煌きは白く   作:バルボロッサ

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お待たせしました。最終話です。
投稿開始から5年。
他の作品に浮気をしつつの執筆でしたが、なんとか当初思い描いていた、書きたかったシーンはすべて盛り込めました。

実は主人公の名前の光ですが、奇しくも2期後半のopのタイトルになっていたことに最終話を執筆中に気が付きました。1期放映中に本作が開始したので完全なる偶然なのですが、終わってみるとこれしかない名前だったと自画自賛してもいいかなぁと思ったりしています。
ついでに原作の外伝では作者名とよく似た人物が登場してしまいましたが、こちらも偶然です。

それでは最終話をどうぞ





最終話

 大嵐の中、一艘の小舟が大海を彷徨っていた。

 波は荒く、どれだけ櫂に力を籠めようと舵は利かず、歴戦の船乗りである男の思う通りに舟は進んではくれなかった。

 それどころか、どちらに進めがいいのかも定かではない。

 小舟には彼以外にもこっそりと乗り込んでいた3歳になる息子がいる。

 一刻も早く、この黒雲の下を抜けなければ舟は遠からず転覆し、大荒れの海に放り出されてしまうだろう。

 そうなれば彼も、そして息子もともに海の藻屑となってしまうだろう。

 

 だが空の闇は果てなどないかのように遠くまで広がっており、空と海の境界も分からなくなってくるようだ。

 黒波がまるで顎を広げて小舟を飲み込まんとしているかのようであり、それが幾度も幾度も襲い掛かってくる。

 息子は恐怖から父の裾にしがみついており、彼もまた恐怖で気が狂わんばかりになっていた。

 

 そして…………………

 

 

 

 

 

 

 嵐が過ぎ去った海の上には、小舟はなかった。

 

 これは運命(決められた物語)なき世界。

 “偉大なる王”となるべき定めの子はなく、世界はレールのない未来を歩んでいく。

 

 

 

 

    ✡  ✡  ✡

 

 

 

 

 厳かな空気の中、若き(皇帝)に冠が授けられた。

 固唾を飲んで万感の臣下と他国の要人に見守られ、皇帝位を授けられた新皇帝が立ち上がる。

 

「煌帝国第2代皇帝 ―――― 練白雄皇帝!!!」

 

 峻烈な面差しは前皇帝のものを残しつつ、若き皇帝となったのは初代煌帝国皇帝、練白徳の嫡子、練白雄。

 “蝕み”のない白の系譜の後継。

 

 大陸の極東に長く中原の天華を巡って争っていた三国があった――――凱、吾、そして煌…………。やがて三国は煌が覇権を握り、国名を煌帝国に、そしてその時の王、練白徳は初代皇帝となった。

 その大陸極東をさらに東に隔てられた海を渡ったところに小さな島国があった。その国の名は和国。煌帝国は国名が煌であった遥か古のころより盟約で結ばれた国。独自の刀剣技術と身体の魔力をもって剣技となす特殊な戦闘技法を持ち、優れた航海術によって貿易立国として知られた小さな強国。

 和国は時に国を鎖して海に孤立し、時に中原の国に首を垂れて、時に中原の国と戦い、独自の文化圏を築いていた。

 今代の治世においては、先の初代皇帝白徳大帝と和国の王とは友誼を結び、国同士の繋がりはもとより、婚姻政策によってその繋がりを深くしていた。

 

 

 

「ご即位、祝着至極に存じます、白雄帝」

 

 その婚姻を結んでいるのが和国第2王子、皇 光であり

 

「ああ。よく来てくれた、光殿。白瑛も」

 

 その伴侶となっているのが、白徳大帝の長女にして白雄新皇帝の実妹、練白瑛。

 

 皇帝就任としてのお披露目を終えた後は関係各国の主要人物を招いての宴が催されており、和国からは第2王子にして白雄皇帝の義弟となっている光が出席している。

 

 彼が白瑛を妻に迎えてすでに3年ほどの時が流れているが、実際に彼らが出会ったのはもうかなりの時が流れている。

 

「ところで嫡子の姿がないが……」

 

 すでに生まれて、大きくなっているはずの甥の姿を求める白雄に、光と白瑛は苦笑いを浮かべた。

 

「白雄兄様……」

「流石にまだ2歳になったばかりでは、ここまでの船旅は酷というものです」

「む。それもそうか…………」

 

 若くして子を産んだとはいえ、まだその子はようやくに乳を離れたところ。今回は白雄陛下の皇位継承式であるから乳母に世話を託してきたが、本来であればまだまだ手のかかる盛りだ。

 いかに和国の操船技術が優れているとはいえ、2歳になったばかりの子を乗せて海を渡ることは不安の残ることで、流石に今回は連れてきてはない。

 

 いささか険しい顔をする白雄陛下だが、それは甥っ子との対面機会が叶わなかったからだろう。

 

「姉上!」

 

 がっかりしている新皇帝をよそに、弾む声と共にかけてきたのは、白瑛よりも5歳ばかり年下の、まだ少年といった雰囲気の取れない黒髪黒目男の子。それは凛々しい顔をさせれば目の前でいささか凹んでいる白雄陛下によく似た面差しをしている。

 

「まぁ、白龍!」

「お久しぶりです、姉上!」

 

 嬉しそうな笑顔で声をかけてきたのは、白雄の末の、そして白瑛にとっても弟である白龍だ。

 姉弟仲のよい間柄だけに、他国に嫁いでしまって会う機会のめっきり少なくなって久方ぶりの姉に会えたことが嬉しいのだろう。

 

 嬉しそうに姉に話しかける白龍。そこにもう一人の兄である白蓮も加わり、兄妹弟が仲睦まじく場を楽しんだ。

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ。白龍殿、今日は貴方に紹介した方をお連れしています」

 

 嬉しそうに話す白龍と白瑛の間を遮るのは本意ではないが、このまま白龍の気の済むまで話させるままにすれば、白雄陛下や外交的用件が蔑ろになりかねない。

 白龍の話し相手を任せるためにも、そして外交的な仕事を果たすためにも。

 

 光はこの戴冠式の以前に本件を和国に持ち込んできた友好国の人物を招いて白龍に示した。

 

「和国が交易でよく世話になっている国の方で―――」

「バルバッド第三王子、アリババ・サルージャです」

 

 光によって紹介されたのは明るい金髪の少年。

 年の頃は白龍とほぼ同じだろうか。後ろに彼よりも少しだけ年下っぽい黒髪の少年を連れて挨拶をした。

 商業国家であるバルバッドらしくどこか商人的な奥向きのある笑顔だが、にこりとした人好きのする感じのする子だ。

 

「こ、煌帝国第三皇子、練 白龍です」

 

 対して、やや人見知りしがちなだけに白龍の挨拶は緊張しながらのものであった。ただ拱手はきちんとしていたし、受けたアリババ王子の反応もおかしなものではなかった。

 

「白龍…………」

 

 だが白瑛はくすくすと口元を抑えて笑っており、光も苦笑い、そして白雄は額を抑えてため息をついていた。

 

「え、あの……わぁっ!!?」

 

 自分の挨拶のどこが悪かったのか分からずにおろおろとしていると、ドンと跳びかかるようにその肩に腕を回された。

 

「お前はいつから白雄の息子になったんだよ、白龍」

「ジュダル!」

 

 絡んできたのは煌帝国の重々しい礼装に身を包んだ長い黒髪を1本に編み込んだ少年。年のころは白龍やアリババと同じくらい。

 王族に対するモノとは思えないぞんざいだが、彼に対する白龍の対応は今この場での無礼を咎めるものであっても、どこか親しいものに対する声音が感じられた。

 

「こんなところでふざけるなと……え?」

 

 どうやら普段から身分にかかわらず友人づきあいをしている間柄らしく、光やアリババの前であることを忘れて言い返した白龍は、しかし先ほどのジュダルの言葉を反駁して止まった。

 

 白龍は先の皇帝、白徳の第四子。姉である白瑛を除くと確かに第三皇子ではあるのだが、今の皇帝は()である白雄。

 

 自分の自己紹介がこの場においては的を外していることを察して白龍は赤面してあわあわとなった。

 そんな弟を白瑛は微笑ましげに見て、白雄はポンポンと軽く頭を叩き、白蓮はぐりぐりとしてお仕置きを兼ねて白龍を可愛がった。

 照れている白龍はそんな兄の手を跳ねのけようとして跳ね除けられずに髪をぐしゃぐしゃにされており、その光景にアリババはくすりと笑顔を見せた。

 

 騒ぎのきっかけを作ったジュダルはニヤニヤと少し意地悪な笑みを浮かべてその光景を見ており、その横から声をかけられた。

 

「へぇ、君が噂の煌帝国筆頭魔導士のジュダル君かい?」

 

 幼く高い声は、先ほどまでアリババの背後にいた少年。

 少年はジュダルの肩書――煌帝国において最年少でその地位に昇った筆頭魔導士としての肩書を口にした。

 同時にジュダルも彼を見て、その身から感じられる魔力の洗練さに気づいた。

 

「ん? ああ、そういうオメーは、バルバッドの筆頭魔導士――アラジンか」

 

 バルバッドで――いや大陸東方最強の魔導士と名高いジュダルと並び称され、大陸西方で最高と名高い魔導士、アラジン。

 

 奇しくも天山山脈を挟んで東西に分かれた大陸に同時に現れた若き天才魔導士。

 その名は他国にも広く知られており、それぞれの国の王族の信頼も厚いと評判だ。

 

 

 

 初めて会った誰かのことを、どこかで会ったことがあった気がしたことはないだろうか。

 アラジン、アリババ、白龍、ジュダル。

 今日初めて“揃った”四人は、不思議とそんなデジャヴュを感じていた。

 それで仲良しこよしというわけではなく、けれども初対面とは思えないような気やすさを見せて言い合いをしていた。

 

「へぇ……あの白龍が初対面であんだけ気安げに話すとはな。なぁ、兄上?」

「………………」

 

 その姿に兄である白蓮は感心し、白雄は彼らをめぐり合わせた張本人――光を見た。

 バルバッドという国は煌とは天山を挟んでいるために陸路では不便だが、和国を介した海洋貿易では頻繁に名を耳にする国だ。

 そこの国王であるラシッド・サルージャの息子は別にいたはずで、事実アリババは第3王子と名乗った。王位継承権ではやや下の王子なのだが、戴冠式に合わせて光が自分や白龍に紹介したということは意味のあることなのだろう。

 そういえば……と思考が行き当たった。ラシッド王の息子、特に長兄は正妻に甘やかされて育った政治も外交も知らないわがまま放蕩息子なのだとか。もしかするとアリババを紹介してきたのは、次代の王位を継ぐのはアリババなのだという、ラシッド王からの意思表示なのかもしれない。

 

 だが、横目に見える光のどこか懐かしげにも見えるように細められた目が、微かにほほ笑んでいるかのようにも見えるもののやはりそれもデジャヴュなのだろうか。

 

 

 ――それは、長い長い、時間の果ての物語――

 

 

「おっと、レーム帝国の軍務大臣と、筆頭司祭のご到着だ」

 

 光の言葉に、白雄は思索を途切れさせた。

 赤い髪の筋骨たくましい男と年若い金髪の少年の姿。

 

 ――延々と降る雪のように積み重なる時の重みによって、かつての世界の物語はもはや伝説の彼方となり、少しずつ少しずつ散り溶けていく雪のごとくに記憶は喪われていく――

 

「あれがレームの軍務大臣ムー・アレキウスと、新しい筆頭司祭――――ティトスか」

 

 大陸西方で最大の版図を誇る立憲共和制を敷く大国、レーム帝国。その軍務を司るアレキウス家の現当主と、アラジン、ジュダルにも匹敵するだろうと評されつつある若き才覚。

 

「レームは今、バルテビアと戦争状態だ。煌帝国とは友好関係を結んでおきたいのだろう」

「バルテビアのバルバロッサ……いずれまみえる時があるのかどうか」

 

 ――貴方が、貴方と出逢うことが運命ならば、きっと彼らはまたどこかで生まれるだろう。違う形になっても、彼らはまたきっと生まれる。出会える。―――

 

 レームのトップ2人を先頭にして、付き従うように幾人かが続いた。レーム人らしい金髪の老人、そしてムーと同じく赤い髪の人たち。

 

「…………ぁれ?」

 

 不意に、赤い髪のレームの人たちの中にいた一人の少女と、アリババの視線が交わった。

 

 ――ピィ…………――

「どうしたんだい、アリババくん?」

 

 どこかで、鳥のような何かが嘶いたような気がした。

 

 

 

 決められた導なき道を、迷いながらも人は進んでいくのだ。

 守れぬこと、傷つくこともあるだろう。

 だが流す涙は煌きながら二人の行く先を照らすだろう。

 

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