「何を言っているんだ、君は。」
榛名に対して声を荒らげる者があった。 日向だ。
いらだつ気持ちはわかる。 轟沈しても『次』がある伊勢をうらやましがっているほどだから、同じく『次』のある榛名のこのような態度を見れば、苛立つのは当然だ。
私も少々驚いている。 かつて尼崎の神社で話を聞いた限りでは、榛名はかなり勇猛な戦艦と思われ、このような弱音を吐く者だとは思えなかったからだ。
「まあ、日向もあまり責めないでやってよ。 私たちの場合は榛名のように仲の良かった姉妹が轟沈したような経験はないんだから、榛名の気持ちが理解できてるわけじゃないんだし。」
「そうはいってもな。」
「そうなのか? 伊勢たちにも扶桑、山城といった姉妹艦がいたはずだが。」
私は伊勢に対して素朴な疑問を投げかけてみる。
"「まあ厳密には準姉妹艦なんだけどね。 元々は私たちも扶桑型として建造される予定だったんだけど、扶桑建造後に欠陥が見つかってね、それで私たちはその欠陥を修正して新たに伊勢型として建造されたって経緯があるんだ。
そのせいか扶桑たちからやたらライバル扱いされるようになって、あの二人とはギクシャクしていたんだ。」"
「だからあの二人が轟沈した時もあまりショックを受けなかったのさ。 轟沈を望むほど嫌っていたわけでもないけどな。」
どうやら、こちらはこちらで複雑な事情があるようだ。 まあ、現時点で追及すべき問題でもないが。
「なるほどな。 だから榛名の気持ちが理解できていないと言ったわけか。」
「ああ。 実際、私たちの目から見ても榛名を含めた金剛型四姉妹はとても仲が良かった。 あれだけ仲が良かった姉妹が次々と轟沈し、自分一人だけ生き残る未来なんて私は考えたくもないね。」
「だが、そうも言ってられないのが現状だ。 あの赤い戦艦棲姫を倒さなければ、我々も呉の町も未来がないのだからな。」
日向がそう言っていたところに、一台の艦載機が戻ってきた。
搭乗していた妖精さんの話を聞いた日向が顔色を変える。
「みんな話し合いはそれまでだ。 どうやら例の戦艦棲姫が現れたみたいだ。」
途端に場が緊張感に包まれる。
「くっそ。 一休みする暇もないのかい。 しょうがない。 行くよ、日向、榛名。」
「おう。」
元気に返事する日向。 だが、榛名からの返事は帰ってこなかった。
「榛名?」
「私はもう戦えません。」
「榛名! いきなり何を。」
「伊勢さんも日向さんも周りを見てください。 もうここには私たち以外誰もいない。 守るべき味方も、助けるべき人間もいなくなってしまいました。
この状態で私たちは、いったい誰のために、何のために戦うというのですか。」
榛名の抗議に対して声を荒立たせる日向。
「いい加減にしろ。 榛名。」
「いい。 日向、私たちだけで出撃しよう。」
「しかし。」
「これまでの戦いで私たち全員が大なり小なり傷ついて万全な状態で戦えない状態なんだ。 その上戦意がない状態で無理やり連れて行っても足手まといにしかならないさ。」
「むう。」
日向は一言うなると、伊勢と二人で出撃していったのだった。
「あれか。」
伊勢と日向の遥か前方に浮かぶ赤い点を視認する。 どうやら敵は気づいていないようだ。
「日向、敵は呉鎮守府方面から私たちが向かってくると予測して警戒しているようだ。 背後に迂回して奇襲をかけるよ。」
「了解だ。 瑞雲から教えられた座標に側面から近づくようにして正解だったな。」
伊勢と日向は頷きあうと敵に見つからないように、大回りして背後に移動する。
「よーし。 どうやら相手に気取られなかったようだ。 このまま背後から奇襲をかけるよ。」
「ああ。 私たちの力を見せてやろう。」
そういうと、二人は敵に向かって背後から突進する。
だが。
「「なにい!」」
二人は驚愕する。 前方にいた赤い点は、戦艦棲姫に見せかけた人形だったのだ。
二人が驚愕して足を止めた瞬間、背後から日向に徹甲弾が直撃する。
ドガァァァァン。
「グアアアアアア!」
「日向ァァァァァ!」
背後を振り向くと、深紅の深海棲姫が笑いながら立っていたのだった。