機動戦士ガンダム Gemini Saga   作:木星市民

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15話 ファーストミッション

「なんで俺がここに居るんやろうか……」

 

「それはお前がこの依頼を受けたからだろ」

 

カズヤは現在、サイド3に潜入していた。何故、彼がこの場所に居るかというとそれは2週間前まで遡る。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

U.C.0079.01.17 ベルファスト 連邦軍基地

 

カズヤは会議室の扉の前で一瞬だけ立ち止まった。

無意識のうちに息を整える。

 

この扉の向こうにいるのは、ゴップ大将——

連邦軍上層部の要人であり、戦略決定の鍵を握る人物。

 

彼が何を求めているのか、それを見極めなければならない。

ただの交渉ではなく、これは駆け引きだ。

 

扉が開かれる。

 

そこには、重厚な木製の会議机と、審問官のように並ぶ将校たち。中央に座るゴップが、鋭い視線でカズヤを見据えた。

 

「初めましてだね、カズヤ・ツキモリ君」

 

低く響く声に、場の温度がわずかに下がる。

余計な感情を含まず、測るような口調——

まるでカズヤの価値を見定めるかのような視線。

 

カズヤは表情を変えず、一歩前へ進む。

 

「お初にお目にかかります、ゴップ大将閣下」

 

言葉を終えた瞬間、室内の空気がさらに重くなる。

将校たちは沈黙し、ゴップの反応を待っている。

 

彼の視線が、ゆっくりとカズヤの全身をなぞる。

戦場を生き延びた者の目——ただの軍人ではない。

ツキモリ戦術開発機構(TTDO)の代表として、カズヤは試されている。

 

ゴップが椅子に深くもたれ、口元をわずかに歪めた。

それは微笑とも皮肉とも取れる、曖昧な表情だった。

 

「ほう…噂どおりの冷静な男だな」

 

場の空気が張り詰める。

 

カズヤはそれを受け流すように、ゆっくりと目を細めた。そして、ゴップは重厚な椅子にもたれながら、一度だけ深く息をついた。その瞬間、部屋の空気が微妙に変わる。

 

彼が発する言葉の重みを、すでにカズヤは理解していた。

 

「ルウム戦役の敗北は、単なる作戦の失敗ではない」

 

ゴップの低く響く声が、会議室に緊張をもたらす。

 

「総司令官のレビル中将が捕虜となったことで、連邦軍全体の士気が揺らいでいる。ジオンはこの戦果を最大限に利用し、宣伝材料にするだろう」

 

カズヤは沈黙を保ったまま、視線をゆっくりとゴップへ向ける。

彼はすでに察している——

ゴップが求めるものは、ただの戦力支援ではない。

 

「……だからこそ、私にこの話を持ちかけたわけですね?」

 

カズヤの言葉に、ゴップの口元がわずかに歪む。

 

「その通りだ」

 

ゴップは椅子の肘掛けに指を置き、淡々と続ける。

 

「軍はすぐにレビル救出作戦を実行できる状態ではない。大規模な作戦を展開するには時間がかかる。だが、時間が経てば経つほど、レビル救出の成功率は下がる」

 

彼は一度視線を落とし、手元の書類を軽く指で叩いた。

 

「TTDOは独立した軍事組織であり、軍の制約を受けない。だからこそ、君たちなら迅速な救出作戦を実行できるはずだ」

 

カズヤはすぐに返事をしなかった。

依頼の内容は明白——だが、その裏にある意図も読まねばならない。

 

「軍の立場としては、どう扱うつもりですか?」

 

ゴップは少し間を置いてから、答えた。

 

「公式には、この作戦は存在しない(・・・・・・・・・・)。軍の作戦ではなく、PMCが独自判断(・・・・)で動いたという形にする」

 

会議室の空気が重くなる。

カズヤは目を細め、ゴップの真意を測る。

 

軍としては、この作戦が失敗しても影響を最小限に抑えられるように動いている。

 

逆に成功すれば、連邦軍はレビル奪還の成果を最大限に利用できる——すべては政治的な判断だ。

 

カズヤは息を整え、短く答えた。

 

「……いいでしょう。我々がこの任務を遂行します」

 

その言葉を聞いた瞬間、ゴップは満足そうに頷く。

彼の口元には、わずかな微笑が浮かんでいた。

 

「君たちの手腕に期待しているよ、ツキモリ君」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

U.C.0079.01.30 サイド3某所 セーフティハウス

 

「アゼル隊長、進捗は?」

 

レビル(パッケージ)はA地点にて、拘留中。ゼファーは組み立てを完了。全隊員、戦闘準備完了」

 

「了解」

 

アゼル・サシェスは、TTDOのMS隊の総隊長を務める男である。カズヤの母親が亡くなったテロで妻と娘を失い、仇討ちをしているゲンジロウを知り、連邦軍を退役し、ツキモリ重工業の入社した。

 

彼はテロリストたちを始末するとそのまま、ツキモリ重工業の暗部に属し、敵対組織や裏切り者を始末してきた。更にはMSパイロットの適正があり、月面での戦闘や天撃作戦にも参加しており、カズヤがゲンジロウの頼み、TTDOに移籍した。

 

「皆さん、お仕事の時間です。帰りの輸送船(バス)に乗り遅れた人は置いて行くので、自力で帰ってきてくださいね。

 

では、最終確認です。第一目標はパッケージの確保後、ランデブーポイントまで運ぶこと。第二目標は、全員が無事に帰還すること、以上。行くぞ」

 

カズヤの声が響くと、隊員たちはすぐに持ち場へ移動を開始した。セーフティハウスの駐車エリアには、偽装車両が静かに待機している。

 

車体には民間輸送会社のロゴが入り、外見は完全に通常の貨物輸送車両——だが、その内部は完全な軍事装備に改造されていた。

 

アゼルは短く指示を出す。

 

「各員、配置に着け。五分以内に発進する」

 

隊員たちは慣れた動きで装備を調整し、次々と車両へ乗り込んでいく。銃器の点検、通信機の最終確認、パワードアーマーの制御系統のチェック——それぞれの役割が確立され、無駄のない動作が続く。

 

アゼルが車両の後部ドアを閉じると、中にいる隊員たちは無言のまま武器を確認していた。

 

誰もが心得ている。

この作戦は、敵に気取られることなく開始しなければならない。

 

カズヤが最後に乗り込み、扉が閉まる。

室内の照明が落とされ、わずかに赤色のランプが点滅する。

 

通信士が無線を調整し、静かに報告を入れる。

 

「全車両、出発準備完了」

 

アゼルが頷く。

 

「発進——いくぞ」

 

アクセルが静かに踏まれ、車両はゆっくりと闇の中へと滑り込んでいった。

 

目的地は——レビルが居る拘置所。

隊員たちは黙り込んだまま、それぞれの武器を確認し、ヘルメットを調整していた。室内には、わずかに揺れる振動と、短い電子音の通信が断続的に響く。

 

カズヤは窓の外を見る。

 

そこには、何も知らずに日常を送るコロニーの住民たちの姿があった。子供を連れた母親が歩道を渡り、店の照明が温かな輝きを放っている。

 

この場所にいる人々は、レビルが捕らわれていることも、これから始まる戦闘のことも知らない。

 

「……巻き込むつもりはない。でも、どれほど慎重に動いても、戦いは戦いだ」

 

彼は短く息をつく。

心の奥にわずかな罪悪感がよぎるが、すぐにかき消す。

今はそれを考えている場合ではない。

 

隣に座るアゼルが、銃器を調整しながら低く言う。

 

「いつも通りだ。躊躇するな」

 

カズヤは目を細める。

そうだ。迷いは禁物だ。

一瞬の判断ミスが命取りになる。

 

隊員たちはすでに覚悟を決めていた。だが、カズヤの胸の奥には、一つの問いが消えずに残っている——

 

「俺は正しい道を歩んでるのか?」

 

車両が静かに速度を上げる。

目的地は、敵が待つ拘置所。

戦闘は、すぐそこに迫っている。

 

深夜の静寂がコロニー内に広がる。

 

運搬用トレーラーのコンパートメントが僅かに揺れ、油圧システムの作動音が響く。

 

ゼファーがその内部で起動し、冷却ガスが薄く噴き出す——その瞬間、全システムが戦闘モードへ切り替わる。

 

カズヤは端末を確認し、短く指示を出した。

 

「ゼファー、展開開始」

 

鋼鉄の巨影が動き始める。

 

ゼファーのAIが戦場の環境データを分析し、最適な攻撃経路を計算。車両が振動する。ゼファーは静かに立ち上がり、銃器システムが戦闘態勢へ。

 

隊員が肩に担いだロケットランチャーの照準を合わせる。

 

相手は、拘置所正門前で戦勝気分に浸っているジオン兵たち——

彼らは、まさかこの夜に襲撃があるとは思ってもいない。

 

「撃て!」

 

轟音が響く。

 

一発目のロケット弾が警備塔に直撃し、炎が周囲を包む。

ジオン兵は驚愕し、慌てて武器を手にするも、遅い——

 

続く爆風が門の警備部隊を吹き飛ばし、警報が鳴り響く。

混乱の中、ゼファーが出入口に鎮座し、脱出経路を確保した。

 

アゼルが守備兵を冷徹な射撃で撃ち抜き、先陣を切る。

 

煙が立ち込める施設内部——破壊された扉の残骸が床に散らばる。

 

ゼファーの砲撃が響いた直後、パワードアーマーを装着した隊員たちが煙の中を駆け抜け、施設内部へなだれ込む。

 

「敵、正面に展開——!」

 

アゼルの声が響くと同時に、廊下奥からジオンの守備兵たちが迎撃態勢に入る。彼らも油断していたとはいえ、瞬時に戦闘へと意識わや移行していた。

 

ジオン兵たちは遮蔽物を利用しながら、一斉射撃を開始。

弾丸が壁を削り、閃光が交錯する——戦場の温度が一気に上がる。

 

「前衛、散開!手榴弾準備!」

 

救出部隊もすぐさま対応。

先陣を切るアゼルは、手元のホロディスプレイで敵の配置を把握しながら動く。

 

隊員たちは一瞬のうちに戦術フォーメーションを切り替え、撃ち返す。パワードアーマーを着用した兵士が前に出て、敵の弾丸を受けながら前進。

 

その背後で、後衛が援護射撃を展開。

 

「突破する——フォーカスファイア!」

 

数名の隊員が、遮蔽物から身を乗り出し、同時に一つの目標へ撃ち込む。ジオン兵の一人が銃撃を受け、壁際へと崩れ落ちる——敵陣の圧力が揺らぐ。

 

一人のジオン兵が、パワードアーマー装着の隊員に向けて、スタンロッドで仕掛ける。しかし、相手は硬化装甲を持つ兵士——打撃も電撃も効かない。

 

「戦闘を知らない阿呆が」

 

アーマー兵が敵の銃を弾き、瞬時に膝蹴りを叩き込む。

ジオン兵が吹き飛び、背後のコンソールへ衝突——そのまま意識を失う。

 

部隊は管制室を制圧した。カズヤは端末を操作し、レビルの拘留エリアを特定。

 

アゼルが部隊に合図を送る。

 

「確保目標、Aブロックにいる!」

 

隊員たちは遮蔽物を利用しながら前進し、敵の防衛線を突破。

数発の銃撃が壁を削るが、彼らの歩みは止まらない——奪還は最優先目標だ。

 

レビルとその部下数名が同じ部屋で座り込んでいた。隊員がセキュリティシステムを解除し、素早く確保した。

 

「パッケージ確保、撤退準備——!」

 

通信が入ると同時に、ゼファーが外周から制圧砲火を放つ。

守備隊の残存兵が後退し、部隊は一気に撤退ルートを確保。

 

アゼルは戦場を見渡しながら、短く指示を出す。

 

「全員、ドックへ向かえ。ゼファーは敵軍施設を攻撃しながら撤退」

 

ゼファーが即座にホバーを起動させ、近くにあるジオン軍の施設にミサイルを放ち、更なる混乱を齎していく。

砲撃が夜のコロニーに轟き、敵の防衛網が崩壊していく。

 

施設の外には、燃え上がる車両の残骸と煙が立ちこめている。

遠くからジオン軍の警報が響き、増援の足音が迫りつつある。

 

「全員、車両へ急げ!」

 

アゼルの指示が飛ぶ。

 

救出部隊は、遮蔽物を利用しながら一気に車両へ向かって駆け出す。

 

レビル将軍とその部下は、混乱の中を誘導されながら走るが、背後ではなおも銃撃音が鳴り響いている。

 

後方から数名の敵兵が射撃を開始。

弾丸が地面を叩き、車両の側面に当たって火花が散る。

 

「敵を足止めする。カズヤ、将軍を乗せろ!」

 

カズヤはレビルの腕を引き、勢いよく車両の扉を開ける。

レビルは荒い息をつきながら、そのまま中へ飛び込んだ。

 

「乗れ!早く!」

 

部隊員たちも続々と車両へ飛び込む。

パワードアーマーの重量が車両の床を揺らし、一瞬だけバランスが崩れる。

 

アゼルが最後に乗り込み、即座に通信を送る。

 

「全員乗車。発進!」

 

運転席の隊員が急加速すると、タイヤが地面を鳴らし、車両は夜の闇へと滑り込む。

背後では、ジオン兵がさらに増え、銃撃音が激しさを増していた——しかし、彼らの標的はすでに遠ざかっていた。

 

レビルは息を整え、静かにカズヤへと視線を向ける。

彼の表情には、ただならぬものがあった。

 

宇宙港のプラットフォームに車両が急停車する。

 

隊員たちは扉を開け、次々と船へと駆け込んでいく。

レビルはカズヤに誘導されながら、すぐに乗船——しかし、次の瞬間、警報が鳴り響いた。

 

「……なんだと!?」

 

管制室に出港の為、ゲートの解放を依頼するがコロニー内の混乱を理由に拒絶されていた。

 

「ダメだ……外部から開放できる状況じゃない!」

 

アゼルが端末を操作しながら、制御プロトコルにハッキングを行うが弾かれてしまう。

 

このままでは逃げられない——それに、時間が経てばジオンの増援が来る。

 

カズヤは一瞬だけ息を整え、決断する。

 

「ゼファー……ゲートを破壊しろ」

 

通信が送られる。ゼファーのAIが即座に指令を解析し、対応を開始。カズヤの目は、冷静だが揺れていた。

 

<了解>

 

ゼファーのブースターが噴射され、鋼鉄の巨影がゲートへ向けて突撃を開始する。

 

その機体が重力を乗り越え、加速を続ける。

 

次の瞬間——

激しい衝撃音と、崩壊する金属音が宇宙港全体に響いた。

 

ゲートの構造が破壊され、閃光が走る。

空間の真空圧が一気に解放され、退路が確保された——脱出成功へと繋がる瞬間だ。

 

「ゲート破壊完了!離脱準備!」

 

カズヤは船の操縦席に向かい、離脱シークエンスを開始。

レビルは沈黙しながら、その光景を目に焼き付けていた。

 

「……君たちはいつも私の予想を超えてくるな」

 

その言葉の意味は、単なる救出への感想ではない——

レビルはすでに、この部隊の存在が連邦軍にとって何を意味するのか、考え始めていた。

 

船が徐々に浮上し、宇宙の闇へと滑り込んでいく。

背後には、炎上するゲートと、遠ざかるコロニーの灯火があった。




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