機動戦士ガンダム Gemini Saga   作:木星市民

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一年戦争
11話 開戦


 U.C.0078.11.05 道央某所 水族館

 

「君は動物が好きなのか?」

 

「日本の諺に木を隠すなら森の中と言うでしょ?  カズマさん」

 

「カズマと呼ぶのは止めろ、ララァ。確かに俺は、カズマでもあるがカズヤでもある。だが、カズヤが死んだわけじゃない。そして、身体の持ち主はカズヤだ」

 

「申し訳ありません。先日、あの方を散々虐めていたので、私が代わりに仕返しと思っただけですわ。こちらがあの方からのメッセージです」

 

  カズヤは屋敷へ届いた差出人不明の手紙に書かれていた水族館を訪れていた。ペンギンの水槽の前には褐色肌の幼い少女__ララァが居た。

 

  ララァはカズヤをまた、カズマと呼ぶが強く彼は強く否定し、反論した。彼女は、すぐに謝るがチクリと言い返し、シャアからのメッセージを手渡した。

 

「シャアに了解したと伝えてくれ」

 

「かしこまりました。では、次は戦場でお会いしましょう」

 

  カズヤは内容を確認すると短い言伝をララァを頼み、2人は別れた。

 

「……歴史は変わらずか」

 

  彼の瞳には不安と悲しみが浮かんでいた。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 U.C.0078.12.25 道東某所 地下施設

 

 巨大な鋼鉄の扉が重厚な音を立てて開く。

 

 冷たい空気が流れ込み、湿り気を帯びた地下の匂いが鼻を突く。

 

「なんじゃこりゃ……!!??」

 

 テッペイは息をのむ。思わず数歩後退しながら、目前の光景を見上げた。

 

 その瞳に映るのは、天へと伸びるかのようにそびえ立つ巨大なマスドライバーの骨組み。

 

 圧倒的なスケールに、彼の脳裏にある常識が崩れ去る。

 

「凄いよな。統一戦争後に何代か前の当主の提案で作りあげたそうだよ」

 

 カズヤの声が、空間の反響で微かに揺れる。

 

 足元には無数のパイプが張り巡らされ、まるで巨大な生体組織のように地下施設全体を繋いでいる。

 

 テッペイは改めて目を凝らす。

 

 そこにはマスドライバーだけではなかった。

 

 太平洋へと通じる地下水路が、暗闇の先へと続いている。

 

 静かに流れる水の音が、この場所がただの遺構ではなく【今も機能している】ことを告げていた。

 

「マスドライバーもそうやけど、スサノオが通れる地下水路に、この広大な地下施設……ツキモリ家がヤバいとは思ってたけど、度合いが違うわ!!」

 

 テッペイの声は驚きと呆れの入り混じったものだった。

 

 ツキモリ家が表に見せる【企業】としての顔の裏側に、こんな規模の軍事インフラが秘匿されているとは想像すらしていなかった。

 

「こんなの……どうやって作ったんだ?」

 

 彼は呟くように問いかける。

 

 カズヤは苦笑しながら肩をすくめた。

 

「どうやっても何も……ツキモリ家は戦乱を生き抜いてきた家系だからな。統一戦争後の当主は『次の大戦』に備えていたんだよ。この場所は、物資運搬だけじゃなく、有事の際の脱出ルートにもなる」

 

 カズヤは小さく息を吐き、視線をゆっくりと巡らせる。

 

 無機質な壁に点在する制御盤、冷たい金属の質感、整然と配置された補給ポート——

 

 これはただの施設ではない。戦場そのものだ。

 

 ツキモリ家は【次の戦争】が来ることを当然のように想定し、何十年も前から準備をしていた。

 

 それは、もはや狂気にも似た先見性。

 

「……この家、どこまで未来を読んでんねん」

 

 テッペイの言葉に、カズヤは短く笑う。

 

「さあな。だが、お前もその中にいる人間だろ?」

 

 その言葉に、カズヤはゆっくりと目を閉じた。

 

 この地下施設は、ツキモリ家の「影」の一部に過ぎないのかもしれない——

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 U.C.0079.01.03 道央某所 ツキモリ重工業 本社 第1会議室

 

 突如、通信が室内に鳴り響いた。

 

 【至急、本社第1会議室へ集合せよ】

 

 冷徹な指令に、ツキモリ重工業の各部門の幹部たちは、手元の資料をそのまま置き、慌ただしく会議室へと足を運んだ。

 

 戦略部、技術開発部、経営本部、軍事関連部門――この時間に上層部が一斉に召集されるという緊急事態は、ただ事ではないことを皆、痛感していた。

 

 会議室の扉が立て続けに開かれ、重役たちは各自の座に着く。すると、部屋の隅に設置された巨大スクリーンが自動起動し、画面に一つの映像が映し出された。

 

「地球連邦政府並びに地球に住む全ての者たちに告ぐ。私はジオン公国総帥、ギレン・ザビである……」

 

 スクリーンに映るギレン・ザビは、冷徹な表情と揺るぎない眼差しで、威圧的な会場の風景を背に宣戦布告の言葉を紡いでいた。

 

 その一言一言は、戦火によって世界が大きく変わらんとしている決定的な宣告であった。会議室内には瞬時に重い沈黙が漂い、全てが凍りついたかのようだった。

 

 中央に座るゲンジロウは、深いため息をつくと、低く重厚な声で口を開いた。

 

「諸君、今回の会議は通常の戦略会議とは異なる。数分前、ジオン公国総帥ギレン・ザビが連邦政府及び地球全体に対し宣戦布告を行った。

 

 これまで我々は兵器開発と戦略支援に徹し、武力行使は極力回避してまいった。しかし、戦争の炎は既に燃え上がっている。

 

 今日、我々に課せられた選択は、ジオン軍の撃退に向け、我々自らが先制攻勢を行うべきか、もしくは消極的介入に留め連邦軍の動向を見極めるべきかのどちらかである」

 

 ゲンジロウは手元のデバイスを操作すると、スクリーン上に連邦軍から送られた最新の通信記録を映し出した。

 

「最新通信によれば、ジオン軍はアイランドフィッシュの奪取に成功し、現在、地球降下コースへ進んでいる。コロニー落としはもはや推測ではなく、確固たる現実だ」

 

 スクリーンに映る軌道データは、アイランドフィッシュが地球へ向かう軌跡を鮮明に示していた。重役たちの顔には深い憂慮と決意が浮かび、会議室は一層の緊迫感に包まれた。

 

 その後、各派閥の代表者が次々に意見を申し述べる段階に入った。

 

 まず、技術開発部のオオツカ・コウジが、鋭い眼差しを宙に浮かべながら口を開いた。

 

「我々の技術力であれば、積極的な介入、つまり我々が自ら立案したジオン軍撃退策を実行し、敵の進行を止めることが可能です。連邦軍単独では対処しきれぬ局面があることは明白です」

 

 次に、戦闘部門のカガミ・ショウタロウが前に出ると、現場の厳しさを物語るように声を高めた。

 

「現実は刻一刻と悪化しております。敵が大胆な攻勢を仕掛けている今、躊躇している暇はありません。積極的に先制の措置を講じるべきです」

 

 続いて、戦略部のヤシロ・タカオが冷静な表情で口を開いた。

 

「積極的な介入、つまり我々が単独で攻勢に転じる行動には、企業としての政治的リスクが非常に高い。

 

 連邦軍との連携を維持することこそが、国土防衛及び企業の存続に不可欠であり、消極的な介入を選び、連邦軍の現況を見極めるべきだと考えます」

 

 経営監査部のフクダ・リョウスケも、数字とリスク管理の視点から口を挟んだ。

 

「過剰な軍事行動は経済的負担を増大させ、株主や従業員の信頼を損ねる恐れがあります。慎重な対応、すなわち消極的な介入が、長期的には我々の利益に資するでしょう」

 

 その後、経営戦略室のミヤザワ・ケイスケが穏やかなながらも明確な視点を示した。

 

「シミュレーション結果から、積極的介入と消極的介入の双方には利点と欠点がございます。

 

 ただし、現状、連邦軍の迎撃体制は十分とは言えないため、積極的な動きも一つの選択肢として検討に値すると思われます。しかし、状況の変化には注意が必要です」

 

 最後に、軍事分析チームのシライ・ナオトが最新のデータを基に付け加えた。

 

「条件付きではございますが、我々独自の積極的介入策により、戦局を大きく有利に展開できる可能性がございます。タイミングと精度が問われますが、準備が整えば十分に実行可能だと評価しております」

 

 各部門の意見が交錯し、会議室内は混沌とした緊迫感に包まれていた。その折、最も若いカズヤが静かに立ち上がった。先輩たちへ敬意を示しながらも、その眼差しには確固たる決意が宿っていた。

 

「私は積極的介入に賛成いたします。その理由としては、天撃作戦。ジオン軍が地球への降下を迎撃するために立案しました」

 

 カズヤは一瞬、資料に目を落とすと、胸中の熱を込めながら語り始めた。

 

「手元の資料をご覧下さい。天撃作戦は、先程もお話しましたが、敵軍を周回軌道上で阻止するために準備された迎撃作戦です。

 

  マスドライバーを利用し、スサノオと護衛艦隊を迅速に戦場へ投入。さらに、武装コンテナを展開し、持続的な戦闘支援を行うことで、敵軍の降下を阻止する――

 

 今回はジオン軍艦隊が攻撃目標ではなく、アイランドフィッシュを目標としており、既に各艦及び全武装が対要塞装備に変更されております」

 

 カズヤの具体的な説明と、その敬語を交えた熱意ある発言は、会議室全体に強い影響を与え、徐々に各重役の頷きが広がっていった。

 

 しばらくの沈黙の後、ゲンジロウが再び厳粛な口調で、しかし冷静に号令を発した。

 

「よし。以上の議論を踏まえ、我々は今、二つの選択肢のうち、積極的な介入すなわち『天撃作戦』の実行を採用する決定を下す。

 

 ただし、これは連邦軍の迎撃能力が不十分な場合に限る。各部門は速やかに準備を整え、状況を厳重に監視するよう命ず。これにて、議論は終了する」

 

 その瞬間、会議室内に決意と連帯の空気が駆け巡り、ツキモリ重工業の幹部たちは新たなる戦局に向け、各自の持ち場へと急いでいった。

 

  未来は依然として不透明であったが、この一瞬の決断が、企業と国土の運命を大きく左右することは、誰の目にも明らかであった。

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