「デルトラ・クエスト」の数百年前のデルトラ王国に現代日本の強め男子大学生が滞在するようです。

(「デルトラ・クエスト」の舞台をとある探検家が旅して書いた「デルトラ王国探検記」を元に書きました)

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「デルトラ・クエスト」が好きなそこのキミは竜好きのドランの残した探検記も読んでみるといいぞ!


──沈黙の森・一の森──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──気付いたら道の側に立っていた。

 舗装のされてない土だけの道だ。

 

 

 

 

 「……は?」

 

 

 

 

 もう一度目に映る光景を認識する。

 なだらかな丘と平原ばかりが広がる中にある土が剥き出しの道の側に俺は立っている。

 

 

 「ビルどこ行った……?」

 

 

 のしかかるようなビルの群れも、整えられたアスファルトの道もきれいさっぱり消え去っている。

 ……えーと、俺は大学のレポートを出しに行ってたはずで……

 

 

 「……って記憶途切れてねぇか?」

 

 

 そうだ、『()()()()()』なんてなる余地は無かったはずだ。

 真昼間で眠気も無い、道ゆく車は安全運転、空は快晴飛行機もヘリも無しで俺が意識を失う理由は無かったはずだ。

 

 ……なのに現実として俺は『気付いたら』、土だけの道の側にいる。

 

 

 「は……?……、はぁっ⁉︎」

 

 

 そしてふと視線を下ろすと服装まで変わっていた。

 

 というか全身のコーディネートが変わっていた。

 Tシャツジーパンスニーカーにバッグ、という感じだったはずの俺の服装は七分袖の厚めのシャツ、バサバサする布のズボン、がっちりしたブーツ、以上。……という感じになっていた。

 

 

 「は?は?」

 

 

 スマホの代わりにポケットに入ってたのはずっしりした袋に紙切れ……

 

 

 「……いや、地図かこれ?」

 

 

 ……じゃなくて何処かの地形が描かれた地図だった。

 

 

 「『デルトラ王国』……?」

 

 

 ……聞いた事のない、そこはかとなくファンタジー味のある国の名前が一番上に載っていた。

 

 

 「って、もしかしてこれ俺か……?」

 

 

 その地図の右下、『トパーズの領土』と書かれた部分に小さく揺れ動く矢印がある。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「なんだよこれ……、うわっ⁉︎」

 

 

 なんだなんだ⁈

 なんか触ったら文字が……

 

 

 「文字が……、浮かんでる……?」

 

 

 ブオン、と音を立てて光り出した地図は空中に光の文字を浮かべていた。

 えーと何々……

 

 

 「【滞在時間を満たす事により帰還】……、【沈黙の森・一の森:一日半】……、【デル:七日】……」

 

 

 ……空中に浮かぶ文字は最初の文言を除いて全部なにがしかの地名と一定の時間の組み合わせだった。

 ……え、これだけ?

 

 

 「……え、もしかして『ここ行けよー』『そしたら帰れるよー』って事か……?」

 

 

 えぇ……

 

 

 「……いやちょっと待て、ちょっと待てよ……」

 

 

 脳が追いつかねぇよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土が剥き出しの道を馬……、……いやロバか?

 ……多分ロバに引かれた荷車が彼方へと過ぎ去って行く。

 

 

 ……そう、『荷車』で『ロバ』だ。

 野菜を載せた荷車は古式ゆかしい木製造り、いまいち断言できないロバっぽい奴はどかどか土埃を上げて歩き。

 

 ……その側で歩いていた恐らく農家のおっちゃんは俺と同じく古式ゆかしいヨーロッパな感じのする野良着で道端に座り込む俺の事をチラッと見て去って行った……。

 

 

 

 

 「一度整理すっかー……」

 

 

 俺、日本の大学生。

 レポート出しに街を歩いてたはずが気付いたら道端なう。

 服装変わる。

 持ち物変わる。

 持ち物は金貨銀貨(仮)が入った袋と地図一枚。

 地図には『デルトラ王国』。

 矢印押すと地名のリスト。

 リストには最低十五分最高七日の時間付き。

 リストの先頭には『【滞在時間を満たす事により帰還】』、と……

 

 

 

 

 「ドッキリであってくれねぇかなー……」

 

 

 

 整理しても理解できねぇ……。

 てか理解したくねぇ……

 

 いきなり中世ファンタジーな感じの世界に飛ばされたなんて脳が受け入れねぇよ……。

 

 ……けどあんな『明らかに紙の質感と重さしてんのにアイコン触ったら光の文字が浮かぶ』地図とか日本どころか地球上で作れそうも無いし……

 

 

 

 

 「……それにさっき見たあれ……、……『竜』、だったよな……」

 

 

 

 

 ……そう、あれは時々荷車が通って行く道の横で色んな事──隅から隅まで服をいじったり野原を転がって草の感触を確かめたり息切れするまで走ったりホントに色んな事だ。冷静じゃなかったから多分意味は無い──やってなんとなく空を見上げてみた時だ。

 

 ──遠くの空にオレンジか黄色っぽい色の何かが飛んでいるのが見えた。

 目をこらして見てみるとそれの下側は空と同じ色で、コウモリっぽい翼に爪のあるらしい手足そして爬虫類っぽい頭があると気付き──、──同時に『これドラゴンじゃね?』と気付いた。

 

 ……もちろん目の錯覚であってほしいが、なんかもうそれが作りものとか立体映像とか思うより『(ドラゴン)』だと思う方が腑に落ちる、そんな感じがする。

 

 

 ……で、竜がいるのが腑に落ちるともう頭あるいは脳が受け入れなくても関係無しに心が『俺は中世ファンタジーな感じの世界に来てしまった』という……事実、を受け入れてしまった感じがする。

 

 

 「……で、俺をここに寄越した奴はこの地図の滞在時間を満たす事を望んでいるらしい、と……」

 

 

 いや会話も何も無しに服と地図と金だけ持たせて道端に放り出すとか端的に言って最低な行いだと思うんですが……。

 この分だと『帰還』もどっか適当な場所に飛ばされるんじゃないかって思えんだけど……

 

 

 「……でも他にあても無いしな……。……しゃーねぇ、行くか!」

 

 

 そうだ、他にあてなんて無いんだ。

 なら楽しんでけ!だ!

 『楽しみは見出すもの』!あの教室でも言ってた!

 

 

 「それじゃ一番近いのは……【沈黙の森・一の森】だな!」

 

 

 決めたからには突撃だ!

 

 

 「うおー〜〜〜っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いくら自分が中高の頃に親戚の武術教えてんのかサバイバル教えてんのかよく分からない教室で鍛えられた経験があるとは言っても、一時のテンションで暴走せずもう少し冷静に動くべきだったと思う。

 

 

 「森っていうか大森林じゃん……」

 

 

 具体的には土が剥き出しの──恐らく街道を爆進して行き当たった脇道を行った先。

 実に圧倒的な大森林があった。

 恐らくはこれが【沈黙の森】。

 地図の上でも『トパーズの領土』と『ルビーの領土』に跨り【一の森】【中の森】【果ての森】と分けられるくらいに巨大な森だった。

 

 

 「そんな森に身一つで突撃しようとしたのかよ俺……。バカじゃん……」

 

 

 ……もう一度俺の持ち物を確認しよう。

 金貨銀貨(仮)が入った大きめの袋と不思議地図、以上だ。

 ……水筒も食料も道具も無い。

 ……いや、正確には今着てる下着靴下ブーツ含めた服一式も持ち物に含むんだろうが最大の問題はそれじゃなく……

 

 

 「()()()()()()()()()()()()ー……」

 

 

 ……視界に森を入れた時から感じるじわじわ伝わるこの感じ。

 それは例えば組手で謎教室の先生と対峙した時。

 歩いていてふと進行方向に交差点が目に入った時。

 山の中である草藪を視界に入れた時。

 

 ……そこには必ず『危険』があった。

 先生にはボコボコにされ、交差点では事故が起こり、草藪にはマムシが潜んでいた。

 

 この『危険な感じ』を感じる事に安全と言われる現代日本ですらたまに助けられてきたんだ、ましてやこの中世ファンタジーな感じの世界で従わない理由も無い、んだけどもう一つ……

 

 

 「……モンスターとかいなかったよな……?」

 

 

 ……そう、ここまで爆進する中で『危険な感じ』は全くしなかったのだ。

 例えばゲームだと街の外に出れば雑魚モンスターがすぐに襲いかかって来るなんてごく当たり前の事のはずだ。

 ……だけどこの【沈黙の森】が見えるまでに見た生き物は人間、ロバ(仮)、馬(仮)、なんかの鳥、野ウサギ、竜。以上だ。

 ……いや竜もモンスターっちゃモンスターなんだろうけどあんな遠目じゃ強さも危険も分からん。

 ついでに言えば竜がこの『デルトラ王国』でどのくらい強いのかも分からん。

 ……というか竜が飛んでたから断定してたけど、ここが本当に『中世』なのか『ファンタジー』なのかも分からん。

 

 

 「()()が欲しいんだよなー……」

 

 

 多分『勘』に近いんだろーな、くらいにしか自分でも分かってない『危険な感じ』は非常に大雑把だ。

 車がぶつかる交通事故も一匹の毒蛇も同じように『危険な感じがする』としか教えてくれない。

 だからこの【沈黙の森】が猛獣潜む地球のジャングルと同じくらいの危険で済むのか、それとも竜みたくなにかファンタジックな危険が潜んでるのかすら分かってないのだ。

 

 

 「……川はあそこに流れてる、道は分かってる、地図によれば【デル】の街も近い……。……行ってみるか」

 

 

 だから『試しに』覗いてみる。

 道を横切るように川が流れてるから最低限水はなんとかなる。

 ……さすがに道具無しで【沈黙の森・一の森:一日半】を達成できるとは思ってないから今回は事前偵察、軽く入ってこの世界がどんなものか確かめるとしよう。

 

 

 「よし、と」

 

 

 そうして俺は【沈黙の森・一の森】へと踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……後になって思い返せばこの時俺はこの世界、いや『デルトラ王国』という土地に潜むものの『殺意』についてまるで分かっていなかった。

 車にしろ毒蛇にしろ俺を『殺せる』ものなのだから沈黙の森に感じた『危険』だって俺を『殺せる』ものだという事にはまるで思い至らなかった。

 ……ましてや今までは『避けてた』ものに『足を踏み入れている』事になんて気付きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブーン、と羽音が聞こえる。

 

 

 「…………」

 

 

 ブーン、と羽音が脳を揺らす。

 

 

 「…………」

 

 

 ブーン、と羽音が届くのにそろそろ耐え切れなくなりそうだ。

 

 

 「……無理だわ、これ……」

 

 

 

 道を進んで五分、いや三分も経たない内に俺の足は止まっていた。

 道の脇、茂みの中からブーン、と鳴る不快とか通り越して有害な音が聞こえてきたからだ。

 ……うるさくて気持ち悪くて気持ち悪ぃ……。

 

 

 「……んでこれ、囲まれてるよな……」

 

 

 ……そんなクソみたいな音を出してるのは、茂みの向こうに見え隠れするカニみたいな赤い目をした()()だろう。

 ……右を見ても、左を見てもうじゃうじゃいる……。

 

 

 「……逃げ、られるか?」

 

 

 ……こいつら倒せばうるさい音も止むかもしれないが、こいつらなんかでけぇ……。

 ……小学生くらいあんぞ……。

 仮に人と同じ身体をしていてもたかられたら普通に死ねるし、ハサミとか持ってたら血ダルマになって死ねる。

 ……じゃあ逃げるしかないんだが、俺が通って来た方の茂みにも

 

 

 「って、危ねぇ!」

 

 

 ……考えてたら飛び出してきやがった!

 

 

 「おっ、らあ!」

 

 

 腕を掴んでぶん投げる!

 

 

 「っと……、なんかキモいな……」

 

 

 そんで初めて姿が分かったんだが……。

 ……『青白いカニ人間』みたいな感じだった。

 ……ただ手は幽霊みたいに下げられててハサミは無いし、足はダチョウみたいな逆関節だから『カニ人間』とも微妙に違う見た目で……

 

 

 「って一斉に来やがった!」

 

 

 そうこうしてる内に茂みからカニ人間(仮)が飛び出して来た!

 ふざけんな!

 

 

 「んなデケぇのに群れるなよ!」

 

 

 とっさに跳び上がって枝を掴んだけど……!

 折れる……!

 

 

 「このヤローっ‼︎」

 

 

 だからカニ人間共を飛び石代わりにジャンプ!

 

 

 「……最悪の八艘跳びだな!」

 

 

 でもこれでもっと太い枝まで……!

 

 

 「……は?」

 

 

 ()()()()()

 確かに枝を掴んだはずの手が。

 

 

 「……っ!」

 

 

 ……落下地点にはカニ人間!

 

 

 「……ナメんな!」

 

 

 ……身体を捻って両足回転蹴り!

 吹き飛んだカニ人間達の間に下りる!

 

 

 「……んで、分かって来たぞ……!」

 

 

 まだ音は鳴り止まないが、ここまでカニ人間を見て来て動きが分かって来た。

 あいつらは俺に手を突き刺そうとしてくる。

 ()()()()()

 足は生えてるしキモいくらいちょこちょこ動いて来るのに、キックも体当たりもしてこない。

 多分『音で弱らせて』『手を刺す』事しか考えてねぇんだ。

 

 

 「これなら突破して……!」

 

 

 アドレナリンで音も気にならなくなってきたから……!

 

 

 と思った所で、

 

 

 ズゥウンと地響きが鳴り。

 

 

 カニ人間達の音が止まった。

 

 

 「…………、……やべぇ……」

 

 

 バキバキ、バキバキ、枝をへし折りながらやってくる()()から過去最高に『危険な感じ』がした。

 

 

 「……っ!」

 

 

 一目散に来た道を引き返し、逃げ出した。

 

 

 直後、()()()()()()

 

 

 「〜〜ーっ」

 

 

 思わず振り向いて見てしまった。

 カニ人間を噛み砕く、恐竜みたいな頭を。

 

 

 「〜〜……っ!」

 

 

 後は脇目も振らず、ただ【沈黙の森】から逃げて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァ、ハァッ、ハァッ……」

 

 

 ……元の道に戻って来れたのが奇跡だと思った。

 そして叫ぶ。

 

 

 「無理だろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──こうして、俺の【デルトラ王国滞在記】は敗走から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 






◎デルトラ王国◎
「デルトラ・クエスト」の舞台。
人が住み、竜が飛び、人が近寄らない場所にはだいたいヤバい生き物が根付いている国。
「デルトラ・クエスト」の主人公一行もだいたい苦しんでる。

◎沈黙の森◎
「デルトラ・クエスト」で主人公が最初に訪れた魔境。
「探検記」の地図見た限りでもやたら広い。

◎『カニ人間』=ウェン◎
沈黙の森に入った主人公が一番初めに出くわした生き物。
虫の羽音のような音で弱らせて、体を痺れさせて捕まえ、後述のウェンバーの生き餌に捧げる。
一番初めに出て来るのがデバフ対策必須だという事を知らなかった「デルトラ・クエスト」の主人公達はあっさりこいつに捕まっている。

◎『恐竜みたいな頭』=ウェンバー◎
ウェンが神と崇めるという巨大ヘビ……、……だが「デルトラ・クエスト」での記述を見る限りどう考えても巨大トカゲ。
ウェンの食物もそうだが「クエスト」と「探検記」で食い違いが見られる。
数百年で変化があったのだろうか……。
でもヘビに足が生えるだろうか……。
……あるいは『ヘビのウェンバー』と『トカゲのウェンバー』の二種類が居るというロクでもない可能性すら有る。
ウェンから捧げられた生き餌()食べるが、生き餌が無いとウェンを食べる。
自然は奉仕種族に厳しい。

◎主人公◎
原作主人公が屈した自然の脅威に耐え抜き、跳ね除け、逃げおおせてみせたなんかおかしい現代日本の大学生。
突然滞在する事になったデルトラの魔境っぷりに無理だろ!と叫ぶ。


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