かつてはさえない会社員だったけれど、ある日、唯一の友人と共にもう一つの現代日本に転移した。俺はなぜか美少女になっていた。「可愛い」「もっと笑って」「アイドルになろう」――彼が喜んでくれるから、全部そうした。でも、彼は死んだ。自分が何者だったのかすら分からなくなった。

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第1話

 前の世界では、さえない男だった。あえて自分が選ばれる理由がなく、他の人と簡単に置き換えられる、そんな存在だった。だから、周りから望まれる自分を作り、居場所を確保した。そうすればみんな笑ってくれて、居心地が良くなった。そんな生き方を小さい頃からずっと、大人になっても続けていた。

 小さな頃は親に望まれて、勉強に打ち込んだ。優秀な子が通う学校に合格すると、両親はとても喜んでくれた。塾に通わせ、親自ら勉強を教えた甲斐があったと言われた。俺は嬉しかった。

 社会人になると、上司からの期待に応えられるよう、必死に努力した。なんとか期待に応えられた時には、満足げに誉めてくれた。嬉しかった。でも、毎回とはいかなくなった。

 

 そんな生活の中、友人と呼べる存在がいた。学生時代からの付き合いの、ある男だ。彼は下品なことを平気で言うし、口は悪いし、およそ善良な人とは言えないこともしていた。しかし、俺に対しては優しく接してくれた。味方だと思った。

 

 その友人と、ある日、並行世界に飛ばされた。自分の知っている現代日本とほとんど変わらないが、自分の容姿と社会的な存在が変わっていた。地元の学校に通う、可愛らしい女の子になっていた。モデルやアイドルになったとして誰からも文句が出ないほど、むしろなって当然だと思われるほどの容姿だった。友人の彼は、俺のことをすぐに「元の世界の俺」だと認めてくれた。

 その世界では、俺は友人の養子ということになっていた。友人は未婚者で彼女もいなかったから、養子ができたところですぐに問題にはならなかった。むしろ、なぜか口座の預金が生涯賃金レベルで増えていて、喜びすらしていた。それから、俺と友人の生活が始まった。

 

 男だったということを隠したら、友人が喜んだ。だから、元から女の子だったように振る舞うようにした。

 可愛い服を着るようにしたら、友人が喜んだ。だから、男っぽい服を捨てて可愛い服だけを着た。

 アイドルにスカウトされたら、友人が喜んだ。だから、アイドルになった。

 たくさんのファンができたら、友人が喜んだ。だから、アイドル活動をもっと頑張った。

 求められた体を差し出したら、友人が喜んだ。だから、毎晩のようにベッドの上で踊った。

 友人が死んだ。

 何をしたら喜んでくれるのだろう。友人は教えてくれない。自分で考えたことはない。友人が求めてくれたから。友人が求めることが、するべきことだと思っていたから。

 わたしは、何をしたら良いのだろう。


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