「貴様、よくも日向を。」
『フッ、 手負いといえど三隻の戦艦が残っているのだ。 万が一に備えて一計を案じるのは当然ではないか。』
「くっ。」
突撃しようとする伊勢の前に日向が立ちはだかる。
「日向、何を。」
「このまま突撃しても返り討ちに会うだけだ。 急いで呉鎮守府に戻り、榛名と合流するんだ。 二人で戦えば一撃ぐらいは入れられるかもしれない。」
「二人でって、日向はどうするのさ。」
伊勢は咄嗟に返事したものの、同時に日向の状態に気づいてしまう。 敵の攻撃により服も艤装もすでにボロボロになり、海に浮かんでいることすらままならなくなっている、今の日向の状態に。
「残念だがさっきの一撃が致命傷だったみたいだ。 私が浮かんでいられるのもあとわずか。 私が足止めできる間に撤退しないと二人ともやられてしまう。」
「馬鹿言うな。 日向、お前も来るんだ。 二人で榛名と合流して三人で戦うんだ。」
「残念ながら、もう移動もままならない。 それに、奴が我々の撤退を見逃すはずがなかろう。 今我々が唯一対抗する手段は、私が足止めできる間に伊勢が撤退し、榛名と合流して二人で対抗することだけだ。」
『ふふふ。 この私がそんなことを許すわけがないだろう。 そら、これで貴様も終わりだ。』
戦艦棲姫の主砲から次の砲撃が放たれ、まっすぐ伊勢に向かっていく、
「危ない。」
とっさに日向がかばう。 二発目の徹甲弾が日向に直撃する。
「日向っ、日向ァァァァァ。」
「早く、いけ。 私も、もう持たない。」
日向は満身創痍になりながらのまだ立っていた。 しかし、その姿はいつ轟沈しても不思議ではないほどボロボロになっていた。
「判った、日向。 必ず榛名を連れて戻ってくるから絶対に沈むんじゃないよ。」
そういうと、伊勢はまっすぐに呉鎮守府に向かっていったのだった。
「日向。 あんたの仇は必ず取ってやるからね。」
伊勢はとめどなく流れる涙を振り払いながら、一心に呉鎮守府に向かっていくのだった。
「ふっ。 それでいい。 がんばれよ、伊勢姉さん。 もしも生きていられたら姉さんの生まれた港町を一度見てみたかったが、な。」
日向は満身創痍になりながらも敵戦艦棲姫の前に立ちはだかり、伊勢への追撃を妨害する。
『くくくっ。 まあいい。 どのみち最初の奇襲で一隻を沈めて、その後残りの二隻を始末する予定だったのだ。 元々の予定通りというわけだ。』
戦艦棲姫はそう言うと、とどめを刺すべく日向に砲身を向けるのだった・・・。
「榛名、きてくれ。」
すっかり意気消沈してしまった榛名を前にして、どうにか説得できないかを考えているところ、唐突に伊勢が戻ってきた。
「どうしたんだ、伊勢。 それに日向は一緒ではないのか?」
「・・・・・・」
私の質問に対して、伊勢は無言で顔を伏せる。
そんな伊勢の姿を見て、榛名の顔色が一層悪くなる。
「そんな、伊勢さん。 まさか日向さんが…。」
「日向は沈んでない! あいつがそう簡単に沈むものか。 でもこのまま手をこまねいていれば全てが終わってしまう。 頼む、榛名。 一緒に戦ってくれ。」
伊勢は榛名に拝まんばかりに頭を下げるが、頭を下げられた榛名は益々顔色が悪くなる。
流石に見ていられなくなったので、私は二人の間に割って入った。
「伊勢、そなた達が戦っていた主戦場はどこだ。 私が加勢できるような場所なのか?」
「無理だ。 場所はここから南東10数KM先の海上、残念だが艦娘でないと戦闘に参加するのは不可能だ。」
「クッ。」
確かにそんなところで戦闘をされれば、海上に立つことのできない我々刀剣男子は参加できない。
「そんな・・・、そんな・・・。」
榛名を見ると、彼女は心底にあらずという様子で、両手で自分の両肩をつかみ、ガタガタ震えながらうわ言のように「そんな」を連呼している。 どう見ても戦いに駆り出せるような状態には見えない。
「わかった。 もういい。」
榛名の様子を見ていた伊勢吐き捨てるように言う。 その目は光を失い、全てを諦めたような色を纏っていた。
「榛名、私は君を尊敬していた。 」
「え・・・。」
榛名の震えが止まる。
「かつての戦争は空母が主戦力だったため、低速艦の私たちは前線に出られず、ほとんど活躍の機会がなかったのに比べ、
君たち金剛型は高速艦の力をフルに発揮し、私たち戦艦組の武勲のほとんどをたった四隻でたたき出していた。
正直、私は羨ましかったよ。 低速の私たちは後方に控えているしかできなかったからね。
その中で君は戦いに参加するたびに怪我を負っていた。 高速戦艦の金剛型の中でも最も早く、回避能力が高い君がね。
どうせ君のことだ。 姉妹や仲間たちを守るため、その身を盾にしてきたんだろ。 現に、金剛や他の姉妹は君と別行動をしているときに沈んでいたからな。」
「そ、それは・・・。」
「そして、そういう艦船はたいてい短命に終わる。 それがセオリーだ。
だが君はそのセオリーを覆し、かつての戦争でも今回の戦いでも最後まで生き抜き、今ここにいる。
特にかつての戦争では、呉の固定砲台となった最悪の環境下ですら、最後まで戦い抜き、あまつさえ敵戦闘機を撃墜し、捕虜まで獲得までやってのけた。
その時は、正直『敵わないな。』と思った。 心の底から尊敬したさ。
なのに今回の戦いではこの体たらくだ。 いつかはかつての雄姿を取り戻してくれるものと思っていたけど、もう期待するのも終わりだ。
正直冷めちゃったよ。」
さらに数珠丸恒次に顔を向けると、続けて話しかけた。
「提督。 奴の狙いは呉鎮守府の破壊と、常駐している私たち艦娘の撃滅だ。
私と榛名を沈めれば奴は目的を果たしたことになり、深追いはしてこないだろう。
提督はこんなところで死ぬべきではない。 神戸にいる私たちや他の艦娘を守るためにも、最速で神戸に戻るべきだ。
そこにいる榛名は置いて行け。 今の腐っているそいつを連れていくよりも、神戸にいる榛名を最初から育てる方が断然役に立つはずだ。」
そう言うと、伊勢は数珠丸恒次の返答も待たず、一人で呉鎮守府を飛び出していったのだった。