機動戦士ガンダム Gemini Saga   作:木星市民

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16話 流れは変わらず

艦橋のモニターに映し出された艦影を見て、カズヤは頭を押さえた。

予想外の事態には慣れているつもりだったが、これは別の意味で面倒だった。

 

「……スサノオだと?」

 

近くにいた通信士が、困惑しながら報告を続ける。

 

「はい。迎えの艦にギョクゲツだけではなく、スサノオも確認されました」

 

カズヤは深く息をつく。

 

「ハァ……」

 

予定にはなかった艦影が、ランデブーポイントに浮かんでいる。まるで場違いな訪問者のように、堂々とそこにいるのがスサノオだった。

 

レビルが艦橋へ上がってくると、カズヤは軽く頭を押さえながら答える。

 

「どうしたんだね?」

 

「ランデブーポイントに余計なモノが居たもので」

 

レビルが一瞬だけ眉をひそめる。

 

「敵かね?」

 

カズヤは面倒くさそうに視線をモニターへ向け、肩をすくめた。

 

「いいえ、友軍です」

 

艦橋にいる隊員たちも、僅かに動揺していた。

予定にない艦の登場——それもスサノオ。

 

レビルはカズヤの表情を見て、短く問う。

 

「……誰が乗っている?」

 

カズヤはため息混じりに答えた。

 

「娘さんが何故か来てるようです」

 

レビルは一瞬沈黙し、それから苦笑した。

その反応を見たカズヤは、ますます面倒な状況だと確信した。

 

「本当にすまない。何歳になっても、じゃじゃ馬のままだ」

 

レビルは艦橋のモニターに映るスサノオをじっと見つめる。

そこには確かな戦闘の意思がある——ただの訪問ではない。

 

彼はゆっくりとカズヤへ視線を戻し、静かに続けた。

 

「カズヤ君があれを乗りこなしてくれることを、私は願っているよ」

 

カズヤは口元をわずかに歪めた。

この任務は救出作戦のはずだった——しかし、ここからどう動くかは、もう別の話だ。

 

カズヤたちは小型艇でギョクゲツに乗り込んだ。

 

レビルとその部下は、慎重にデッキを歩きながら、内部の状況を確認する。だが、カズヤは別の問題に気を取られていた。

 

証拠隠滅のために砲撃された輸送船が、遠くで炎上している。

その光景を見ながら、彼は何かから考えを逸らすように呟く。

 

「たまや〜」

 

「気を抜くのは早いぞ、カズヤ」

 

アゼルが即座にツッコミを入れる。

カズヤは口元を歪めたまま、燃え上がる残骸を見つめ続けた。

 

この戦いの果てに何が残るのか——それを考えれば、面倒なことばかりだ。

 

カズヤはギョクゲツの艦長、ヒノに問いかける。

 

「何故、スサノオが居るんですか? ヒノ艦長。」

 

ヒノは端末を確認しながら、淡々と答える。

 

「シン様がギョクゲツだけでは戦力不足だろうと判断し、修復が完了していたスサノオを派遣されました」

 

カズヤは軽く息をついた。

ジオンの警戒網を考慮して、1隻のみの運用だったはずの作戦—— しかし、シンの判断で状況が変わった。

 

ヒノが続ける。

 

「スサノオの艦長はリリア艦長です」

 

その名前が出た瞬間、艦橋の空気が僅かに変わる。

 

次の瞬間、通信が入る——スサノオからだ。

 

カズヤは短く指示を出し、回線を開く。

 

画面が切り替わると、モニターに映ったのは、潤んだ瞳を浮かべたリリアの顔だった。いつもの軍人らしい姿ではなく、父親を心配する一人の少女の顔だった。

 

彼女の声が、艦橋に響く。

 

「お父様!!!」

 

レビルは短く息をつき、静かに答えた。

 

「……リリア。落ち着きなさい、私は無事だ」

 

艦橋に緊張が走る。通信回線が断続的にノイズを発し、レーダーの精度が急激に低下。ヒノは瞬時に状況を把握し、短く命令を下す。

 

「電子戦モードへ移行、光学センサーを最優先。第一種戦闘配備!」

 

「敵影確認——12時と6時方向にジオン軍艦艇!」

 

オペレーターの報告が艦橋に響く。

艦隊を挟撃する形で布陣するジオン軍——逃げ場はない。

 

ヒノは即座に戦場分析を終え、判断を下す。

 

「12時方向の敵艦へ一点突破を試みる!」

 

カズヤが短く頷き、艦橋に低く響く声で命令を送る。

 

「スサノオを先陣、ギョクゲツは砲撃支援。突破口を開け!」

 

スサノオの突撃——まさに破天荒な機動だった。

 

敵艦隊が砲撃態勢に入る間もなく、スサノオは陣形を無視するような速度で突っ込んでいった。

 

通常の戦術ならば、一度回避行動を取って砲撃機会を伺うはず——だが、リリアは違った。

 

「最大戦速——砲撃回避!」

 

ムサイの主砲が閃光を放つ。

 

だが、その直後——スサノオはスラスターを吹かして、機体を急下降させ、砲撃を完全に躱した。

 

艦橋にいたカズヤたちは、その動きをただ唖然と見つめるしかなかった。迎撃機会を失ったムサイの下方を全速力で抜ける瞬間——

 

「全砲門、照準固定——撃て!」

 

砲撃がムサイの艦底を貫く。

 

爆発の衝撃が敵艦を揺らし、スサノオはさらに加速しながら突破を成功させる。

 

「……あんな無茶な機動、誰がやるんだよ……」

 

カズヤは無意識に呟いていた。

 

艦橋のクルーたちも言葉を失い、ただ茫然とスサノオの突破劇を見送るしかなかった。

 

「後方のムサイから発光信号……貴艦の安全を祈る…です!」

 

「ジオンも一枚岩では無いようですね」

 

「そのようだ」

 

カズヤは発光信号を送ってきた主を理解していたが、白々しくレビルに語りかけた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

U.C.0079.01.31 ルナツー

 

ルナツーのゲートがゆっくりと開かれる。

 

金属が擦れ合う重厚な音が艦内までに響き、内部の照明が緩やかに艦隊を照らす。

 

ギョクゲツの艦首が静かに前進し、着床シークエンスが開始される。艦内の緊張がわずかに緩むが、それは束の間だった。

 

「固定アーム接続確認、ハッチ開放準備」

 

カズヤは深く息をつく。

ようやくここまで辿り着いた——しかし、この戦いはまだ終わっていない。

 

艦内のハッチが開かれると、ルナツーのプラットフォームには連邦軍の兵士たちが整列していた。

彼らの目は固く、その表情には何かを待ち望む意志が宿っている。

 

そして、レビルが一歩、ギョクゲツのタラップへ足を踏み出した。

 

その瞬間——割れんばかりの拍手が要塞内に響いた。

 

兵士たちは拳を握りしめ、歓喜の表情を浮かべながら、全力でその帰還を迎える。

 

「レビル将軍万歳!! 連邦軍万歳!! レビル将軍万歳!! 連邦軍万歳!!」

 

まるで戦場の空気が一変するような熱気——彼が生還したことで、連邦軍の士気は確実に高まっていた。

 

カズヤは艦橋のモニターで、その光景を静かに見つめていた。横にはリリアがいた。彼女もまた、拍手の中に立つ父親の姿をじっと見つめている。

 

「……やっぱりすごいな」

 

カズヤがぽつりと呟く。

リリアはわずかに目を細め、沈黙を保ったまま画面を見つめていた。

 

彼女の指がわずかに動いた。

その仕草には、安堵と誇り、そして——何か言葉にできない感情が宿っていた。

 

会場の空気は、期待と緊張に満ちていた。

兵士たちは整列し、連邦軍の高官たちが壇上を固めている。

 

レビル将軍はゆっくりと演説台へ歩みを進めた。

その姿を見て、兵士たちの間から再び歓声が上がる。

 

だが、彼はそれに反応することなく、静かに視線を前へ向ける。この瞬間が、戦局を変えるものになることを知っていた——

 

レビルはマイクの前に立ち、口を開く。

その声は、疲れを感じさせないほど力強く響いた。

 

「この戦いはまだ続いている——しかし、我々は決して敗北することはない!」

 

兵士たちの間に高まる熱気。

誰もが息を止め、将軍の言葉を待つ。

 

「ジオン公国は、強大な軍を持つように見える。だが、その真実を知った今——私はここで言おう」

 

レビルは一瞬、間を置き、

視線を端から端まで鋭く走らせる。

 

そして、その決定的な言葉を放った。

 

「ジオンに兵無し——!」

 

会場が激しく揺れる。

兵士たちの中には拳を握りしめる者もいる。

誰もがこの言葉の意味を理解していた——。

 

レビルが発したこの言葉は、戦争の心理戦を根本から変えるものだった。

ジオン公国軍の内情が伝われば、敵の士気は下がり、連邦軍の逆襲の機運は高まる。

 

その様子を、カズヤとリリアはカメラの後ろで見つめていた。

 

カズヤは短く息をつき、モニターを見つめながら低く呟く。

 

「あの言葉が、この戦争の流れを変えるか……」

 

リリアは黙ったまま、指先をわずかに動かす。

彼女は父の姿を見て何かを感じ取っていた——しかし、それが何かは言葉にしなかった。

 




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