煌きは白く   作:バルボロッサ

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アニメ化したマギのOPに出てくる白瑛の姿があまりに好みだったので妄想し始めたマギの二次創作です。原作主人公は今の所、登場せず、原作開始前から、原作の地域から遠く離れた地域での物語です。しかし、基本的には原作14巻(10月26日時点)までの内容を元にしており、アニメのみの方にとってはネタバレが含まれます。また今後の原作展開次第では原作CP無視や、ジンに関するところで矛盾が生じることもありえます。ご覧になられる際は、ご注意ください。感想、ご指摘などお待ちしております。



第1章 和国王子編
第1話


「我が王になるのは誰ぞ?」

 5年前、とある海底より突如として謎の巨塔が出現した。以来、この世界には古代王朝の遺跡群が出現し始めた。

 通称‘迷宮’。遥か昔の文明の建築様式、傷つくことのない不思議な建築材料。

 

 多くの人が塔の不可思議な魅力にとりつかれ、畏れた。幾万もの挑戦者、調査団が迷宮の攻略に挑み、姿を消した。誰一人として塔からの帰還者はなかった。

やがて、不思議な塔が死への入り口として恐れられるようになったころ、閉ざされていた塔の中より現れた者がいた。

 

 眩い光を放つ山のような宝物と青の巨人。そして塔へと挑んだ一人の少年が。

 

 

 迷宮の攻略は巨万の富をもたらすと共に、強力な力をその攻略者にもたらした。

 

 

 ジンの金属器

 

 そして迷宮道具。

 

 

 以来、強大な力を求めて強者たち、世界の覇権を目指す者たちが迷宮の攻略へと挑んだ。

 

 

 そして極東の島国に数年前出現した第4迷宮と呼ばれる迷宮を進む一人の少年がいた。

 

 

 

 魑魅魍魎が如き怪物、数多の罠。幾千もの挑戦者が命を落した難攻不落の迷宮を少年は己が力をもって切り伏せた。

 

 

「ふむ。童。貴様一人か」

 

 どこまでも続くかに思える迷宮を越えた先にあったのは見知らぬ古代の街並み。そしてその街並みの中で黒い風のようなものが渦を巻き、気づいた時には天を衝くほどの青い巨人が目の前に顕現していた。

 

 

「そうだ」

 

 見上げる者はただ一人。巨人と比べて、いや、人に於いても小さく、まだ未熟な身体。だが難攻不落の迷宮を踏破した少年の眼差しは強く巨人を見上げていた。

 

「ここまでは熊か平屋くらいのデカさの化け物だったが、ようやく、デカブツの登場か」

 

 少年は迷宮の主を前にして今までと同様、己が信じる愛刀に、腰に帯びている刀に手を掛けた。

 

 

「待て待て。お主、迷宮挑戦者であろう? ならばそれは達成された」

「? そうなのか?」

 

 しゃがれた声で話しかける巨人の言葉に、鞘に納められた刀に手を当てたまま、少年は不思議そうに首を傾げた。

 

 

「我は迷宮の主、ガミジン。罪業と呪怨から作られしジン」

 

 城よりも大きいほどの巨人は自らをガミジンと名乗り、少年を見下ろした。

 

「お前が主ならお前を倒さないといけないんじゃないのか?」

「必要ない。ここまで辿りついたのがぬし一人なら、お主が我の王だ」

「…………なんだそれは?」

 

 戦の在りようすら変えるほどに強力なジンを前にして、戦う気満々だった少年は心底不思議そうに尋ねた。

 

 

「……お主は迷宮を攻略しに来たのではないのか?」

「? あぁ、そういえばここはそういう所だったな」

「……何をしに来たのだ、お主?」

 

 5年前、世界各地に出現し、数多の挑戦者を飲み込んだ迷宮。その一つを攻略した少年の、今思い出したと言わんばかりの態度に巨人は呆れた表情となった。

 ここは間違えて入ってきてしまいました、という程度で攻略できるほどの難易度の迷宮ではない。万を超える規模の軍団ですら呑み込む、挑戦者に応じて難易度を変える迷宮なのだ。

 

意思の疎通をはかるためか、城よりも大きかった巨人は大樹ほどの大きさに縮んだ。

 

 

「いやいや、久方ぶりに暴れたもんだから、すっかり忘れてた。なぁ、お前がここの主で俺はここを攻略したんだよな。攻略したらどうなるんだ?」

「……ここは王を選定する迷宮。攻略したお主を王とするため、これより我が力となろう」

 

 敵対する意思がないことを見て取ったのか、警戒心を残しつつも少年は刀から手を離し、ガミジンと向き合った。

 

 帰還成功率の低さを知ってなお迷宮に挑む者のほとんどは、強い目的をもって足を踏み入れるのだ。

 強き力を求める者。富を求めるもの。名声を求める者。

 少年にも無論、叶えるべき願いがあって足を踏み入れたのだ。

 

「なるほど……ふむ。力を貸してくれるならちょうどいい、早速一つ力を貸してくれ」

「せっかちな契約者だな。心配せずとも迷宮からの出口は我が用意する」

 

 ゆえに力の貸与を望まれるのは想定していた。だが、早速という言葉にガミジンは苦戦しただろう迷宮からの出口のことを口にした。しかし

 

「ん? なんだ、帰りはあれと戦えないのか?」

「……戦いたいのか?」

 

 その身を危ぶむほどの迷宮をもう一度、通りたいとばかりの態度にガミジンはわずかばかり反応が遅れた。

 

「久々に面白かったからな。っとそれはいいが、一つ力、というより知恵を貸してもらいたい」

「? なんだ?」

 

 巨人、ガミジンを始めとしたジンは力の具現として世に知られつつある。この世界で初めて、迷宮の一つを攻略したシンドバッドしかり、古の昔話に語られる王たちしかり。

 故に力ではなく知恵を貸せと頼む少年にガミジンは訝しげな眼差しをむけた。

 

 

「女というのはなにを貰うと喜ぶんだ?」

 

 だからこそ、自らの主となる男の問いにガミジンは沈黙した。

 しばし二人の間に沈黙が流れた。

 

 

「……ここにある財は攻略者たるお主の物だ。迷宮の宝物ならば人は喜ぶのだろ? 好きなものを持って行け」

 

 ガミジンは知らず落胆を感じた。たった一人でこの迷宮を、しかも少年と言ってよい年頃の子供が攻略したことに、たしかな王の器を期待していたのだろう。

 

 

「いや、たしかにここのは凄そうだが、それだけじゃなくて女の子が喜びそうな、珍しいもんを聞きたいんだ」

「……お主はよもや、女子に差し出す貢物のために我が迷宮を踏破したのか?」

 

 ガミジンの眼差しは冷たい。あきれ果てたとばかりの眼差しと口調で少年を見下ろしている。

 

 

「いやまあ、それだけでもない……こともないな」

「……」

 

 少年の身なりは迷宮の踏破の所為か、ところどころ汚れが見られるものの、決して身分の低い出自ではない身なりだ。

 

「来るのが異国の娘なもんで、どうせなら珍しいもので驚かせてやりたくてな。なにせ最近勢いのある煌の姫君だからな」

「……」

 

 なめられるわけにはいかん。ともっともらしく語る少年だがガミジンの視線は変わらず冷たい。

 

「未踏破の迷宮の宝物なら、見たこともない珍しい物があると思ってな。難攻不落って評判の迷宮自体にも興味があったし」

 

 命の原始と終焉をあらわすルフより作られたジンは虚偽に敏感だ。特に罪より作られしガミジンはとりわけ嘘を見抜く。だが少年の言葉に、小賢しく取り繕う気配は感じられなかった。

 

遠方から来る少女を驚かす珍しい物の獲得と自らの力を試すこと。二つの目的をもって少年は迷宮へと足を踏み入れた。

 その無謀さを浅慮と感じるか、自らの力を信じ、たしかな力をもつ大きな器の現れととるか。

 

 ガミジンは諦めたようにため息をつき口を開いた。

 

「その娘は許嫁か恋人か?」

「ん? ふむ。どうだろうな、会ったこともないが……年も近いし、なくはないかも知れんが、今のところそんな話は聞いてない」

 

 少年の年はおそらく14、5といったところだろう。どうやらこの年で許嫁がなくはないという少年は、それなりの身分の者なのだろう。

 

「…………はぁ。ここにあるのはどれも人の世界では珍しいものだが……あそこの箱を開けてみよ」

 

 溜息をついてばかりのことに自体に溜息をつきたくなったガミジンだが召喚者の質問に対しては明瞭に答えを与えるという性状ゆえにだろう、しばし黙考してからぞんざいに部屋の一角を指差した。

 

「あの箱か?」

「お主くらいの年でそこらの宝物とは違うものが良いのだろう?」

 

 少年にとってはガミジンが律儀に答えてくれたことがわずかばかり意外だったようで僅かに驚いた表情となるが、かすかに微笑むと示された箱に近づいた。

 

 ガミジンがそこらのものと言った宝物は、おそらく街並みにあるように古代の宝物なのだろう。たしかにそれらは珍しく、高価なものゆえ、贈り物とすれば大層なものとなろうが、少年ほどの年の女子に贈るものには似つかわしくないものばかりだ。

 ガミジンが示した箱は螺鈿の細工が施された、これだけでも相当に価値あるものと判る逸品だが、手に取ると中になにか入っていることに気づき、蓋を開けた。

 

「? なんだこれ?」

「扇だ」

「俺の知っているものと少し違うぞ?」

 

 中に入っていたのは手元部分に黄金と宝玉による決して華美ではない宝飾がなされ、白い羽毛らしきものが付けられた扇。少年が知っている木の骨組みに紙や布の扇を取り付けたものとは全く違った形をしていた。

 

「白羽扇というものだ。大陸の方で貴族とやらに好まれていた扇の一種だ」

 

 何年も保管されていたものだろうに、それは他の宝物同様、まったくくたびれたところがなく、真新しさがあった。

 

「白羽扇、か……」

 

 少年はしばし手にとって眺めた。この迷宮のある島国とは違い煌は大陸の国家だ。もしかしたら白羽扇など珍しくはないかもしれない。だが、

 

「気に入った。名も少し似てるしな」

 

 己にとって目新しさがあったからか、扇にしても品格の高そうなその扇が満足いくものだったのか少年は嬉しそうに笑みを浮かべるとそれを箱に戻した。

 

「名?」

「あぁ、その娘の名だ。確か白……白瑛だ」

 

迷宮で手に入れた物ならば珍しいし、その名の一字、白を冠している。これならきっと喜ぶだろう。まだ見ぬ少女が目を丸くする光景を思い浮かべて、少年はフッと笑みをこぼした。

 

「少女の名は分かった。だがここを出る前に我が王となる者の名を教えよ」

 

 そのまま何処かへ立ち去りそうな少年にガミジンは呆れたように声をかけた。

 

「ん? なんだ? 外にまで来るのか?」

 

 要件が済んだことでこの迷宮の用も済んだとばかりの少年に、迷宮の主である巨人はもう諦めたとばかりに溜息をついた。

 

「言ったはずだ。我は王を選定する者で、ここは王を選定する場。お主はたしかな力と度量を示し、一人でここを踏破した。ゆえにお主が我が王だ」

「……なるほど」

 

 遍く人には罪のない者などいない。魂の故郷から分けられたジンは、それを知っている。そう、遠く理想郷の彼方からそれは変わらない。

 だからこそ、自らの問いに虚偽なく答えた少年に関心を抱いた。人の器を見るガミジンが感じた少年の持つ気質は、彼を生み出した性情をも飲み込むほどの王の資質をもっているように思えたのだ。

 いささか外れたところはあるが、たしかに主と認めるだけの器量を持っているのだ。

 

 少年は少し考えるように自らのジンを見上げた。

 強大な力であることは知っている。世界で最初の攻略者たるシンドバッドを例にとっても、目の前のこの存在が個人の武力としては破格のものであるのだ。

 人は力を求め、力を恐れる。

 

 強大な力を前に少年は

 

 

「ふむ……俺の名は、皇光(すめらぎひかる)だ。よろしく頼む、ガミジン」

 

 手を差し伸べて応えた。

 

 

 

    ✡✡✡

 

 

 

「・・・というのが、それを手に入れた顛末だ」

「あなたが、迷宮攻略者だったのですか!?」

 

 数日後、自らの父が治める国へと訪れた隣国の王族兄妹を父や兄は歓待した。光は比較的年の近い -といっても3歳ほど年下だが― 少女の相手をしていた。

 

「攻略者というなら、そうだろうな。なかなかに面白い所だった」

 

 光が踏破した第4迷宮は、それからすぐに跡形もなく消失してしまった。つまり、国内において第4の迷宮を踏破したのは、名実ともに光しかいないのだ。

 第1の迷宮の攻略者たるシンドバッドを含めて、まだ世界に散在する迷宮のほとんどは攻略されておらず、むしろ出現する数の方が多い程だ。

 

 少女 –海を隔てた隣国の姫君ー 練白瑛は先程、出会いの贈り物だといって渡された扇を口元に当てて目を丸くしている。

 贈り物自体も喜んでくれたが、なにより迷宮でのことを語るととても驚いて、光は目的を達せられたことに少しだけ笑みを浮かべた。

 

「そうなのですか? かのシンドバッドのお話では、迷宮とは大層恐ろしい所だとうかがいましたが」

「まぁ……なかなかに悪趣味な玩具が敷き詰められていたな」

 

 普通、命の危機にさらされるほどの罠を玩具とは称さない。だが、それでも少年は迷宮の外にも、いや、外にこそ恐ろしいものがありふれていることを知っている。

 

「強いのですね、光殿は」

「まだまだ兄にも敵わぬし、金属器の力も使いこなせてはいない未熟者さ」

 

 光の兄も白瑛の兄も、どちらも二人とは年が離れており、彼らは今、国の王である父と国事に関わる話をしていた。二人はたしかに兄たちに比べて幼いが、それでもいずれは国政にかかわる者として彼らがどのような立場で話し合いをしているのか薄らと察するほどに聡明だった。

 

「私も、あなたのように強くならなければなりませんね」

「…………煌は随分と版図を拡大しているようだな」

「…………」

 

 煌と海を隔て隣国同士の和という国 -光の父が治める国- は、周りを海に囲まれたという立地、そして他に類を見ない特殊な刀剣技術、身体の魔力を操り剣技となす技術、そして優れた航海術による海洋貿易によって大陸でも知られた小さな強国だ。

 

 対して煌は数年前まで大陸の極東における小さな国だったが、ここ最近勢いに乗って隣国に侵略を始めているのだ。

 今回の話し合い、煌の王族の来訪はおそらく、大陸を侵攻していくにあたり、後顧の憂いを断つために、後方に位置する和の国となんらかの協定を結ぶ目的があるのだろう。

 

「なぜ、父は戦争を始めるのでしょう……」

「さて、な」

 

 光の武に憧れるという姫らしからぬ一面を見せつつも、争いに対して心を痛める優しさこそが彼女の本質なのだろう。瞳を曇らせる白瑛に光は空を見上げた。

 

「争うことが、人の本質であるから、かもしれんな」

「!」

 

 ポツリと呟くように言った言葉に、白瑛は伏していた顔をあげて、光の顔を見た。

 

「光殿は、争う事をよしとするのですか!?」

「……白瑛殿は争いが嫌いか?」

 

 光は空に向けていた視線をおろし、挑むように見つめてくる白瑛へと視線を向けた。

 

「私は……私は、ここに、和に来るまでは、和という国を恐ろしく思っておりました」

 

 問われた白瑛は少し申し訳なさそうに自らの思いを口にし出した。

 

「海を隔てた隣国。私たちの知らない力を持ち、かの昔、小さな島国でありながら大黄牙帝国の侵略にも屈しなかった強国。ここに来るまで、私は和という国が恐ろしかった……」

 

 かつて大陸はある一族によって席捲されかかった。強大な大王を頂き、無敵の騎馬軍団を操る帝国。

 

「それでも、ここに来て、あなたのお父上である王にお会いし、あなたとお話をさせていただき、あなたを知ることができた」

 

 だが、極東の小さな島国は、それに屈しなかった。大陸とは地続きでなかったこともあるが、なにより当時、大陸ではまだ知られていなかった独自の刀剣技術や戦闘技術はかの帝国を大いに苦しめ、さらには大王が授かったという魔神のごとき力に匹敵する力によって軍団を撤退にまで追い込んだという未知の国。

 

「人は、ちゃんとお話をすることで、人と分かり合うことができると思います」

「…………それも一つだろう。だが」

 

 すべからく時は流れる。かの帝国ももはや見る影もなく、国どころか辺境の一民族にまでその勢力は萎み、統一された国々は乱立する国に分裂。広大な中原は今なお戦乱が絶えない。

 戦火に見舞われた国を思っているのか、白瑛は瞳に悲しげな色を灯して自らの思いを述べた。光は否定することなく、しかし、最近になって手に入れてしまった強大な力を、一人で軍にも匹敵するであろう力、ジンの宿る自らの刀を思った。

 

「それでも俺は武を磨く。この国とて、今でこそ平和が続いているが戦乱がなかったわけではない。それを治めた武があったのだ。争いを治めるのに力が必要な事もたしかにある」

「それは……」

 

 大陸に比べ小さな国土の和だが、戦乱が無かったわけではない。大黄牙帝国の襲来以降も、いくつか支配者が変わったこともあるし、今の和という形になるほんの数代前には国土全域で大きな争いがあった。そして今でも全てが平穏というわけではないのだ。

 

「それに、煌が三国を統一しつつあるからこそ、争いが収まり、安堵している民がいることもたしかだ」

「……」

 

 それは暴力的な意見だろう。争いがなくならぬからこそ、争いでそれを収める。どこまでいっても矛盾する人の業。

 煌の位置する極東は、比較的小国が乱立し、戦乱が絶えなかった地域でもある。煌がそれらを統一すれば、たしかに統一された土地では平穏が訪れるのだ。

 

 口にしたい思いは白瑛にもあるのだろう。だが、何を言ったところで自国の王が、ほかならぬ父が侵略の戦争を起こしている以上、その娘が語る争いのない世というのは綺麗ごとにほかならない。

 まだ幼い白瑛は思いを口にし、貫くほどに強くはなく、しかし納得できるほどの強さは無い。

 言葉にならぬ思いに白瑛は再び顔を伏せた。

 光も場に合わぬ話題であったことを自覚しているのだろう。少し困ったような表情となった。

 

「それでも、やはり平穏に過ごせれば、それが一番いいな」

「……」

 

 戦を肯定している武人の顔とは異なる、その言葉に白瑛は顔を上げた。

 

「煌が白瑛殿たちを和に遣わしたのは、白瑛殿の言う話し合いによる和平のためだろう。煌王も全て力で解決しようとしている訳ではないのだろ?」

「それは……」

 

 来訪理由は一応は知らされているのだろう。ただ、それを口にしていいのか悩み、結局白瑛はこくんと頷いた。

 

「少なくとも、和は煌とは争わない。だから……また、来ればいい。それまでにどこぞを冒険して、話のタネでも作っておくから」

「…………ふふ」

 

 少し驚いたような顔をした白瑛は、光の言葉に口元を扇で隠して微笑んだ。

 

「今度は……今度は、弟も一緒に来てもよろしいですか?」

「弟御もいるのか?」

「はい。白龍といって5歳年下の弟です。白龍にも光殿のお話を聞かせてあげたいので」

 

 光の話は面白かった。

 出てくる怪物はどれも個性的なものばかりで、罠の数々はまるで広大な遊び場に仕掛けられた悪戯のような語り方だった。

 もちろんそれは、光の武や罠を潜り抜ける機知があればだからこそだが、それでも光の冒険譚は面白かった。

 

「兄弟が多いのは羨ましい。是非来るといい。武芸をなさるのなら、一緒に稽古をするのも面白いかもしれんな」

「あら。私も武芸は嗜んでおりますよ」

 

 光は年の離れた兄と二人兄弟だ。だから単純に家族の多さを楽しそうに羨んだ。光が鍛練をする相手は大抵、年の離れた兄や師である年嵩の武人ばかりで、人に教えることはほとんどなかった。

 

「ほう。それはそれは。では明日は白瑛殿と遠乗りに出るのも楽しそうだ。馬の方は?」

「馬術には自信があります。光殿にも負けませんよ」

 

 自信に満ちたように胸を張る白瑛に、光はにやりと笑みを向け、白瑛も可憐な微笑を向け視線を絡めた。

 

 

 

 それはまだ、極東における小国、吾、凱、煌の三国が平定される前の話。戦火に苦しむ三国が、帝国となる前の煌によって徐々に統一されつつある頃の、島国における穏やかな日のこと。

 

 徐々に、この世界に生じた異変が、世界中へと広がりつつあるころの話だった。

 

 

 彼らはまだ知らなかった。光ですらまだ本当の意味で理解してはおらず、語ることもなかった。

 

 彼の得たジンの力を

 その本質を……

 

 罪業と呪怨

 

 遥か遠き昔より、変わることなく渦を巻く、人の咎により生まれたジンの力を

 

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