U.C.0078.02.05 フォン・カルマン・クレーター近傍 カグヤ基地
カズヤとレビルの会談から約2年の歳月が経った。史実通り、ジオンは軍備を増強し、連邦との緊張感を高めていた。
「周囲に機影無し。発進シーケンスオールグリーン」
「システムオールグリーン。アイハス改、カズヤ・ツキモリ、出る」
ツキモリ重工業が連邦軍と協力し、作り上げられた月面基地であるカグヤからダークブルーのアイハスが発進した。
この2年でアイハスは武装などの試験を終え、十分なデータを収集した。その後、連邦軍との技術協力により得たビームライフルなどを搭載する為の実験機、アイハス改の検証に移っていた。
動力もバッテリー式からツキモリ式小型核融合に変更され、機体フレームや装甲を強化し、武装もビームライフルやビームソードの試作品を装備している。
「今日の試験は、AIによる回避行動補助のテストだ。あちらこちらから、模擬弾が出てくるから頑張って回避しいや〜」
「テッペイが居る時のテストは、キツイやつが多いんだよな。頑張るよ」
テッペイもアイハス改の試験の為、カズヤ基地に移動していた。ディスプレイに映るテッペイの顔はニヤついている。
「宇宙に来てから、魂が喜んでいる気がする。戦争が近づいているのに、兵器開発者としての性かね」
カズヤの身体に憑依してから既に2年が経ち、生活や仕事にも慣れてきていた。好きだったアニメの世界へ来た喜びも大きいが彼は原作に介入する不安も存在していた。
「そろそろスタート地点だな。頼むぞ、
アイハス改が発進してから数分、周囲の静寂が破られた。突然、無数の模擬弾がカグヤ基地の周囲から飛び出し、空間を切り裂くように迫ってきた。
「模擬弾、接近中! 予測軌道を解析中!」
カズヤの声が緊張感に満ちて響く。
「ツクヨミ、回避行動を開始して!」
テッペイの指示が飛ぶ。アイハス改のシステムが作動し、ツクヨミがその指示を即座に受け取った。
ツクヨミは、周囲の模擬弾の動きを瞬時に解析し始めた。多角的なセンサーが情報を収集し、AIの高度なアルゴリズムが弾道を計算する。模擬弾の速度や軌道を元に、最適な回避ルートを導き出す。
「左、右、上、下……全方位から攻撃が来ているわ!」
ツクヨミの声が冷静に響く。カズヤはその指示に従い、急速に機体を旋回させる。
「模擬弾の速度は秒速300メートル、回避行動は今すぐに!」ツクヨミの予測に基づき、カズヤは機体を傾けて左へ急旋回。続いて、右へと素早く移動し、模擬弾をかわしていく。
「完璧なタイミングだ! 次は……」
ツクヨミが次の模擬弾を見極める。
「直進の模擬弾、3時方向から接近中。回避するための加速を開始して!」
カズヤはその指示に従い、スロットルを全開にする。アイハス改は瞬時に加速し、模擬弾の直撃を回避した。彼は心の中でツクヨミの正確な予測に感謝しながら、次々と迫る弾をかわしていく。
「これなら、いける! もっと来い!」
カズヤの心に戦う意志が宿る。ツクヨミの助けを借りて、彼はますます自信を深め、回避行動を続けた。
模擬弾の中から、特に大きな光を放つ一発が迫ってきた。この模擬弾は、他のものとは明らかに異なり、回避が不可能な速度で接近していた。
「カズヤ、回避不能!シールドを展開して防御して!」ツクヨミの声が緊迫したトーンで響く。
だが、カズヤはその言葉に一瞬躊躇した。彼の直感が、シールドを使うことに疑問を抱かせた。彼は心の中で何かが違うと感じていた。
「待て、ツクヨミ。俺は…」
カズヤは目を細め、迫る模擬弾を見据えた。
「カズヤ、危険です!シールドを使わなければ…」
ツクヨミの警告が響くが、カズヤの決意は固かった。
「信じるんだ、俺の
彼はビームライフルを構え、狙いを定める。続いて、ビームソードを右手に握りしめ、攻撃の瞬間を待った。
模擬弾が数メートルの距離まで迫ったその瞬間、カズヤは動いた。ビームライフルの引き金を引き、精密に狙った。弾は模擬弾に直撃し、爆発音と共に光の粒子が散らばった。
しかし、もう一発が直撃してくる。カズヤは反射的にビームソードを振りかざし、目の前で閃光を放つ。刀身が模擬弾を貫通し、瞬時に切り裂いた。
「良しッ!」
カズヤの心に高揚感が広がる。ツクヨミの予測を超え、自分の直感で危機を乗り越えた瞬間だった。
「信じられない…」
ツクヨミの声には驚きが混じっていた。
「君の補助も正しいが、正解は無数に存在しているんだよ」
カズヤは笑みを浮かべ、安心感を感じながら周囲を見渡した。まだ模擬弾は続いていたが、彼の心には自信が満ちていた。
しかし、ふとした瞬間、彼は自分の直感をあそこまで信じた理由に疑問を抱いた。なぜ、シールドを使わずに攻撃を選んだのか。
直感が正しいと感じたものの、その根拠はどこにあったのか。誰かが彼の背中を押してくれたように思えた。しかし、果たしてその内なる声が信頼に足るものなのかと、心の奥で悩み始めていた。
「ちくしょうッ、あれを潜り抜けるとは思わへんかったわ。流石は天才だ」
「やっぱり、あの意地汚い攻撃パターンはテッペイの仕業か」
「こっちのツクヨミもシールドを推奨していたからなぁ。確実に一発くらいは食らうと思ってたんに、あぁ腹立つわ」
カグヤ基地からの通信が入り、テストの終了とテッペイの悔しいそうな顔がディスプレイに映っていた。
「なぁ、テッペイ」
「なんや?」
「なんで俺の機体だけ、ツクヨミの音声がリリアさんなの?」
「そりゃもちろん。愛を感じられるやろ?」
カズヤが搭乗している機体のツクヨミは、婚約者のリリアの声が音声として使われていた。
「テスト終了を確認、帰投する」
「そこはスルーするんかい」
カズヤは無事にテストを終え、カグヤ基地へと帰投ルートに入った。
「あれは情報にあった連邦軍のMSでは無いな。アナハイムかそれともツキモリ重工業か……」
遠くの方からテストエリアを確認していた赤色の単眼のMSのパイロットが呟くと機体を翻して、宇宙の闇に消えていった。
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カグヤ基地には宇宙用に調整されたバッテリー式アイハスが8機、核融合式が4機、配置されている。多くの機体に被弾を示すペイントがマーキングされていた。
カズヤの後に出撃したパイロットはカズヤと同じように切り抜けようとして、大破判定を食らっていた。
「あらあら、
「……レビル中尉、お疲れ様です」
待機所から出た所でカズヤはリリア・イブラヒム・レビル中尉と出会した。彼は彼女の顔を見ると逸らし、足早に去ろうとするが長く綺麗な脚が行く道を防いだ。
「中尉、自分はこれから48時間の休暇に入ります。その脚を退けて頂けないでしょうか?」
「奇遇ね、私も48時間の休暇に入るのよ。しかし、不思議だわぁ。先日の貴方から送られた休暇予定には、この休暇のことは無かったわよね? まさか、天才である貴方が自分の休暇を間違えることは思えないしね?」
「自分は天才ではありませんよ。ただ、自分が出来ることをしているだけです」
カズヤは苦々しい顔をしながら、心の中で舌打ちをして、彼女の
しかし、リリアの表情は変わりなく、悦に入った目で彼を見つめ続けている。
「カズヤ君、まだ根に持ってるの? 無理矢理ヤッたこと?」
「……リリアさん。この場所は、自室ではありませんよ。連邦軍の軍人として、節度を守った発言してください」
「あらあら、顔を真っ赤にしてお可愛いこと。あの時も可愛らしいかったわね。じゃあ、君が言う通りに私の部屋に行きましょうか?」
カズヤは腕を捕まれ、宙を漂いながらリリアに連行されていく。その表情は諦めの色で染まっていた。