本日から「ユニバース戦士補ジュウ計画 EXTRA ROUND」と称し、新たな指輪の物語や、今までの作品の続きや、オールスター作品などをお送りいたします。
まずは先日ラストを飾っていただいたTELTELボーズさん(X:@teltel_fumibo)
の「豪豪っ!空駆けろかぶき者!」の続編となります。お楽しみください!
「また会ったなエセ歌舞伎野郎! お師匠が許したってこの
「…え、えーと?」
「あんた誰?」
またとか言われても覚えがなかった。昨日も何回かすれ違った気もするし一昨日も風景の中にいた気がするような、そんな中肉中背平々凡々な若造が噛み付いてきたの。火狩もどうやら思い出せなかったらしい。
「嘘だろ!? おまっ、オレだよ!ホラ、レッドファルコン!!」
「レッド…?」
指輪の戦士の名前とは思うけど、どの戦隊のものかはパッと思い浮かばなかったわ。あたし達の「ハリケンレッド」や師匠の「ゴーグルレッド」ならともかく、名前に戦隊の名前が入ってない戦士ってわかりにくいと思わない? ただ、対峙した戦士のうち赤い戦士は残り一人しかいない。その時手に入れた指輪は確か…ライブマンだ。
「…ああ、さっさと襲いかかってきてさっさと負けたアイツかぁ」
「そ、そういえばいましたね…」
「えぇ…印象薄すぎないか?」
「だって変身してから来てたんだからしょうがないじゃない? 素顔見たのは倒した後のほんの数秒だったし。師匠みたいに素顔で絡んでから勝負してくるか、白髪だったり太っちょだったりグラサンかけた厳ついツラだったりすればよかったのに」
「一応兄弟子に向かってなんて失礼な態度だ…と、とにかくオレは認めてないからな!覚悟しとけよ!」
…と、いうのが赤坂屋の弟子入り初日に起こった空介との
「…ねえ火狩、アイツらになんかされた?」
「…ううん全然。お姉ちゃんも…だよね?」
「うん、さっぱり」
そう、一ヶ月経ってもそれらしい嫌がらせは何もされなかったの! 正直言って肩透かし食らった気分だったわね。かと言って無視するわけでもなく普通に発声や所作でアドバイスもくれるし(しかも普通に為になるのよねこれが)、覚悟しろとはなんだったのかって話よねぇ?
「…ま、悪いやつじゃないんだろうなぁ」
普通に気が利く良い人、だからこそ地味さに拍車がかかってるのかもしれないけどね。
しかぁし!空介の存在は思わぬ形であたしに牙を剥くことになったぁっ!
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ある日の休憩中、あたしはいつもの通り火狩に動きを確認してもらおうと声をかけたの。でもあの子、なんとこう言ったの!
「空介さんと話があるから、後でいい?」
って!! 火狩が!あたしの誘いを後回しにするなんて!! 生まれてこの方初めてのことだったから、ちょっとひっくり返りそうになったわ。嘘、ひっくり返ったわ。
「お姉ちゃん!?」
…夢を見ていたわ。ウェディングドレスを着た火狩が「お姉ちゃん、私この人と幸せになるね」って手を振る夢を。相手の顔はよく見えないけど、それが余計に火狩が離れていくような光景を際立たせていたわ。そうよね、いつかは火狩も姉離れするときが来るものね…ぼうっとしていたあたしは火狩の放り投げた花束を額で受け止める。飛び込んできた花束はなぜかやたら冷たくて…違うこれ濡れた布だって気づいて目が覚めたわけよ。
「ん、起きたな。大丈夫か?」
「…あー、えっと、空介?」
「やっと名前覚えたか。あと兄弟子には“さん”を付けな」
気づけば稽古場の仮眠室で寝かされてたわ。歌舞伎の稽古場に仮眠室なんかあるのかって? 他所は知らないけど
「熱中症じゃないみたいだったからとりあえず寝かしといたけど、具合どうだ?」
「すっかり大丈夫。んじゃ…」
と、寝ていた分の稽古時間を取り戻すために起き上がろうとすると、タオルケットを上から押さえつける力があったの。なんとか首だけ起こしてお腹の上を見ると、火狩がうつ伏せになって寝てたわ。
「今日はもうやめとけ。妹も疲れて寝たし、
「…気づいた?」
当時、あたしは毎夜稽古場に忍び込んで足運びの特訓をしていたの。兄弟子や師匠はおろか、火狩にも秘密で。倒れた一番の原因は火狩へのショックだったけど、確かに睡眠不足もあったのかもね。
「夜な夜な足音ちょっと鳴ってるからな。最近聞こえにくくなってるが、まだまだ甘い。大方体幹が不安だから鍛えてるってところか?」
「ご明察。ホントよく気がつくわね」
「よく気がつく、か」
思うところがあったのか、空介は浮かない顔をしたわ。
「お師匠にはウケが悪いけどな」
「そうなの?」
「ほら、オレってちょっと…地味だろ?」
「うん、だいぶ地味ね」
「ちょっとは歯に衣着せろ。…演技にもそれがちょくちょく出ててよ、お師匠にどうすりゃ直るかって聞いたら、『手前ぇは気が利きすぎるのがいけねぇ』だってさ」
…師匠の言わんとすることは、あたしにもなんとなくわかった。空介は前に出るには優しすぎるんだわ。他の誰かを押しのけてまで前に出てやろうっていう獰猛さが足りない。現に指輪争奪戦の時も、攻撃を本気で当てようとはしてこなかったもの。
「…お前を初めて見たとき、正直体幹も発声も何もかもまだまだなド素人とは思ったよ」
「あんたも大概容赦ないじゃない」
「でも、華のある芝居だと思った。惹きつけて忘れられない、看板役者の芝居だってな…お師匠はきっと、そういう役者を探してたんだ」
“自分じゃなくて”、言外にそんな諦観を含ませたその弱気に、あたしはちょっとムカついたわ。
「オレも本格的に裏方に専念する頃合いなのかもな。向いてない役者にしがみついてないで」
撤回、バチボコにキレたわ。腹筋で限界ギリギリまで上体を起こしたら項垂れてた空介の襟首に手が届いたから、思いっきり引っ掴んでこう言ってやったのよ。
「向いてないからって…何よ!!」
「ぅえっ!?」
「向いてないってなら女の時点であたし達の方が落第もんの不向きでしょうが!!こちとら本当に表舞台に立てるかさえ不確かな中で藻掻いてんのよ、ずっと近くにいるあんたが夢に背中向けてどうする!!」
「…」
「そ、れ、に、いずれ追い越すのは前提だけど、あんたに出来てあたしに出来ない芝居はまっだまだあるんだから! どうしても舞台降りたいって言うなら、あたしがあんたの出来る芝居全部食い尽くしてから降りな!」
豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔で固まる空介としばらく睨み合った。…腹筋が結構キツイから早く振りほどくなりなんなりしなさいよ。
「…この程度の時間で腹筋に限界来てるなら、追い越されるのは当分先になりそうだな」
「あ゛ぁん!?」
ガルルと威嚇するあたしの身体をそっとおろして手を離させると、空介は襟首を直しながらフッと笑った。
「だから一人で特訓して身体壊すくらいなら、遠慮せずオレを頼れ。そしたらオレも兄弟子として遠慮なく鍛えてやっからよ、日刈」
これがあたしの特訓が短くなった代わりに質と過酷さを増すことになった
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そんなこんなで季節は過ぎて、馬鹿みたいに暑い夏に入った頃のことよ。いつも通りあたし達赤坂屋一門が稽古に明け暮れていた中、何の前触れも無く白昼堂々それらは現れたの。“厄災”と呼ばれる存在が。
「火狩!」
「お姉ちゃん!」
当時は既に指輪争奪戦から脱落した身だったから逃げ回るしかなかったわね。どこに行っても色んな風体の怪人たちがウロウロしてるもんだから、木刀やら雑巾やら畳やら投げつけて右往左往してたもんよ。まあそんなんであっち行ってもこっち行っても湧いてくる連中を躱し切れるわけもなく、注意が逸れてた方向から髷のついた黒い一匹がトンファーみたいな刃物を振り被ってきた時はさすがのあたしも死を覚悟したわ。そんな時、空介が外した障子を盾にして割って入ったの。
「日刈!火狩!オレが抑えてるうちに逃げろ!!」
障子に取られて蠢く黒髷怪人を凌ぎながら、空介はあたしたちに逃げろって言うのよ、信じられる!?
「逃げろって、あんたはどうすんのよ!?」
「空介さんだって危ないのは同じじゃないですか!」
「だったら生き残んのはお前らだろ!!」
障子の向こうからさらに緑のモヒカンを生やした白い顔が突き出ても、なおも空介は粘る。
「お前ら二人は
そんな健闘も虚しく迷彩色のマダラ模様の顔が障子戸を壊し、空介は弾き飛ばされてしまった。空介がやられる!そんな逆境に一石を投じたのは、
「こんのっ、馬鹿弟子がぁっ!!」
いや一縄を投じたのは、驚き桃の木、大谷師匠だったわ!端を括って輪にした縄を襲い来る怪人どもに引っ掛けたと思ったら、ぐるぐる巻きにして柱に縛り付けてしまったの!…えっ、強くない?
「ヤンチャしてた頃に、ちょっとな。なぁに昔の話でぇ」
聞いてない。いやちょっと気になるけど今はそれどころじゃない。
「おう空介っ! 相変わらず手前ぇは要らんとこまで気ぃ利かせるなてやんでぇっ! 手前ぇがいなきゃ誰がそいつらを一流に仕上げんだよこの野郎っ!!」
師匠は襲い来る怪人どもの足を取ったり首を引っ掛けたりしつつも空介に激を飛ばす。
「俺ぁモノ教えんのが苦手だ! 他を立てんのも苦手だ! 手前ぇは俺好みの役者じゃねぇが、俺に出来ねぇことが出来る大した奴なんだよ!! だから、勝手におっ
「お、お師匠…」
「やい弟子ども!
「お、お師匠…?」
だいぶ無茶苦茶言い出したわねこの爺さん。うん、間違いなく昔はあたしと同類の破天荒だったわこりゃ。しかしそんな喝にあたしも火狩も空介も、赤坂屋一門全員が奮い立ったわ。
「そうよ、あたしたちはこんなつまらない終わり方してる場合じゃあないっ!」
「途方もない夢だって諦めずに、お姉ちゃんと一緒に大団円まで行くんだ!」
「そうだ、日刈も火狩もオレの全部を食い尽くすにはまだまだ足りねぇ!!」
“願いを…言え…願いを言え!!”
どこからともなくやたらいい声が響き渡る。えっなにこれ? ただ、火狩と空介と師匠には覚えがありそうだった。
“願いを言え…もっと…もっとだ!!”
声はさらに強く衝動を駆り立てる。あたしもなんだかソワソワしてきて、心のうちを叫んでいた。
「師匠も他の連中も全部超える立役者になって、主役全部独り占めにしてやりたいっ!!」
「そんなお姉ちゃんの姿を舞台裏のありとあらゆる角度からじっくり眺め尽くしたい!!」
「五代目大谷朱右衛門ここにあり!って伝説も何
そんな熱に当てられてか、空介も今までに無かったギラギラした目で本音を叫んだ。
「そうだ、オレはみんなの助けになりたいけど、同じくらいオレ自身も表舞台の光を浴びたい!! 火狩みたいに主役を引き立てながら日刈みたいに役者を続けたい!! いや、赤坂屋でオレにしか出来ない芝居がしたい!!」
心からの願いはどこかの神様に届いたみたいで、空から振ってきた赤い光があたし達全員の右人差し指に宿る。それはやがて、あたし達がよく知る金の縁の指輪となった。あたしと火狩の指輪は同じ絵柄、桜吹雪に咲く三色の和傘と、その奥の障子に踊る影たちだ。
「…はっはっはーっ!今度は姉妹揃って“本物”ってわけだぁっ!!」
「ふふっ、お揃いだねお姉ちゃん!」
皆がみんな、不思議とどうすれば良いか、何を叫べばいいかわかっていた。
「そんじゃあ弟子ども、お手を拝借!いよぉ〜っ!」
『あ、ぇエンゲェージぃ〜っ!!』
師匠の音頭に合わせて指輪の絵柄を回し、その言葉を高らかに唱える。赤坂屋一門はあちらこちらで様々な演出をしっちゃかめっちゃかに解き放つ。兄弟子たちもあらゆる姿の赤い戦士に変身していき、師匠と空介は指輪争奪戦の時と同じくゴーグルレッドとレッドファルコン(最近ようやく覚えたわ)に変身する。あたし達?決まってるじゃあないの!!
「光忍!ハリケンレッド!」
「篝忍!ハリケンレッド!」
「人に知られ」
「世に知られ」
「光を浴びて芝居打つ!」
『赤坂屋一門!あ、参上ぉ〜~~ッ!!』
総出で大見得を切った後、変身した戦士たちは方々に駆け出して無数の怪人たちに立ち向かっていく。…うわっ、身体軽い!
「やあっ!ていやぁーッ!!」
「はっ!はあっ!」
あたしの大振りな太刀筋と火狩の小刻みな剣閃が迫りくる怪人たちをバッタバッタと薙ぎ倒していく。これこれ!こういう姉妹共闘やってみたかったのよね! 最初っから最高潮だと思っていた熱は際限なく増していき、こう思ったの、もっと派手なこと出来そうな気がする!って。そう浮足立ってると、本当に足が地面を離れていた。いわゆる“空駆け”、ハリケンレッドの得意技らしかった。これは…堪能しなきゃあ勿体ないっ!!
「あたしちょっと外に出てくらぁ! 火狩、稽古場と皆は任せたっ!!」
「うん、いってらっしゃい! ちゃんと帰ってきてよね!!」
火狩の呼びかけに背中で応えつつ、あたしは広い青空へと駆け出していた。
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外を出ると、稽古場と同様に怪人と赤の戦士で溢れかえっていたわ。こーりゃ逃げ場なんてなかったな。スーパー歌舞伎さながらの空駆けとドライガンと“射”モードにしたハヤテ丸を駆使して、怪人たちだけをドンドン撃ち抜いて過ぎていく。これ気持ちいいわね! そんな戯れに夢中になっていたあたしは、死角から狙ってくる銃を持った怪人たちに気づかなかった!あたしは厄災たちに銃弾を撃ち込まれ…は、しなかった。さらに上空からそれら全てを狙撃する戦士がいたからね。空にいながら地に足着けたように静止しているその姿は、まさに鳥人と言ったところか。
「そこの上空走行者!死角には気をつけたまえ!」
「あっ、ありがたやぁ〜っ!!」
そうして師匠よりやや歳いってないくらいのオジサンの声でお叱りを受けたあたしは、ちょっと周りに気をつけつつもその速度と高度のまま走り去った。
「まったく、有事の国防をこのような珍妙な力に頼らねばならんとは不甲斐ない…ましてや老若男女問わず一般市民全員を武装させる事態になるなど!…この体たらく、どうせ貴様ならいずれ改善してしまうのだろう? なあ、熱海常夏総理大臣よ」
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ちゃんと死角にも気をつけて走ってたら、今度は真正面から突然生えた大木に顔から突っ込んだわ。
「へぶっ!」
「あっ、ごめんよ!ちょっと待ってね、すぐ片付けるから」
よくよく前方を見れば大木だけではない、火柱、土の塔、金属の柱、水柱が円環を成して並立していた。その内側には大量の怪人たちと、あたし達ハリケンレッドとはまた違った赤い忍者のような戦士が見える。その戦士はしなる木を飛び出し台に用い、火、土、金、水とピンボールのように跳ね回っていく。また木に戻ってはその跳躍サイクルを加速させ、五つの柱の内側に荒れ狂う気が巡る嵐を起こしていたわ。
「風水忍法奥義!相克・忍烈斬!!」
時間にして数秒足らずなれど幾十度目かの木への着地を果たしたところで、戦士の機動はより内側に転換した。土の柱を崩し、水の柱を弾き、火の柱を爆ぜさせ、金の柱を砕き、そのすれ違いざまに次々と怪人たちを斬り伏せ爆散させていく。最後に大木の幹に風穴を空けると全ての柱は風に解けて消え、後には五芒星の爪痕のみが残っていた。
「待たせてごめんね!通っていって!」
「なんと派手で見事な技よっ!あっぱれ〜っ!!」
そうやってほんの少しの通行止めを楽しみつつあたしは駆け抜けていったわ。
「…気のせいかな吠くん。『てめぇらの願いをぶち撒けろ!』って君に言われた気がしたんだ。リハビリ終わったらやりたいこと、今から探してみようかな」
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空駆けも満喫したところで稽古場に戻ってくると、師匠のゴーグルレッドが見事なロープ裁きで敵を一網打尽にしていったり、兄弟子たちが思い思いの技を繰り出したりしているのが見えた。それにしても…なんかあたしが留守にしてる間に
「えへへぇ、お姉ちゃんがいっぱいだぁ…」
「…おい日刈、火狩の性癖ちょっと危なっかしくないか?」
恍惚とした様子の火狩を案じるように、空介のレッドファルコンが呆れたような声で尋ねてくる。
「あぁ、“
「うんまあそりゃ光栄だけど」
「そんじゃあ、あたしもっ!!ぁ“
放り投げた赤・青・黄色の和傘を指輪の力で三人の黒衣ハリケンレッドの姿に変える。
「
「お前もやんのかい! で、それ動かすのもオレってことか!?」
「畏みぃ〜畏み申すぅ〜!」
「全然畏まる気無いだろお前…あーわかったよ!“
文句を言いながらもレッドファルコンは指輪から力を放ち、黒衣ハリケンレッドを動かした。空介の頼ったらなんだかんだで応えてくれるところ、結構好きよ。
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『じゃ、全員で行くかぁ!』
誰かの声に呼応するように、全世界のレッドが青い疫病めがけて飛び込んでいく。あたしは三色の武器たちが繋がって豪華な
「赤坂屋一門、スーパー歌舞k」
「ン巻 き 起 こ せ ! 歌 舞 伎 の ハ リ ケ ェ ェ ェ ェ ェ ェ ン ッ ! ! 」
「あっちょっ手前ぇ!」
師匠が何か言いかけてたけど、早いもの勝ちってことで! それにこの赤い旋風、まさに“ハリケーン”って感じしない? だったら実質
『ね、願いを捨てろ!欲を持つな!それこそが、正しき秩序っ!!』
あたし達に巻き上げられた親玉っぽい青い巨人がなんか説教臭そうにほざいているけど、あたし達はそんなこと知ったこっちゃあないわ!!
『無理な話だ!オレたちは、絶対願いに手を伸ばす!』
誰か知らないけど良いこと言うじゃない! 金に光る刃を携えた強大な右手が悪の親玉を貫き、あたし達は元いた所まで戻っていった。とどめ取られたのは癪だけど、全人類巻き込んだ技を名付けられたんだしまあまあ上々ってところね!そう、あたしこそが…
「あたしこそがっ!あ、でしゃばりナンバァーワァ〜ンッ!!」
WINNER!UKAMI HIKARI!!ってね。
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戦いが終わって、あたし達は無我夢中で散らかした障子やら木刀やら掃除道具やらを片付けることになったわ。厄災たちはご丁寧にあたし達の命だけを狙ってたから、工事も特に要らなかったのは不幸中の幸いね。…つまりこの散らかりようはほぼほぼあたし達の仕業なわけだけど…うん、襲ってこられちゃあしょうがない!あたし達悪くないもん!
「障子張れそう?」
「一人じゃちょっと厳しい。手ぇ借りていいか?」
「合点承知ぃ!」
あたしが巻紙の端を押さえて、空介が丁寧に糊の付いた格子に伸ばしていく。枠からはみ出した分の紙を切りながら、空介は徐に喋りだした。
「オレ、役者辞めないことにした。ていうか辞められなくなった」
「ん、辞め“られなくなった”…? どういうことよ」
「お前との約束、お前がオレに出来る芝居全部できるようになってから辞めるって話だろ? お前にゃ一生出来ない芝居があるからムリってこった」
カッチーン。
「辞めないのはいいけど、あたしに一生出来ない芝居があるってぇのは聞き捨てならないわね! 言ってみなさいよやってやろうじゃあないの!!」
「へぇ?じゃあお前に出来るか? “隣に立ってる奴の方が目立っちまう名脇役の芝居”がよ」
「そっ、れは…、やりたかないわね」
「だろ? けどオレはやりたい。火狩とは違う所からお師匠やお前を引き立てて、オレ自身も表舞台に出る影の立役者、オレが考えた最強の歌舞伎役者をな」
あたしはバリバリ表で一番目立ちたい派だから共感は出来なかったけど、空介の目にはもう辛気臭さや迷いは無かった。まだまだ頼れる兄弟子でいてくれそうね。
「…そ、れ、は、それとして! 出来ない呼ばわりは腹立つ! 脇役芝居も教えなさいよ、ものにしてやらァ!」
「えぇ…やりたいことから背中向けるもんじゃないぞ、これお前からの受け売りな」
「いんや心底やりたいことよ! あんたを完膚なきまで叩きのめして、こう言わせてやるのよ!『オレが役者辞めないのは約束だからじゃなくて、オレが歌舞伎が好きだからだ』ってねぇ!!」
「…ははっ、あまり期待せず待ってるよ。半世紀くらいな」
「ナメんな! 十ね…に、二十年ありゃ充分よ!!」
こうして新しい目標とライバルが出来たことは、あたしが赤坂屋でもっと強くなれた理由の一つね。…え?賭けはどうなったかって? …ま、まだ半世紀経ってないし! これからよこれから!勝負も、あたし達の伝説もねぇっ!
〈了〉
レッドファルコン
願い:赤坂屋一番弟子ナンバーワン
宇上姉妹にナレ負けした戦士。赤坂屋の門下生であるが、師である大谷が自分と同様に戦士であることは知らなかった。どことなく地味で印象に残りにくい風貌であることを気にしており、名前を捩って「空気」などと呼ばれるのが心底地雷。目立って名を残す役者になることを望んでいる。しかし彼の適性自体は裏方向きであり、誰が相手でも表情や動きを読んで相手が心底言われたくない言葉を避けたりと人知れず気が利いてしまうタイプ。ちなみに指輪争奪戦では宇上姉妹の代役戦術で日刈の癖を読み取ってしまった事が仇となって火狩の闇討ちをモロに食らって敗退した。
師匠の大谷は彼のバイスタンダーとしての才覚を評価しつつも、より破天荒で反骨精神溢れる者を看板の後継者として望んでいた。
歌舞伎の名を汚した宇上姉妹の門下入りには最初は反発していたが、それでも絶対に彼女たちが女であることをあげつらうことはしなかった。日刈のから真に華のある芝居が何たるかを見出したり火狩が苦手としていた姉以外への演出についてアドバイスを行ったりなど紆余曲折あって、他者を応援したい気持ちと同等以上に自分も表舞台で戦い続けたい気持ちが強いことを悟る。将来は赤坂屋の名物三枚目役者として表舞台に立ちながらも主役らを引き立てる役目を担うことになる。
宇上姉妹からの感情:
日刈(+)→全体のために承認欲求を律して一歩引く事ができる強さに尊敬。
日刈(-)→ずっと自分だけを見てくれてた火狩を取られてやや不機嫌。
火狩(+)→自分と似た適性を持ちながらも表舞台に立ち続ける強さに尊敬。
火狩(−)→自分には立てない舞台上で日刈の隣に並び立てる近さに嫉妬。