はい。 ここが神戸鎮守府の予定地ですが、何か御用でしょうか。」
相手の意図が読めず、かといってはっきり敵対しているわけでもない相手にその場しのぎの嘘を言うわけにもいかないので、正直に質問に答えながら、油断なく相手の出方をうかがいます。
「ああ、すまない。 私は刀剣男子の一人、数珠丸恒次というものだが、先の戦いで艦娘と関わりがあるかもしれない品を入手したので、関わっていそうな企業に問い合わせたところ、この場所を案内されたのだが。」
そう言うと、数珠丸恒次と名乗った男性は、風呂敷から七個の宝玉を出したのでした。
「こ、これは!」
それは、紛れもなく失われたはずの魂の宝玉だったのです。
「これは魂の宝玉。 な、何故あなたがこのようなものを。 どうやって入手したというのですか。」
私は動転して思わず宝玉の名前を叫び、その入手経路を問いただしたのでした。
「うむ。 これは須磨区にある鉄拐山で遭遇した歴史修正主義者が持っていたものだ。 奴が何故それを持っていたのかはわからない。
奴を討伐後に入手したのなのでな。」
歴史修正主義者。 それは、数珠丸さんを含む刀剣男子たちの宿敵で、私たち艦娘にとっての深海棲艦に相当する存在なのだそうだ。
つまり、魂の宝玉が奪われた一連の事件には歴史修正主義者が絡んでいた可能性がある。 さらに最悪の予測をするなら、歴史修正主義者と深海棲艦が裏で繋がっている可能性があることになる。
なぜ歴史修正主義者が魂の宝玉の存在やその保管場所を知っていたのか。 いろいろ不可解な点はあるが、その可能性は私を慄然とさせるには十分な事実でした。
しかし、これで七個の魂の宝玉が手にり、七人の艦娘が復活できる可能性ができたのです。
それは絶望に打ちひしがれている私にとっては、十分な希望でした。
だが、それと同時にある問題が出てきました。
「魂の宝玉」。 その存在は、私たち海軍やその関係者にとっては最高軍事機密にされているものなのです。
現に魂の宝玉の情報が何らかの方法で外部に漏れたことが、今回の一連の事件の原因になったことは間違いないのですから。
このため、魂の宝玉喪失後、海軍上層部から至上命令が発動されているのです。 魂の宝玉についての情報は絶対に外部に漏らしてはならないこと。 関係者以外の者が情報を知った場合、例え口封じをしてでも情報の漏洩を防ぐこと、と。
つまり、海軍の法に則って行動するなら、最悪の場合、数珠丸様を亡き者にしなければならないのです。
しかし、数珠丸様は一目見ただけでわかる明らかな強者。 一方私は非戦闘要員の給糧艦。 戦ったところで、正直勝ち目はほとんど無いでしょう。
そもそも数珠丸様は一縷の希望を繋いでくれた大恩ある人です。 害することなどとても考えられません。
どうしたものか、私は内心逡巡しながら数珠丸様の様子をうかがってみると、彼は鎮守府の建造に携わっている妖精さんたちから何かの説明を受けているところでした。
「え・・・。」
驚くのも当然でしょう。 妖精さんは普通の人間には見ることも話すこともできない存在。 今まで出会った人間の中にも、「提督」と呼ばれる人以外には妖精さんと意思疎通できた人には会ったことが無かったのですから。
むしろ、妖精さんと意思疎通できるというだけで、軍人でもない一般市民が「提督」に登用されたことすらあるのです。
そのとき、私の頭に稲妻が走り、唐突にひらめいたのでした。
この人に神戸鎮守府の「提督」になってもらったらどうだろうか、と。
数珠丸様は刀剣男子。 魂の宝玉を持ってきてくれたことや、他の刀剣男子の東京での活躍を見た限り、完全に味方側の存在と見ていいでしょう。
また、神戸鎮守府の提督になってしまえば、彼はこの鎮守府の最高権力者。 魂の宝玉のことを知っていても何の問題もありません。
軍人ではないという問題がありますが彼は見ただけでわかる強者。 妖精さんが見えるだけの一般人を登用するよりははるかにましです。
本来ならばこの話は大本営に報告し、任命して貰わなければいけないのですが、そもそも現在は大本営も他の提督候補もいない状態。
現在の状況を考えても、この方法が最善手にしか見えません。
私は意を決すると、数珠丸様のところへ歩み寄っていったのでした。
そうしてこの日、神戸の地に新しい提督の率いる鎮守府が誕生したのだった。
まだ一人の提督と一人の艦娘しかいない小さな鎮守府。
だがその小さな鎮守府がが、やがて人類の存亡を左右するほどの存在になると予想できるものは、現時点では誰もいなかったのである。