U.C.0076.01.05 道東某所 ツキモリ重工業 第3造船所 地下
「その感じだと、報告書には目を通してくれたみたいやな」
カズヤは、薄暗い地下空間に立ち並ぶ巨大な機械群を見上げながら言った。鈍い金属音と微かな振動が、この地下深くで何かが稼働していることを示していた。
「うん」
テッペイは、目の前に広がる異様な光景に息を呑んだ。それは、報告書で見た以上に巨大で、複雑な構造をしていた。
「その試作型核融合炉群の動作は順調や。発電量でいえば、この造船所と付近の町の電気を賄えるほどやで」
カズヤは誇らしげに言った。青白い光を放つ炉心は、静かに、しかし力強くエネルギーを生み出しているようだった。
「アイハスは?」
テッペイは、さらに奥に目をやった。巨大な格納庫のような場所で、鋼鉄の巨人が静かに佇んでいるのが見えた。
「あぁ、アイハスも順調や。バッテリーも最新型に変更して、行動時間も延びた。武装も順次、試験中や。ジブンの発想には、ほんまに驚きしかないわ」
「褒め言葉として、受け取ってとくよ」
カズヤは軽く笑った。格納庫に置かれた人型の機動兵器――
ジオンが流したモビルスーツの情報から着想を得て、カズヤが独自に設計開発した機体だ。WACH計画とは別に進められていたこの開発は、予算が限られていたため、動力源は小型核融合炉ではなくバッテリーだった。
「第9、第13造船所からの連絡で、ツキノワ級とゴウライ級の試験航海が終わったって連絡も来とる。しかし、おやっさんたちは、人型機動兵器の開発には相変わらず非協力的や。何かしらの成果を出さんと、流石にジブンの立場が悪くなるで」
テッペイは、やや焦りの色を滲ませた。
「大丈夫だよ」
カズヤはきっぱりと言った。
「昨日、読み込んだ報告書にあった連邦軍艦艇の改修案は既に認可が下りている。それに、この小型核融合炉の最終試験結果も良好で、量産が決まった。初期生産品は、各地の工場や造船所に順次設置される予定」
「それでホンマに戦争が起きるんか? 連邦とジオンにはデッカい差があるで?」
テッペイは、改めて不安を口にした。
「間違いなく起きる」
カズヤは断言した。
「ジオンが開発している人型重機は、宇宙作業には向いていない。宇宙用の重機を作るなら、多目的作業船を作る方が合理的だ。だから、あれが他の目的で作られているのは明らかだね。独立を掲げるジオンが作るものといえば、新兵器以外にありえない」
「ジブンが言ってることは分かるけどもよ、人が戦車や戦闘機に勝てんように、人をデカくしただけならただのデカい的やろう?」
テッペイは、アイハスの方をじっと見つめながら言った。その表情には、拭いきれない疑問と不安が浮かんでいた。
「兵器の歴史を振り返れば、常に効率性と汎用性の追求だった。より少ない人数で、より大きな戦果を上げる。戦車は歩兵の盾となり、戦闘機は制空権を奪った。
だけど、人型機動兵器は、その両方の特性を兼ね備えている可能性がある。汎用性という点では、これまでの兵器とは一線を画す。宇宙空間での作業も視野に入れれば、その可能性はさらに広がる。
時代が変わる、というのはそういうことだ。一つの技術革新が、社会構造、そして戦争のあり方そのものを変えてしまうんだ」
カズヤの言葉の重みに、テッペイは言いようのない不安を感じていた。目の前に立つ無機質な巨人が、これから起こるであろう、想像もつかない大規模な戦乱の象徴のように思えた。
カズヤから譲り受けた遺産であるアイハスを見つめながら、彼はまるで預言者のように、これから起きる一年戦争と呼ばれる独立戦争を思い浮かべていた。