じいさんキャラがいい味出してるといいなぁと思ったりしてます。
皇 光には血を分けた兄が一人だけ居る
――煌国との同盟が結ばれてまだ一年にもならぬ頃……
「皇 光君」
何度か訪れた煌国からの使者。
許嫁である白瑛が訪れた時こそ忙しくなる光だが、彼女が来ないときは基本的に都の警備隊に配属されていた。
外交の話は主に国王や兄王たちの仕事だった。
その日の光は稽古のために鍛練場へと訪れていた。
部下や幼馴染の融と剣を交えて一段落したころ、鍛練場では見ない顔に話しかけられて光は驚きに目を瞠った。
融をはじめ、鍛練場に居た者は、見慣れない顔に訝しげな視線を向けている。
黒い髪を頭部でまとめ、左右の耳の前にも一房ずつ肩に垂れるほどの長さでまとめている。左の口元には特徴的な黒子があり、落ち着いた雰囲気の中に苛烈さを秘めた瞳を光に向けていた。
「!」「殿下?」
驚いている光の様子に、その人に見覚えのあると察したのか融は問いたげに光を窺った。
「これは練 白雄殿。どうされたのですか?」
驚きをしまって煌式の拱手と共に返す光の言葉に、見知らぬ人物に警戒を抱いていた融はぎょっとして慌てて拱手しようと手を合わせた。
男性。煌の第1王子、練白雄はそれを軽く手を上げて制すると口元に笑みを浮かべ、しかし瞳は真剣に見定めるように光の方を向いた。
「いや、礼は不要だ。今回は外交官としてではなく、白瑛の兄として個人的に君に会いに来たんだ」
融や周囲の者たちは、礼は不要と示されても明らかに位階の高い者に対する扱いに困ったように反応しているが、光は拱手を解いて少し考えてから口を開いた。
「なるほど。それではお義兄さまと……?」
「いや結構だ」
見定める気満々という雰囲気を察してか、どこか愉快そうな眼差しで返してきた光の言葉に白雄は真剣に即答した。
「では白雄殿と……それで、個人的要件とはどういったものでしょうか?」
光も半分くらいは本気ではなかったのか、あっさりと呼び方を戻して改めて要件を尋ねた。
「そうだな……」
何と答えたモノか。白雄は考えながらチラリと光の腰に視線を向けた。
いつもならそこには彼の愛刀が下げられている。
迷宮攻略者の証であるジンの八芒星が刻まれた和刀・桜花。今は、鍛練のため外しており代わりに木刀を手にしている。
「よし。鍛練の途中だったようだし、よければ俺も一手願おう」
「えっ!?」
「……分かりました。融、もう一本貸せ」
「ええっ!!?」
手合せを願い出る白雄に、光は少し考えてから隣であたふたとしている融に練習用の木刀を貸し出すように命じた。
木刀は和刀を模しているために白雄が普段使っている武器とはおそらく形状がことなるだろうが、模擬刀代わりに使う分にはそうそう不足はないだろう。
融は二人の、自分よりもずっと身分の高い二人の顔を困ったように見比べて、止められそうにないことを悟って渋々木刀を差し出した。
「殿下」
「分かってる」
融は木刀を光に手渡しながら一声呼びかけた。
融の注意するような声音。光は幼馴染の言いたいことを理解して、先回りして止めた。
鍛練を望んでいるとはいえ、相手は年上で他国の王子だ。しかも武勇に優れていると評判の煌王の第1子。
あまり目立つ真似はするなという意味があるのだろう。
操気術は和国の秘奥とまではいかないものの、無闇と披露は差し控えたい。
光は受け取った木刀をくるりと反転して柄を白雄に差し出した。
「どうぞ。剣でよろしいですか?」
「ああ」
白雄は差し出された木刀の柄を掴んだ。木刀を手渡した光は開始の間合いを開けるべく背を向けて距離をとった。
その背をじっと見据える白雄。
煌の国内では彼もまた優れた武人として知られてはいる。そう、ある任務の候補として選ばれるほどには。
その白雄の眼から見て、目の前の年下の、少年と言っていいだろう年頃の彼はかなりの力量を持っているだろうことが見て取れた。
遠間ほどに十分距離をとった光は、白雄の方に向き直り、左手を柄尻に当てるようにして眼前に木刀を構えた。
「いつでもいいですよ」
重さを確かめるように木刀を振るって白雄も光の方を睨むように向いた。
ついでのように試合を申し込んだが、白雄にとってこれは今回の目的の一つだ。目の前の彼の兄と父にも許可はとってある。
和国第2王子、皇 光。
世界でも数少ない迷宮攻略者であり、鬼の住まう国と呼ばれる和国の武人。そして白雄のたった一人の妹である白瑛の許嫁……
たった一人の娘をこの国に嫁がせる決断をした父の ――煌王の――判断を間違いだとは思わない。
天華の覇権を狙う煌にとって、後背に位置し、比較的友好的なこの国を味方に付けるのは当然の狙いといえる。そして、国の“内部の”問題から見ても、大陸から離れた外部に味方を作っておくことは重要な事だ。
自分や弟はすでに覚悟を決めている。
民のために、国のために、世界のために命を賭けて、その根源と戦う覚悟を。
だが、敵の力はあまりにも深い。
どれほど強大であるかも分からないほどに深い。
だからせめて……もしもの時に妹を守ってくれる存在を……
「はあっッ!!」
「ぬ、くっ!!」
両手持ちでの打ち込み。白瑛と同じく、いやそれ以上に苛烈な打ち込みに腕が痺れ、光は顔を歪めた。
次々に打ち込まれる連撃に光が押し込まれ、間合いを外さないように巧みに白雄が詰める。体躯の差から腕力の差が大きい。操気術を使えばその限りではないだろうが、それは相手の体にかかる負担が大きく危険が大きい。
だからこそ、鍔迫り合いには持ち込みたくなかったのだが、強引に押し切ろうとする白雄に捕まる形で二人の剣が噛み合う。
「アレの兄が相手だから顔を立てて適度に流す。などと考えていたのではないだろう、なっ!」
「っ――!!」
木刀の向こうから飛んでくる言葉と炯々に輝く瞳の中の闘志。
腕にかかる負担が増し、押し込みが強まっていることを知らせてくる。光は木刀の軸をずらして流すように鍔迫り合いを脱した。
剣を流され体の崩れた白雄だが、体勢が崩れるに任せて足を踏み込み、反動を利用して切り上げに薙いだ。
鍔迫りをいなして反撃の糸口をするはずだった光は、強引な一撃に目を瞠り
「!!」
白雄の薙閃を紙一重で躱した。
奇襲の形になった一撃を躱されたことに白雄は驚いた。ただ躱されただけではない。眼前を通り抜けるようにギリギリのところを見切って躱されたのだ。
――反撃が来る!
白雄は振り切った腕の流れに任せるようにして、自ら体勢を崩して光の打ち下ろしを避けた。
剣閃を躱し、白雄が反撃の体勢を整えようとしたのと同時に光もまた追撃の機を窺っていた。
「ハぁッ!」
「ふっ!!」
光の一閃と白雄の剛剣が交わる。
「結局、要件はなんだったのですか白雄殿?」
試合は勝敗つかずの分けとなった。
延々と続くかに思われた試合だが、周りの者の鍛練の邪魔が著しくなってきたと判断したところで互いに剣を引いたのだった。
散々に打ち合いをして今さらだが、何の要件で光を訪ねてきたのかを遅ればせながら尋ねた。
「要件は……もう果たせたよ」
「?」
白雄の答えに、飲み物を持ってきた融はきょとんとした顔をした。融から水筒を受け取り喉を潤していた光も手を止めて白雄を見返した。
果たせた、ということは先程の試合が訪れてきた理由なのだろう。
「流石は迷宮を攻略するだけあるな」
「それはどうも」
お世辞、というだけではないだろう。
武名高い煌王の嫡子として鍛練を積んできた自負のある白雄から見て、光の剣の技量は抜きんでており、白瑛よりも正確に光の腕前を見定めることができていた。
そう――
「だが、結局は本気を出してくれなかったな」
本気を出していない事が分かるくらいには
「そんなことは……」
「気の操作術を使わなかっただろう?」
「…………」
口ごもる光に白雄は手加減の証左を突きつけるように言った。
無論光の剣は操気術を使うことだけではない。だが本気で気を使って攻勢にでていれば刃などなくとも白雄の木刀は断ち切られていただろう。もしくは気の干渉で内部を痛めつけられていただろう。
純粋に対等な剣技で渡り合いたかったというのもあるが、白瑛の兄に気を使ったというのも大きいだろう。
見抜かれたことに気まずげにしている光に白雄は口元にかすかな笑みを浮かべた。
「剣だけでも敵わない、か……いずれ君を紅炎に会わせたいな」
「どなたですか?」
興味が湧いたのはもう一人の武人と比較したとき果たしてどちらに軍配が上がるのかが興味深かったからだ。
「俺の従弟だ。君よりも少し年上で少し無口なところがあるんだが、武人としては俺よりも上だろうな」
「紅炎殿、ですか……」
白雄よりも数歳年下の男。
寡黙で、だがすでに中原では知勇に優れた勇将の器と言われる従弟。
もしも政略結婚で白瑛が和国に嫁ぐことが決まっていなければ、あるいはアイツが…… もう一人の弟のようにも思っているアイツが、本当に義弟となっていた。そんな運命も、もしかしたらありえたかもしれない。
もっともそれは、言っても、想像しても詮無きことであり、妹の様子を見る限りにおいて、彼女もこの縁故を本心から大切にしたいと思っているようだ。
だからこそ、兄として――――確かめたかったのだ。
目の前の男が、大切な妹を託すに相応しいかどうかを。
「聞きたいことがあるんだが。迷宮を攻略するというのはどういうものなんだ?」
「迷宮、ですか? 器を計られる場だと感じましたが……どうしてそのような?」
「ああ。実は俺も迷宮に赴くことを求められているんだ」
告げられた言葉に光は目を瞠った。
それは迷宮攻略者として、迷宮について知っているが故の心配のためか。
「知っているだろうが、今大陸では戦乱が続いている。国同士の争い、国内での争い。中原の人口は最盛期の10分の1ほどまで窮しているほどだ。父は、いや俺たちはそれをどうにかしたいと考えている」
煌は今、大きな転機を迎えている。
長年中原で覇を競う三国の内、煌を除く二国。凱と吾。その二国が近年、内乱と戦争で疲弊していたのだ。
対して煌はとある組織の力を取り込むことで、急激な発展を遂げようとしている。
不毛な戦禍に終止符を打つべく、父である煌王は中原の統一に乗り出し、さらに強大な力を得るべく、煌に加護を与えるマギ・ジュダルの導きによって迷宮の攻略に着手しようとしているのだ。
「白瑛は戦争なんてと思っているかも知れないが、このまま座していても悲劇は深まるだけだ。例え今、血を流すことになろうとも中原をまとめなければならない」
人の死と涙とを厭う白瑛や白龍は、今の父のやりようを快くは思っていないだろう。だが、それでもやらなければならない。
「だがせめてあいつには……白瑛には幸せな生を送ってほしいと思うのは、俺の我儘か……?」
「……そう、ですね」
心配はある。
戦を嫌う白瑛を、戦禍の只中に巻き込むことになってしまう。それだけだはない。真に恐るべきは国の外にあるのではなく……
「私の方からもよろしいですか?」
思考を別のところに向けようとしていた白雄は問いかけられて俯かせようとしていた顔を上げた。
視線が交わる。従弟よりも年下の、少年と言っていいだろう彼の瞳は、何かを探るように鋭い視線を向けている。
白雄の表情を首肯ととった光は、質問を続けた。
「貴方は、“何”と戦おうとしているのですか? 敵はなんなのですか?」
「!? それは……」
光の問いに、白雄は顔を強張らせた。
何と戦おうとしているのか。
それが単なる戦争に関する問いでない事は光の鋭い眼差しが物語っていた。嘘や誤魔化しではなく、真実を見通そうとする瞳。
明確に応えることは……できない。
それはまだ和国の国王にも、告げていないことだからだ。
確証はない。
「皇 光。もしも俺たちが……」
それでも敵の輪郭は、おぼろげながら掴めてきている。
その想像がもたらすのは、自分たちにとって最悪の展開だ。それを口にしかけた白雄は……
「いや。今日はもうこのくらいにしておこう。……光。妹を、白瑛を守ってやってくれ」
しかし告げることなく、もう一つの大切なことを頼んだ。
「……言われずとも、白瑛は俺が守ります」
白雄の言葉に、光は明確に答えた。
見据える先にある瞳は、ただただ誠実なものだ。嘘偽りのない、魂からの言葉を口にした時のもの。
決して違えない。
そう自らに刻み込むかのような、誓約にも似た言葉の響き。
「そうか……」
その瞳を見て、光の答えを聴いて、白雄は安堵したように口元に笑みを浮かべた。
きっとこの男は信頼できる。
何に於いても大切な者を守ってくれるだろう。
「よし。やっぱりもう一本やってもらおう」
「ん? いや、なんか殺気が違う気がするんですが。白雄殿? もしもし……?」
だが、それはそれで、ほんの少し、思うところのある兄であった。
あの時、義兄が告げようとしていたことを、光は分かっていた。
――もしも俺たちが、
恐らくそれが、あの人の予感していた未来だったのだろう。
光には兄が居る。
血を分けた兄。血の繋がらぬ義兄。
どちらも大切な存在だ。
だから――
――白雄殿、貴方は生きてください。
彼女を、白瑛を、家族を守りたいと、悲しませたくないと思うのならば。
ほんのわずかな時間でも、どんなに無様な形でも、生きて下さい。死を覚悟して誰かに託すようなことはしないでください。
幸せな生を送る妹を、見守ってください。
願った想いは――
――届くことはなかった。
✡✡✡
北天山の平定戦はいくつかの異民族の抵抗こそあるものの、概ね順調に進んでいた。
やはり北天山の中でも名高い黄牙の民が、その騎馬をもって煌帝国に与したという情報が広まったのが功を奏したのだろう。
本国の方でも南下政策が進められており、そちらは拠点として目星をつけている貿易国家バルバッドを併合すべく、いよいよ本腰を入れるらしい。
バルバッドでは悪政と内乱によって国内が混乱の極みに達しており、それを経済的に援助するために資金援助を行い、内政的干渉を強めるために第8皇女の練 紅玉をバルバッドの現国王の妃として送り込むとのことだ。
白瑛や他の皇女と同じく、重要国の王族への政略結婚。
あまり親密に話す間柄ではなく、直接的な血の繋がりはないとはいえ、白瑛にとっても義理の妹。政略結婚とはいえ、その縁が良縁であること願っていたのだが……
「第8皇女のバルバッドへの政略結婚が白紙に戻った?」
本国からの需要事項の伝達を白瑛から聞いた光は驚きをもって尋ね返した。
白瑛率いる北方兵団にとって南下政策は直接的には関わらないとはいえ、煌帝国という枠組みで見れば、かなり大きな問題だ。
バルバッドは地理的には西征拠点として煌帝国にとっては重要だとはいえ、その国力はもはや煌帝国なしには維持できていない。資金援助と引き換えに通商権や海洋権、国土などの利権を借金の担保として譲渡されているのだ。もはやバルバッドは国として機能を果たしていないのは明白。
光もバルバッドのそんな情報を得ていたし、そこから見立てたところではバルバッドが煌帝国の干渉をはねのけることは、国力的にも王の器量から見ても無理だったはずだ。
恐らく西征軍総督の紅炎にとっても意外の念を禁じ得ないだろう事態。
「はい。まだ情報が纏まり終えてはいないようですが、どうやら七海連合の干渉があったようです」
「七海連合か……」
続けて白瑛から告げられた情報に光は苦々しげに目を鋭くした。今後、煌帝国が覇道を突き進んでいくのならば、おそらく強大な障壁となるであろう二つの勢力の一つ。
白瑛と光の険しくなった顔を見て、光雲は疑問を浮かべて視線を向けた。
「七海連合?」
「七海の覇王シンドバッドが築いたシンドリアを中心にした国の連合体だ。たしかにあれが介入してきたのなら第8皇女には難しい案件だっただろうが……あの連合は不可侵を理念としていたはずだ。それがなぜ介入を……?」
光雲の疑問に答えた光だが、それでも分からないことがあった。
第8皇女、練紅玉の政治力はそう高くない。強気そうに見える性格とは裏腹に、実は内向的で意見を溜め込みやすい皇女だ。
七海連合ほどの大物が出張ってくれば、紅玉では対処できないのは納得できるが、そもそも七海連合が介入してくる理由がない。
「そのあたりはまだ。国内にいたシンドバッド王が王宮に乗り込んできたとか……状況が複雑化したので案件を皇帝にお伝えすることになり。シンドバッド王とも会談の機を設けることになったとのことです」
介入の理由が分からずに眉根を寄せる光と同様、白瑛も険しい表情となっている。
今後、統一が進めば衝突は必至の相手とはいえ、目下の攻略対象は煌帝国のある東大陸。そして恐らくは進行してくるだろう西大陸のレーム帝国だ。
七海連合の中心、シンドリアは未開と呼ばれる極南地域にあるため、戦端を開くまでにはまだ時が必要だ。いくらなんでも、レームと七海連合の二勢力を一度に相手取るのは分が悪い。
「シンドバッド王……あの男か」
特に懸念が強いのは、当世において最初に迷宮を攻略し、そして七体ものジンを従えるに至った不世出の英雄。
「光殿はシンドバッド王とお会いになったことがあるのですか?」
光の様子から対面したことがあると察したのか、青舜が問いかけた。
「まあな。和もシンドリアも海洋国家だ。国益の主要な収入源は貿易。以前だが、取引をしたいとシンドバッド王直々に和国に来たことがあった」
青舜の問いに光は肯定を返した。
シンドバッドがその要件として交渉に来たのは光にではなく、国王や兄に対してだが、光もまたシンドバッドを目にする機会はあった。
「どんな方なのですか?」
続く青舜が問いかけに光は目を閉じ、シンドバッドと対面した時を思い返しながら答えた。
圧倒的な潜在力。強烈に人を惹きつける魅力。年配の和国の王を前に一歩も引かぬ胆力。
直接見えた経験だけでなく、その後の行動をとってみても、彼を評する言葉は端的なものだった。
「……英雄、だな。紅炎殿とはまた違うタイプだ。いい意味でも悪い意味でも、な」
「いい意味でも、悪い意味でも?」
光の評に青舜はきょとんとした顔になった。白瑛もまた問いたげな眼差しを向けるが、向けられた光は苦笑するように肩を竦めた。
「ただの勘だ。まあシンドバッド王は英雄色を好むという言葉通りの人物ではあるらしいが」
余談だが、煌帝国において世継ぎをつくるのは皇族の義務だ。現皇帝にも幾人もの后がおり、例えば紅玉の母などは遊女であったのを見初められたという経緯があり、後ろ盾がないゆえに宮廷内での権力は弱い。
「第1皇子とタイプが違うと言うのは?」
「言葉にしにくいな。紅炎殿が王として人の上に立つタイプだとしたら、シンドバッド王は周りの者から王として立てられるタイプといった感じだ」
「? 違いがよく、分からんのだが……」
青舜の問いに答えた光だが、その評は分かりづらく、質問をした青舜も光雲も首を傾げた。
炎帝・練紅炎。まだ皇太子の身でありながらも、すでに帝を冠する評を受けている紅炎はたしかに王の器として優れているのだろう。能力的にも申し分なく、その彼を支え文武の官僚も多い。
対してシンドバッドはついていきたいと思わせる何かを持った王と言えた。彼について行けば間違いはないと思わせる何か。
和国が帝国となる前の煌国と繋がりが無ければ。先にシンドバッドという男に出会っていれば、あるいは和国は七海連合へと与していたやもしれない。そう思わせる男だった。
だが運命は和国と煌帝国を繋げた。
そして少なくとも光はそれを悔いてはいない。
それでも思うところはある。
相手はあまりにも強大。
シンドバッドと連合の金属器使い。ジンの数の上での不利は否めない。
「まあ、あるいは…………いや、なんでもない。どうせただの勘だ。問題は、今後七海連合との関わりをどうするかだ」
言いかけて光はその言葉を途中で取りやめた。
珍しく自分の勘に重きを置かない姿に白瑛はわずか違和感を覚えた。ただ、ちらりと向けてきた眼差しに、語られなかった言葉を白瑛はうっすらと察した。
あの時、言いかけてやめた言葉。
それは、もしも練 白雄が王として居て、紅炎殿がそれを支える将ならば、きっとシンドバッド王を上回ることもできただろう、などという勘にもならないただの感傷であり、あって欲しかった希望だ。
文武に優れ器としても一級品である紅炎だが、それはおそらくシンドバッド王も同じ。だからこそ、上回るためには同等の器の、紅炎自身が認める神輿があって欲しかった。
そしてそれ以上に、白瑛の兄に、白雄という男に生きていて欲しかった…………
ちなみにこのころ本国では
葉王さんは フラグを建築した。
白龍さんは 留学イベントを発生させた。
となっております。
当初予定していた大きなシーンが近付いてきていて、その前のつなぎと補足話が続いています。そのせいでしょうか、前回更新時に次々にお気に入り数が低下……今回は奮起して2週連続で更新してみました。
是非とも感想、ご指摘などよろしくお願いします。