季節が巡り、第1回指輪争奪戦終了から半年が経とうとしていた。あの日メガレッドとして戦い、大学2年生となった
「お、見て見て。めっちゃいいねついてる」
暁人が見せてきたのはSNSのタイムライン。彼の言う通りニュースアカウントの投稿には4万ものいいねがついていた。
「うお~すっげ~!コメントは?どんなの来てる?」
「……話したことないけど高校の同級生で草、将来は大手企業確定じゃん、この人喋ってるの見たことない、などなど」
そんな肝心の投稿内容はというと
『明鳳大学工学部生ら開発のゲーム 100万DL突破』
指輪の戦士だったあの日をもとに今春リリースしたアプリゲーム。勢いで作ったゲームの公式アカウントにもいくつか取材の依頼が来るくらいには調子づいている……せっかくの取材でも哲多がガチガチのため2人で応答しているのだが。
「あ~~早くアオタガイされて~~企業からは連絡来てないのか?」
「朝見たときはなかったけど……うん、ない」
ガックリと肩を落とす哲多だが、それよりも心奇は別のことが心配だった。
「生命工学の小テストは?企業サンは留年するようなやつ採らないぞ」
「うるせえ!今日から本気出すよ……」
勝者の願いにより一度は返ってきたメガレンジャーリング。そのときに能力を最大限に使って完成させたのが件のゲームである。出来立てほやほやの唐揚げを頬張りながら心奇は右手の寂しさを感じていた。
─開発のきっかけは?
元々3人で何か作りたいという話はしてて。昨年、色々あって高校時代の先生と再会して、そこから着想を得ました。
─昔からゲームがお好きだったんですか?
この2人に誘われただけなのでそんなに筋金入りってわけでもないですね。
─今後の展望は?
とりあえず今回のゲームをVRでも出来るようにしたいです!やっぱり臨場感ってすごく大事なので。
それに我々というよりはゲームのファンの方が多いと思うので、まずはそのファンの方たちに喜んでもらいたいです。
この間受けた取材が記事になったというので見てみたが、本当に哲多が一言も喋っていない。これで良かったのかインタビュアーは。そのときスマホがメッセージをキャッチした。開いてみると母校の先代となった生徒会長だった。
『お久しぶりです。ニュース見ました、学園に帰ってきてたなら僕もお会いしたかったです』
お前は洗脳されてただろ、というのは黙っておく。メッセージにはまだ続きがあった。
『そのことで晩堂先生が来月の学園祭で先輩に講演してほしいって仰ってるそうです。僕も手伝いに行く予定なのでよろしければお願いできませんか?』
そういえばもうそんな時期か。前回は誰とも思い出話ができなかったことを考えるとアリかもしれない。そういうことで二つ返事で引き受けた。
そして翌日、学園祭の要綱やらなんやらが大量に送られてきていた……
日差しのよく入る窓、模試やオープンキャンパスの貼り紙、歩き慣れた廊下……ところどころ違ってはいるが、その場所には見覚えがあった。休み時間なのだろうか、友人と談笑したり授業準備をしたりしている彼ら彼女らは突然の来訪者には目もくれない。堂々と真ん中を、いや、しっかりと右側を歩くその人影は不自然なほどに周囲を見回している。
──まるで初めて来たかのように。
教室を覗いても知っている顔はひとつとしてない。曲がり角を曲がったところで思わず脚が止まった。前からは2人組が向かってくる。先ほどまでも何人もの生徒とすれ違っていた。今さら人に驚いたわけではない。
では何故か。上手く言葉にできないが、他の生徒とは違う何かが感じられた。警戒して無意識的に右手に手を伸ばしていたことに気がついたのは彼らが通り過ぎてからだった。
翌週の空きコマで共用スペースの一角を陣取った心奇はパソコンとにらめっこしていた。大学のホームページを見ながら文書作成アプリと作ったスライドとを往復している。
「なあ~、放課後飯行こ〜ぜ」
「給料日前だからパス」
「これ作りたいからパス」
哲多の誘いを目もくれずに断る2人。指の動きから暁人は音ゲーをプレイしているようだ。一区切りついたのかすぐに手元が大人しくなる。
「俺の社割り使っていいからさ、3割引!行こーぜ!」
「おっ」
割引につられてバッと暁人が顔をあげる。わかりやすい。しかしすぐに哲多のバイトが何であるかを思い出してスマホに顔を戻す。
「タナカ電機の3割引はいらねーよ」
「ちっ、つれないなあ」
「あ、今年の学祭も出るから見に来いよ」
そういえばこちらの学校祭も2ヶ月後に迫っていた。暁人は吹奏楽サークルに所属し、定期的に演奏会にも出ている。パートはトランペットらしい。何やかんやで昨年は2人とも聴きに行かなかった。
「ああうん。覚えてたらな」
「つれないなあ」
こちらも一区切りついたのか心奇もパソコンを閉じた。時計を見ると4限の時間がそこまで迫っている。教室に向かおうとしたところで小さな疑問が浮かんだ。
「あれ?次って課題あったよな?」
「えっ」
「えっ?」
「え……?」
次の瞬間、リュックから心奇の提出物が消え、全力で走る2人が目に入ってきた。
何も起きなかったことに安堵と不安を覚えて無限にも思える廊下を歩く。どの生徒に話しかけても脈絡のないことを淡々と返してくるだけだ。仕方なく階段を上り、また少し廊下を進み、ある部屋にたどり着く。ここであれば1人くらいは知っている人がいると踏んでである。ドアに手をかけて隙間から覗いてみた。
しかし、その期待は簡単にぶち抜かれてしまう。どこを見ても知らない顔が並ぶ。記憶の中の光景とは似通っているはずなのにそこだけは似ていない。疑問だけが増えていく中そっとドアを閉め、
テスト期間を抜け、夏休みに入り、気がつくと慧海学園祭が明後日にまで迫っていた。懐かしの教師陣と何度か打ち合わせをして、あとは当日を迎えるのみといったところまで来ている。出来た時間でゲームのアップデートをしたり、つけようと話していたVR関連の開発をしたりと夏休みとは名前だけだ。
概ね形になってきたところで一区切り。何とか明後日には間に合いそうだ。机に置かれたVRゴーグルを撫でてこの1年に思いを馳せる。
卒業してから1年とちょっと。早すぎた恩師との再会。目まぐるしく進む日常に、少しずつ流れた非日常。メガレッドとして駆け抜けた日々は確かにそこに残っている。第2回指輪争奪戦での勝利も叶わなかった。
だからこそこのゲームには全力を懸けているのである。興味なんてまるでなかったはずの自分がここまでのめり込めるのは、やはり合縁奇縁というやつか。
「……」
差し込む月夜に代わって部屋を照らしていた蛍光灯が灯りを消す。何も考えずともまた直ぐに朝はやってくる。2度目の朝を迎えたとき、リュックの中にパソコンやら何やらを詰め込み家を出たのだった。
最寄りの駅まで自転車を漕ぎ出す。毎日通っている道なのに、夏の炭酸CMのような爽やかさで坂道を上り、そして下る。ペダルをグッと踏み込む度にあの
(あ、あのビル工事してるんだ)
景色が移ろいゆくのを見て時の流れを感じざるを得ない。海沿いを通るこのバスにも太陽を反射する波の声が入ってきた。この海を見て思い出すことは限られている。
(指輪拾ったの、ここだったな)
ちょうど1年半ほど前に気まぐれで降りたこの砂浜で願いを叶える指輪を手にした。その願いは叶わなかったけれど──否、指輪は集まらなかったけれど、満足してそれを手放すことはできた。それぞれの願いが叶ったからこそ今このバスに乗っている。そのバスはあっという間に見慣れた停留所へと届けてくれた。見えてきた校門には華やかなゲートが作られ、来訪者を歓迎している。ゲートをくぐり、職員用玄関のチャイムを鳴らす。
「今日の講演で参りました、銀河です」
間もなく開いたドアを通って事前に指定されていた教室へと歩を進める。いつもの校内がそれぞれの『青春』で彩られている。教室に入ると椅子に腰掛けた先客が音を立てて立ち上がった。
「先輩!お久しぶりです」
「おう、久しぶり。元気そうだな」
彼こそは慧海学園の元生徒会長にしてパトレンジャーの指輪に選ばれし者、晴渡 一輝である。昨年度高校を卒業し、4月からは大学生活をスタートさせている。聞くところによるとちゃんと勉強をし、ちゃんと合格して心奇とは違う名門校に合格したそうな。
「今日は呼んでくれてありがとな」
「いえ、僕は間を持っただけなので」
心奇のところには晴渡から連絡が来たが、そこにたどり着くまでにさらに2人ほど介したらしい。心奇たちのゲームがネットニュースになってから数日後、当時の担任がたまたまニュースを目にして晩堂校長に報告、どうせなら学園祭に来てもらおうと考えた校長、娘の美月さん(直接の面識はないが晴渡のクラスメイトだったそうだ)に相談、相談を受けた美月さんが晴渡を通して心奇に連絡……という流れでこうなっている。完璧な報連相、というか
「学園祭とか懐かしいな。俺、クラTの背ネームどうしてたっけな」
「この時期は駅でもクラTの高校生よく見ますよね」
「何ていうかもう、若いうちに楽しめよ……の気持ちになるんだよなあ」
高校を卒業した瞬間に高校生が眩しく見えてくる、あるあるではないだろうか。心奇も例に漏れず、若者の部類のくせに年寄りムーブをかましている。
「そういえばそのリュック、何入ってるんですか?」
晴渡が興味を示したのは明らかに何かが入ったであろう形状の大きく膨らんだリュック。そういえば肩が重かったな、などと思いながら机の上にそれを置く。中を開けるとVRゴーグルとコントローラーが出てきた、それも2つ。
「先輩が作ったのってスマホゲームですよね?」
「ああ。でも最近はゴーグルをつけて臨場感のある体験ができるゲームも増えてるんだ」
これはまだ開発途中だけど、と置かれたゴーグル。漆黒に赤いラインが走ったそれは輝いているように見える。2人で思い出話をしているとガラガラとドアが開き、彼らの先生が入ってきた。
「待たせてすまない。2人とも、よく来てくれたな」
「俺も今来たとこです」
晩堂 深也は2人の姿を認めるとすぐに今日の説明へと移った。
「確認だが、銀河には今日の13時から学園祭の出し物の一環として講演をしてもらう。まあそんな堅苦しいものじゃなくて大丈夫だ」
「もちろん準備オッケーです」
リュックに入れられたままのパソコンには今日のために用意した資料がバッチリ保存されている。
「特にすることもないと思うのだが、晴渡には運営の手伝いを頼む。手が空いたら好きに見て回っていいぞ」
「はい。任せてください」
ビシッ、という音が聞こえそうなほど綺麗な敬礼をした晴渡は澄みきった笑顔を見せている。
心奇もパソコンを開いて資料の最終チェックを済ませ、体育館の大きい大きいプロジェクターに繋ぐために移動をする。晩堂が教室に鍵をかけ……一応、客人という立場であるため目的地まで先導される。
『ただいまより、慧海学園祭を開催します。今年度も各クラスの気合いの入った催し物が……』
校内放送が入り、祭りのスタートを告げる。この放送も毎年変わっていない。午後の出番までは時間があるため早めにセッティングをして楽しみたいと考えていた。もちろんそんなことはお見通しなのか晩堂も何も言わずにコンセントを繋いでいる。
「……っし。準備終わりました」
「ご苦労さん。やはり、プロは手慣れたものだな」
「からかわないでくださいよ」
残暑を吹き飛ばすような笑い声につられて笑みが溢れてしまう。ちょうどいいタイミングで体育館に「せんぱーい!」という声が響いた。行ってこい、という視線に背中を押され床を蹴る。いつまで生徒は生徒のままなのである。
校内を回る新旧、並びに先代先々代生徒会長たちはやはり注目の的だった。3年のクラスに行けば知り合いも増えるので、かけられる声も増える。焼きそばからお好み焼きから色々なものを食べ、お化け屋敷やら何やらを巡り、充実した午前を過ごした。楽しい時間はあっという間というのはその通りで、間もなく約束の時間が近づいていた。
「それでは、一昨年度に本校を卒業された元生徒会長、銀河 心奇さんによるお話です。銀河さん、よろしくお願いします」
「はい──只今ご紹介に預かりました、銀河 心奇と申します。現在は明鳳大学で情報工学を学びながら……」
時間通りに始まった今回の主目的。学園祭に来てまで人の話を聞きたくはないのか、聴講者はあまり多くない。それでも体育館の半分ほどは埋まっておりぱっと見男子生徒の方が多い気がする。
「皆さんは約30年前にゲームセンターに置かれていたメガレンジャーというゲームをご存じですか?僕たちが制作したゲームは……」
このステージに立つのも2年ぶりくらいである。当時とは違い、制服でこそないがその話しぶりは変わらないままだった。
「帰ってきたな」
そんな晩堂の呟きを聞いたものは果たして何人いただろうか。
「ちなみにこの学校の舞台はここ慧海学園です」
くだらない話を挟みながら45分ほどのお話を終え、心奇は拍手に送られて退場していった。
「お疲れ様です」
「悪いな。お、うまそーじゃん」
晴渡が差し出してきたのはどこかのクラスが販売していたサイダー。味も普通に美味しく、カップも凝られている。次のステージ発表もあるので手短に片付けを済ませると、2人は控え室へと戻った。
「学園祭とか久しぶりだったな、the・青春って感じ」
「高校でしかできないことって、意外とたくさんありますよね」
学園祭を筆頭に修学旅行、受験勉強、体育祭、部活動……どれもこれも中学・高校で描かれる『青春』の代名詞である。
回収したパソコンたちをリュックに戻しながら過ぎ去った日々に思いを馳せる。
「あ、そうだ。これ、お前に見せようと思って」
「これって……さっき見せてもらいましたよ」
出されたのはずっと置かれていたVRゴーグル。今日いままで出番がなく、そしてこれからも出番がないと思われていた。
「やってもらいたいゲームがあってさ」
そう言ってスマホで起動したのは心奇たちが開発したゲーム。
『スーパー学園ゲッター』と題されたそのゲームはさっきから話題にあがっていたそれである。
「まだ実装してないから、とりあえず先行プレイみたいな?意外と面白くできたから感想欲しくて」
手早く接続を済ませるとゴーグルとコントローラーをつけるよう促した。半信半疑でつけられたゴーグルは辺りを違う光景へと塗り替える。
タイトル通り、舞台は学校。同じ教室なのにそこは先程までいた教室とは少し違う印象を受けた……心奇の姿が見当たらない。
「あれ?先輩?」
『ああ、後でちゃんと行くよ。少しデータ取らせてくれ』
「わかりました……」
晴渡は一人で校舎を歩き始める。自分と同じくらいの背格好の人がたくさんいて、全てが自分を通り抜けていく。
廊下も教室も職員室も、知っているものは何ひとつとしてない。
『モチーフは慧海学園』というのは中の人間までそっくりそのまま再現したということではない。わかっていたはずなのに何だか不安になる。
次の目的地を定めようとしたとき、屋上から叫び声が聞こえた。
一人になった教室。学園祭の喧騒も他所に静寂が流れる。
すぐに静寂は破られたが果たしてそれは望んだものだっただろうか。
「どうした、銀河。そんな立ち尽くして」
さっきまで誰もいなかった空間に人が立っている。意識を引き戻された心奇は同時に自分の目的も思い出した。
「あ、いえ……その、俺行くとこあるので失礼します」
「待て」
その横を通り過ぎたとき、強く止められたわけでも腕を掴まれたわけでもないのに、足を止めていた。その表情はどうしたって想像することができない。再び室内に静寂が訪れた。
「どこに行くつもりだ」
「……俺を必要としてる人がいます」
震える声で答える。どうか届いてくれと思いながら。
「言ったはずだ。命を、これからの生活を大事にしろと」
それはかつて共闘したときに最後に言われたセリフ。あのときの心奇もそれを受けて指輪を託したはずだった。今まさにそれを無碍にしようとしているのだ。
「言われましたよ、そりゃ」
「でも、もう高校生じゃないんで先生の言うこと聞けないンすよ!」
そう言うや否や右手を大きく振るい青い軌跡を描く。決して
しかし、進むべき道は開かれない。裂かれた空間は斬撃を飲み込みすぐに元の形へと戻ってしまう。何度斬ってもどこを斬っても変わらない。打つ手がなくなっていたところである可能性を思いついた。徐に後ろを振り返るとこちらを見据えて男が立っている。
「お前が傷ついても誰も喜ばないんだぞ」
目の前の恩師を一思いに切り捨てる。それが唯一にして絶対の最適解。その覚悟を問われているのだと確信した。
「ちょっとやりすぎたかあ」
事の重大さをわかっているのかいないのか。飄々とした口ぶりで出てきた言葉。次いで出てきたのは打って変わって彼なりの決意だった。
「こう見えて、使命とか責任とかあんま無くて。だから俺は俺のために戦ってます」
「いつか胸張って笑えるように。まあ色々とありすぎましたけど」
「──俺、趣味悪いんです」
刹那、笑みを浮かべた心奇は真っ直ぐにその右手で全てを切り裂いた。
叫び声がした。本来立ち入り禁止の……
「君たちは……何をしている!」
2つはいつか廊下ですれ違っていた男子生徒たち。あのとき感じた予感は噓ではなかったようだ。もう1つは女子生徒。どこか晩堂 美月に似ているがきっと気のせいだろう。状況から察するに男子生徒たちが格上であることは間違いない。で、あれば元学園ポリスとして黙っているわけにはいかない。
「何でもねえよ。邪魔すんならぶっ飛ばす」
「なっ……!」
誰が想像しただろうか。眼前では既に忘れかかっていた光景が繰り広げられた。
「「エンゲージ!」」
姿を現した2人の指輪の戦士。熱き冒険者と牙の勇者の姿をとった彼らは晴渡へと襲い来る。いくら武術の経験を積んだ晴渡といえど、指輪の戦士相手に2対1では分が悪い。為す術なく転がされてしまう。それでもド根性ナンバーワンの名は伊達じゃない。
「根……性っ!」
反撃しようと立ち上がったとき辺りが白い光に包まれた。
「ここは……」
目を開けるとさっきと変わらない屋上の風景。変わったのは、違う人物がいること。
「相変わらず無茶が専売特許だな」
「先生……?」
かつてと同じように屋上で、2人は相まみえる。風の一陣すらも起きない中で。
「これ以上、学園の平和も生徒の安全も考えなくていいんだぞ。お前はもう、みんなの生徒会長ではないんだ」
大学1年生。今までの関わりから一転して、ただの学生としてキャンパスに溶け込んでいる。いつまでも学校に縛られるな、と暗に伝えられている。もしかしたら、いつまでも先輩面するなと言いたいのかもしれないが。
学園にいると錯覚しそうになるが、そうだ。自分はもう過去の人間だ。
「僕は、」
何だか、違和感を覚える。あのとき見ていた先生はこんなことを言う人だったろうか。言葉が継げないまま右手に重力を感じて目を向けると見覚えのある銀色の手が形作られていた。全てを理解した晴渡はその手を振るう。
それでも屋上は開かれない。
「何で……」
「晴渡。自分のために生きろ」
青春に囚われていた学園が今だに生徒を囚えている。そんなことはない、と右手を握る力が強くなる。
『これからも学園の平和を守っていこう』
“これから”はそんなにあっさりと来てしまったのか?
後ろの声に最後の一振りをしようと構えるけれどどうしても振り下ろすことができない。
「確かに今の僕は、学園ポリスじゃない。でも、あの声を聞かなかったことにはできません」
「僕は今までやってきた何より──
それでもようやく振り下ろせた刃は、その首筋を断ち切ることを許してくれない。
「──────っ!」
もし、この人物が本物なら取り返しのつかないことになるのではないか。
もし、ずっとこのままだったら自分は戻れなくなるのではないか。
「根性見せろ!!」
「……!」
「全く、いい趣味してますよ。はああっ!」
剣先が直線を描く。
監獄が砕け、元いた屋上へと帰ってきた。横には現状を招いた張本人も。
「先輩!」
「悪い、思ったよりやりすぎた」
「本気で心配したんですから」
謎の指輪の戦士の前に立った生徒会長たちは光を掴む。
その手には、指輪が握られていた。宇宙船と、パトカーと、それぞれの願いが刻まれた、金色の。
キラりと回転させて戦士の姿を見せる。
唱える言葉は決まっていた。
「エンゲージ!!」
『クラップ ユア ハンズ!』
一寸の迷いもなく、テガソードを打ち鳴らす。身体の中から闘志が湧き上がってくるのを感じた。
『メガレンジャー!』
『パトレンジャー!』
情熱色のスーツに身を包んだ2人は改めて前を見た。
「今までも、これからも守って掴み取る!パトレン1号!」
「100万倍の勇気で彼方まで!メガレッド!」
「いきましょう、先輩」
「ああ。ケリつけてやらないとな」
準備ができるまで待ってくれていた冒険者と勇者が向かってくる。迎え撃つ2人は、メガレッドは一手に引き受ける。それを信じて、駆け出すパトレン1号。
向かう先はひとつ。
「もう大丈夫です。早く逃げてください」
真っ先に人々の安全を確保する、
「晴渡!」
「先輩っ!」
ドリルセイバーが宙を舞う。虚を衝いて投げられた武器と引き換えに白い銃が飛んできた。
ほぼ同時に互いのプレゼントをキャッチした2人。メガレッドが距離を置き、メガスナイパーとの二丁拳銃で威嚇する。怯む隙すら与えずに、背後からパトメガボーとドリルセイバーの2本が攻めてくる。
「もっと根性見せろ、こっちが悪者みたいだろ」
「終わりにしましょう」
背中合わせになった冒険者と勇者を挟んで2人の生徒会長が構える。
「「はああああああっ!!!」」
『超警察チェンジ!』
「メガテクター!」
「スーパーパトレン1号!」
振り払われた光からはメガテクターを装備したメガレッドとスーパーパトレン1号が現れた。
この世界はいたって自由なのだ。
スーパーパトレン1号が両肩の発射口に力を溜めはじめる。その時間でメガレッドが動き出した。
「レインボーインパルス!」
メガレッドの身体が赤い光になって2人の戦士を貫き、スーパーパトレン1号の横に着く。
そして力の溜まりきったその右肩のトリガーを下げた。
「スーパースペリオルストライク!」
太い光線が一直線に伸びていき、全てが爆ぜ散った。
ようやく素顔を見せた心奇はまず一番にこれを聞いた。
「どうだった?結構自信あったんだけど……」
「絶っっっ対!やりすぎです!」
机にうなだれながら答えにグサグサと刺される。
「やっぱりかあ、俺も途中からそんな気してたんだよ」
「これ、わざわざ作ったんですか?」
クオリティーからはとても短期間で作ったようには思えなかった。それでも晴渡に見せたということはそういうことだ。
「まあな。先に型は作ってあって、そこに色々入れてった感じ」
色々、が色々すぎたのだ。この難易度のものを本気で実装しようものなら炎上必至である。
あれだけ暴れたのに
「でも、試練を乗り越えることで強くなるっていうのは、わかりやすくていいと思います」
「ここは俺の案じゃないんだよな。まあ伝えておくよ」
完全再現は無理でもなかなかいい出来だったろ?とどこか自慢げに語られる。テガソードをはじめとして、センタイリングに指輪の戦士、それから登場人物。どれをとっても意外と忠実に再現されていた。もちろん、開発者に身近だったからというのが大きいが。
互いにハナからゲームだとわかっていても躊躇うものがないわけではなかっただろう。というか心奇の意地悪な“調整”でこうなったわけだ。
「一応、肩入り込みやすいようにキャラは知り合いに置き換えてある」
「先輩ってあの戦士たちと知り合いだったんですか?」
聞かれて思い出したが、そういえば言ってなかった気がしてきた。
「別に?あ、俺も指輪持ってたの言ってなかったっけ」
「初めて聞きましたよ、だからあんなに戦い慣れてたんですね」
「そういうことにしとく」
どちらかというと変身していたときに身についたのはバレずにとっとと逃げおおせる能力だったが。
帰る準備を終えた心奇はリュックを背負って教室を後にしようとする。忘れ物も、やり残したことがないことも確認して、後輩の方を向いた。
「行くだろ、晩堂先生に挨拶」
「はい!」
同じようにリュックを取って先輩の後を追いかける。進む道からはどこか太陽の香りがした。
何か特別の約束をしたわけではない。それでも誰もがそう感じていた。
以下、作者様のあとがきです。
こんにちはこんばんは。よっしー/FSと申します。補ジュウ計画 メガレンジャー編に続きまして、こちらでも書かせていただきました。
前回限りだと思っていましたので、再び彼らの物語を描く機会をいただけて嬉しい限りです。リアルの生活に押し潰されながらの執筆でしたので、拙い表現が多々あると思いますが楽しんでいただけましたら幸いです。
改めまして、この企画に携わってくださった全ての皆様に感謝申し上げます。素晴らしい企画をありがとうございました!