第13話の投稿になります。
今回はケルディック編中篇です。
それでは、どうぞ。
マゴットさんから今日の分の依頼書を貰う。
依頼内容は二つ。
オットーさん直々の魔獣討伐依頼。
昨日見つけられた財布の落とし主の捜索。
俺達が今日帰るということで少なくしてくれたようだ。
余った時間で大市を楽しんで欲しいということか。
やっぱり来てくれたからにはいい思い出を作って欲しいってことだろうな。
「どっちからやる?」
「そうだな・・・財布の落とし主が気付かずに帰っちゃったらあれだし、先に財布の落とし主の捜索に行こうか。できるだけ早めに見つけたほうがいいからな」
「わかった。それでは行くとしよう」
そして俺達が外に出ようとした時、
「女将さん、大変大変!」
ここの従業員であるルイセが駆け込んできた。
「なんだい、朝っぱらから騒々しいねぇ」
「それどころじゃありませんよ! 大市の方で“事件”なんですよ!」
事件・・・?
「それはどういうことだい?」
「大市の屋台が夜の間に壊されてて、しかも商品まで盗まれちゃったらしいんです!」
「何だって!?」
急いで駆けつけると、大市には商人達が居た。
彼らの中心には昨日も揉めてた二人がまた揉め、オットーさんが止めようとしている。
「よくも私の屋台を滅茶苦茶にしてくれたな!」
「何言ってやがる! そっちこそ俺の屋台をぶっ壊したんだろうが!」
今のを聞く限り、被害者今まさに争っている二人。
そして二人は、互いに相手がやったと思っているようだ。
俺達は彼らを止めようとする。
「何の騒ぎだね!?」
その時、大市に領邦軍が現れた。
流石に二人も争いを止める。
「早朝から大騒ぎしすぎだ! 誰でもいい、状況を説明しろ!」
それを聞いてオットーさんが事件のことを話す。
途中で誰も口を挟まず、最後まで聞き終えた領邦軍の隊長は頷いた。
「ならば話は早い。その二人の商人を引っ立てろ」
「「ハッ!」」
何言ってやがるんだこいつら!?
「互いの屋台を壊され、商品まで盗まれた。しかも昨日二人の間で諍いがあったとなれば答えは一つだ。いがみ合う二人が同じ事件を同時に起こしたということに他ならない」
いくらなんでも無茶苦茶だ。
そんな暴論が通るはずがないだろう。
「捜査もしないうちからそうするのはいささか強引過ぎると思うのだが?」
ラウラも同じ意見のようで、領邦軍にそう意見する。
「ふん、我々にはこんな小事に手間を割く余裕はないのだよ。このまま騒ぎを続けるのであればこちらはさっき言ったとおりに処理するしかないが?」
そういわれた二人は力なくうなだれる。
「そうだ。それでいい。あまり余計な仕事を増やさせないでもらおう。今後は注意したまえ」
そのまま領邦軍は去っていく。
「・・・何も解決してねぇじゃねぇか」
思わず呟いた言葉に皆は頷く。
領邦軍も今までこんなことはしていなかったはずなのになぜ・・・。
「腑に落ちぬことは多いじゃろうが、お前さんたちは頭を冷やしてくるが良かろう。勝手に決め付けて殴り合っても、状況は悪くなるだけじゃ」
「「・・・はい」」
その後はその場に居た全員で壊れた屋台を何とかし、それが終わった後、俺達4人はオットーさんに連れられて彼の自宅へとお邪魔した。
「お前さんたちのおかげで無事に大市を開くことができた。礼を言わせてくれ」
「いえ、あれ以上の大事にならなくて幸いでした」
会話が途切れ、沈黙。
「でも、領邦軍が駆けつけたのに何の解決にもならないなんてね・・・」
「そうだね。あれが本来のやり方、なんてはずはないのに・・・」
アリサとエリオットがそう呟く。
「ケルディックの抱える問題はなかなかに大きい、ということか」
「ああ、そうなるだろうな」
「わしらが増税への陳情を取り下げぬ限り、彼らはあのような姿勢をとり続けることじゃろう。今までは介入すらせずに放置していた分、今日のはまだマシじゃろう」
「でも、このままじゃああの二人も収まりが付かないだろうし・・・」
確かにそうだろう。
特にマルコさんは奥で売ってギリギリと言っていたため、よりキツイだろう。
「噂が広まれば、利用者の足が遠のくことは想像に難くない。このままではいかんと、ワシもみなもそう思うておるのじゃが・・・」
そうすれば全体の収入が減り、それによって税収の総額も減る。
アルバレア家の対応によっては昨日俺が言ったような悪循環に陥る可能性も高い。
「・・・一つ、いいですか?」
「む? どうしたのかね? リィン君」
「今回の事件、俺達に調査させて頂きたい」
「「「「!?」」」」
オットーさんはもちろん、アリサたちも驚愕する。
「ええっ!?」
「屋台を壊した犯人を、私達で見つけるというのか?」
「リィン、本気なの!?」
「当然だ」
エリオットの疑問詞に簡潔に答える。
「・・・しかし、大市でのことは、ワシら商人の問題じゃ。それに、年長者として、学生の身分であるお前さんたちに押し付けるわけにはいかん」
「そういうわけにはいかない。ここまでの事件が起きている。もはや商人だけの問題として片付けられる事じゃない。それに、領邦軍も頼れないのであれば、今一番自由に動ける俺達が行動するのが最善だ。士官学生としても、この事件、見過ごすわけにはいかない!」
あ、しまった。
つい敬語が抜けた。
「で、でもリィン。リィンはともかく、僕達は素人だよ?」
「そうよ。せめてサラ教官の指示を待つべきじゃないかしら?」
エリオットとアリサの言葉に、俺は首を横に振る。
「二人とも、今は特別実習だ。今日まで俺達は範囲内でなら自由に動け、何をするかは全て俺達の判断に委ねられている。ただ指示を待つだけじゃ何も始まらない。違うか?」
「「「・・・」」」
「事件の調査をしないというのなら皆は実習課題のほうを進めてくれ。最悪、俺一人でも何とかする手段ならある。それに、課題と調査を無理なく同時に進める計画も立てた」
沈黙し、考え込む3人。
やがてラウラが口を開いた。
「私は参加しよう。このまま何もしないというのは我が誇りを汚すのと同義だからな」
「そうね・・・見てみぬふりをするなんてやっていいわけないものね・・・私もやるわ」
「自信はないけど・・・僕も頑張るよ!」
よし、全員参加だな。
「いや、しかし・・・」
「オットーさん、これは俺達が自主的にやると決めたことです。貴方はいざというときに俺達が事件の捜査をしていたという事の証人になって欲しい。頼めますか?」
「・・・わかった。よろしく頼みますぞ」
「「「「はい!」」」」
「それで、どうするの? さっきは課題も同時にこなせるって言ってたけど」
外に出た俺達。
アリサの言葉に俺は口を開く。
「3人は大市を中心に聞き込みを。もし財布を探している人を見つけたら、リジーさんの屋台まで連れて行ってくれ。その間に俺は西街道の大型魔獣をブッ潰してくる。戻ったらオットーさんに報告した後連絡を入れるから、一旦集まって集めた情報の整理だ。いいな?」
「「「了解!」」」
「よし、解散!」
俺は魔導術で身体強化を使いながら西街道へ向かう。
アリサは大市会場、ラウラは街の西側、エリオットは街の東側へ。
ラウザルク、ヘイスト、ピオラ併用。
街道を一気に駆け抜ける。
魔導術で強化した視力で猛禽形の魔獣を捕らえる。
気配を探り、魔獣の周囲に人が居ないことを確認し、更に加速。
右の拳に業炎を宿し、加速の力を乗せた一撃を叩き込む。
ズヴォーダーはその力に耐え切れず、体を霧散させた。
ここからではARCUSの電波、じゃなくて導力波は届かない。
加速が切れ、ヘイストだけを掛けなおす。
ダッシュでケルディックへ戻る。
オットーさんに討伐完了の報告をした後、ARCUSで全員に連絡。
集合場所は風見亭。
「よし、まずはアリサが報告を頼む。次はエリオット。その後ラウラだ」
会議の場所は風見亭内の俺達に割り当てられた部屋。
つまりは俺達が泊まった部屋。
俺の言葉に3人が頷く。
「私はまず、被害にあった二人に話を聞いてみたわ。どちらもアリバイはあるから二人の商人は犯人じゃないのは間違いないわね。マルコさんは加工食品、ハインツさんの方は装飾品を盗まれた。どちらもかなりの量を盗られてるわ。あと、ハインツさんから預かった商品のサンプルがこれよ」
アリサが取り出したのは銀の腕輪。
確かこれは帝都発のブランド品だったはず。
「額にすればどちらも大損害。特にマルコさんは店を畳むしかないほどよ。二人ともお互いが犯人じゃないことはわかってるけれどそうでもしないと正気が保てないって感じだったわ」
アリサの報告が終わり、次はエリオット。
「僕のほうは手がかりはほとんどなかったかな。事件とは関係ないけど、財布を落とした人を見つけたよ。あとは、教会の方で女の子から話を聞いてね。最近見慣れない男の人が猫にちょっかいを出していたんだって。その人は酔っ払っていたみたい」
見慣れない酔っ払いね・・・。
「その酔っ払いは私のほうで見つけた。話はあまりできなかったが事件の関係者には思えなかった。彼から聞いた情報は彼が仕事をクビになったらしいという事だけだ」
仕事をクビになった酔っ払いが自棄になって猫にちょっかいを、か・・・。
「その人の名前、聞いたか?」
「いや、上手く話ができなかった。だが、どうも昨日は道端で寝ていたらしい。街の人がそう言っていた」
ふむ、なるほど。
「俺からも一つ。これは、戻る途中で考え付いたことだけど、聞いてくれ。今回、騒ぎの仲裁に領邦軍が関わってきたよな? でも、今朝のオットーさんの話では、“今までは介入すらせずに放置していた”って言ってたよな?」
「ふむ、確かに」
ラウラの反応に頷く。
「このことは魔獣討伐の報告の時にオットーさんに確認した。間違いなく、領邦軍はこの2ヶ月間、一切大市に関わってないと言っていた」
「でも、それってどういうこと・・・?」
エリオットがそう尋ねてくる。
「考えられることはいくつかある。最悪なパターンでは・・・領邦軍が事件の犯人、もしくは犯人をけしかけてきた元凶」
「「「!?」」」
「そう考えると辻褄が合うんだ。大市での盗難事件はほぼゼロだ。その理由は街道の出入口を領邦軍が警備しているから。駅から列車を使おうにも不振人物は駅員に捕まるのが普通。そんな中で大量の商品を盗み出し、それが領邦軍に気づかれないというのはありえない。かといって、街に隠そうものなら隠せる場所は限られるからすぐ見つかる。なのに見つからないということは街から外に持ち出されたということ。そして領邦軍がそれを通したということなんだ」
一息つくために水を飲む。
「もう一つ。盗まれたのは二人だけ。しかも二人の店の場所は離れている。これは盗む側にとってやりづらい選択をしているということになる。それに金になるようなものを盗むにはもっといい店もあった。それから、盗むだけじゃなくて屋台も壊すっていうのはどう考えても盗む側にメリットがないどころか逆に手間がかかるという意味でデメリットになる」
「つまり・・・えっと・・・」
「纏めるとこうだ。離れた場所にある二つの店だけを狙い、その屋台を壊すことはムダだらけの行動だということ。これをやったのはどう考えても素人だ。そんな素人が大掛かりな盗みをやって、領邦軍に見つからないわけがない」
「だから、領邦軍はあえて犯人を見逃したってことになるのね」
「そうだ」
もうちょっとだけ続く。
悪ぃ、皆。あと少しだけ我慢してくれ。
「盗まれた二人は前日に同じ場所を巡って対立していた。でも、二人の接点ってそれだけなんだよ。盗む側から見て、それを理由に盗む店を選択する理由ってあると思うか?」
「ふむ・・・確かに、偶然にしてはできすぎているな」
「だろ? その上で領邦軍はこの事件をなかったことにしろと遠まわしにだけど言った。被害者の二人は公爵家の発行した許可証がかぶったから争った。許可証がダブるなんてことは今までほとんどなかったと聞いている」
「意図的に用意された状況、という可能性が高いというわけね」
「で、でも、領邦軍が犯人だってまだ決まったわけじゃないんでしょ?」
「ああ、そうだ。だからこれから行こうと思う」
「行こうって・・・どこに?」
「領邦軍の詰所にだ」
領邦軍詰所に殴りこみ、とは行かないまでも電撃訪問だ。
揺さぶりを掛けてボロを出すかどうかはちょっとキツイが・・・。
士官学生の身分を利用したラウラの言葉で、隊長を引きずり出すのには成功した。
「領邦軍として、あれ以上の調査は行わないつもりですか?」
「何を言うかと思えば、そんなことか」
「そんなこと? 盗難事件というのは領地の治安に関わる問題。なのになぜ、“そんなこと”で片付けようとするんですかね? 領地の治安維持をするのが領邦軍の勤めでしょう?」
誰がどう見ても喧嘩を売ってるって?
喧嘩になれば領邦軍とか相手にもならないけど?
「ふん、威勢がいいな。だが、その認識ではまだまだ青い」
「・・・ほぅ?」
今ので俺の額には青筋が浮いたと思う。
「我々領邦軍が治安を維持するに当たって、各地を治める領主の意向が最も重要になる」
「アルバレア公爵家・・・」
「そうだ。領邦軍に属する以上、貴族の命令は絶対だ」
「つまり、どんな事件が起こっても、大市が少しでも関われば絶対に関与しないと?」
「そうなるな。領邦軍にとって、貴族の意向こそが最重要となるからな」
本当に面倒だ。
「あの・・・すみません」
と、ここでエリオットが声を上げた。
「何だ?」
「被害者のハインツさんが取り扱っていた商品、あれは加工食品だし、もし街の中に隠してあるならゴキブリとかが沸いて衛生的に危ないと思います。だから、そちらだけでも何とかしたほうがいいんじゃないでしょうか?」
「何を言っている? 加工食品を扱っていたのはマルコとかいう地元商人だろう?」
ああ、そういうことか。
ナイスだエリオット。
「失礼、こちらの言い間違いでした。ですが、なぜ貴方がそれを知っているんでしょうかねぇ? ろくに調べもしてないくせにわかるなんておかしいですよ?」
思いっきり嫌な笑い方をしながらそう尋ねる。
「わ、我々の方でも独自の情報網があるということだ! これで話は終わりだ!」
めっちゃ動揺してんじゃん(笑)
「クロだな。ナイス、エリオット」
「あはは、とっさに思いついたことだったし・・・」
「でも結果オーライって感じね」
「うむ、これでかなり見えてきた」
「でもリィン、さっきの笑顔はかなりあくどかったわよ」
「挑発だ。かなり効いたと思うぜ」
領邦軍詰所を後にして街に出たとき、俺の視界にある人が入った。
「なあ、ラウラ。さっき見つけた酔っ払いってあの人でいいんだよな?」
「ああ、確かにそうだが・・・リィン?」
「仕事をクビにされたって言ってたよな?」
「う、うむ。確かに言っていた」
「リィン、どうかしたの?」
「・・・ありえねぇ」
「「「え?」」」
3人の疑問符を無視してその人のほうへ向かう。
「ジョンソンさん」
「ぅぁぁ~、おぅ? リィン君じゃねぇかぁ~」
「仕事をクビになったって本当ですか?」
「あぁ~? 何でそんなことを知って・・・おぉ、さっきの嬢ちゃんじゃねぇかぁ」
「彼女から聞いたんです。いったい何があったんです?」
「俺もわけがわかんねぇよぉ~、ヒック。何にも拙い事なんかありゃしなかったのに、いきなりクロイツェン州の役人さんがやってきて解雇されちまったんだよぉぉぉ」
「何だと・・・!?」
「ね、ねぇリィン。この人と知り合いなの?」
アリサが訊いてきた。
「この人は“ルナリア自然公園”の管理人だ」
「! それって・・・昨日の」
そう、昨日皆を連れて行こうとした場所だ。
閉鎖中ということで門前払いを喰らったが。
「この人が居なかったのはおかしいと思っていた。あの時は一時的な休暇でももらっているんだろうと思っていたが、まさかクビになっているなんてな・・・」
しかし、そうなると一つ気になることが。
「ジョンソンさん、あんたが解雇されたってことは今あの公園はどうなっているんだ? 閉鎖中って言ってたが、まさか公園ごと潰れるのか!?」
「それがさぁ~、なんかチャラチャラした若造共が管理人の制服着て大きな荷物運んでたんだよぉ、ヒック、昨日の夜中に。もうわけがわからねぇよぉ~」
「昨日の夜中にだと!?」
もう間違いない。
犯人の潜伏場所はルナリア自然公園。
領邦軍どころか公爵家まで完全にグルということか。
こんなことしても自分に不利益だってのに。
「ジョンソンさん、あんたの居場所は、俺達が絶対に取り返してみせる」
「お、おぉ?」
「待っていてくれ。必ず取り返す! 皆、聞いたか! これからルナリア自然公園へ殴り込む! 管理人のこの人が居ない以上、魔獣が増えているだろう。準備はできているか?」
「問題ない!」
「いつでもいけるわ!」
「準備ならばっちりできてるよ!」
「よし、盗まれた商品と奪われた自然公園を取り戻す! 行くぞお前ら!」
「「「おー!」」」
説明におかしいところがあるかもしれません。
もし見つけたら、感想やメッセージでお知らせください。
次回はケルディック編後編になります。
ここ3週間感想がゼロなのでかなり堪えてます。
感想ください。
できれば前話分も含めてお願いします。