龍閃の軌跡   作:通りすがりの熾天龍

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第3話。今回も長め。
特別オリエンテーリング終了までです。


Ⅶ組、成立

スピーカーから聞こえる会話を聞いて、サラ・バレスタインは満足そうな笑みを浮かべた。

 

「まさかここまでとはね。やるじゃない、リィン・シュバルツァー君。クラスの重心にとは思っていたけど、これほどなら中心にもなってくれそうね」

 

まだ日中であるというのに、彼女は手に持ったジョッキからビールを飲む。

 

「ぷは、確か、『龍の剣聖』だったかしら。Ⅶ組最強も彼で間違いない、っていうか他のメンバーとの実力差がありすぎるのは問題になるかもしれないわね」

 

落とし穴の下の部屋には、元から集音機が仕掛けてある。

それを、1階にあるスピーカーから聞ける仕組みになっているのだ。

 

「判断力、統率力、洞察力etc・・・どれも群を抜いているわね。実習の班分けは彼を中心にした方がいいわね。でもいきなりあの二人の仲を取り持たせようとしても二人の方が反発してこじらせそうね。なら1回間を置いて・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム1が出発して10分。今チーム2が出発した。

俺達の番になるまでの20分間、俺は何をしていたかというと。

 

「リィン・・・魔法(アーツ)を斬るなんて凄すぎるよ」

「そうですね・・・。ですが、そのおかげで私達が事前練習できるわけですし、ここはリィンさんに感謝しないといけませんね」

「気持ちは有難く受取ろう。二人とも、かなりスムーズになってきてるぞ」

 

エリオット達魔道杖組の事前練習を手伝っていた。

具体的に言えばエリオット達が放つ魔法を俺が斬る。

只魔法を放つだけでも繰り返し行うことで慣れていき、コツを掴むことなどにも繋がる。

ちなみに魔法を斬ったのは八葉の技、五の型《残月》に連なる秘技《無月》だ。

基本の残月と同じ挙動に見えるが、その剣閃は球殻状に見える。

素人相手から見れば手を刀の柄に添えただけなのに突然球殻状の何かが現れて魔法を無効化するように見えるだろう。

一応某死神の漫画は関係ないぞ。

もう一つちなみに魔法の中心となる一点を斬ることによって魔法を斬ることもしていた。

簡単に言えば魔法破壊(スペルブラスト)。SAO世界では有名な主人公にしか使えない技である。

しかし八葉はこれをいとも簡単にやってのける。しかもソードスキル要らず。

だがしかし、この技術に八葉としての技名は無い。

ゆえに俺は便宜上ではあるが魔法破壊(スペルブラスト)の名前を使っている。

今ここで使ったのはほぼ魔法破壊(スペルブラスト)で、無月は一度だけ。

実はどちらの技にも大規模魔法に対応できるグレードアップ版が存在する。

 

 

 

 

 

さて、そろそろ10分かな。

 

「よし、俺達も行こう。さっきも言ったが、基本俺は二人のサポートに回る」

「わかった。頑張るよ」

「私も頑張ります。でないとずっとリィンさんに頼る羽目になってしまいますから」

「よっしゃ、チーム3、行くぞ!」

「「うん(はい)!」」

 

いざ、迷宮(ダンジョン)へ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はいはい弧影斬弧影斬。

動きを封じてるだけだけど。

 

「ブルーララバイ!」

「イセリアルエッジ!」

 

おかげで二人とも安心して魔道杖でいろいろと試してる。

ちなみに魔道杖があればARCUSから放つ魔法も待機時間要らずらしい。すげー。

俺の場合は魔法の代わりに『異能』があると思ってくれれば。こっちも待機時間要らないし。

まだ皆(ラウラ除く)には見せてないけど。

ラウラがなぜ知ってるのか?

レグラムでヴィクターさんとバトった時に見物してたし。

『力』の方はラウラにも見せていない。

理由? 暴走怖いでござる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで探索開始から約1時間。

なんと新たな発見が。

魔道杖って・・・変形(モードチェンジ)できたのか。

え、詳細?

エリオットの魔道杖がバイオリンになった。

しかも演奏することで攻撃とか回復とかいろいろできる。すげー。

どうやらイメージが重要らしく、エマはちゃんと変形させられなかった。

ピアノとかにも変形させてみてほしいところだ。

え? もう試した?

大きさが違いすぎて上手くいかない? さいでっか。

じゃあ召喚形式ならどうよ?

 

「それです!」

「「えっ?」」

 

エマ、急に何だ!?

そう思ってたら、エマは何かを念じながら魔道杖で床を突いた。

 

「来てください、セリーヌ!」

 

エマ は 黒猫 を 召喚 した

・・・マジですか。

明らかに混乱している黒猫にエマはしゃがんで話しかける。

 

「ごめんなさい、急に呼んだりして。後で説明しますから」

 

再び魔道杖で床を突くと、魔法陣が黒猫を帰した。

 

「マジでできるんだ、召喚」

「確かに、これならピアノも出せるね」

 

エリオットよ、召喚するなら攻撃に耐えられる特別製にしろよ?

よし、俺も今度『異能』で再現してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に進む。なにやら通路の先に無数の気配が。

その場所を覗いてみると広めの部屋に魔獣がいっぱい。

モンスターハウスかよ!

そりゃあ旅の途中で立ち寄った遺跡とかにもこういうのあったけどさ。

 

「リ、リィン・・・ここは危険だよ。別の道を行こうよ」

 

エリオットが心配そうに提案。

 

「二人はそこで見てろ。この程度、軽く殲滅できる」

 

ここの魔獣のレベルはかなり低い。

だから俺が今まで出くわしたモンスターハウスの中では危険度は一番低いだろう。

一言で言えば、余裕っすわ。

ま、油断はしないけどね。

部屋に入ると魔獣たちが一気に敵意を露わにする。

んじゃ、征くぜ。

 

「二の型、秘儀《裏疾風》!」

 

神速の斬撃からの更なる連撃だ。

たったこれだけで魔獣の群れは3分の1に激減した。

ようやく実力差を感じたのか逃げ出そうとする魔獣の残党。

 

「逃がすかよ。四の型、奥義《蒼焔の太刀》!」

 

蒼焔の斬撃を弧影斬のごとく飛ばし、魔獣の殲滅が完了した。

 

 

 

 

 

「す、凄いね・・・リィンって」

「本当に、桁違いというか・・・」

 

二人とも呆然としている。

 

「この程度はまだ序の口だ。ここの魔獣は俺が倒してきた中でもかなり弱い部類に入る。それこそ、下から数えた方が早いくらいにな」

 

さあ、先に進もうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セブンラプソディ!」

「ロードアルベリオン!」

 

おー、ずいぶんと強力な技じゃないの。

 

「だいぶ慣れてきたな、二人とも。その調子だぜ」

「うん、ありがとう・・・ってリィンは何やってるの!?」

「釣り」

 

道の脇を流れている水路だが、普段釣る人がいないからだろうがよく釣れる。

それに釣りってけっこう稼げるんだぜ。セピス吐き出すし、食材としても売れる。

旅の中では重宝する収入手段だ。

お、ソーディゲット♪ なかなかでかいな。

吐き出したセピスは頂いてキャッチアンドリリース。

今は収入には困らない。旅の道中と違って口座からミラを引き出せるからな。

お、今度はけっこう大物だ! さて、何かな~?

 

「レインボウ・・・だと・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリオット、セブンラプソディの七つの球体はどれくらい操作できる?」

「え?」

 

再び探索を開始し、その道中、ちょっとエリオットに訊いてみた。

 

「空属性の球体を敵のど真ん中に突っ込ませて重力で集めてから他の球体をぶつけたりとか、球体を七つ同時にじゃなく先に上位3属性を先に纏めてぶつけて空間支配を発動させて残り4属性の力を高めてからぶつけるとか、そんな感じのことができるかってことだ」

「うーん、流石にやってみないとわからないよ」

 

まぁ、そうだろうな、意識してやってみないとわからないはずだしな。

 

「後は、球体を形状変化させて円錐形とかキューブ状とか刃の形にしたり・・・」

 

あ、もう一つ思い付いた。

 

「バイオリン以外にもトランペットなんかに変形させれば直接エネルギー波で攻撃とかがイメージしやすくなると思うんだが、どうだ?」

「あ、いいねそれ。それも試してみるよ」

 

そんじゃ、次はエマにアドバイス。

 

「エマ、さっきの技、ロードアルベリオンってさっきやった召喚の応用か?」

「あ、はい。そうなりますね」

「塔を一個だけ召喚すれば気力の負担はどうなる?」

「一気に軽減されますね。ですが、それでは攻撃が不安定に・・・」

 

複数個の塔で攻撃を安定させていたのか。

 

「相手の足元に塔を召喚すればそいつの攻撃の照準をずらせるし、自分の足元に召喚すれば移動手段にもなると思う。強度も十分そうだから盾代わりに使うこともできるはずだ」

「あっ」

 

納得したようだな。

 

 

 

 

 

次の瞬間、明らかにヤバそうな獣の咆哮が聞こえた。

しかもその咆哮は間違いなく1体や2体のものではない。

 

「リ、リィン・・・今のって・・・」

「ヤベェな。多分、これまでのとは桁違いの奴が何匹か固まって居やがる」

「そ、それってまさか、皆さんが・・・」

 

急がないと拙いな。

 

「二人とも、先に謝っておく」

「「え?」」

 

俺は疑問符を浮かべた二人を片手ずつで担ぎ上げた。

 

「うわわっ!?」

「きゃあっ!?」

 

俺はそのまま一気に跳躍し、上の通路へ着地。

咆哮の発生源であろう場所へ急ぎながら、二人に言う。

 

「エリオット、エマ、治癒魔法の多重駆動準備を頼む!」

「えぇ!?」

「急げ!」

「「わ、わかった(わ、わかりました)!」」

 

担がれながらもARCUSを駆動させる二人。

俺は一瞬たりとも足を止めず、急ぎ戦場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を遡ること数分前、ラウラ率いるチーム1とフィー率いるチーム2は出口を目の前にした大部屋で鉢合わせた。

どうやらこのダンジョン、正解の道は一つではないのだろう。

実際、この大部屋に繋がる通路はざっと見ただけでも四つある。

そして出口は階段を上った先のようだ。

案の定、気まずい雰囲気を作り出すユーシスとマキアス。

その様子に、他の4人は苦笑する。

そんな空気を切り替えるようにラウラはフィーに尋ねた。

 

「ところで、リィン達はまだか?」

「ん・・・たぶんね。こっちは会わなかったよ」

「そうか・・・こちらもだ」

 

会話終了。未だに気まずい雰囲気は拭えていない。

 

「ならどうする? ここで彼らを待つか?」

「それよりも、一度連絡を取った方がいいんじゃないかしら? あ、で、でも私は無理だからね! その・・・さっきの・・・アレ、で、気まずいし・・・」

 

ガイウスの言葉に続けたアリサは結局尻込みし、3人は苦笑。

 

「確か通信機能があったと言っていたな。しかし、俺は機械を使ったことなどないのだが・・・」

「私も機械は・・・その、少々苦手でな。間違って壊してしまいそうで・・・」

「なら私がするよ。ある程度なら使い慣れてるから」

 

結局、リィン達への連絡はフィーがすることになった。

 

「何か申し訳ない気もするけど、お願いね」

「ん、任された」

 

アリサの言葉に応えたフィーがARCUSを取出し、蓋を開こうとしたとき、この場には相応しくないであろう音、ガゴンという大きなものが動き出したような音が響いた。

全員の動きが止まる。

もちろん、一触即発状態だった二人もだ。

 

「何だ、今の音は?」

 

マキアスが周囲を見回しながら誰にともなく問いかける。

 

「っ!? あれだ!」

 

ガイウスが何かに気づき、それを指差した。

そこには、ドラゴンを模した悪魔のような石像。

しかしそれは、()()()()()

その場の全員が息をのむ中、石像に色が付き、魔獣・・・いや、魔物へと変化した。

 

石の守護者(ガーゴイル)・・・! 古の伝承にある存在が、何故!?」

 

ユーシスが驚愕の言葉を放つ。

そのガーゴイルは台座のような場所から飛び降り、階段への道を塞ぐように構える。

ガーゴイルは前足の片方に禍々しいオーラを纏わせ、床を叩く。

すると、6人の周囲を取り囲むように魔法陣がいくつも出現。

なんとそこから、新たなガーゴイルが出現したのだ。

ガーゴイルは全部で、10体。

 

「な、何だこの数は!?」

「ありえん! 常軌を逸している!」

 

マキアスとユーシスが叫ぶ。

 

「帝国というのは、こんな化物が普通にいるのか?」

「いや、少なくとも古い伝承でしか出てこない!」

 

ガイウスの疑問にラウラが叫ぶように答える。

 

「キツイね。多分、私やラウラでも同時に2体まで相手にするのが限界」

「じゃ、じゃあどうするのよ! こんな数、どうやって相手にしろっていうの!?」

 

フィーが冷静に分析するが、その結果にアリサが悲鳴を上げる。

ガーゴイル達が咆哮を上げる。

その大音量に耳を塞ぐ6人。

 

「く・・・今のがリィン達に聞こえていることを祈ろう。あの男ならたとえこの数でも一蹴できるはずだ。リィン達が来るまで、なんとしても耐えきらねば!」

ラウラの言葉に、覚悟を決める5人。

 

もっとも、フィーは既に覚悟を決めていたようだが。

 

「まずは囲まれている状況を何とかせねば! アリサ、マキアス! 援護を頼む! ガイウスとユーシスは階段方面のガーゴイルに牽制を! 私とフィーで道を作る!」

「わかったわ!」

「やるしかないか!」

「ふん、いいだろう!」

「任せてくれ!」

了解(ヤー)!」

 

意図的になのかはわからないが、ガーゴイルによる包囲網は階段側の方が密になっている。

ならば、比較的薄い逆側を突破するのが最善策である。

 

 

 

 

 

やるべきことは一つ。全力で立ち向かえ。必ず全員、生き延びろ。

その意識が一つになったとき、何かが変わった。

皆の動き、判断、思考。それらが()()()。手に取るようにわかる。

フィーがまず視界を封じようと考える。

それをアリサが察知し、フィーと同時にガーゴイルに目つぶしを喰らわせる。

目を抑えて苦しむ個体とそのすぐわきの1体に向け、ラウラが走る。

目を潰されていない方のガーゴイルがラウラに爪を振り下ろそうとする。

その手をマキアスが銃弾で上にハジく。

同時に、アリサが階段方面の1体に向けて矢を射る。

ユーシスがガーゴイルの顎をかち上げ、その個体の目に矢が直撃した。

苦しみで暴れるガーゴイルの腕をユーシスは横にはじく。

同時にガイウスが隣の個体の頭を横に弾き、腕と頭がぶつかり合った。

互いに攻撃されたと思い暴れだす2体からユーシスとガイウスは距離を取り、そこにアリサの《ゴルトスフィア》が炸裂する。

ラウラの方では彼女が《洸刃乱舞》を決め、怯んだ2体にマキアスとフィーの銃撃が決まった。

アリサとマキアスは再び互いの位置を入れ替え、その途中で横側のガーゴイル達に牽制射撃。

同時にフィーも両横に向けて射撃を行う。

ラウラが再び《洸刃乱舞》で2体のガーゴイルの体勢を崩す。

次の瞬間、全員が中央に集まり、目を伏せた。

それと同時にフィーが上に投げた閃光弾が炸裂し、ガーゴイル達は怯む。

特に、ラウラの攻撃で体勢を崩しかけた2体は強烈な光で完全にバランスを崩し、倒れこむ。

ラウラが気配からそれを読み取り、それが全員に伝わる。

同時にその方向へ走り出し、ラウラが渾身の一撃で倒れこんだガーゴイルの1体を吹き飛ばした。

そうしてできた道を6人が走り抜け、ようやくガーゴイル達の包囲網を抜けた。

しかしダメージこそ与えたものの、まだ1体も倒せずじまい。

その上奴等には自己再生能力がある。

彼らはガーゴイルに向き直り、今度は魔物の猛攻を耐えきるために構える。

先ほど転んだガーゴイルの1体が姿勢を低く構え、飛びかかろうと――――

 

 

 

 

 

「「マルチドライブ・ティアラ!」」

 

 

二人分の声が聞こえ、6人の体が青い光で包まれた。

突然の現象に警戒し、ガーゴイルが飛びかかるのをやめる。

数瞬後、床を強く踏みつけたような音、その後ドサッという音二つが立て続けに聞こえ、

 

「「痛っ!?」」

 

二人分の悲鳴が聞こえた。

前方を警戒しつつ6人が振り向く。

そこには、尻餅をついたエリオットとエマ。

そして二人の間に立っているのは――――

 

「何とか間に合ったみたいだな。お待たせ」

 

現時点でこの状況を唯一打開できる人物――――リィン・シュバルツァーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこをどう見てもガーゴイル。

今までにも遺跡なんかで戦ったことがある。

暗黒時代ではメジャー(多分)な()()だ。

しかしこの数はおかしい。

どんなヤバい遺跡でもこいつが出てきたのは多くて2体。

もっとも、遺跡によって強さも違うが。

それが何で10体いるのか。弱いけど。

 

「エリオットはラウラ達の回復を頼む。それとできるだけ後ろに下がれ、ってかもう通路に入っちゃって。エマは通路の向こうから魔獣が来た時の迎撃を頼む」

「任せて!」

「わかりました!」

 

全員が通路へ退避。エマが彼らの更に後ろへ。

 

「すまない、リィン。悔しいが、あとはそなたに任せる」

「おぅ、任せろ」

 

そこにガーゴイルの1体が飛びかかってきた。

 

「リィン!」

「危ないぞ!」

 

アリサとマキアスの悲鳴が聞こえる中、俺は右手を刀に添え、

 

「五の型《残月》」

 

抜刀から納刀まで、一切を目視できないほどの神速の斬撃。

ガーゴイルを縦に両断した。

真っ二つになっても慣性で俺に向かってくるそれを蹴り飛ばして他のガーゴイルにぶち当てる。

 

「嘘だろ・・・!?」

「す、凄い・・・」

 

マキアスとアリサの言葉に肩を竦め、刀を抜いて下段の構え。

ガーゴイル達は同族を一撃で倒されたことに警戒しているのか、飛びかかってこない。

代わりに、じりじりと一か所に集まりつつある。

――――悪いが、それは逆に命取りだ。

俺は闘気を高め、それを刀に集中させる。

 

「無明を切り裂く閃火の一刀――――」

 

刀が膨大な量の焔を纏う。

 

「――――八葉一刀流・四の型」

 

縮地で距離を詰め、焔を纏う太刀でガーゴイルの群れに斬りかかる。

限界まで速度を引き上げ、多方向から何度も斬る。

百・・・千・・・万・・・。

最後の一撃でガーゴイルの群れを斬り抜け、ゆっくりと納刀。

 

「終ノ太刀――――《暁》!」

 

俺が完全に納刀するのと同時に斬撃の焔が一気に炸裂し、ガーゴイル達を切り刻んだ。

確認のため後ろを向く。

全身をバラバラに斬り離され、消滅していく9体のガーゴイル。

最初に1体倒しているため、これで全部のはずだ。

改めて周囲を確認。厄介そうな気配は・・・無いな。

通路の皆を見る。

既に俺の実力を知るラウラ以外が唖然として俺を見ている。

彼らの後ろにも、魔獣の気配はない。

殲滅――――完了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、階段の上に気配を感じてその方を見る。

そこには通路の皆と同じく、唖然とした顔のサラ教官とヴァンダイク学院長。

更に、さも当然だといわんばかりの表情で頷いている・・・

 

「・・・オリビエ!?」

「やぁ、リィン君。久しぶりだね」

「あ、いや、確かに久しぶりだけど・・・何でいるの!?」

「おっと、今はそれより重要な話があるんじゃないのかい?」

 

オリビエがサラ教官をどつく。

それでようやく我に返ったサラ教官は、階段を下りてきて俺たちの前へ。

 

「あんなにあっさり倒すとは思わなかったわ。剣聖の実力・・・凄じいわね。・・・とにかく、入学式の特別オリエンテーリングは終了よ。で、ここからが本題」

 

俺を中心に横一列に並んだ皆の、誰かがゴクリと息をのんだ。

 

「貴方達のうち、不思議な感覚を覚えた人はいるかしら? 具体的には、他の人の動きが手に取るようにわかる、といった感じね」

「あっ」

 

サラ教官の言葉に、チーム3以外の6人が反応した。

 

「既に体験した人もいるようね。それは、ARCUSのもっとも重要な機能《戦術リンク》の力よ。それによって今までではできなかったあらゆる作戦行動が可能になり、戦術の幅が大きく広がるわ。でも、ARCUSはまだ試験段階。個人的な適正には大きな差がある。新入生の中でそれが最も高かったのが君達9人」

 

ここでサラ教官は、今までで一番真剣な表情になった。

 

「先に言っちゃうと、《Ⅶ組》が設立された目的は、ARCUSの試験運用以外にもいくつかあるわ。おそらく、リィン・シュバルツァー君には予想されているでしょうけどね。そして、Ⅶ組のカリキュラムは他のクラスと比べてかなりハードよ。それを踏まえて、聞かせて頂戴。貴方達が《Ⅶ組》に参加するのかどうかを。不参加を表明した場合は、本来貴方達が所属するはずのクラスへ配属しなおされるわ。貴族生徒はⅠ、Ⅱ組へ。平民生徒はⅢ~Ⅴ組へね。さあ、どうする?」

 

俺の予想通りなら・・・。

数秒考えて速攻挙手。

 

「リィン・シュバルツァー、参加します」

「えっ!?」

 

何人かの驚く声が聞こえる。

 

「早いわね。ちなみに、理由を聞かせてもらっても?」

「この学院には、自分を高めるために来ました。なのにわざわざヌルい方を選ぶなんてことはしませんよ。それに、貴族と平民の混合クラスならなおさらやる気が出るってもんです」

「なるほどね。他の人はどうする?」

 

俺に続くようにラウラ、ガイウス、エマ、エリオット、アリサ、フィーが参加を表明。

小競り合いに発展しかけたが、ユーシスとマキアスも参加を決意した。

サラ教官は満足そうに頷き、

 

「それでは、この場をもって特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する! この一年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい♪」

 

高らかに宣言した。

さて、重要な話も終わったし、そろそろ・・・

階段の上を見ると、そこには満足そうな笑みを浮かべる学院長の姿のみ。

一方、オリビエの姿はどこにもない。

あの放蕩皇子、逃げやがった!




オリジナル剣技登場。
これからもぼちぼち出していきます。

ガーゴイルの数は閃の軌跡の二次創作最多だと思います。
もっと多い作品とかあったら教えてください。

終の太刀《暁》は原作ゲームよりも強化したつもり。
それと、戦術リンクのシーンはどうだったでしょうか?


次の投稿は来週の予定です。
それでは!




11月28日、追記

マルチドライブはオリジナル設定です。
同一の魔法を多重駆動させて発動する、魔導杖限定の秘技扱い。
いろいろ考えた結果、このようにしました。

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