龍閃の軌跡   作:通りすがりの熾天龍

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3日連続投稿、本日2日目。
第5話、いきまーす。


4月1日

起床時間は5時。

俺はベッドから降り、窓に近づいてカーテンを開ける。

更に窓を開けてベランダに出る。

そして、朝の陽射しと風を浴びながら大きく伸びをする。

今日一日は新入生に限り自由行動日。

しかし諸事情により制服で行動しなければならず、電車の使用も禁止。

普段の自由行動日は私服OKである。

とりあえずさっさと着替え、昨夜買ったパンを頬張る。

さて、これから起こるであろう問題が一つ。

 

「郵便受け・・・大丈夫かな?」

 

つまりはそういうことである。

まだ配達される時間ではないだろうし、先に運動しに行こうか。

軽くランニングしながらトリスタを一周しよう。

ついでに学院内の施設の位置とかも見ていこう。

戻ってくる頃には届いているだろう。

期待半分、心配半分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽いランニング程度では汗もかかない俺である。

気配から誰もいないことを確かめ、学院の本校舎の周りを全力で20周程。

異能は使わず、本来の身体能力のみの全力である。

そうやって少し汗をかき、第三学生寮へと戻る。

そんなこんなで現在5時40分。

さて、郵便受けは・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・・わぉ」

 

受け取る前から郵便受けに入りきらないことは想定済み。というか確定。

手紙はすべて段ボール箱に入って郵便受けの下に置かれていた。

フィーがうずくまればギリギリ入れそうな大きさの箱に手紙がぎっしり。

ご丁寧に、箱には『リィン・シュバルツァー様宛』と書かれた紙が貼ってある。

手紙の数は軽く3桁に届いているだろう。

丁度郵便受けを見に来たであろうエリオットとマキアスが固まっていた。

 

「す、凄い数だね・・・」

「これ、全部、入学祝いなのか・・・?」

「多分な。ほぼ旅で出会った人たちからだろう。全員団体じゃなく個人で出してるな、多分」

 

二人は軽く街を見て回るそうで、自分宛の手紙を持ったまま外へ行った。

キルシェでゆっくり読むつもりなのかな。

 

 

 

 

 

大量の手紙が入った段ボール箱を抱え、自室へ向かう。

二階へ上がろうとしたとき、ちょうどエマが下りてきた。

 

「あ、おはようございます、リィンさん」

「おぅ、おはよう。皆早いんだな。ついそこでエリオットとマキアスにも会ったし」

「皆さん、慣れない場所で寝たから早く目が覚めちゃうんだと思いますよ」

 

私も同じですし、とエマは苦笑。

 

「そうか・・・俺はいつも5時に目が覚めるんだけどな」

「ラウラさんも朝は早いって言ってましたね。さっき会ったんですよ」

「俺もあいつも武術を嗜んでいるからな。そういう人は朝早く起きて鍛錬するもんさ」

 

ラウラも鍛錬に行ったんだろうしな。入れ違いかな?

 

「リィンさんは今してきたんですか?」

「まぁな。ランニングついでに街をざっと見てきた」

「そうなんですか。あ、そういえばそれは新しく届いた荷物かなんかですか?」

 

エマが指し示したのは俺が抱える段ボール箱。

 

「違うんだなぁ、これが。こいつは今朝届いたばかりの手紙だ」

「えぇ!? これ全部ですか!?」

 

エマのリアクションもなかなかに面白い。

 

「家族とか、故郷の人達、それと旅で出会った人達からの入学祝いさ」

「そうですか・・・。なんか、旅って憧れますね」

「そうだろう? 何ならエマもやってみたら?」

「えぇ!? そ、そんな、私には無理ですよ!」

 

体力もありませんし・・・、と続けるエマ。

 

「徒歩だけが旅じゃないんだ。電車で大陸横断の旅なんてのも面白いと思うぜ」

「いいかもしれませんね。卒業したら行ってみようかな・・・」

「おぅ、そうしろ。で、エマはこれから外? エリオット達はそうしたけど」

「はい。キルシェで何か買おうと思いまして。確か今日だけ開店が早いんですよね」

「らしいな。俺もさっき飲み物買って飲んできた」

 

新入生のためにだったはずだ。

慣れない新生活で早起きする生徒が多いかららしい。

キルシェは5時半に開いた。

 

「んじゃ、俺はこれで。よい休日を」

「あ、はい。よい休日を」

 

俺はエマと別れ、再び自室へ向かう。

 

 

 

 

2階に着き、部屋に入ろうとしたとき、ガイウスが彼の自室から出てきた。

 

「お。おはよう、ガイウス」

「ああ、おはよう、リィン。君も早いな」

「まぁな。といっても今日は皆早起きらしいけど」

 

新生活に慣れないからな。

 

「そうか。俺はむしろ夜眠れなくてたった今起きたところだ。いつもはもう少し早いが」

「あ~、そっちか。俺はいつも通りだけどな」

「旅で慣れていたから、か?」

「正解」

 

旅では寝る環境も様々だったからな。

 

「んで、これは旅先で出会った人達からの入学祝い」

「なるほど、多いな。それだけリィンの人脈の広さが伺えるな」

「サンキュー。あ、それと、キルシェは今日限りだけど既に開いてるぞ」

「ふむ・・・ならばそこで朝食にするか。リィンも一緒にどうだ?」

「俺はこれから手紙の開封で忙しくなるから。この量だと読むのも一苦労だぜ」

「そうか。なら、俺はこれで」

「んじゃな」

 

ガイウスは下に降りていき、俺は自室へ入る。

さあ、手紙を読もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付いたらもう13時。

手紙を読むだけで7時間も費やしたことになるのか。

とりあえず一通り読み終えたけど、朝食抜きになってしまった。

ランニング前に食べたパン1個は朝食に入らない。

気付いたら猛烈に腹減ったな。

・・・よし、自炊しよう。

 

 

 

 

というわけでブランドン商店へ。

鶏肉や卵、調味料幾つか、などなど。

キッチンには何も無かった。

調味料や食材はおろか、食器や調理器具すらも。

強いて言うなら水道とクッキングヒーターと冷蔵庫と換気扇のみ。

なんとヒーターは最新式の導力IH。

冷蔵庫は個人の部屋の小さいものとは違い、600L代の大きなやつ。

そんな状況だったから昨日はキルシェで夕食にした。

せめて電子、じゃなかった導力レンジとオーブントースター、食器洗浄機は欲しい。

あと炊飯器も。

ミキサーとかはまたいずれ。少なくとも今すぐには必要ない。

トリスタは帝都に近く、人口もそこそこ多いため、大体の店が揃っている。

今日、新入生だけが休日なのも生活必需品をそろえる時間を作るため。

寮に戻って買った食材を冷蔵庫へ投入。

とりあえず次は調理器具と食器だ。

まず早急に必要な分だけ買う。

残りの器具等や導力レンジ他あたりは昼飯食ってから買いに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キッチンに戻り調理を開始。

導力レンジを買ったら自由行動日とかに照り焼きチキンピザを作りたい。

焼いた鶏肉を薄切りにし、塩コショウを軽く振りかける。

 

「今から作るのか?」

「お、ユーシス」

 

ユーシスがキッチンに入ってきた。

俺は作業を続けながら

 

「いやな、飯食うのが遅くなっちまって。朝も食い忘れたし、少し多めにと思ってな」

「お前でも抜けているところがあるんだな」

「人間、完璧なんてありえないよ。皆はもう食べちゃった?」

「全員キルシェでな。ついでだがコーヒー豆を買ってきた。よければ使うがいい」

「おぅ、サンキュ」

 

俺にコーヒー豆を渡し、ユーシスは自室へ戻っていった。

コーヒーメーカーを買わないとな。

とりあえず今は俺の昼食。次は卵だ。

 

 

 

 

 

「おいしそう」

「食べてきたんじゃないのか?」

 

現時刻14時。いかん、昨日の昼と同じような時間になってしまった。

フィーが俺の作った遅い昼食をじーっと見ている。

 

「そうだけど、これ見たらおなかすいてきた」

「おいおい・・・」

 

俺が作ったのはハンバーガーのようなもの。

太くて短めのコッペパンに調理した具材を挟んだものだ。

鶏肉や卵、チーズにトマト、白身魚などなど。

ちなみに個数は15個。

朝食を抜いてしまったため、多めに作った。

 

「2、3個食べていい?」

「つまみ食いにしては多すぎるだろうに」

 

と、そこにアリサが入ってきた。

 

「リィン、今から昼食? ずいぶん多いわね」

 

アリサが俺の昼食を見て察したのか、そう尋ねてくる。

 

「まぁ、な。手紙呼んでたら朝も食い忘れちまってさ・・・」

「手紙ね。エリオットから聞いたけど、ずいぶん多かったらしいじゃない」

「そ。読んでたら朝も昼も過ぎちまった」

「また夜が遅くなりそうね。で、フィーはなにしてるの?」

 

アリサが今度はフィーに尋ねる。

 

「ん、分けてもらおうとしてる」

「貴女もう食べたじゃない・・・」

「だっておいしそうだし」

「あ~、確かにそうね。リィンって料理得意なのね」

 

そんな言葉に肩をすくめる俺。

 

「一人旅に自炊は必須スキルだからな。それにプロには及ばんさ」

「でも凄いじゃない・・・ねえリィン、私にも少し分けてもらってもいい?」

「アリサもかよ」

「半分でいいから、ね? お願い」

「・・・フィーと半分ずつな」

「ええ、ありがとう!」

 

喜ぶアリサに対し、フィーは不満げ。

 

「リィンのケチ」

「いや、あんまりやると俺の分が減るからな!?」

 

結局、俺が食べた個数は14個になったのである。

大食いなのは自覚している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅い昼食が終わり、寮を出たところでラウラに出会った。

 

「お、ラウラ」

「リィンか。そうだ、これから手合わせを頼んでもよいか?」

 

ラウラらしいといえばらしいな。

 

「悪ぃ、今飯食ったばっかだし、止めとくわ」

「む、そうか」

 

少ししょぼんとするラウラ。

そんな様子を微笑ましく思い、彼女の頭を撫でる。

 

「な、なにをする!?」

1年半前のように慌てふためくラウラ。

「何って、見ての通り頭を撫でているんだけど?」

「そ、そういうことではない!」

 

からかうのもこのくらいにしとくか。

 

「ぁ・・・」

「ん? どした?」

「な、なんでもない!」

 

そうは見えないんだけどな。まぁ、言いたくないならそれでいいが。

 

「これから買い物に行くんだけどさ、何か、欲しい食べ物とかないかな?」

「いや、今のところは特にないな。夕食を買いに行くのか?」

「それもあるけど、メインは足りない調理器具とか家庭用導力機、あと食器だな」

 

家庭用導力機とは家電製品のことである。

主に炊飯器とか導力レンジとか。

 

「そうか。ならば私も同行しても良いか?」

「おぅ、いいぜ」

 

そう言うと、ラウラは嬉しそうに微笑む。

 

「うん、では行こうか」

 

 

 

 

 

 

途中、エリオット、マキアス、エマ、ガイウスに出会い、皆で楽しく買い物したことをここに追記しておく。

 

 

 

 

 

 

おっと、忘れちゃいけないことがあった。

というわけで、買った家電や調理器具を持ち帰る道中、皆に訊く。

 

「今晩さ、第三学生寮で食事会やりたいと思ってるんだけど、皆はどう?」

 

昼が遅かったから俺はあまり食えないかもしれないけど。

 

「いいね、やろうよ!」

 

真っ先に賛同してくれたのはエリオット。

他の皆も笑顔で賛成してくれた。

後はこの場に居ない3人、アリサ、フィー、ユーシスだが・・・。

 

「ラウラはアリサに、エマはフィーに、ガイウスはユーシスにARCUSで訊いてみてくれ。時間は・・・そうだな、7時から7時半辺りに準備開始にしよう」

 

3人がそれぞれARCUSを取り出し、連絡する。

 

「アリサは大丈夫だそうだ」

「フィーちゃんも参加するそうですよ」

「ユーシスも問題ないと言っている」

「よしOK、全員参加だな」

 

さて、俺は大体のものは作れるが・・・。

 

「皆は得意な料理って何かあるか?」

 

居ない3人には後で聞くとして。

ラウラは?

 

「うむ、乳製品を主に使った料理なら慣れている」

 

エリオットは?

 

「う~ん、卵料理かな。オムレツは得意だよ」

 

マキアスは?

 

「料理は殆どしたことがないな。コーヒーはよく煎れるが」

 

ぬぅ・・・。

エマ。

 

「野菜を使った料理ですかね。故郷ではほぼ野菜でした」

 

最後にガイウス。

 

「肉料理、特にステーキとかだな。ノルドでは狩った獣を自分達で調理するからな」

 

ほー、けっこう分かれてるな。

マキアスにはコーヒー豆を買ったのがユーシスだってことは言わないようにしよう。

 

「導力機のセッティングが終わったら、アリサたちも連れて今度は食材を買いに行こう」

 

現時刻は5時。皆でのんびり買い物をするのに十分な時間がある。

 

 

 

 

 

 

アリサ。

 

「お菓子以外ではハンバーグが得意ね。姉代わりの人と一緒によく作ったわ」

 

フィー。

 

「ん・・・魚料理かな。私は釣りはしないけど」

 

ユーシス。

 

「スープの類が一番得意だ。それなら初めて作るものでも上手くやれる」

 

なるほどなるほど。

こうしてみると皆得意分野が随分きれいにばらけてるな。

そして俺はオールラウンダー。というか照り焼きチキンピザ作りたい。

いや、それは次の時に回すか。

ならば・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三学生寮の扉が勢いよく開かれた。

入ってきたのはⅦ組の担任、サラ・バレスタイン教官。

この人は第三学生寮の寮監でもある。

学院での仕事を終え、戻ってきたのだろう。

入ってすぐ、彼女はある部屋から漂う匂いに気付いた。

匂いのもとであろう部屋に向かい、扉を開ける。

その部屋はキッチン兼食堂となっており、そこにはⅦ組の全員が居た。

何人かが料理をし、キッチンに入りきれない残りの人が食堂のテーブルで下ごしらえや盛り付け、食器の準備などをしている。

自らも動き回りながら彼らを指揮しているのはリィン・シュバルツァー。

Ⅶ組の設立から2日目で既にリーダーの枠に収まっている少年である。

状況を飲み込めず立ちつくすサラに、彼女の一番近くに居たガイウスが詳細を伝える。

曰く、Ⅶ組設立記念と自分たちの入学祝いを兼ねた食事会である、と。

リィンはサラにも手伝いを要求し、彼女が準備に加わる。

そうして、ほぼリィンの予定通りの時間に全員が席に着いた。

テーブルの上には、野菜サラダ、オムレツ、ハンバーグ、コーンスープ、魚のムニエル、サイコロステーキ、シーフードピザ、フルーツヨーグルトとかなり豪華。

サラが乾杯の音頭を取ることをリィンに提案され、それを承諾する。

彼女の音頭に合わせ、全員が手に持つグラスやコップを掲げる。

その後は、皆が作った料理を食べながら雑談などを楽しむ。

例によってマキアスとユーシスが睨みあい、その光景に呆れつつ苦笑したり。

何気にリィンの隣に座るラウラの表情が嬉しそうに輝いていたり。

エリオットが皆のリクエストに答えてバイオリンを弾いたり。

そんな中、リィンが食事会を企画したと知り、内心で彼の評価を上げるサラ。

評価された本人は、皆に旅の話を聞かせている。

聞いている皆、そしてサラも、その話を楽しんで聞く。

こうして、1204年4月1日は笑顔とともに終わりを告げた。




本日のメイン、それは食事会。
マキアスには今後上達してほしいものです。

ラウラが一番ヒロインしている(笑)
一応出番は全員に平等に与えたつもりだったんですがね。

リィンは料理もハイスペックです。
誰が何を作ったかは大体わかると思います。


次回投稿は明日。それでは!

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