(X:@3110_na_Joker)
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「炎の向こうに」
https://syosetu.org/novel/374798/16.html
の続編となります。
深月三龍。言わずと知れた浅見高校のマドンナ。その美貌は誰をも魅了し、男女問わずファンが多い。両親が経営する喫茶店「未来」は聖母のようなエプロン姿と淹れたての絶品コーヒーが味わえることで、今では学内外を問わず人気だ。故に。
「SPDは最大の危機を迎えていますわ……」
SPD、Security of Princess Dark。大層な名前が付いてるが、基本的に黒姫親衛隊と呼ばれることが多い。燃えるハートでクールに戦う彼女らの使命は、高校に潜む脅威と戦い、深月三龍の平和と安全を守り抜くことである。
「たいちょー、いい加減認めたらどうですかー瀧磐八人はお姉様に選ばれし者だって」
「御黙りなさい!この西村
隊長である西村菊花はいわゆる過激派閥である。これまで数多のよこしまな目的で近づく脅威を退け、親衛隊の頂点に立ってきた。朧気な目でどこか遠くを見るその姿に見惚れ、昼休みの眠り姫写真アルバムはもう3冊目となった。
「我々副隊長ならび、西村菊花を除く幹部は、瀧磐八人の
幹部陣は散り散りになり、帰っていく。2月のインシデント、瀧磐八人の出現により、状況は一変した。初期は西村菊花と共に深月に近づく彼を排除しようともした。しかし、当の本人から彼への好感度が明らかに高かったり、彼により黒姫が新たな表情を見せたこともあり、アンチ勢力はその勢いを弱めていった(八人自身が気にしなかったのもある)。そして何より、新聞部への情報統制の際に発見された官能的な表情でアームカバーの下を見せる写真が決定打だった。ガチ恋守護勢は姫の"愛"の強さに血の涙を流しながら認めざるを得ず、彼女を女神として崇め奉っていた者達は新たなヴィーナスの一面に多くが悟りを開いた。
「もう私しかいませんわ。お姉様を守れるのは私だけ。男なんて……」
彼女専用に高く調整されたキャスター付きの椅子から降り、カモフラージュとして使われている文芸部部室から出た。ブツブツと呟き、爪を噛みながらせわしなく廊下を歩く。誰もいないオレンジ色に染まった廊下は明るい分、孤独なのがより一層悲しい。「これも全て——」と口に出そうとした時、下駄箱に一つ見慣れないものがあった。
「なんですのこれ。汚らわしい指輪だこと」
上面に汚れた警察手帳らしきものを描いたそれに、彼女は見覚えがあった。憎くて何度も見返したお陰でよく覚えている。奴が肌身離さず持っている指輪にそっくりだった。
「どうしてしまいましょうか。……思ったよりも重——」
瞬間、視界が暗転する。真っ黒な沼に引きずり込まれたかの如く息苦しい。助けてと声を出そうとしても、煙のような何かで喉が詰まっている。感覚がなくなっていく中、唯一見える赤い光が一言だけ呟いた。
「契約は成立した」
黄昏時に、梅雨直前の湿った風が吹く。二対の金色のドリルヘアーが枯れ柳のように揺れる。再び動き出す彼女の眼は陰る空の下で怪しく紅く光るのだった。
「遅刻だ……」
『おはよう!朝だ!起きろ!』
エメラルドグリーンの梟型目覚まし時計がセリフを繰り返す。腹部に位置する長針と短針が残酷にも朝のHRが始まるギリギリの時間を指し示していた。一先ずアラームを止めた。一通りの思考の後、ゆっくりと朝食と着替えを済ませ、家を出た。
「しかし不思議だなあ。いつも深月が起こしに来るのに」
もう一限が始まってる。猛スピードの自転車ならまだ途中参加で間に合う。担任のホージ先生の怒る様が容易に想像できるが、一限の化学は優しいセンさんなので優しく迎えてくれるだろう。ガスや電気の消し忘れがないか確認したのち、あくびをしながらドアを開いた。
「2-1所属、瀧磐八人さんですね。本部までご同行願います」
開けたのを見計らうように、女子高生が奇妙な手帳型デバイスを見せながら話しかけてきた。制服からして同じ高校の後輩と分かる。アイロンがけされ、しわ一つない布地はどこか威圧感を感じる。そして、何より目を引くのは腕章とデバイスに書かれた「黒姫親衛隊」という文字だ。
「く、黒姫親衛隊……?深月がどうかしたのか」
「——貴様……」
「ん?」
ぎっとこちらを睨み、彼女が指笛を拭いた。すると、玄関口に潜んでいたもう二人の男子高校生が現れる。かっぴらいた三人の瞳孔は紅く光っており、狂気に満ちている。
「神聖なる黒姫様に近づく重罪人!あまつさえ馴れ馴れしくその名前を呼ぶとは!」
「「親衛隊法第六条より不敬罪を確認!」」
後方にいた男子2人が寸分違わず言葉を発する。余りにも異常な状況に戸惑う暇もなく、目の前の三人はデバイス側面にあるスイッチをスライドさせた。
「It's Morphine time!」
「「「S.P.D!Emergency!」」」
デバイスの前面が開き、光の粒子が放たれる。そして、輝きともに彼らの体の表面で定着し、赤いデカスーツとなるのだ。それは八人の知るネオデカレッドとはどこか異なる姿であった。特殊部隊のような追加装甲はなく、動きやすそうな全身スーツである。(仮に偽デカレッドと呼ぶことにする。)
「親衛隊新法の権限に基づき、実力を行使する!」
「んだよそれ!わけわか——うわぁ!」
女学生が変身したデカレッドは怒り心頭のまま八人に襲いかかる。その動きは明らかに素人で、避けるのは容易だ。が、背後に控える2人のデカレッドが持つ白い拳銃の弾幕により、身動きがし辛く、もはや手を抜くことは出来ない。黒い指輪を取り外し、右手に銀色の
「ったく、どうなっても知らねえぞ。エンゲージ!」
『センタイリング!』
流れる音楽に鼓舞され、殴りかかるデカレッドを跳びこえる。リズムに合わせ、援護射撃をきり伏せた後、動揺する2人をテガソードの甲で殴る。やはり2人も戦闘に関しては素人そのものであり、カウンターする気合もない。その隙を見逃さず大きく腕を広げ、大きく息を吸う。最後に、手を叩くと共に、指輪に描かれた赤き闘士の名を叫んだ。
「タイムファイヤァァァァァ!!!」
その身を紅い炎が包み、爆発と共にその身体にスーツが定着する。彼こそがタイムファイヤー。厄災が生んだ"もう一人の赤の戦士達"のセンタイリングに選ばれし、今回の指輪争奪戦のイレギュラーである。
『タイムレンジャー!』
「な……!隊長と同じく黒い指輪を!?」
「へぇ……てめえらの親玉も指輪持ちか。なら、あの指輪盗んだ犯人だな!」
数日前、ネオデカレッドの黒い指輪がなくなる事件が起きていた。注意力散漫だ、おっちょこちょいだ、私がいないとダメなんだと、深月にニヤニヤ言われたことを思い出した。ふつふつと蘇る怒りの矛先をひとまず彼らに定めた。
「かかってこい。ニセモンども」
「な、なんだとぉ……!かかれぇ!」
3人はその白い拳銃を乱射し、無謀にも突撃してくる。大きく飛び上がり、それを回避したタイムファイヤーは新たな指輪を装填し、武器を取り出した。
『キョウリュウジャー!』
若き王の証であり、星を超えた絆の証でもある赤き片刃の剣が空中でその右手に収められる。着陸の際、逆手で握るそれを荒々しく地面へ突き刺すと、炎の叫びが木霊した。
「
赤いエネルギーが地面を伝わり、巨大な牙となり敵を穿つ。歪み伸びていく牙は巻き付き、動きを止める。これこそキングキョウリュウレッドの指輪能力「
「卑怯な……!」
「悪いな。ちょっと寝ててもらうぜ。DVチェンジ!ファイナルモード!」
青い光が刀身を包む。その光を逆手持ちのキングガブリカリバーにも共有すると、身体を低く構えた。
『キング!バモラムーチョ!』
「DVブレイブフィニィィィッシュゥ!!」
二つの剣が熱きオーラと共に三体を引き裂く。瞬間彼らの身体はフィギュアサイズに圧縮され、八人は変身を解除した。周りに敵はいない。圧縮冷凍された彼らをそーっと駐輪場の端に置いた。
「はっ!私、何を……」
「目ぇ覚めたか。大丈夫か?」
怯えた様子の女学生はハッと目を覚ますと、敵であるはずの彼に縋りついてきた。
「助けてください!変な指輪を付けた隊長がおかしくなって……!」
彼女の話いわく、隊長である西村菊花が、親衛隊の朝礼会で隊員を強制的に偽デカレッドへと変え出したという。学内は既に彼女に掌握されており、最後まで逃げ続けたものの捕まり、今の今まで洗脳されていたということだ。
「深月は?他のみんなはどうしたんだよ!」
「少しでも忠誠がある者はみんな赤い戦士に変えられて、残りは教室に閉じ込められてます。黒姫様は——」
突然携帯が鳴った。名前も見ずに乱雑に青いボタンを押した。
『ごきげんよう。瀧磐八人!』
「その声……西村か。随分と楽しそうだな」
『当然!憎き怨敵を遂に倒せますもの!私の指輪能力、
すっかり自分の力に陶酔しきっている菊花は明らかに正気ではなかった。そして八人はそういう時の解決法を一つしか知らなかった。
「最後に聞く。深月はそこにいるのか」
『ええ。抵抗なされましたけど、特別に用意した眠り薬でイチコロでしたわ。美しい眠り姫のお姉様……』
「そうか。なら力づくで止める!」
不快な通話を着ると同時に、カブに乗り込み、エンジンを力いっぱい吹かした。軋む足を奮い立たせて、涙目で彼女は助けを求めた。
「今まで無礼な態度を取ってきたのは謝ります。でも、どうかお願いします。黒姫様のことが好きないつもの隊長を——」
「任せろ。深月も西村も、みんな助けてやる」
言葉を遮り軽く撫で、カブが走り出した。法定速度ギリギリを攻めながら、通学路を爆走すると、またもや偽デカレッドたちが行く手を阻む。
「黒姫様を守れ!学校に近づけさせるな!」
「誘拐しといて何が親衛隊だよ……」
右手につけた黒い指輪に願いをこめる。赤く光ったそれは形を変え、左手首に赤いブレスレットとして装着される。
「来い!Vレックス!」
叫びに呼応し、街中に空いた巨大な穴から機械じかけの恐竜、Vレックスが現れる。戦士でもなんでもない偽デカレッドたちはその姿に恐れおののき、一目散に逃げていく。
「街は壊すなよ、Vレックス!」
それでも一部の勇敢な者は連携して拳銃で立ち向かうが、当の本人(?)はポリポリとかゆそうなだけだ。ブレスレットに通信が来る。
『ちょっと!卑怯ですわよ!街中で暴れさせるなんて悪者がやる事ですの!』
「るせえ。そっちが先に手出したんだ。文句はぶちのめした後に聞く!」
親衛隊の混乱に乗じ、人通りの少ない脇道を走り抜ける。遂に校門へたどり着くと、廊下を赤い戦士が闊歩しているのが遠目に見えた。何より目を引くのは、学校の頂点にて靡く、やたらキラキラと誇張されて描かれた"黒姫"の旗であった。
『いかがかしら?お姉様の美しさをいかんなく表した絵は』
「綺麗なのは認めてやる。が、次は画家の眼鏡を拭いてやるといい」
『……何をおっしゃって?』
「深月は神じゃない。綺麗なナポレオンの絵、あるだろ。俺あれ嫌いなんだよ」
無言でタイムファイヤーとなった彼は、理想像を撃ち抜く。怒りの込められた一撃は出力が高められており、目障りな旗は一瞬にて燃え尽きた。決別の沈黙が流れた後に通信は切られる。怒る偽デカレッドが物陰から頭部を狙い撃つが、左手に大盾を出現させ、銃弾を防ぐ。それは忌々しき宿敵の盾。紅き炎に応え、今は彼の力となるウルセイバーとジャガンシールドである。
「隠れてないで出てこい。いくらでも相手してやる」
望むところだと襲い掛かる赤い戦士たち。今度は銀色の頭をしたロボットが加わっており、軍勢差は大きい。ただ唯一決定的に、両者には懸ける覚悟が違った。
「
DVディフェンダーとウルセイバーの柄が融合し、ツインベクターを思わせる長剣が完成する。理性なきドロイドは触れられる前になぎ倒し、勇気なき後衛の偽デカレッドが撃つ苦し紛れの銃弾を全て盾で受け止め、その炎と共に切り裂く。雄たけびを上げながら刃向かうものを倒していく姿はまさに狂戦士。校庭に並ぶすべてを倒すと、華奢な手が織りなす拍手が彼の耳に届いた。
「お見事ですわ。そうでなければ歯ごたえがありませんもの」
「——深月はどこだ」
金色の髪を靡かせ、1mmのよれもない制服姿を西村菊花は見せる。その指をパチンと鳴らすと、ベッドに寝かされ、旗に描かれたのと同じ黒いドレスの深月が運ばれてくる。白雪姫のようなシチュエーションではあるが、運ぶドロイドたちは妖精と呼ぶには似つかわしくない。
「私があなたを倒し、お姉様の一番大切な人になる。この厄災の力を使って!」
ネオデカレッドの黒い指輪を勢いよく天高く掲げると、黒い煙と共にロボット軍団が出現する。数ヶ月前の雑兵とは違い、そのデザインには一貫性がある。オレンジ色の毬栗頭は初戦の強敵だったこともあり、よく覚えていた。
「ほうら!貴方にできますの?指輪の力を使いこなすこの私が、お姉様の隣に立つのが相応しい!」
「そんな強引なやり方、深月は望んでない。今のお前は、力にのみ込まれているだけだ」
「ほざきなさい!この邪魔者が……エンゲージ!」
『デカレンジャー!』
くるりと指輪を回すと、その身に赤い特殊隊服のデカスーツが装着される。側頭部の赤いランプがサイレンと共に光り輝いたとき、空間は塗り替わり、男の声が鳴り響いた。
「いざ掴め!ナンバーワァァァァァァン!!!!」
お互い、背に応援を受けながらリングへと歩み出す。人数差がネオデカレッドに自信を与える。その右手に光る
「百鬼夜行を撃ち抜き、お姉様の恐怖の闇をぶち抜く!S.P.D隊長!西村菊花!問答無用!ジャッジメントですの!」
「炎のような情熱で、悪鬼羅刹の全てを滅ぼす。紅の勇者、タイムファイヤー!これ以上、誰も傷つけさせない……!」
互いの銃口を向け、睨み合う。厄災に選ばれた二人は魂をかけて、雌雄を決する。
「ナンバーワンバトル!レディィィィィィィゴー!!」
遠くから鳴り響くゴングでトリガーを引いた二人。銃弾は互いの頬を掠め、決定打とは至らない。ネオデカレッドが指を鳴らしたのを合図に、ロボット兵たちが一斉射撃をするがその一切はジャガンシールドによって阻まれる。戦闘経験であればタイムファイヤーが上を行く。しかし、次々と生み出される兵が壁となり、その行く手を阻む。
「埒が……明かねえ!」
「どれほど強い力を持とうと、どれほど指輪に愛されようと!絶望的な大勢にはかなわないんですのよ!」
彼女の高笑いに呼応するように黒煙がさらに吹き出す。思わずそれに触れてしまった彼の脳裏に誰かの記憶が過ぎていく。それは鮮烈な恐怖の記憶。突如大勢に囲われ、目と口を塞がれ、暗闇に覆われた少女の苦しみが喉を通り、内側から茨のような痛みを与える。
「守らなきゃいけないんですの!あんなに悲しそうなお姉様を!誰かが!」
「そうか……お前が、あいつを守ってくれてたんだな。だけど——」
ベッドに寝かされていた深月は、確かに泣いていた。つーと流れた雫に何が込められているかまでは分からない。しかし少なくとも、今のこの状況を、彼女が望んでいないのは確かだった。故に。
「俺が、お前を止める!この身に変えても!」
全ての意識を足に集中させ、空高く跳び上がる。雪崩のように飛び交ってきた銀頭のロボットはその隊列を崩し、水色の集団が銃口を向けてきた。すかさず盾から取り出したのは先端に赤いクリスタルを備えた携帯電話。数が足りないのならば、自ら呼び出せばいい。
「なんのつもりですの!」
「こういうことだよ!
大盾とベルトに収められた黒い指輪が二つの光に変わる。暖かな赤い光はドロイド軍団の中心に降り立つ。すかさず毬栗の剣士が襲い掛かった。だが、その刃が肉に届くことは無い。すでにその胴体を二振りの紅い剣が断っていた。
『マジレンジャー』『キョウリュウジャー』
地面へと崩れていくドロイドの向こうから烈火の鎧騎士と挟撃の勇者が姿を現す。落ちるタイムファイヤーは水色の弾丸の全てをいなし、二人の間に降り立った。
「二人増えようと、勝ち目はありませんわ!
「どうかな!DVチェンジ!ディフェンダーソード!」
炎の戦士が軍団の荒波を掻き分け、怒涛の勢いで進んでいく。立ち塞がる水色のロボット達。光弾の一斉射撃に一切の防御姿勢を取ることはない。彼を襲う銃撃のすべてが甲高い音ともに跳ね返される。剣を突き出す彼の背後から火球を盾の前に溜める鎧騎士が見えた。
「かませ、ウルザード!ブレイジングファイヤーだ!」
鎧騎士が頷くと、赤い雷と共に球が集団へと放たれる。強大な一撃に吹き飛ぶ戦闘員たち。タイムファイヤーはかけられた魔法でダメージを防ぎ、爆風を追い風に足をさらに進める。
「くっ!親衛隊!いったい何をしてますの!」
『申し訳ありません!突如現れたトゲが我々を囲み、身動きが——』
「仕方ありません……お姉様を校舎に戻しなさい!私が相手します!」
ベッドに担がれた深月が校舎へと戻っていく。ネオデカレッドが護衛のようにそれに続いた。八人の意思を反映するキングキョウリュウレッドは、勇猛果敢に襲撃する。しかし、振り下ろされた剣は毬栗の剣士に受け止められ、
「待て!逃げるのかよ!」
地に伏した水色のロボットの心臓部に剣を突き立て、蹴り飛ばす。雑魚が阻むが、今囚われの姫に釘付けな八人には道端の石ころ程度の価値しかない。閉じたガラス張りの扉を突進で叩き割る。下駄箱を抜けた先の廊下には誰もいなかった。
「隠れたのか……?今のうちに救出を!」
「油断大敵ですわよ!」
肩を撃ち抜く二撃の銃弾。振り返ると、光学迷彩が解けてゆく、SPライセンスを掲げたネオデカレッドがいた。
「卑怯な……!」
「卑怯?ただの偶然でお姉様に慕われた、あなたの方がぁ!」
怒りのままに銃撃が続く。背後には怯える生徒たちが教室の扉越しに隠れている。避ければ銃弾の雨が彼らを襲うだろう。考えるまでもなく、八人は次の行動を選択した。
「うおおおおおおっっっ!!」
手を大の字に広げ、全ての攻撃を受け止める。痛みを堪えながら、剣を抜いて走る。高威力の弾丸がスーツの表面を裂き、配線が飛び出る。生物ならば痛みを、傷を避ける。しかし、炎はそうしない。
「一気に……仕留める!!」
痛む身体に鞭を打ち、刃に青い光を灯す。脇腹から赤い血が流れる。ふと深月の剣道部での姿を思い出した。鋭く剣と相手にのみ神経を集中させる姿を夕日が照らしていた。季節外れの暑さを忘れさせる程に、その所作は美しく、虹彩に影を濃く残していた。
トレースする。一挙一動全てを重ね、頭蓋を打ち砕かんと剣を振り下ろす。刃先は赤いスーツに届いた。
「これだから、単細胞なバカの相手はしやすいんですのよ!」
集中が途切れる。気がつけば、ヘッドスライディングで偽デカレッドが割って入り、その剣を身体で受け止めていた。瞬間、フィギュアと圧縮される肉壁。その意識の途切れを見逃すことなく、ネオデカレッドは剣を撃ち抜き、天へと飛ばした。
「しまっ——」
「往生際が悪い!」
くるりと回転し、彼の腹部に左の突き蹴りが炸裂する。教室側の壁へとめり込む紅き戦士。左腕は生身が露出しており、右目のディスプレイがエラーを起こしている。機能しない個所を拳で打ち砕き、裸眼で敵を視認する。その時、既に白いボディから飛び出た銃口は額に接していた。
「チェックメイトですわ、瀧盤八人。負けを認めなさい」
「——お前も、深月が好きなんだろ」
「ええ。お姉様の生き方は私を救ってくれた。しかし、彼女が生きるにはこの世は敵に満ち溢れている。故に願う!
鼓膜に声が響くたびに、心に煤が貼り付いていく。孤独、悲しみ、恨み、そんな負の感情はオーラとして漏れ出し、黒い指輪を通じてまるで自分のことのように感じられた。
『厄災に呑まれかけているな。どうする。ここで会話を挟む必要なんてない。逆転の手段なんていくらでもあるはずだ』
頭の中に声が響く。炎の向こうからちりちりと話しかけてくる身体から黒い靄が噴出し、今なら人を超えれる。そんな気がした。
「違う!俺が求める力は、そうじゃない!」
額につきつけられた白い拳銃を頭で突き飛ばす。うろたえることなく、ネオデカレッドは二人の護衛を呼び、彼の両腕をがっしり掴ませた。腹部にディーリボルバーが突き付けられる絶望的な状況。それでも、八人の目には紅い炎が宿っていた。
「歪められた願いを正し!降りかかる不条理を打ち砕く!深月に誓ったこの力は、この炎は——」
「ほざきなさい。お姉様に捧げる最初の血は、やはり貴方でしたわね」
「そのためのものだ!来い!
指輪能力『
右手の指輪から飛び出すのは、小さな赤い恐竜。デカレッドたちの手首に咬みつき、その手から銃を離させる。身軽になった右腕にありったけの力をこめ、ネオデカレッドの顔面に叩きつけた。
「ぶげっ!ぐふぅ!」
「厄災、俺はお前たちの思い通りになんてならない。他人を傷つけ、願いを壊すお前らを!俺は許さない!」
『アニバーサリー!』
「ブレイブイン!」
右手に勇気を込めると、それはタイムレンジャーの充電池となった。外で戦っていた二人の赤い戦士が光へと変わる。片やキングガブリカリバーへ、片やファイヤーウーザフォンとなり、彼の力となる。
「
『Oh!ヒサシブリンチョ!ゴッドクワガタ!スゥーパァー戦隊!』
赤い恐竜を模した二つの武器は一つのキングガブルキャノンとなり、勇気の魔法が宿る。力任せにポンプアクションを起こすと、軽快なサンバミュージックと共にエネルギーが収束していく。額から流れる血をものともせず、その瞳でしっかりと敵を見据えた。
「目ぇ覚ましやがれ!」
『ガブティフィニッシュ!』
クワガタとキョウリュウのメカがエネルギー体として発射される。螺旋を描き一つとなると、炎の不死鳥へ変化した。割り込んだ偽デカレッドをも貫き、最大火力の一撃がネオデカレッドに炸裂する。スーツは黒い煙となり霧散し、そこへ力なく金髪の淑女が倒れ込んだ。
「瀧磐くん!!」
変身が解け、倒れ込む彼の身体をドレスのお姫様が抱き留める。誰かと思えば、寝ていたはずの深月であった。
「西村さんにテストの点数を聞かれたと思ったら、いつの間にか意識がなくなってて……」
「
やけに柔らかい枕に身をゆだね、取り戻された平和を喜んだ。が、ふと空を見上げると、黒い靄が空を覆っている。巨大な影が作り出されていることに二人は気づくと、指輪を取り出した。
「許サナイ……ヨクモココマデコケニシテクレタナ……」
生まれた邪神の名はデカレンジャーロボ。しかし、その色は黒を基調としており、いわばブラックバージョンと呼ぶべき代物であった。信号機の銃口が二人に向けられる。
「我ガ名ハ収賄ノ——」
「るせぇ!ボイスフォーメーション!ブイレックスロボ!」
「瀧磐くん!?」
忘れ去られていたとは思うが、既にブイレックスは出現している。ゆえに、主の危険へ駆けつけたブイレックスは明らかな敵に対し、激突を仕掛けた。そして、その身体を機神、ブイレックスロボへと変形させたのだった。
「ナッ……!グハァ!」
「こちとら体力の限界だ。群れなすことでしか勝てねえお前に、裂く尺はねえんだよ!」
「流石に、手段を選ばないにも程がある」
怒る彼に応えるように、ブイレックスロボは連続の正拳突きを繰り出す。元より弱体化しているブラックデカレンジャーロボに耐える耐久力は残されていない。膝が地についた時、炎の叫びが木霊した。
「貫け!マックスブリザァァァァァァァァァド!」
凍てつく緑色の閃光が暗闇を貫く。叫び声をあげることなく、邪神は凍り付いた。
「ジ・エンド!」
圧縮され、固まることなく悪しき力は消滅した。ようやく終わった戦いに、思いを馳せることなく八人は眠りにつく。梅雨の季節にしては珍しく、空は青さに満ちていた。
「先日は!本当に申し訳ございませんでしたわ……!」
後日、文芸部部室に呼び出された深月と八人はクラスメートの土下座を目撃していた。しかも、白装束。泣きじゃくりながら、ひたすらに謝罪する彼女を見て、二人はどうすればいいか分からなかった。
「な、なあ。全部この黒い指輪のせいなんだしさ。そう思い込むなよ……」
「いいえ!隊長として少しでもお姉様に危害を加えた事!万死に値します!今すぐ退学届を——」
顔を上げ、胸元から封筒を取り出そうとする。そんな乱心の彼女の両肩に、深月が優しく手を置いた。
「西村さん、確かにあなたは人を傷つけた。だから、今すべきなのは逃げるんじゃなくて、その贖罪」
「お姉様……」
「私、女の子の指輪友達が出来るの初めてなの。これからもよろしく」
優しく西村の手を包む深月。その小さな微笑みはまるで女神のよう。あまりの美しさに滝のような涙が西村から流れ出した。
「西村さん!?」
「わたくし、感動いたしましたわ……これからはこの命、この力、改めて全て捧げることを誓いますわ!」
「そういうことじゃないんだけどなぁ……でも、うん」
「その顔。何かいい未来でも見えたのか」
「流石瀧磐くん。今は私に依存してるけど、きっと西村さんは自分だけの願いを掴むよ」
キスまでせがむ西村を、深月が冷静に拒絶している。八人の手にはネオデカレッドの指輪が戻っている。彼の心には少し引っかかるところがあった。
「なあ菊花。この指輪は本当に下駄箱の中にあったのか」
「ええ、間違いないですわお兄様」
「誰がお兄様だ」
西村の証言から落としたという線はなくなった。ゆえに誰かが盗んだ。一体誰が?思い当たる節はことごとく倒したし、やはり「収賄のナントカ」が自立的に動いたとしか思えなかった。
「本当にそうなのかなあ……」
「そういえば。西村さんは今も指輪能力使える?」
「使えるわけありませんわ、お姉様。証明してみせます」
カバンから数学の答案を取り出し、八人へ見せつける。赤い文字は100点を示していた。
「げ」
「私の勝ちですわね。では命令です。この没収した文章を読みなさい」
一言、黒姫への恨み節が書かれた一枚の紙。常人であれば読み上げることは無い、はずだった。八人の瞳孔が紅く灯る。紙を取り上げ、深月の前へと立つ。
「え、嘘!お姉様!今すぐ耳を——」
原因は一つ。負けを認めることなく、西村が意識を失っていたこと。彼女が止めようと駆け出した時、紅い目の男は言葉を放つ。
「深月三龍。……お前なんか、大嫌いだ」
空気が凍り付く。瀧磐八人はお人好しである。だが、無意味に他人を傷つけようとは絶対にしないと一目でわかる男ではあった。
「お姉様、これは洗脳による言葉ですのよっ!」
「うん。わかってるよ。西村さ——」
気付けば大粒の涙がこぼれていた。瞳から光は消えず、彼のことを疑ってはいない。だが、どうしても、いつも支えてくれる大切な彼が放った破壊力抜群の言葉は、胸に深く刺さって抜けない。どんなに拭いても、拭いても流れていく雫につられて、段々と口も歪む。そこには、悲しみに暮れる一人の少女がいた。
「あれ、俺は、何を……」
「お姉様ぁぁぁぁぁっ!! 万死極刑!万死!万死! わたくしは万死に値しますわぁぁぁっ!!」
余りの愚行に高く跳び上がる。完璧な姿勢を保ち、床が発熱するくらい擦り付けたジャンピング土下座を目撃し、一瞬で目が覚めた。
「ふ、深月?!大丈夫か!」
泣きじゃくる彼女はまるで妹のようで、目が離せず、ひたすらに背中と頭を交互に撫でている。が、横で土下座していた西村が切腹の解釈を頼みだした時から、意識を二分せざるを得なくなった。
「瀧磐くん……ごめん。わかってるのに。嫌いにならないでぇ……」
「腹を斬ります!お兄様!テガソードを!!介錯を!」
「あーもう!西村ァ!もう二度とこの指輪は渡さねぇからなァ!」
西村の頭部をはたいたのちに、深月を強く抱きしめる。思わず涙が引っ込み、目を点にする。
「さっき俺が何を言ったかは知らん。けど、これだけは言える。俺はお前のことを嫌いになったりなんてならないから」
「……ほんとに?」
「当たり前だろ。……そうだな。この指輪に誓うよ。ほら、お前の見る未来で俺はお前を嫌ってるか?」
気恥ずかしく頬を染めながらも、金色の指輪をぎゅっと握る。深月は未来を見た。耳の先まで一瞬で赤く染まり、彼を突き放し、人差し指同士をもじもじとイジリ出す。
「……瀧磐くんのばか、スケベ」
「スケベは余計だっての。でも、泣き止んで良かった」
空気に暖かさが戻っていく。一先ず一人の安心は取れた。今にも腹を斬りそうだった西村の方を向くと、滝のような涙と共にその目を輝かせ、祈るように手を組んでいた。
「やはり、お兄様は選ばれし者、黒姫様の眠りを覚ます、赫の王子……」
「王子様だって、瀧磐くん。似合わない」
「余計なお世話だ!ってか、俺はお兄様でも選ばれし者でもねえ!!」
梅雨にしては珍しい日本晴れの中、嘆きの叫びが廊下まで無情に響き渡る。かくして事件は乙女の土下座と涙にて幕を閉じた。
「厄災ハ滅ビヌ。次ノ一手ダ」
——本当に?
(おまけ)
デカ!デカ!デカ!デカ!レンジャー!デカ!デカ!デカ!デカ!レンジャー!
「S.P.Dの隠れ蓑である文芸部!ちゃーんと活動もしてますのよ!」
「ほとんど黒姫の小説じゃねえか!スパイ物に、江戸に大正…?」
「最近は夢小説よりもカプ小説の方が多めですの……」
「本棚奥の方に入ったこれは?」
「あっその本は……!」
(パラパラと勝手にめくりだす三龍)
「……私と瀧盤くんが、え、え、えっ……」
(鼻血を出して白目を剥いて倒れる三龍)
「お姉様ぁ!?」
「深月ィ!?」
胸にキラリとハードボイルド♪(以下略)
西村菊花(にしむらきっか)
指輪/ネオデカレッド
職業/高校生(生徒会書記)
願い/深月三龍を狙う者の抹殺
「お姉様を狙う者はぁ!誰であろうとジャッジメントですの!」
説明
浅見高校の八人達の同級生にして、黒姫親衛隊隊長。金髪のツインドリルヘアーと150cm台の低身長がポイント。ネオデカレッドの黒センタイリングと契約し、一度は八人の命を狙ったが、現在は和解。深月を「お姉様」、八人を「お兄様」と呼び慕う。口調は典型的なお嬢様言葉であり、勝気で思い込みが激しい。そんな他者に敵意を向けがちな性格は、幼い頃に営利誘拐された経験から来ている。
指輪能力「軍団(スクワッド)」:自分に忠誠を誓った、もしくは立場的に下である者にデカレッドに変身できるSPライセンスを与え、洗脳することが出来る。ただし、その装備はSPシューターのみ。