原作の鬼倭国の島の設定が、設定だけで終わった感が納得いかなかったので独自解釈してみました。
だんだんと原作から乖離してきているので、ご注意ください。
和国――――
「この度は我々を匿っていただき、ありがとうございます、閃王子。治療までしていただき…………」
「その後アラジン殿のご容体はいかがですか……青舜殿?」
和国の第一王子である閃に対して、拱手とともに頭を下げて礼を締めるのは、小柄な体躯の従者にして“眷属”――李青舜であった。
「和国の魔導士の方々の助力もあり、安静ではありますが、概ね回復に向かっております。ただ…………」
「白瑛殿……いえ、アルマトランのマギ・アルバ。そしてダビデと同化したシンドバッド王…………」
頭痛を堪えるように憂慮を示す閃の言葉に、青舜はこくりと頷いた。
重傷を負ったアラジンを担ぎこんで助けと庇護を求めた青舜。そして煌帝国の
彼らのもたらした情報は、閃にとってだけでなく、和国にとっても、世界の一員としても看過できることではなかった。
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シンドリア沖でのアラジンとシンドバッドたちとの会合の後、煌帝国へと逃げ戻ったアラジンは、そこから舟で和国の本島へと移送された。
その移送には叛乱の責を負って皇帝職を辞任した白龍と、共にあることを定めたモルジアナ、そして白龍と縁の深い李 青舜が同行していた。
先の皇位継承戦争において青舜は当初、主である白瑛とその旗下の眷属たちである黄牙の騎馬部隊、そして菅光雲らとともに紅炎の西軍に与するつもりで天山山脈を守護していた。
だが突如として、主である白瑛が西軍から離反して失踪。その結果、青舜たち天山山脈の守備隊は指揮官不在で混乱に陥り、加えて突如として“眷属器”までもが使用不可能になってしまった。
そこに迫ってきたのは強固な信仰心と精強をもって知られるササン王国の騎士たちと騎士王・ダリオス。しかも遠隔透視魔法により白瑛自らがシンドバッド王に与したという情報を掲げての進軍だ。
防げるはずもなく、そもそもどちらに味方すればいいのかも混乱している状態であった。
そのため青舜たちは直接的に戦闘に参加することはなく、結果的に白瑛や紅玉と同じく白龍皇帝の治世下においても特別の処罰なく煌帝国に帰属することとなった。
だが平穏であったかというとそうではなかった。
不自然なほどに勃発する反乱。白龍皇帝の信のおける数少ない配下として、青舜は部隊を率いてその鎮圧に奔走することとなり、自国の民であった者たちを相手に心身を削るような戦を続けた。
そして何よりも青舜の心をすり減らしたのは、主である白瑛の失踪であった。
戦争後、白龍の即位式の際にシンドバッド王の近くに控えていたのを目撃したのを最後に、彼女の行方が杳として知れなくなってしまったのだ。
相変わらず眷属器を使うことはできず、それでも煌帝国を守るために兵を率いて転戦し続けた。
そんな摩耗していく戦いが終わりを告げたのは、白龍の皇帝職辞任と、シンドバッド王とアラジンの会合の結果だった。
自国領土内の反乱多発により収拾のつけられなくなった煌帝国を救うために国際同盟が派兵。その見返りに、シンドバッド王はアラジンとの話し合いの場を設けることを要求した。そしてその結果がシンドリア沖でのアラジンとシンドバッド、そして白瑛との戦いだった。
アラジンから白瑛の所在と、シンドバッドの目論見を知ることができたのは数少ない僥倖であったが、喜ぶことなどできはしなかった。なにせ青舜たちの主であり、白龍の大切な実姉である白瑛は、その体を異世界の魔導士に乗っ取られ、シンドバッドの目的はこの世界を彼の思い通りの世界に作り替えることなのだから。
深手と引き換えに見逃されたアラジンは、煌帝国の白龍たちのもとになんとか帰り着くことができた。
だがそこで養生を行うことはできない。
白龍が皇帝職を辞することになった反乱の勃発は明らかに何らかの意図が介入していた。それは、国という垣根をなくし、世界を作り変えるというシンドバッドの思惑と合わせて鑑みれば、煌帝国にはすでにシンドバッドの手が伸びていると考えるべきだった。
実際、あの皇位継承戦争においても、決め手になったのは七海連合の参戦とともに、紅玉に仕掛けられたシンドバッドのジン・ゼパルがあった。それを省みれば、今の煌帝国のどこにまでシンドバッドの手が伸びているのかは皇帝である白龍にも分からなかった。
ゆえに彼らはアラジンの治療よりも煌帝国からの脱出を優先し、その亡命先として和国を選んだ。
和国は今や、レーム帝国と並んで世界でも数少ない、シンドバッドに明確に従っていない、金属器を有した国だからだ。
国としても和国とはある程度の繋がりが残っていたし、特に青舜は白龍の命と自身の希望から極秘裏に繋ぎをとっていたことも幸いした。
青舜と白龍は、皇帝即位の時から白瑛の行方を追っており、皇光の豹変の理由も気になっていた。その結果として、青舜は和国の、光の副官であった立花融と接触することができたのだ。
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「“ルフ”の聖宮。そして“ルフ”の改竄ですか…………」
アラジンの、そして青舜たちとの話し合いの場をもつことによって得られた情報に閃は頭痛を堪えるように額を押さえた。
アラジンから語られたのはシンドバッドの目的、世界平和の訪れたこの世界の今後の行く末として彼が目論んでいる未来。
「シンドバッド王がすべてを決める世界。それが彼の、国際連合の行こうとしている世界」
それはすべての命の根源であるルフを改竄し、一つの思想――シンドバッドの思想に共感するように変えることによって世界の永劫の平和をもたらさんとするものだ。
「そんな世界を創るためにアラジンを狙っているなんて!」
堕転しようとも自分の運命を望む白龍と友を狙われたことに憤るモルジアナも、アラジンの語るシンドバッドの未来は許容しがたいものであった。
「白瑛殿の体が乗っ取られ、練 玉艶――いや、アルマトランのマギが支配しているとは…………」
そしてこの場には居ない金属器の使い手、皇 光の従者である融が最も頭を抱えたのは、主の命として守らなければならない女性――白瑛がアルマトランのマギ・アルバに支配されていることだった。
だがどこか腑に落ちることでもあった。
白瑛との関係性を失った光は、それこそ運命に導かれていくかのように練 白瑛と敵対する。
白瑛が紅炎を裏切り、白龍の下について煌帝国の将に留まっているのであれば、彼は煌帝国との関係性を残すことをよしとはしないだろう。
だが実際には、むしろシンドバッドと敵対することも視野に入れて、紅炎たちの配流を引き受けることを受諾している。
「 “意識だけの存在になってもソロモン王の世界を滅ぼす”。紅炎が懸念を示していた通り、肉体の死はアルバには無意味だったのか…………」
白龍もまた苦々しい顔をしている。
一度は切り捨てることを覚悟した実姉だが、堕転から戻ることのできた今となってはやはり大切な姉なのだ。
その体がよりにもよって憎い仇であった、そして自身がうち滅ぼしたはずの存在に乗っ取られてしまったのだから。間接的に、白瑛の今の状況を白龍が作り出してしまったともいえるだろう。
紅炎たちのことは白龍にとって複雑だ。
憎んだこともある相手で、継承戦争では殺すことを決めていた。
けれども結局は殺せなかったし、彼の思いを知ってしまったからには受け入れることは完全にはできないまでも、拒絶することもできない。
ただ、これまでの色々な経緯や、紅炎があの時、白龍のことを羨ましいと、零したあの言葉を思い返せば、紅炎の懸念通りになってしまったことは残念ですむようなことでもない。
「紅炎おじさんたちは今はどうしているんだい?」
思い悩んでいる様子の白龍を見て、アラジンはその紅炎たちのことを尋ねた。
今のアラジンは、なんとか動ける程度には治療されているが、体中包帯だらけで左目までもが覆われている。
紅炎たちのことをアラジンは憎く思っているわけではない。
むしろアラジンが思いもよらなかった形で世界をよくしようと足掻いていた彼らには尊敬の念すらもある。
そして彼らは、特に紅炎はシンドバッドに対抗可能な王の器かもしれないのだ。
「残念ながら彼らは今、大罪人として生活しています。金属器は取り上げられておりますし、政治的にも動かすことはできません。なによりも紅炎殿の手足は、和国の魔導士たちでも治すことはできません」
閃は首を横に振り、彼らが今、戦力として数えることのできない理由を積み上げた。
シンドバッドの世界中の人間のルフを書き換える計画を止めるためにとはいえ、大罪人を特赦するというのも国の王族として軽々しく決断していいものでもないが、それよりも今の紅炎たちが戦力としてあてにできないということが重大だ。
白龍が現在も皇帝位にあったとしても、紅明と紅覇はともかく、白徳大帝および皇太子たちの謀殺の大罪のために処刑されたことになっている紅炎を開放することはただでさえ混乱状態が収束しきれていない煌帝国にとって、致命的な火種となりかねない。
それが分かっているだけに、白龍の眉間の皺は一層に深く刻まれるのだろう。アラジンはそんな白龍の葛藤を直に目の当たりにしたことがあるだけに、気遣わしげで、しかし今はそれどころではない。
「なんとか、話だけでも伝えることができないかな」
「………………」
アラジンが傷をおしてこの会談の場に出ているのは、そのためでもあるのだ。
そんな彼の懇願と、白龍元皇帝が苦悩する姿を目にして、閃はちらりと融に視線を向け、確認するように頷くのを見た。
「たしかに、ことの大きさを鑑みれば我々だけで議論すべきではありませんね。融、彼をこちらに」
「彼……?」
閃の指示に融は一礼して場を辞した。
「実は白龍陛下たちが来られることになる少し前に、紅明殿たちが興味深い物を――あ、いえ、人を拾われまして」
話が中断された上に、奥歯にもののつまったような言い方の閃に、アラジンたちが首を傾げて訝しげになった。
だがそのいぶかしさは、アラジンがぴくりと反応したことで破られた。
「――!? このルフは!」
ピィピィと嘶く生命の鳥――ルフを可視化して見ることができる魔導士だからこそ、ルフに愛されたマギだからこそ、初めて出会った友達で、選んだ大好きな王のものだからこそ、そのルフが誰のものなのかがアラジンには分かった。
そのルフは、シンドバッドのように誰もが従いたくなるようなものでもないし、
紅炎のように力強いルフでは決してない。
そのルフが宿る器の大きさだって、きっとそれほど大きなものではない。
けれどもアラジンは知っている。
そのルフの持ち主の優しさを。楽しさを。
「アラジン!」
数か月だというのに、こんなにも懐かしく見えるのは、彼を失ってからのこの数か月があまりにも激動だったからだろうか。それとも彼とともに在る時があまりにも鮮烈な記憶として焼き付いているからだろうか。
自身の名前を呼ぶその声は記憶にあるものと変わりなく、振り返って見たその姿も期待通りの―――
「アリババ……くん?」
姿ではなく、埴輪だった。
それはもう、造り手が手抜きして作ったとしか思えないようなテキトーな感じの埴輪で、アラジンの初めての友人であるアリババ君の面影など、申し訳程度に頭部から伸びている角らしきものにしかない。
「アラジン………………」
埴輪の方は、感極まったかのような声を出して、ジーンと感じ入っているのかもしれないが、如何せん埴輪には表情がなく、身振り手振りから読み取ろうにも三頭身程度の人形の体ではなにも読み取れない。
「……?? アリババ、さん???」
匂いに敏感なモルジアナも、その声と語調こそ聞き覚えがあるものの、見た目と声とのギャップに戸惑ったように盛大に疑問符を飛ばしているような顔で首を傾げている。
「モルジアナ……それに…………」
一方の埴輪の方は、表情に変化がないので全く分からないが、やはり声からするとどうにも感極まっているのかのように声を震わせている。
「…………あの、閃王子。この埴輪は一体どういうことでしょうか?」
そして白龍は困惑したように閃の方へと尋ねた。同時に埴輪の体がガクリと傾いた。
「本人曰く、あなた方のご友人だ、と。我々も判断と処遇に困っておりましたので、それならば実際に会わせてみようとのことだったのですが……」
「アリババくんだよ」
やはり無理があったかと、申し訳なさそうに言う閃の言葉を、アラジンが遮った。
アラジンの目は、埴輪の人形をじっと見ていた。
その瞳が映し出すのは、あの時、失われてしまったと絶望して、嘆き悲しみ、涙したルフ――アリババくんのルフと同じ。
「アラジン…………」
そんな友の反応に、アリババは再びジィンと感激していた。
そんな二人のやり取りを見て、モルジアナと白龍の二人も、今、目の前にいるのは彼らがあの時失ったと思っていた存在、アリババなのだと分かったらしく、一度顔を見合わせるとふっと表情を崩した。
「アリババさん……おかえりなさい」
「モルジアナ……ああ!」
それは再会を喜ぶ笑顔のようであり、嬉し涙を浮かべているようでもあり…………
「………………アリババ、どの」
自らの思いと思いをかけて激突した
「なぁ、白龍…………脚、切って、本当にごめんな」
「…………いいんですよ。こっちも悪かったですね。あなたを、殺して」
「いや…………くっ、なんて顔してんだよ、白龍」
「フン」
それでもやはり喜ぶ涙の表情。
「それにしても、その体はどうしたんだい、アリババくん」
「ぶふっ。そう、ですね、アリババ殿の、趣味、でしょうか」
「…………」
「うっせー! いろいろあったんだよ! あれ? モルジアナ!? 何その眼差し!? 違うからね!」
そしてやはり突っ込まれるのは、ふざけているとしか思えないデフォルメ体のハニババ人形…………
堕転を悪だと認識し、それを食い止めることに目を向けていたアラジン。
アリババを好いて、それがゆえにその喪失を悲しみ、それでも彼を殺した白龍を憎まなかったモルジアナ。
一度は堕転し、かつて愛したモルジアナに振られながらも、堕転から戻ることができた白龍。
そして体をなくしていても明るさを失わず、友たちと変わらぬやり取りを取り戻せるアリババ。
殺し合いをした過去があっても再び友として巡り会い、言葉を交わすことができるアリババの器の美しさ。彼らのやりとりから閃はそれを認め、その楽しげな会話を見続けた。
そしてそんな彼らを、融は切り裂くような激情を堪えた瞳で見据えていた。
「大峡谷の、あのユナンって人のところに俺の体を預けてあるのか?」
「うん」
旧交、というには旧くはないが、失われたと思っていた人との再会を喜んだ彼らは、再び会談の場について話し合っていた。
まず話題になったのは、当然のことかもしれないが、アリババの元の肉体のことであった。
「アリババくんの体の中にあったルフは自然に存在するルフのようなもので、アリババくんのルフはない空っぽの状態だったんだ。そういった肉体はアル・サーメンのような組織にとってすごく利用しやすい器だったから、それが隔絶できるユナンお兄さんのところに預けたんだよ」
皇位継承戦争直前のバルバッドでのアリババ・サルージャの葬儀後、彼の肉体は大峡谷に住まうマギ・ユナンのもとに送られて彼の保護を受けていた。
それは一つにはアラジンたちがアリババの死を完全には受け入れていなかったことがある。
“ソロモンの知恵”を使ってアルマトランの知識のルフに潜り込んでもアリババのルフを戻す術が見つからなかった以上、彼らにはアリババを戻す術はなかった。けれども、彼の肉体は死んでしまったわけではなく、心の何処かで、こんなところで彼が死ぬはずないと諦めきれなかった思いもあった。
ただ、だからといって無防備に彼の肉体を放置すれば、人形に精神体を宿して暗躍していたアル・サーメンのような魔導士たちの、格好の餌食とされていただろう。
それだけはさせてはならず、そのためにアル・サーメンの魔導士たちが手出しできない大峡谷の、その守り人であるユナンにアリババの体を託したのだ。
「それじゃぁ、すぐには取りに行けねぇよな。アラジンもその怪我じゃ…………」
「……うん」
本来であれば、すぐにでもアリババの肉体を元に戻したい。
アリババ自身も、アラジンたちもそう願いはするが、かといって東の果てともいうべき和国から、西の果てともいうべき大峡谷へと向かうには距離がありすぎる。
しかも今のアラジンは深手を負った状態。治療こそ受けはしたが、高難度の転送魔法を発動させるには、まだ修練も足りていなければ状態も不安定だ。
庇護してくれている和国に船を出してもらうにしても、そもそも和国に匿ってもらっているのはアラジンの命を、“ソロモンの知恵”を狙っている
そんな大航海に乗り出して海上での襲撃を誘うようなことはできない。
「あれ? けどそれじゃあ光って人の体はどうして大丈夫だったんだ? 何年もの間、意識体が抜け出していたのでは?」
自身がすぐに戻れない理由は、仕方ないとしても、前例があったことを思い出して気になったのだろう。
アリババが尋ねると閃がその理由を説明した。
「厳密には光の体からルフがまるごと抜け出していたわけではありませんから。現界していたのは金属器・ガミジンの力の具現です」
金属器・ベリアルの力によって強制的に身体から精神を、ルフを異次元に飛ばされたアリババと違い、光の場合は自らの意思で“器”を割り、そこに“願い”という中身を満たして発言させていた。
そこに宿るルフは光のものといわば同位体のようなもの。
互いの情報をやり取りするほど影響を及ぼしはしないが、全くの無影響というものでもなかった。
「ただ、やはり組織にかけられた“呪い”のことがありましたから、国内の中でも“聖域”と呼ばれる場所に安置した上で、魔導士たちが防護しておりました」
それに加えて、和国でも独自に施していた対策があった。
「“聖域”?」
閃の説明の中に含まれていた言葉に、アリババが首を傾げた。
それに答えたのは、閃ではなくこの地を初めて訪れたはずのアラジンであった。
「大峡谷――正確にはその奥にある暗黒大陸と呼ばれる土地と、和国はアルマトランの魔力が堆積した特殊な地層でできているんだ」
答えられたのは、それがルフに、アルマトランのことに関わることであったがためだ。この世界で――アルバを除けば――最もルフとアルマトランに詳しいのは、“ソロモンの知恵”を持つ、アルマトラン生まれのマギであるアラジンだ。
すでに彼は、この国の特殊な――他の大陸の土地とは違うことに気づいていたようであった。
「暗黒大陸はこちらの世界が創られたときに、アルマトランから変換できなかった物や人なんかがいる大陸で――だからほら、魔法の影響を受けにくかった赤獅子――ファナリスの人たちなんかが居るんだと思う」
それに加えて、彼はあのユナンとも何度か話をしている。
アルマトランでは魔法をも跳ね返す強靭な生命力をもった種族、赤獅子。それはこの世界においてはファナリスというある種の“異物”として、この世界に存在を“許されている”。
ただその存在は、ソロモン王……というよりもこの世界を創造したウラルトゥーゴにとっては都合外のことであって、そのためにファナリスはこちらの世界では魔力の量などに制限を課されている、というのがユナンやアラジンたちの見解であった。
つまり暗黒大陸とは、ウラルトゥーゴが用意したこの世界の隔離場所、あるいはこちらの世界になりきれなかった場所なのかもしれない。
「それで和国の方は…………多分なんだけど、アルマトランからこちらの世界に人々が来た時の、繋橋のような役割をしていた場所みたいなんだ」
それに対して、同じようにアルマトランの魔力の堆積した和国に住まう和国人たちには、そのような制限がなかった。
むしろ魔導士でもないのに魔力に対する感受性が強く、“気”と呼称する体内魔力を操る術に長けていた。
暗黒大陸に住まうファナリスとは真逆――それは両者の土地が同じ性質を有していながらも、役割が異なることを示唆しているのかもしれない。
「だからこの国の土地は、すごくアルマトランに、“聖宮”に近しい場所なのかもしれない」
それは実際に和国を見てのアラジンの所感と推測でしかない。
「“聖域”というのはその中でも特に異質な魔力の――おそらくはアラジン殿の言うアルマトランの魔力が蓄積している場所で、和国では灯桜の神事が行われる祭場がある場所でもあります」
「! たしかそれは…………」
アラジンの説明を受けての閃の説明を聞いていたアリババたち。その中で白龍はかすかに記憶の片隅に残っていた言葉に気がついた。
かつて幼かったころの、まだ兄たちが生きていた頃の白龍と白瑛に、光が語った祭事。
「和国に古くから伝わる鎮魂の儀式です。死した先祖の魂――ルフを奉り、世界の大いなる流れを循環させる神事だと言われています」
それはこの世界の根幹――ルフの流れを奉る儀式でもあったのだ。
それを彼女たちにかつて語った男の従者の瞳が、怜悧な刃のように冷たさを帯びた。