いざ、第8話、レッツゴー!
「明日は二日目の自由行動日ね」
サラ教官の言葉のとおり、明日は俺達にとって二回目の自由行動日になる。
「先週の自由行動日は有意義に過ごせたかしら? 反省するところやすべきところがあると思ったら、その反省を明日に生かしなさい。特に午前中の話ね。少なくとも午後はリィンのおかげで有意義に過ごせたでしょう?」
目の前でそう言われると少し気恥ずかしいな。
褒められることに慣れてないってわけじゃないけど。
4月17日、土曜日。
今週の授業もすべて終わり、現在HR真っ最中。
「あと、来週の水曜日、実技テストがあるわよ。これはⅦ組だけの特別カリキュラムよ。これは評価対象に入るから、そういう意味でも明日は有意義に過ごしなさい。実技テストは月に一度。第三水曜に行うわ。で、今月の実技テストの終了後、《特別実習》の具体的な説明をするわ」
特別実習・・・。
特化クラスⅦ組だけの最重要カリキュラムとだけ聞いている。
内容については一切不明。
前に学院長にも直接聞いてみたが、説明する時まで待ってくれと言われた。
「それじゃ、HRは以上。さ、挨拶して、副委員長」
「はい。起立、礼」
「あ、そうそう。リィン、貴方はしばらく残ってなさい」
「え?」
サラ教官は一度職員室に戻って行った後、十数分ほどして戻ってきた。
この時点で教室に残っているのは俺一人だけ。
「で、何で俺だけ残したんです?」
「貴方に生徒会で人数分受け取ってほしいものがあるのよ」
「受け取ってほしいもの?」
何だろうか?
「行けばわかるわ。生徒会室は学生会館の二階、廊下の突き当りにあるから」
「う~す」
「遅くまで開いているはずだから、下校時間少し前でも大丈夫なはずよ」
「そんなに遅くまで後回しにはしませんよ」
下校時間は9時半なのだ。
こんなに遅いのは全寮制だからかな?
「それじゃ、受け取ったら全員に渡しておいてちょうだい」
「うぃ、了解っす」
学生会館に到着。
二階へ上がり、廊下を真っ直ぐ行った突き当り。
サラ教官の言う通り、そこが生徒会室だ。
とりあえずノック。
「はいはーい。鍵は掛かってないからそのままどーぞ」
何やら聞き覚えのある声。
っていうか入学式の日にジョルジュと一緒に正門に居たちっこい先輩じゃん。
なんで生徒会室に一人で居るんだ?
とりあえずドアオープン・・・の前に、
「失礼します」
挨拶は忘れずに。
入室するとやっぱり例のちっこい先輩が居た。
「どうも、入学式以来ですね」
「うん、そうだね。だから2週間ぶりになるね。生徒会室にようこそ、リィン・シュバルツァー君。リィン君って呼んでもいいかな?」
「ええ、大丈夫です」
そう言うと、先輩は笑顔を見せた。
なにこの人、行動の一つ一つが可愛いんだけど。
ホントに年上?
「む・・・今失礼なこと考えてたでしょ」
ぎくっ
「そ、そそそそんなことなないでですよ~」
「・・・リィン君ってわかりやすいね」
逆に苦笑されてしまった。
しょうがないじゃん、俺ってば嘘が致命的なまでに下手なんだもん!
「あはは。じゃあ、そろそろ本題に入ろっか。サラ教官の用事で来たんでしょ?」
「まぁ、そうですけど。その前に自己紹介してくれません?」
俺は貴女の名前も知らないんですよ。
「あ、そうだった。えっと、この学院の生徒会長をしている、2年のトワ・ハーシェルって言います。改めてよろしくね、リィン君」
「俺も改めて、リィン・シュバルツァーです。これからよろしくお願いします」
・・・・・・あれ?
「って、生徒会長!?」
「? そうだけど、どうかしたの?」
「いえ、正直びっくりしましたってだけです」
「そうなの? まぁ、それはともかく、困ってることや相談したいことがあればぜひ生徒会まで来てね。いつでも歓迎するよ♪」
相談すること・・・あるかもしれない。
ユーシスとマキアスのこととか。
「さて、今度こそ本題に入ろっか。はい、これ。Ⅶ組の皆の分の学生手帳だよ」
あ~、そういえばまだ貰ってなかったな。
他の生徒が手帳を取り出しているのは見たことがある。
それに、俺たち以外の1年は既に持っていると聞いた。
「えっと・・・はい。9冊、確かに受け取りました」
「うん。でもゴメンね。君達Ⅶ組はカリキュラムの違いのせいで発注自体も遅れちゃったんだ。学生手帳も、他の生徒達とは違うところがあるの」
自分のをパラパラとめくってみる。
なるほど、確かに違う。
ARCUSの説明書は、一般の学生手帳には載ってないだろうし。
「それで、サラ教官に頼まれて、私が編集作業をしていたんだけどね。1人でやったから、少し時間がかかっちゃったの。遅くなってごめんね?」
え? 一人で?
「生徒会って一人じゃないんですよね。他のメンバーに手伝ってもらわなかったんですか?」
「皆にも仕事があるからね。負担はかけられないよ」
貴女の負担はどうなんですかね?
「そもそもそれって教官がやるべき仕事じゃないかと思うんですが?」
「確かに生徒会の仕事じゃないけど、私は教官達の仕事の手伝いはするよ?」
“私は”ってことは・・・。
「手伝うのは会長一人で?」
「うん。さっきも言ったけど、皆に負担はかけられないから」
だから自分への負担は大丈夫なのかってば。
「よーっす。トワ、差し入れ持ってきたぞ~」
「あ、クロウ君」
その時生徒会室に入ってきたのは一人の男子生徒。
「今日のはキルシェでトワのために特別に作ってもらったアップルパイだぜ」
「わぁ、美味しそう。ありがとう、クロウ君」
誰なのかは知らないが、会長とはかなり近い関係のようだ。
生徒会役員には見えないが。
「っと、初めましてだな、後輩君。クロウ・アームブラストだ」
「こちらこそ初めまして。リィン・シュバルツァーです」
クロウ先輩、か。
しかしこの人、かなりの強者だ。
「挨拶ついでに面白いもん見せてやるよ。ちょっと50ミラコイン借りていいか?」
「ほいな」
「サンキュ。そんじゃ、よーく見てろよ」
クロウ先輩はコインを親指で上に弾く。
そして、落ちてきたコインが首から胸辺りの高さまで来たとき、クロウ先輩は開かれた両手をコインめがけて突きだし、掴む。
「さぁ、コインはどっちにあると思う?」
右手か左手か、ということだろうが・・・。
「右手の親指でコインを弾き落とした。そしてコインはそのバッグの中、ですね?」
バッグが置いてあったのは真下ではない。
しかしクロウ先輩は、親指で斜め下に弾き飛ばすことでバッグの中に入れた。
「スゲェな。これを見抜いたのはお前が初めてだ。流石だな、“一年最強”」
「ありがとうございます、“二年最強”」
間違いなく、二年の最強はこの人だ。
強者のオーラが凄まじい。
「というわけで暫くこの50ミラ貸してくれ」
「だ、駄目だよクロウ君。そんなことしちゃ」
何だかガクッと来た。
「別に寄付でもいいですよ。金ならあり余るほどありますし」
「うわ、いいなぁ。俺もそんなセリフ言ってみてぇ」
「ふぇ~、リィン君って凄いんだね~」
良いだろう良いだろう?
これも今までの努力の結果なのだよ。
「月の収入が平均して5,6桁くらいですね」
「「5,6桁!?」」
今まででは最大で月8桁行った。
「そんなにあるなら3割、いや、2割・・・1割で良い、恵んでくれ!」
「クロウ君!? 流石にそれは駄目だからね!?」
「いや、あげませんよ? 50ミラ一回きりですからね?」
「わかってるよ・・・でも羨ましいじゃねぇか!」
そんなこんなで以下略。
「あ、そうだ。サラ教官から、生徒会の仕事を少し回してやって欲しいって話があったんだけど、それってリィン君のことかな?」
ん? どういうことだ?
「話が読めないんでとりあえず詳細プリーズです」
「う、うん。えっとね、Ⅶ組のメンバーに手伝いにちょうどいい人が居るから、その人に学生手帳を取りに行かせる。だから、週1くらいで仕事を回してやって欲しい、だったかな。あと、回す仕事は学院内や街を歩き回る類の仕事内容がいいってことも言ってたね」
「・・・俺何も聞いてないんですが?」
初耳だってばよ。
サラ教官め、謀ったな!?
「え、えぇ!? そ、そんな、じゃあ、私って無茶を言ってた!? ど、どうしよう・・・」
何でそこで涙目になっちゃうの!?
「(おい、まずいぞ。今すぐ了承して泣き止ませろ、急げ!)」
クロウ先輩が小声で話しかけてきた。
「(え、え? な、何ですか急に?)」
「(トワが泣きかけているところを役員に見られてみろ。社会的に消されるぞ!)」
「(怖っ!?)」
人望の厚さが伺えるにしても明らかに過剰だ!
「そそそそそんなことないででですよ!? ももももも問題ななな無いでででです!」
ぬぎゃあああああぁぁぁぁ!!
嘘をついているわけでもないのにどもりががががああああぁぁぁぁ!!
「やっぱり無茶言ってたんだ・・・どうしよう・・・どうしよう・・・」
「おい! なにそんなどもってんだよ!?」
「アイムパニック!! イッツパニック!!」
もはや自分でも何を言ってるかわからなななな、
ガチャリ。
「会長、例の件は一通り終わり・・・なっ!?」
「げっ、アルト!? ち、違うんだ! これはだな、」
「クロウ、それに新入生の人か・・・君達、会長に何をしたぁ!」
社会的抹殺要員が来ちゃったあああぁぁぁぁ!!?
「ぬあああああぁぁぁぁ!! 記憶消去! マインドクラアアアアァァァァッシュ!!」
特に理由の無い実体無き黄金の巨腕が生徒会役員アルト君を襲う!
「なっ!? う、うわあああぁぁぁぁぁ!!?」
「アルト君!? リ、リィン君待ってええええぇぇぇぇ!!?」
――――――暫くお待ちください――――――
「・・・」
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・」
無言。誰もが無言なり。
ただただ書類を片していく。
「とりあえず、一旦まとめようぜ」
クロウ先輩の言葉に俺達は声も無く頷く。
「会長、仕事は個人でできる範囲であれば遠慮なく回しといてください。俺は大丈夫ですから」
「・・・うん」
俺の言葉に会長が力なく頷く。
「リィン君、その、すまなかった。原因はサラ教官だったんだな」
生徒会役員のアルト・バーナード先輩が俺に謝ってきた。
マインドクラッシュなら解除したぞ。
「ゴメンね、リィン君、クロウ君。いきなり泣き出しちゃったりして・・・」
「これからは気をつけてくださいよ・・・」
「右に同じく。それで被害こうむるのは俺たちなんだよ・・・」
会長の謝罪に俺とクロウ先輩がこちらも力なく答える。
「・・・ふぅ。これで今日の分は終わりだな」
アルト先輩の言葉の通り、本日の生徒会業務は終了。
「うん。皆、本当にお疲れ様。リィン君も、手伝ってくれてありがとう」
「大丈夫です、問題ありません」
「・・・それ死亡フラグじゃねぇか?」
おぅふ。
「それじゃ、皆でご飯食べに行こっか。皆にも迷惑掛けちゃったから、今日は私が奢るよ」
「いえ、俺に奢らせてください。財布でも会長に負担を掛けるなんてとんでもない」
「え、でも・・・」
「金なら有り余るほどあるって言ったじゃないですか。このくらいの出費、平気ですよ」
だから会長、無茶は止めて。
俺達の心が痛むんだ。
「うん、ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えさせて貰おうかな」
疲れ果てた顔で会長は精一杯の笑顔を浮かべた。
限界ギリギリそうなその笑顔にむしろ俺達が泣きそう。
「クロウ先輩とアルト先輩の分も奢ります」
「サンキュ、そんじゃ、ご同伴に預からせて貰うぜ」
クロウ先輩は快諾。
「クロウ、少しは遠慮しろよ・・・。リィン君、俺は自分の分は自分で払うからいいよ」
「いえ、ぜひ奢らせてください。さっきのマインドクラッシュの謝罪も兼ねて」
「そ、そうか。わかったよ」
この後、皆で学食に行ってご飯を食べた。
疲れ切った俺達、特に会長を皆が凄く心配していた。
誰から聞いたのかエリオットがやってきてセブンラプソディ(回復)を俺達に掛けてくれた。
とりあえずエリオットには感謝。
彼の学生手帳はその場で渡しておいた。
ついでにまだ配ってない男子の分の学生手帳3つも持って行ってくれた。
ありがとう、エリオット。
「あ、そうだ。やっぱりエマとフィーの分も持っていくよ」
「おぅ、サンキュ」
「アリサとラウラにはリィンから渡しておいて。二人もその方がいいと思うから」
「お? おぅ・・・」
エリオットがやけにニヤニヤしてるのは何でだ?
「ははーん、そういうことか。お前も隅に置けねえなぁ」
「???」
クロウ先輩は理解したようだが・・・。
「これはなかなか面白くなりそうだな」
「クロウ、不謹慎だよ。止めてあげなって」
「そうだよクロウ君。ここは見守ってあげないと」
アルト先輩とトワ会長も理解しているようだ。
どういうことなの?
その後、俺は寮でアリサとラウラに学生手帳を渡した。
ごめんアリサ。ファミリーネーム見ちゃった。
でもラインフォルトはお得意様だし、その、何だ・・・お母さんによろしく?
え、それだけは嫌だ?
・・・その・・・ごめん。
うちのリィンは嘘が超絶下手。
ダウトをやると必ず最下位になります。
考えがすぐ顔に出るわけではありません。
トワ会長がわかりやすいと言ったのは嘘に関してのみ。
失礼なこと云々は女の勘でしょう。
マインドクラッシュそのものは記憶消去ではないです。
記憶消去などを行うための前準備のようなもの。
洗脳“未遂”事件ですから。
次回は自由行動日前半。
旧校舎探索は後半でやりますので次々回。
それでは!