機動戦士ガンダム Gemini Saga   作:木星市民

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8話 選ばれた未来

「だいぶやられたな」

 

「無事な機体はあらへんな。けど、艦もパイロットも無事やし、胸を張ってええと思うで」

 

  出撃したアイハスは、漏れなく損傷を負っていた。1番、酷いものはコクピットハッチが裂けており、血痕もあった。しかし、全パイロットが生存し、スサノオの損害も最小限に抑えられた。

 

「MSの運用能力はパイロットを含めて、ジオンが1歩先を行ってるな」

 

「せやな。やけど、追いついてみせるで。しっかし、ジブン、雰囲気が変わったな」

 

「鉄火場を生き抜いたからな。ひと皮もふた皮も剥けるさ」

 

  カズヤとテッペイが格納庫のキャットウォークで損傷した機体を眺めながら、先程の戦闘の話をしていた。

 

「カズヤ様、ツキシマ技術主任。リリア艦長がお呼びです」

 

「了解、艦橋に行くよ」

 

  格納庫に居た整備士にリリアが呼んでいると伝えられた2人は、彼女が居る艦橋へと足を向けた。

 

「カズヤ隊長、こちらが今回の詳報です。また、連邦軍及びテム・レイ大尉から感謝の電報が届いております」

 

「ありがとうございます。リリア艦長も艦を護って頂き、感謝致します」

 

  リリアからカズヤに渡されたのは、今回の戦闘の詳細な報告書であった。簡潔で分かりやすい内容で纏められており、彼女の性格を表している。

 

「ツキシマ技術主任。アイハスの修理にはどのくらいの時間が必要ですか?」

 

「アイハスは3機が2時間、2機は3時間、3機は完全修復には基地での整備が必要や。改の方は隊長機の修理は完了済みで、他の機体も1時間ほどで仕上がるで」

 

「了解です。整備班にはもう少し頑張って頂きます」

 

  現状の情報を交換したのちに3人は持ち場へと戻り、作業に取り掛かり、数時間が経った。

 

 リリアは艦橋で静かにモニターを睨んでいた。

 

「……ジオンはまだ動かないか。」

 

 彼女の声には警戒心が滲んでいる。スサノオのセンサーが周囲の空域を監視していたが、敵影の反応はない。

 

「残存戦力、報告」

 

 オペレーターが即座に応じる。

 

「戦闘可能なMSは7機。損傷の軽微なものが4機、中程度のものが2機、重度損傷の機体が1機。船体の装甲耐久率は85%、推進系統は正常です」

 

 リリアは静かに息を吐く。この戦いで得たのは勝利ではなく、次への備えだった。ジオンがここで戦闘を終えるとは限らない——彼らは撤退したが、再襲撃の可能性は十分にある。

 

「油断は禁物よ。もう一度周辺の警戒を強化して」

 

「了解。」

 

 クルーが即座に指示を実行する。センサー解析の強度が上げられ、戦艦の迎撃態勢を再チェックし、必要なら微調整する。

 

 ——だが、ジオンは現れなかった。

 

 戦場には、張り詰めた沈黙が広がっていた。

 

「……このまま降下できるかもしれないわ」

 

 彼女はモニターの映像を見つめる。その先に広がるのは、地球の青い輝き。

 

「降下ポイントに到着」

 

「了解。総員、第二種戦闘配備を維持しつつ、大気圏突入に移行する」

 

 スサノオは、リリアの号令で地球の重力井戸へと引き込まれていく。

 

 船体が振動し始め、機内の空気がわずかに重くなる。

 

 赤く燃え上がる摩擦熱が窓の外を覆い、船体の耐熱コーティングが火の海の中を貫く。

 

「船体温度、急上昇……耐熱ジェル散布完了、温度は安定」

 

 クルーの声が緊張に染まる。艦内のモニターには突入軌道の解析データが表示され、スクリーン越しに灼熱の壁を抜けていく。

 

「加速度、安定圏へ移行……大気圏突入完了」

 

 機体が振動を収束させる。突入時の激しい熱と圧力を乗り越えたスサノオは、地球の空へと舞い戻った。

 

 やがて、視界の先に広がるのは白銀に覆われた大地。

 

「……北海道が見えてきた。」

 

 艦橋の誰かが呟いた。その瞬間、張り詰めていた空気がふっと緩む。

 

「よくやったな……ここまで来れたんだな」

 

「無事降下成功……ああ、やっと地球か」

 

 重力が確かに存在する世界へと降り立つ。その事実が、クルーの心にわずかな安堵をもたらす。

 

 約1年に及ぶ月面試験を終え、カズヤたちは戦場を乗り越え、ついに地球へ帰還した。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 U.C.0078.02.15 道央某所 ツキモリ重工業本社 第一大会議室

 

 カズヤは壇上に立ち、アイハス計画の最終報告を終えた。報告書には、月面での戦闘経過、アイハスの戦闘能力、そして今後の戦略が詳細に記されていた。

 

 ゲンジロウは静かに頷き、一通り報告を聞き終えた後、会議室を見渡した。

 

「他に質問は?」

 

 重役たちは沈黙していた。しかし、その沈黙を破る声が、一角から飛んだ。

 

「ツキモリ重工業は連邦軍と協力しすぎている! 企業としての独立性を損なうのではないか? 我々は軍ではない!」

 

 鋭い声が響く。発言したのは、連邦軍との関係強化に慎重な立場を取る古参の幹部だった。

 

「企業が兵器を持ち、防衛力を高めるなど、まるで軍隊ではないか。それに、利益は本当に出るのか? 自衛のためだけにMSを生産する価値があるのか?」

 

 会議室の空気が張り詰めた。数名の重役が思案するように視線を落とす。

 

 カズヤは迷わず言葉を紡いだ。

 

「ツキモリ重工業は、単なる企業ではない。我々は日本、ひいては北海道を護るために創立された。

 

  過去の統一戦争時、ツキモリ重工業は従業員から義勇兵を集め、戦場へと送り出した。戦場で戦うだけではなく、一時的であれ占領地域の治安維持を務めた。それが我々の原点だ」

 

 彼は続ける。

 

「ジオンのMSは今や戦局を根本から変えている。ミノフスキー粒子下では、従来の兵器は役に立たず、誘導兵器も索敵システムも機能しない。

 

 戦闘は『個体の強さ』に戻り、MSを持たない者は蹂躙される。連邦軍ひいては北海道にとって、これは深刻な脅威だ」

 

「我々のアイハスは、この新しい戦場に対応できる唯一の防衛手段だ。しかし、大量生産を進める以上、ツキモリ重工業はジオンの攻撃対象となる可能性が高い。我々がただ兵器を作り続けるだけでは、ジオンにとって格好の標的にしかならない」

 

「だからこそ、ツキモリ重工業の自衛能力を高める必要がある。我々は侵略するわけではない。アイハスはバッテリー式であり、稼働時間に制約がある。だからこそ、防衛のために適した機体なのだ」

 

 彼は視線を鋭くしながら、会議室の重役たちを見渡した。

 

「自衛の在り方として、連邦軍へのアイハス販売と並行して、傭兵会社を設立し、連邦軍へ直接軍事力を提供する。これによって利益を生み出しながら、企業の独立性を維持できる」

 

「指揮官には、連邦軍から出向しているレビル中尉を選出し、軍の監視を受け入れる。企業が単独で軍事力を行使するのではなく、正式な枠組みの中で運用する。

 

 それに、パイロットの訓練は戦闘経験者を派遣し、さらに補助AIであるツクヨミの改良を進めることで、効率的な運用が可能となる」

 

 会議室は静まり返った。重役たちは、カズヤの言葉を慎重に噛みしめるように視線を交わしていた。

 

 ゲンジロウは再び口を開く。

 

「他に質問は?」

 

 沈黙が続く。

 

「……では、採決を取る。アイハス計画の量産、およびツキモリ重工業の自衛能力確立について——」

 

 会議室に緊迫した空気が漂う。誰もが、この決定がツキモリ重工業の未来を変えることを理解していた。

 

ゲンジロウの言葉とともに、会議室には張り詰めた沈黙が広がった。

 

「アイハス計画の量産、及び後継機の開発について——賛成の者は挙手を」

 

重役たちは一瞬、互いの反応をうかがうように視線を交わした。

 

——しかし、その緊張を断ち切るように、一人、また一人と手が上がっていく。

 

最初の数秒こそ静寂に包まれていたが、やがて圧倒的多数が賛成の意思を示す。

 

「賛成多数」

 

ゲンジロウの言葉とともに、ツキモリ重工業の未来が動き出した。

 

「これより、アイハス計画の量産を開始する。また、後継機の開発にも着手する」

 

会議室の空気が変わる。ここにいる誰もが、この決定が企業の方向性を決定づける歴史的な瞬間であることを理解していた。

 

カズヤは静かに息を吐く。彼の提案は、議論を経て正式な企業戦略として認められた。

 

——これが、ただの兵器開発ではない。

 

これは、日本、そして北海道を守るための決断だ。

 

連邦軍との関係強化を良く思わない者もいた。しかし、その議論を乗り越え、企業の独立性を維持しながらも、防衛の責務を果たすという方針が示された。

 

ゲンジロウはカズヤに視線を向ける。

 

「カズヤ、我々に次の一手を示してくれ」

 

ツキモリ重工業は、単なる兵器メーカーではなく、戦局を左右する存在となる道を選んだのだ。

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