U.C.0079.03.01 道東某所 TTDO地下基地
警報が鳴り響く。
赤色灯が回転しながら基地内を照らし、鋼鉄の床に警戒音が反響する。
兵士たちが駆け回り、端末のオペレーターが次々と報告を上げていく。
「各防衛区画、戦闘配置完了! 降下船団の軌道補足——3分後に到達します!」
空ではすでに戦火が始まっていた。
成層圏を抜けるジオンの降下船団。
大気圏突入時の摩擦で、機体の外装が赤熱しながら地表へと降下していく。
炎の尾を引く巨大な影——それは破壊の象徴、戦争の開始を告げる光だった。
基地の防衛オペレーターが息を呑む。
「……速い」
カズヤはモニター越しに、その戦火の幕開けを見つめていた。
「鷲は舞い降りる…ギレンは決断した……」
基地内のスピーカーから、キシリアの演説が低く響く。
それはジオン軍の正義を宣言する声であり、地球降下作戦の始まりを告げる宣告だった。
カズヤは静かに息を吐く。
「始まったか」
基地内の整備員たちが最後の調整を急ぎ、発進待機しているアイハスのエンジンが低く唸りを上げる。
オペレーターは降下物体の精密分析を進めていたが、次の瞬間、異変を察知する。
「……待て。HLVの挙動が妙だ!」
監視オペレーターの声が鋭く響く。
降下軌道を描く光の群れ。その中に、不自然な形状の物体が混ざっていた。
「これは……!? 降下船じゃない! スペースデブリだ!」
モニターの解析が進み、明らかになったのは、HLVではなく巨大な構造物の残骸だった。それは、迎撃態勢を撹乱し、地表の混乱を拡大させるための戦術的な偽装だった。
「やられた……! 迎撃態勢を崩すための罠だ!」
報告を受けた指揮官が即座に反応する。
「対空砲、レールガン、発射準備! 迎撃システム作動!」
巨大な扉がスライドし、埋め込まれていた砲塔が姿を現す。
冷却ガスが排出され、レールガンのコイルが青白く発光。
ミサイルが装填され、追撃態勢が整う。
「巨大なデブリから破砕しろ!」
同時に、航空隊が発進準備を完了する。
「航空隊、発進準備完了!」
報告を受けたテッペイが確認し、操縦士たちへ指示を飛ばす。
「こっちもすぐ行くで! 迎撃部隊、航空戦闘用OSやさかい慎重に動け!」
戦場が本格的に動き始める。
カズヤはモニターを見つめ、静かに息を吐いた。
「アイランドフィッシュの残骸を利用してきたか……次はMS部隊の投下か?」
彼の目は鋭く、すでに戦局を見据えていた。
「デブリ、降下速度加速中! 接地まであと15秒!」
オペレーターの叫びが響く。
その声と同時に、成層圏を突き抜けた巨大な破片が地上へと急速に迫っていた。
次の瞬間——
轟音が響き渡る。
最初のデブリが大地に衝突し、地面が激しく揺れる。
直撃した地点から土煙が巻き上がり、衝撃波が半径数キロにわたって広がった。
「衝撃波確認! 施設外部に振動拡大!」
地下基地の天井がわずかに震え、
格納庫の装甲板が振動しながら軋む音を立てる。
「これは……っ」
指揮官が歯を食いしばる。
続いて、さらに複数のデブリが降下し、次々と地表を貫いた。
轟く爆発音が連続し、モニターの映像がわずかに揺れる。
衝突の余波が地下まで到達し、振動が加速度的に増していく——
「施設内、震動レベル上昇中! このままでは——」
だが、オペレーターが言葉を切る。
次の瞬間、最も巨大なデブリが海岸線へ落下し、地殻が跳ね上がるような衝撃が発生。
基地全体が揺れた。
床下から突き上げる振動に、兵士たちがよろめく。
コンソールの端末が一瞬だけ乱れ、通信が微かに不安定になる。
「落下地点、海岸側! 衝撃波、計測不能——!」
砂塵が舞い上がり、遠方の視界が白く濁る。
カズヤは揺れるモニターをじっと見つめる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「報告致します。北海道、東京、神奈川、愛知、広島にデブリが落下しました。避難と迎撃が成功し、被害は最小限に抑えられたと思わられます。しかし、デブリが海岸付近に落下した地域では津波が発生し、被害が拡大しております」
「本社はどうしてる?」
「既に災害派遣部隊を投入し、防衛軍と協力しつつ、人命救助とインフラ復興を最優先で行っています。また、我々に対しては襲撃の対応に尽力せよと指示が出ております」
スペースデブリの落下後、ジオン軍が降下してくることは無かった。しかし、迎撃態勢は解かれることはなく、宇宙に向けて睨む銃口の先、その向こうにはまだ見えぬ敵がいる。ジオンがどのように仕掛けてくるか、誰にも分からない。
「デブリの落下地点は、どれもツキモリ重工業の大型生産施設がある場所だ。ジオンの目的は連邦軍への兵器供給を遮断する目的だろう」
「だが、我々の損害は軽微。ジオンは今度こそ、本腰を入れて攻撃してくるだろうってことだろ? カズヤ」
「はい、アゼル隊長の言われる通りです。アナハイムも連邦軍に供給していますが、我々はMSを供給している。ジオンは我々を是が非でも潰したいでしょう」
「スペースデブリの投下は南極条約に穴をついた作戦だろうな。俺たちが壊したアイランドフィッシュの残骸が落ちたと言われたら、何とも言えん。
だが、2度目は言い訳は効かん。さて、我々はどうする?」
テーブルに脚を乗せ、挑発するようにカズヤに問いかけるアゼル。
「ジオンの目的はあくまでも生産施設の破壊だと予測します。既に各拠点に部隊を配置している為、主力部隊である我々は北海道に降下してきた敵部隊を殲滅後、迅速に他の部隊の支援に向かいます」
「それで足りるのか? アイハスは素晴らしい兵器だが、ジオンのMSもなかなか良い兵器だ。遠方の部隊が壊滅している可能性もある」
「……想定はしております。更に言えば、防衛軍のMS部隊の練度は十分とは言えません。ですが、これは戦争です。多少の犠牲が出ようとも目的さえ達成することが出来れば、我々の勝利です」
「良い表情だ。虫も殺せない小便小僧だったが、成長したな」
「……ありがとうございます」
近接戦闘や戦術、戦略などをカズヤに叩き込んだのはアゼルであり、上司と部下の関係でもあるが2人は師弟関係でもあった。
会議は担当エリアを決め、詳細を詰めて解散となった。ドアを出る前にアゼルはカズヤの肩を叩き、出ていく。
「初手からMSを使ってくると思っていたが、デブリを使うとはな……予想が外れた。だが、原作通りに中央アジアにも降下作戦は行われている。連邦軍がアイハスをどこまで運用できるか……」
1人になったカズヤは小さく呟く。彼の手が届く範囲は日本だけであり、他国で起きている侵略については、祈ることしか出来なかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
同時刻 ??? ???
「隠し終わったか?」
「はい、完了しました」
「第2次降下作戦までに各地域の脱出ルートの選定、敵戦力の把握にやることは多い。すぐに動くぞ」
パイロットスーツを脱いだ白髪の端正な顔をした人物は、部下に指示を出し、街へと脚を向けた。
「……シャアにカズヤって、奴には手を出すなと言われたが負けたままでは終われない。俺はシャア以外には負けてはいけないんだ」
妖しく光る金色の瞳は憎悪と決意に満ちていた。