日向に案内されて建物に入ってみると、中に二人の女性が待ち構えていた。
一人は日向と同じ衣装を着た女性で名前は伊勢。 もう一人は赤い袴を纏った巫女服姿の女性で名前は榛名。
間違えるわけはない。 既に神戸の鎮守府で建造された彼女たちを見ているのだから。
だが、一目見た限り伊勢は予想した通りの精悍な闘志を見せていたのだが、一方榛名の方はまるで闘志が感じられず、ひどく儚げな印象を受けたのであった。
予想した印象と違う。 かつて私が宮司さんから聞かされた話から予想した限りでは、高速戦艦・榛名は伊勢以上の、いや、全ての艦娘の中ですら最上級の勇猛さを持っていてもおかしくないはずだ。
逡巡する私を見て察したのか、伊勢が話しかけてきた。
「悪いね。 榛名も普段ならかなり勇敢なんだけど、今までの戦いで姉妹を失うなどいろいろとひどい目にあってね、今はかなり落ち込んでいるんだ。」
「伊勢さん。 私はそんな・・・」
抗議しようとする榛名を制して伊勢は続けた。
「無理をするな、榛名。 おまえが万全の状態ではないことは私たちも判っているから。」
「そうなのか?」
尋ねる私に伊勢は溜息を吐きながら答えた。
「ああ。 今までの戦いで三人の姉妹が全て轟沈してしまい、自身も重度の障害を負って全力で戦えない状態になっているんだ。 私たちもダメージを受けてしまっていて、おかげで戦艦娘が三人もいるのにたった一隻の戦艦棲姫に手古摺っている有様なんだ。」
「戦艦棲姫?」
「ああ。 相手は全身が深紅の戦艦棲姫で、自らの名前を『カストル』と呼んでいた。 スピードもパワーも普通の戦艦棲姫を明らかに上回っていた。 しかも、私と日向が二人がかりで挑んでも全力を出していないように見えた。」
「そんな奴が。」
間宮たちから聞いている。
深海棲艦の中には、姫級、鬼級と呼ばれるボス的な存在がいると。
その中でも『戦艦棲姫』と呼ばれる存在は榛名や伊勢のような戦艦タイプの深海棲艦で、攻撃力、防御力とも非常に高く、一対一では戦艦娘でもまず敵わないと言われているそうだ。
その特殊個体だというのなら、現状この三人だけではかなりきつい相手だと思われる。 障害を負っているといわれている榛名もそうだが、伊勢と日向もあちこちに傷を負っている。 全力で戦える状態ではなさそうだ。
「奴を海岸に近づけることができれば私も参戦できる。 おびき寄せることはできないか?」
私は伊勢たちに尋ねてみたが、彼女たちの答えは否だった。
「駄目だね。 連中も東京で刀剣男子に手ひどくやられて懲りたのか、岸辺に近づくと追撃してこない。 相当刀剣男子の参戦を警戒しているようだ。 もっともそうでなければ、今頃私たちも沈められていたかもしれないけどね。」
「そうか。」
話を聞いて私は考える。 最も簡単な手段は神戸鎮守府に応援要請して建造された艦娘を連れてくることだが、あいにく彼女たちは建造されたばかりで演習すら未実施である。 ここにきても足手まといにしかならないだろう。
「せめて神戸鎮守府で建造された榛名と伊勢が目覚めていれば、何とかなったかもしれないのだがな。」
その話を聞いた途端、ここにいた榛名と伊勢がピクンと反応した。
「私たちが建造されたのですか?」
「道理で東の方から懐かしいような、何とも言えない感じがしたもんだ。」
「わかるのか?」
「ああ、なんとなくだけどね。」
なるほど、考えてみれば私にも似たような経験があった。 私自身も尼崎のさる寺に奉納されている刀、『数珠丸恒次』の存在を感じた時に、伊勢の言ったような感覚を感じたものだ。
「だが、彼女たちは建造されてからずっと眠ったままで、一度も目を覚ましていないのだ。 死んではいないようなのだが。」
「それは仕方がないだろう。 私や榛名が現在活動しているのだから。」
「どういうことだ?」
「言った通りさ。 もともと私たちは固有の存在だ。 かつての戦争も含め、私たち軍艦は同時期の世界には一隻しかいない。 時を渡ってきたり、異世界からワープしてきたりといった特殊な事例でもない限り、同一存在が二人も三人も同時に活動できるわけがない。 身体が幾らあってもそれを動かす魂は一つしかないのだから。」
そういうことか。
と、いうことは、現在会話している彼女たちが消え去ってしまわない限り、神戸鎮守府の彼女たちが目覚めることはないということではないか。 なんと厄介な。
だが、伊勢はこの話を聞いても割とあっけらかんとしていた。
「でも、そっかー。 そいつは朗報だねぇ。 万が一この戦いで轟沈しても私には『次』があるんだからねぇ。」
「まったく。 轟沈したら『次』がない私にとってはうらやましい限りだよ。」
一方でそれをうらやましがる日向。
だが、その中で絶望したような目で私を見つめる艦娘がいた。
「そんな。 ここで轟沈しても、私はまた生まれ変わって戦い続けないといけないのですか? もう戦いたくないのに。」
「榛名?」
それは、私をこの戦いに巻き込まれるきっかけを作った、高速戦艦・榛名であった。