人間の手に 負えぬもの

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貪欲者たち

 

 アルドゥインを憎んでいるかと訊かれれば、これははっきり否である。

 

 むしろ感謝の念がある。

 

 当たり前のことではないか。

 

 あの日、あの時、あのタイミングで、あの処刑場にヤツが降臨していなければ、今頃おれの素っ首は小枝みたいにはたき(・・・)落とされ、泥土に(まみ)れていたはずだ。

 

 弔う者も意味もない、まさに虫の死、無価値な死。

 

 やりきれぬこと限りなし、くだらぬ末路を間一髪でひっくり返してくれたと思えば、いくら両手をすり合わせても到底足りない恩がある。

 

 ばかりではない。

 

 ヤツは重大な啓蒙を、おれの脳髄に刻んでいった。

 

 運命の袋小路然として傲岸に居並んでいた帝国兵士、

 権高という概念に手足を付けた女隊長、

 身形(みなり)も得物もきたならしいことこの上もない処刑人。

 

 圧倒的に「殺す側」であったはずの連中が、刹那一転、ドラゴンという超規格外の横槍によりみるみる立場を喪失し、悲鳴を上げて逃げ惑い、なすすべもなく火達磨になり形が崩れてゆく様は、絶頂を禁じ得ないほどに痛快な眺めであったのだ。

 

 復讐に伴う快楽が、よもやあれほどのモノだとは。

 

 そういう意味で世界を喰らう黒竜は、命の恩人──正確には恩()か──であると同時にかけがえのない教師であるとも、また言える。

 

 そうだ、そうとも、その通り、燃え落ちるヘルゲンの町の有り様が、あまりに、あまりに、あまりにも、鮮烈にしてまばゆかったものだから──。

 

 だから今のおれがある。

 

 だからおれはこう(・・)なった。

 

 つい自分でもああいう景色(モノ)を作ってみたい気になって、居ても立っても居られない、体じゅうの毛穴から黒煙(くろけむり)を噴くような焦燥感にさいなまれ。──それで気付けば東奔西走、あっちへフラフラこっちへコロコロ、スカイリムを放浪しながら鉄火場求めて這いまわり、血と死と炎を後に残してゆく暮らし。

 

 最高だった。

 

 殺す相手には不自由しない。

 

 内戦により世は荒れて、自力救済の観念がどの要塞の誰の胸にも高まりつつあるこの時分。傭兵の需要は高騰している。良さげな剣をぶら下げて街を闊歩していれば、勝手に仕事が懐へ舞い込んでくる入れ喰い市場。乱世のありがたみであった。

 

 上昇気流は至る処に見出せる。踏み込む者を待っている。挑戦資格は人品ではなくただひたすらに腕前ばかり。なんと素晴らしい。奪う側に廻れたならば、世界はこんなに面白い。斯かる喜悦に無知なまま、みじめに憐れに地虫のようにくたばっていたらと想像するとゾッとする。おれは心底、今の人生を謳歌していた。

 

 じゃによって。

 

 繰り言を、──くどさ(・・・)を承知で再言しよう。アルドゥインに意趣はない。怒りも、怨みも、憎しみも、負の側面に分類されるおよそ如何なる感情も、ヤツに向いてはいないのだ。衝撃と畏怖を以ってしてこの生き方へと導いた、げにありがたき触媒として衷心から感謝している。

 

 だから、そう。

 

 ドラゴンボーンよ、アルドゥインを討ち倒せ。ヤツの邪悪な野心からスカイリムを解き放つのだ、永遠に。それが汝の使命なり──と、吟遊詩人が声高らかに囃そうが。

 

 星霜の書の記述が何をほざこうが、おれ自身の立場としては、ぜんぜんやる気になれぬのだ。

 

 向こうがおれを放っておいてくれるなら、おれもヤツを放っておきたい。

 

 おれの夢の達成を妨げないでくれるなら、おれも態々、ヤツの邪魔をしたくない。相互不干渉、その姿勢こそ、おれの本意といっていい。

 

 夢とは何か。

 

 愚問なり、あまりに知れたことである。

 

 アルドメリ自治領を焼き払う。

 

 サルモールを駆逐する。

 

 あの忌々しいハイエルフ至上主義の徒党めを、二度と再び歴史の闇から浮き上がれぬよう一人残らずぶち殺す。連中が存在していた痕跡さえも、一欠片とて地上に留めておきたくはない。完膚なきまでの煙滅こそが、寝ても覚めても脳裏を去らぬ、渇望の矛先なのである。

 

 そりゃあそうだろう、何の意外性もない、当然の帰結ではないか。

 

 元を糾せばおれが殺されかけたのも、サルモールの所為なのだ。

 

 あの日、あの場所、あのヘルゲンで行われていたことは、「めっそうもない、ハイエルフのご友人、白金協定を破る気なんぞ我らには毛筋一本ござんせん」とアピールするため、帝国からサルモールへ向け設えられた饗宴であり、自分を含めた多くの首は、それを彩る飾りつけに過ぎなかったのであろう。

 

 そんなことのために、おれの生命(いのち)あたら(・・・)消費されかけた。

 

 赦せるものか、赦してたまるか。

 

 あいつらが帝国に攻め寄せなければ、

 帝国がむざむざだらしなく膝を屈していなければ、

 司法高官などという薄気味悪い連中の跳梁跋扈を頑として跳ね除け得ていたならば、

 おれの不遇も、窮迫に背を押されての国境越えなんて無謀も、そもそも有り得なかったのだ。

 

 なにもかもサルモールが悪い。

 

 サルモールこそ、世界を蝕む癌なのだ。

 

 だからあの場で、あの土壇場で味わわされた、恐怖、屈辱、ありとあらゆる絶望を、兆倍にして返しに征こう。

 

 それこそ即ち、おれがおれに下した使命。魂かけて目指すべき、満願成就の彼岸なり。

 

 ……そんなこんなで、おれの殺意はドラゴンよりも圧倒的にハイエルフへと向いている。

 

 世界を救う条件として、あの連中との握手が要るというならば、いいさ、世界など滅んでしまえ。むしろ滅びを早めるために薪を焚べる用にこそ、この手を使ってくれようず──と、一瞬たりとも迷わずに即決できる水準で、これは激越な感情なのだ。

 

 骨がらみといっていい。

 

 我ながら病的だと自覚はあるがどうにもならぬ。渇望とは、畢竟そうしたものだろう。自分でも制御不可能な、なべて危険な側面を持つ。それを遂げるためならば、狂気、冒涜、なんのその。どこどこまでも行動を飛躍させて厭わない。

 

 ──いっそのこと。

 

 だからこんなアイディアも、平気で思考の俎上に乗せる。

 

 ──いっそアルドゥインと共に、力を合わせてサマーセット島を強襲できる、素敵な効き目の口説き文句はないものか。

 

「最後のドラゴンボーン」と「世界を喰らう者」とが組めば、きっと最強の二人になれる。向かうところ敵なしだ。九大神とて、白目を剥いて驚倒するに違いない。

 

 だがしかし、なんと言ったら、あいつの心は融けるのだ?

 

 そんなスゥームは誰も知らない。ハルメアス・モラの書庫にさえ収蔵は絶望的だろう。都合の良すぎる禁忌の知恵を夢想しながら、おれは今日も剣を研ぐ。

 

 乳鉢の中、錬金素材を粉にする、具足を繕う、戦支度をととのえる。

 

 単純作業の慰みとして、これぐらいの妄想は、まあ罪のない方だろう。妄想、そうだ、妄想だ。おれにはちゃんと分かってる。できることとできないこと、夢と現の境界線の判別を、まさかいまさら取り違えたりするものか。

 

 …。

 

 ……。

 

 ………。

 

 …………やりもせず、試してみもしないまま、独り決めして諦めるのは、ちょっと勿体ないのでは?

 

 本当、真実、神かけて、おれたちの道が重なる目は皆無だろうか。アポクリファを探索し、知識の王にかけあってでも、検証してみるべき命題ではないのか、これは。

 

 アルドゥインには価値がある。

 

 ヤツには、ヤツであるだけで、かけがえのない価値がある。

 

 それは揺るぎない確実なこと。

 

 アカトシュの長子、竜の神の最高傑作。

 

 かくも貴い竜王を、もしも支配できたなら──。

 

 その想像は全身の血が酒になるほどのくるめき(・・・・)を、おれに与えてやまぬのだ。

 

 





オブリビオンリマスターに触発されて、久々にスカイリムを起動しました。
アルドゥインと結婚してえ!(血涙)


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