第7話、スタート!
「やあああぁぁぁぁ!」
ラウラの剣が真上から迫る。
俺は彼女の剣の横腹に打撃を加え、剣閃を逸らすと同時に俺自身も逆方向にずれ、剣を躱す。
剣が地面に刺さるが、彼女はすぐさま剣から手を放し、俺に拳を打ち込もうとする。
両手で一発ずつ放たれた拳打を受け流し、ラウラの腹に一撃。
ラウラはこれを自ら後ろに飛んで衝撃を軽減。
その際にうまく地面に刺さった剣を引き抜き、再び構える。
「いくぞ! 《洸刃烈閃》!」
見たことが無い技。ラウラが独自に作り上げた技だろうか。
光を纏った剣を下段に構え、突進しながらの斬り上げ。
威力、速度ともに申し分ない。
これほどの技なら達人相手にも十分やれるだろう・・・だが、
「《三連・獅子戦吼》!」
獅子の頭部を模した闘気を左手、右脚、右手と連続で放つ。
その連撃はラウラを剣ごと吹き飛ばした。
地面に転がった彼女から、少し離れた位置に剣が突き刺さる。
「よし、この辺で終わりにしよう」
「わかった。そなたに感謝を」
「おぅ」
言葉を交わして現在朝6時。
4月11日、日曜日。
俺達トールズ1年にとって初めての自由行動日だ。
朝からラウラに捕まって彼女との手合せをしたところ。
但し、俺は素手で。
それが今終わったため、これから朝食だ。
今日の朝はサンドイッチ。
昨晩それぞれが好きな具を買って冷蔵庫へ。
それらの具を使って俺とアリサ、フィーで作った。
作る際にアリサと技術の話題で盛り上がり、なかなか楽しめた。
フィーが「夫婦みたい」と冗談を言ってアリサが真っ赤になってしまったのはご愛嬌。
俺はこういう冗談は言われなれているが、アリサはそうじゃないようだ。
だから真っ赤になってしまうのは仕方ないだろう。
そういうことだからラウラ、こっちを睨むの止めなさい。
俺がやらかしたわけじゃないってば。
「エリオット、エマ。二人は魔導杖にはもう慣れたか?」
寮の食堂で集まって朝食。
そんな中、俺は二人にそう尋ねる。
「少しはね。でもまだまだかな」
「私もですね。なかなか奥が深いですし・・・」
まぁ、そうだろうな。
まだ試験運用段階だって言うし。
「じゃあ午後にでも旧校舎で実践練習でもするか? 学院長に言えば鍵を貸してくれるらしいし。戦術リンクの練習も一緒にしておいた方がいいな」
「それは、僕とエマの二人でってこと?」
「いや、俺もついていく。何なら俺の異能を披露してもいいぜ」
『何っ!?』
お、おおう、全員が反応した・・・?
「リィン、それ本当?」
フィーが目をきらきらさせながら訊いてくる。
「お、おぅ・・・」
「行きたい人は手を挙げて」
アリサの言葉にもれなく全員が挙手。
そ、そんなに見たいか・・・。
「あれ、ラウラはもう見ているよな?」
「うむ、だが私一人だけ行かないという理由は無い」
「お、おぅ。じゃあ、午前中は自由行動。早めに昼食を食べて午後1時あたりに探索開始ってことでいいか? 俺が鍵を取りに行く。集合場所は旧校舎前ってことで」
その時、食堂の扉が勢いよく開いた。
「話は聞かせてもらったわよ!」
「サラ教官も・・・?」
「当然よ。私だって見たいわ」
そ、そうか・・・。
「じゃあ、鍵を貸してもらったら連絡するよ。その後すぐに集合ってことでOK?」
『OK!』
ノリいいなお前ら。
さて、現在午前9時。
書き終えた手紙の返事を出す。
ようやく全部返し終えた・・・。
これからは個人じゃなくて団体ごとに出して欲しい。
返事が書ききれねぇよ。
とりあえず手紙も出したし、一度寮に戻って・・・
「やぁ、リィン。探したよ」
「あれ、アンジェ?」
声のほうにはアンジェの姿が。
って、俺を探してた?
「これから一緒に帝都までツーリングに行かないかい?」
「あ~、悪ぃ、午後から皆と旧校舎に行く約束してるんだ」
「そうか・・・なら今日は無理かな」
ってことはまた誘う気だな。
「つーか帝都に着いた途端お前を慕う女子達に敵意を持って囲まれる未来しか想像出来ないんだけど。そうなったら穏便に対処できる自信ないよ? だいたい物理で突破とか」
「そんなことは無いと思うけどね。あの娘達も君には好意的なほうだと思うよ」
「んな冗談はいらん。慰めにもなんねえよ」
「いや、別に冗談じゃないんだけどね・・・(小声)」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないよ。そうだ、旧校舎の探索、私も行っていいかい?」
アンジェも来る気か?
「別にいいけど。Ⅶ組全員にサラ教官も来るよ?」
「それは構わない。ま、皆に拒否されたら諦めるけどね」
拒否はされないと思うけどな。
「午後1時前に旧校舎前に集合だ。昼は早めに取っておいてくれ」
「ふふ、了解だよ。それじゃ、また午後に」
「おぅ」
アンジェは学院方面に戻っていった。
さて、俺も寮に戻るか。
昼はキルシェで買ったパン6個。
午前中は小説や楽譜、論文等の続きを書いて過ごした。
そんなこんなで現在旧校舎前。
既に鍵は借りてきた。
今この場に居るのはⅦ組メンバーにサラ教官、そしてアンジェ。
アリサとアンジェが知り合いだったのには驚いたが、それ以外は特に問題なし。
鍵を開けて旧校舎に入る。
流石に今回は落とし穴は使わない。
というわけで適当に行って戻っての道になるだろう。
さぁ、レッツゴー。
ガーゴイルは石像から魔物になる前に真っ二つにしておこう。
いざ、テイルズシリーズの奥義、次元斬!
空間ごとスパーンとな。
「皆は、魔獣がどうやってアーツを使うか知っているか?」
説明スタート。
まずはこんな質問から。
「一部の魔獣はアーツを使うためにセピスを体内に溜め込んでいるって言う説がある。まぁ、この説に従うならアーツを使わない魔獣がセピスを摂取する理由がわからないんだけどな」
とはいえ、異能で確かめたらこれが事実であることがわかったんだが。
「で、ユミルで魔獣を捕獲していろいろ調べてみたんだよ。そしたら、魔獣が体内にセピスを使った回路のようなものを形成していることがわかったんだ」
「回路?」
マキアスの言葉に頷く。
「クォーツって内部に回路が刻み込まれていることは一般に知られているよな? んで、魔獣はセピスを体内に配置してその間を体組織の一部を使って繋いでいるんだ。それによって様々なことができるようになる。例えば、七曜石が元々持っているエネルギー補充機能とかも再現できるんだ」
「そうだったのか・・・」
ユーシスの言葉にまた頷く。
「で、そのエネルギー補給なんだけど・・・あれ、実は空気中に漂う霊力とか魔力とかを取り込んでいるんだよ。七曜石も魔獣も」
「えっ!?」
何人かの驚く声が聞こえる。
この事実、俺は未だ発表していない。
証明した手段が手段だしな。
詳細を言えば、異能によるスキャニング。
確実ではあるが、その確実性を証明のしようが無いっていうね。
「で、ここからは俺の異能の話。俺の異能って正体は人間の脳が本来もつ力なんだ」
話を聞いた皆が混乱している。まぁ、当然か。
「医学界で言われていることなんだけど、人間の脳ってリミッターがかかっているんだよ。それが身体能力の一部を制限したり思考能力を抑制したりしている。で、俺はそのリミッターがぶっ飛んでんだ。そうすると、脳内の演算などによって体の外の空間にも影響を及ぼすことができる。さらに、脳の中から特殊なエネルギーが生まれるんだ」
実はこのエネルギー、演算せずとも思考によって操れる。
「脳にリミッターがかかっている理由は、リミッターがないと脳や体に負担がかかるからなんだ。少なくとも、5~6歳辺りまでの子供はその負担に耐え切れず、体が崩壊する」
前世の俺は一部しか外れていなかったから耐え切れた。
「だから、俺はできるだけ負荷を掛けずに異能を最大限に行使できるように工夫をしている。そこで、さっき話した魔獣の体内にある回路だ」
誰かが息を呑む音が聞こえた。
「脳内から発する特殊エネルギー、便宜上、俺はPSIエネルギーって呼んでる。これを体内に巡らせ、セピスの代わりに回路を作るんだ。まず、肺とその周囲に回路を形成し、呼吸を通して霊力や魔力を取り込む」
霊力や魔力は一度取り込めば異能を使わずとも体内で自由に動かせる。
氣の操作と同じやり方でだ。
「で、泰斗流って知ってるかな? アンジェもその使い手なんだけど。それで、肉体の生命活動によって生じるエネルギーと精神力で生み出す闘気を混ぜ合わせて《氣》って言うのを生み出すんだけど、詳しくはアンジェに聞いて。そのほうがわかりやすいから」
説明丸投げ。
当然、何人かが苦笑する。
もちろんアンジェも。
「で、取り込んだ霊力や魔力と氣、それにPSIエネルギーを練り合わせることで新たなエネルギーに変える。これを俺は《魔導力》って呼んでる。で、その魔導力をPSIで作った回路に通して魔法を使えるってわけ。魔導力の代わりに氣や霊力、魔力にPSIなんかを使うこともできるけどな。でもその場合、威力とか精度とかは落ちる」
あ、何人かが理解を放棄してる(笑)
ちなみに魔導力は『NARUTO』でいう《仙術チャクラ》に+αしたようなものである。
NARUTOに当てはめれば“氣=チャクラ”だしね。
「この魔法を、俺は《魔導術》って呼んでるんだ」
「《魔導術》・・・」
エマの呟きが、静寂の中、空中に溶けて消えた。
「で、魔導術の前提になる俺の異能なんだが、一部の奴らからは《龍の力》なんて呼ばれてる」
本当はその言葉、俺の中では別のものを指してたんだけどな。
それまで龍の力と呼んでいたものは、《龍神の力》に名称変更。
《龍神の力》の存在、俺以外は誰も知らないけどな!
それに、《鬼の力》っていうのも別にあるんだよ。
《鬼の力》の命名はカンパネルラ。
「実際に使って見せよう。その方がわかりやすいだろ? ってなわけで、ザケル!」
手から雷を放射して魔獣に浴びせる。
だが銀色ではなく金色である。
その威力は一撃で複数体をを葬るほど。
テオザケルの方が強いけどな!
元ネタは『金色のガッシュ!!』という漫画。もちろん前世の。
「エクスプロード!」
要するに爆発。炎属性の魔法。
元ネタは前世のゲーム、テイルズシリーズ。
「アイスメイク――
氷の槍が数本、魔獣に突き刺さる。
但し構えは不要。
元ネタは前世の漫画『フェアリーテイル』。
他にもDQとかFFとか伝勇伝とかetc。
『NARUTO』の忍術も再現可能。
印は結ばなくていい。
入口に戻って再びVSガーゴイル。
奴は復活していた。
「バオウ・ザケルガ!」
前世では皆さんご存知、ガッシュの最強術。
但し俺は手から出す。色は金色だぜ?
もちろん一撃必殺。
俺の中では龍を模した魔導術が最強。
これは俺の“龍=最強”というイメージの結果である。
最後にもう一つ。
「ケアルガ」
全体治癒魔法をば。
ケアルガは単体の場合も多いけど全体の方が使いやすいじゃない。
他にもいろいろ。
ヘイスガとかラウザルクとかメドローアとかアストロンとかetc。
攻撃、防御に回復、補助もどんと来い。
そんなわけで、本日の訓練は終了。
俺を含め、皆戦術リンクにも慣れてきた。
エリオットとエマも魔導杖をさらに使いこなせるようになった。
今日の成果は上々、といったところか。
しかしアンジェがARCUSを持っていたのには驚いた。
なんでも、前年度でⅦ組の前身のようなものをやっていたらしい。
詳細はそのうち聞かせてもらおう。
「ふ~、終わったぁ~」
旧校舎から外に出て、エリオットは大きく溜息。
時刻は既に夕方。
正確な時間は時計を見ないとわからないが、大体5時くらいか。
最後に出た俺が旧校舎の鍵を閉める。
そして皆の後ろに続こうと・・・
――――――ドクン
「――――――っ!?」
即座に身体を反転。
扉へと向き直り、右手を刀に添える。
「リィン? どうかしたのか?」
ラウラの問いに答えず、俺は10秒ほど不動。
結局、それ以上何もなく、刀から手を離した。
「・・・悪ぃ、気のせいだったみたいだ」
口ではそう言いつつも、嫌な汗が止まらない。
心配そうな表情を浮かべる皆を促し、解散。
鍵はサラ教官が代わりに返してくれることになった。
脈動のようなものを感じてから、俺の中の《鬼》がざわめいている。
この旧校舎・・・何かあるな。
それも、旅で訪れた遺跡などとは比にならないほどのものが。
・・・・・・この先、荒れるかもしれない。
解説回でした。
魔導術を簡単に言えば異能を介して魔法を使う、といった感じでしょうか。
メリットを纏めると
・異能を直接使うのに比べ、脳への負担が大幅に軽減。
・戦術オーブメントの魔法のような待機時間が要らない。
・その場に応じて回路を組み替えることで自由に魔法が選択可能。
一方、デメリットは
・戦術オーブメントなどの魔法と違い、脳や体に負担がかかる。
・身体への負担は、異能を直接使う場合より少しだけ大きい。
・空気中の霊力等を大量に取り込むため、周囲のそれらが枯渇しやすい。
簡単に纏めればこんな感じでしょうか。
ちなみに、Ⅶ組メンバー及びサラ教官はリィンが既にアンゼリカにフラグを立てていることに気付いていません。
一発でこれに気付けるのは大陸で三人だけ。
ジョルジュ、クロウ、トワ会長。
他の人はそうだと知ってようやく気付けるのです。
唐突ですが、なんとなく次回予告をしてみようと思った。
(今回限りだと思いますが)
次回は、洗脳未遂事件が勃発するぜ!
お楽しみに! それでは!