(過去に合同誌に寄稿した物の再録になります。主催者様に再録の許可は頂いています)
2024年3月に発行した、笹貫星彩様主催の響け!ユーフォニアム合同誌「よかろうもん」に寄稿した作品を修正した上で再録したものです。主催者に相談・許可を得た上で投稿しております。
私はこれまでの人生で、何かをする時は準備を怠らないようにしてきました。
特に私が高校時代に所属していた吹部は大所帯だったので、一人のミスで大きな迷惑がかかるから猶更でした。
そして何より、うっかりミスをすると恥ずかしい事この上ないからです。
決して他人に隙を見せない。それが私、久石奏のモットーなのです。
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「……寒いです……」
しかし、そんな心に抱いた決意はどこへ行ったのやら、今の私は寒さに震えています。雨が降っている訳ではありませんが、私の身体に吹き掛かる夜風は私を芯まで冷え込ませています。
「そんな薄着で来るのが悪いんだろ」
寒がっている私を尻目に、同行者である月永求君は呆れたように言い放ちました。しっかりと防寒具に身を包んだ彼は、寒さなど余裕という感じです。少しはこの可愛い女子を労わりなさい。非モテ男子が。
「だって、最近はすっかり暖かくなっていましたし……大体求君も悪いんですよ。言ったじゃないですか。今週も四月上旬並みの気温になりそうだって」
「それは京都市内の話だ。北陸の、それもこんな夜の高原じゃそこより寒くなるって分かりそうなものだろ」
そうです。私たちは福井県の山間部にある高原地帯に天体観測に来ているのです。午後六時も周り、暗くなり始めた頃合いですが、しっかりと狩り揃われた草草が広がるこの草原はとても解放感があります。
周りに数軒ある、木製のロッジも柔らかい光を出して中を照らしており、とても温かな雰囲気を出しています。遠くには一本の大きな木がシルエットとなってどっしりと佇んでおり、見ているだけで安心感がありました。
まぁ、こんな場所に来ているからには当然一泊はするのですが……私たちは一応(本当に一応です)は男女として見知った仲ですし、成人した大学生でもあるのでこれくらいはアリだと思います。付き合いも去年の冬から本格的に始まってそろそろ一年。お互いに大学二年生という大学生活が気楽で一番楽しい時期なので、こういった事も別におかしくはないでしょう。お互いに好きとかは言っていないので、付き合っているかと言われたら微妙なのですが。
しかし、いくら素敵な場所でも、こんな寒さではロマンチックな雰囲気になるのは程遠いのです。
「大体、暖かくなったと言ってもまだ三月の初めだぞ。何で冬物じゃなくてサマーコートを着込んでくるんだ」
「山の寒さを甘く見てただけですよ……それに……」
「それに?」
「なんでもありません!」
冬物のコートは流行おくれのダサいのしかないんですよ。男の子と一泊旅行すると言われて、やすやすと着れる訳ないでしょう。少しは気が付きなさい、この朴念仁!
私は内心そんな事を毒づきながら、手をすり合わせて暖を取ります。体に貼り付けている、道中のドラックストアで買ったカイロも気休めにしかなりません。一緒に買ったホットコーヒーはもはや熱が無くなっています。飲んでみましたがぬるま湯程度の温かさしかありませんでした。
「求君は寒くないんですか?」
「俺はしっかり着込んでいるから。飲み物もこれに入れてあるし」
求君は天体望遠鏡をセットしながらバッグから水筒を取り出し、中のお茶を飲み始めました。ドラッグストアで麦茶のティーパックを買っているのを見て何に使うんだと思ってましたが、こんな使い道があったとは。
「飲み物は水筒のお茶ですか。そこら辺の女子も真っ青な女子力を完備しているとは、さすが男子からの信頼が厚いと言われている求君ですね」
「いや、そんな震え声で煽っても説得力は無いからな」
私の精一杯の強がりは、求君に冷静に対処されました。くっ、彼に主導権を握られるとは。私も落ちたものです。
「ほら、飲めよ。あとこれを着ろ」
そんな忸怩たる思いをしている私に、求君は水筒の中のお茶を差し出してくれました。そして自分が着ているコートを私にかけてくれました。
「……いいんですか?求君も寒いのでは」
「車に予備のコートが置いてあるからそれを着る。大体、そんなに寒そうにしていたんじゃ俺も気が気じゃいられないんだよ」
求君はぶっきらぼうに言います。それは優しさの欠片も無い感じでした。それでも、彼が渡してくれたコートは私の身体を優しく包み込んでくれました。嵐の中でやっと家に帰ってこれた、そんな気分になりました。渡されたお茶はコートとは逆に体の中を暖めてくれます。
そんな彼の不器用な優しさが、私の心を満たしてくれました。
「求君の身長が、私と大して変わらないのが功を成しましたね。私へのポイント、上がりましたよ」
「やっぱり服を引っぺがして、インナーシャツだけにしてやろうかお前」
けど素直にお礼を言うのは癪なので、少しだけからかい上手の久石さんムーブをしてやります。まぁ彼も分かってくれているはず。これが私たちの日常なのです。
「それにしても意外だったな」
「何がですか?」
求君は天体望遠鏡のピントをセットしながら言いました。
「久石がこんな場所を知っていることだよ。高原とはいっても周囲に余計な光は無いし、空気も冬場並みに透き通っている。おまけに宿泊施設も完備してるし料金もお手軽だった。星を見るには最高のロケーションだ」
求君は、何とも嬉しそうに言ってくれます。この場所を教えたのは私なのですが、自分が知らない場所を知れたことも嬉しかったのでしょう。
「お前、天体観測とか興味無かっただろ?どこで知ったんだ?」
求君は私に尋ねます。
「……黒江先輩が教えてくれたんですよ」
「黒江先輩が?」
「ええ、良かったら二人で行ってきたらって」
「ふーん。なら先輩にも後でお礼を言わないとな」
私はそう答えました。どこか歯切れが悪い言い方になったのはその先輩「黒江真由」先輩に対してどこか複雑な気持ちがあったからかもしれません。
そんな事を考えていた私は、ふと先輩とのやり取りを思い出していました。
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「山の高原ですか……?」
「うん。福井県の方に、星がきれいに見れる場所があるんだ」
先輩は柔らかい口調で私にそう言いました。私が求君とよく遊ぶようになったことをどこかで耳にした先輩は、時々遊びのスポットを紹介してくれるのです。
「求君、天体観測が趣味だったでしょ。喜んでくれるんじゃないかなと思って」
「いや、確かに喜んではくれるでしょうが……」
しかし、ほんわかな雰囲気で話してくれる先輩とは裏腹に、私の言葉は強張ります。
そもそも私は先輩に対して苦手意識がありました。なぜなら私によくしてくれた久美子先輩と意見を異にする人だったから。何だったら侮辱をしているくらいに違っていたから。
在学中はコミュニケーションを取る関係もあったから連絡先も知っていましたが、ただそれだけの関係。卒業した段階で縁を切っても構わなかったはずです。大学だって違う訳ですし。
それでも私のスマホには連絡先が残ったままでした。そんな関係が残っているからなのか、黒江先輩は月に数回ラインをよこすし、時には電話で今回のような話を持ち掛けてくるのです。
とはいっても、苦手な先輩なので教えてもらったデートスポットを使った事はありませんでした。そんな事もあるから、こうして教えてくれる事に罪悪感も持ってしまうのです。
「先輩はどうして私たちに構うんですか?そもそも私、言っては何ですが先輩とは仲が良いって訳じゃないですよ?求君とだってそんなに交流があった訳ではないでしょう?」
そんな中だるみした付き合いに楔を打ちたかった私は、思い切って先輩に聞きました。
「うーん。奏ちゃんと求君ってなんだかほっとけないんだよね。お互い通じ合ってても、本音をさらけ出しそうにない所とか。相性が最高で最低なような関係が気になっちゃうんだよ」
そんな私の棘がある言葉とは正反対な、ほんわかした口ぶりで先輩は答えました。
「……それは私たちの問題なので。だいたい先輩の教えてくれたスポット。私は採用したこと無いんですよ」
「別にそれはいいよ、私がただ勝手に教えているだけだし」
この先輩は昔からこうだ。こっちの感情を読み取ろうとしないで、いつものらりくらりかわすのです。クラゲのような人とはよく言ったものです。
「まぁ、お節介なお姉さんの御小言だと思ってさ。軽く受け流してよ」
何がお姉さんですか。私にはこっちの事情もお構いなしにお見合い話を持ってくる親戚のおばさんのようにしか思えません。
とはいえ、これまで何回も役立つ情報を教えてくれたのは事実です。一度くらいは乗って上げてもいいでしょう。これは感謝ではありません。自分の罪悪感から守る為です。あしからず。
「……まぁ夜主体のデートプランは今まで立てた事ありませんからね。興味はあるので少し彼と相談してみます」
「本当?嬉しい。帰ってきたら感想聞かせてね。またね!」
「あっ、ちょっと」
先輩は一方的に電話を切りました。スピーカーからはビジートーンだけが響いています。
私はため息をついてスマホを置きました。先輩と話す時は必要以上に気を使って疲れます。
それでも、私は先輩の連絡先を消す事はできませんでした。
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「えっと、ピントはこれくらいで、角度は斜め50度くらいがベストか」
私が先輩とのやり取りにふけっている間、求君は天体望遠鏡を覗き、時にはレンズにカメラを当てて写真を撮っていました。
「凄いなこれ、大学の天文台でもこんな綺麗なのはそうそう見れないぞ」
求君は嬉しそうにしています。大学で天体サークルに入っている事もあるのか、普段は見られない夜空にワクワクしている様でした。
「久石も見て見ろよ。凄く奇麗だぞ」
求君が少々興奮したかのように私を手招きします。そのはしゃいでいる様子がどこか珍しく面白かったので、私も付き合う事にしました。
(といっても星の事はよく分からないんですけどね……)
そう思いながら、私は望遠鏡を覗き込みます。その瞬間、私は思わずこう心で声を出しました。
(これは…)
レンズの先に映っているのは、小さな一点が乳発色の光を発している姿でした。それは小指の爪に乗せても零れ落ちないような小さい物でしたが、発している光はとても力強く、神々しささえも感じました。
光も乳発色の中に青みがかかっているという、どこか不思議な物でした。私もユーフォニアムが纏う金色や銀色の輝きに心を奪われた事は幾度となくありますが、その時抱いた気持ちとは全く違う魅力があると思ったのです。
(なるほど、これは求君が夢中になるのも分かる気がします)
私は、レンズを覗きながら思わず感心してしまいました。けど、それだけではなく、私の頭の中にはある疑問が頭をかすめました。
「星って何で光っているんでしたっけ……?燃え尽きる時の最後の輝きとか聞いた事はあるんですけど」
「それって俗説だぞ。星が光るのは構成している原子が核融合してできるエネルギーからだ」
私の疑問の求君は答えます。ロマンには少々欠ける事実に戸惑いつつも、明日使えなくもない無駄知識を身に付けられた事を悪くないと思っている私もいました。
「そうですか……。後は距離が近いほど明るいとかもありますよね?」
「一概にそうとも言えないけどな、離れていても近くにある星と同じ位の明るさで見えるのもあるし。まぁ確実に言える事はエネルギーが強い星ほど明るいって事だな」
求君の科学的解説は続きます。そして私は口を開きました。
「強いエネルギーを持つほど明るいですか……。それって北宇治でも同じことですよね」
「……何が言いたいんだ?」
「私たちは全国金を目指して、沢山練習をしてきたじゃないですか。まぁそれが報われ続けたと言えばそうでもないですが、そこにはとてもエネルギーを使ってきた訳ですよね」
私は続けます。
「私が部内にいた間にも方針に対する意見は出てきましたけど、結局は実力主義で皆が上を目指すために邁進していました。仮に目的が皆との楽しい思い出作りにだけに変わったとしたら、これまでのエネルギーは使わなかったと思うんです」
言葉を話すうちに、私は自然と顔を下に向けていました。口ぶりもどこか自嘲気味になっている事が自分でも分かります。
らしくないです。けれど求君は普段通りに私に返事を返してくれました。
「確かに、『目指せ全国』の方針だったほうがやりがいはあったな。結果論ではあったとは思うけど」
「でしょう?だからそれでよかったんですよ」
そう、それでよかったんです。現に私たちは二年生の時に全国金賞という栄光を勝ち取れました。あれ程の高揚感は北宇治に入る前も、その後も味わえたことはありません。
「けど何か黒江先輩と話すうちに、それだけじゃなくてもよかったんじゃないかと思う事もあるんです。不思議ですよね、あれだけウマが合わなかったのに」
私はふぅと息を吐きました。
「けど明るい星を見ていたら、あの人の考えはやっぱり間違ってたという気持ちにもなるし、自分でも気持ちがよく分からないんですよね」
私達が二年生の時にひょっこり部活に加わった黒江先輩は、これまでの北宇治の空気に馴染む事はしませんでした。不真面目というわけでは無いけれど、実力を優先して部内の空気が悪くなるくらいなら、ベストな演奏を犠牲にしてでも自分が降りる事を厭わない人でした。
最もあの時の北宇治でそれを理解していた人は少なかったと思います。部の為に懸命に動いてくれた久美子部長と真っ先に対立する考えだったし、何より私自身がそうでしたから。
けれど何故でしょう。それなのに私は先輩との繋がりを未だに捨てていないし、なんなら感傷的な気分のようになっています。ある意味、久美子部長を侮辱していたような人だったのに。
「ただ確かだと思うのは、星は強く光り輝いた方が周りを惹きつけるんですよ」
私はそれでいいのだと結論付けるようにそう言った。けどなんでだろう。それで結論をつけたくない。そんな悲しい気持ちにもなりました。
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「よっと」
私の言葉を聞き終えた求君は、急に芝生に寝ころびました。
「ちょっと。何しているんですか」
「いや、望遠鏡で覗くだけじゃつまらないから、ちょっと自分の目でも見ておきたくて」
「ここ芝生ですよ……?服が汚れるの気にしないんですか?」
「天文部ではこれくらい普通だぞ。それに俺から見れば、ここの芝生は凄い綺麗だ」
いや、暗いから綺麗かどうかは分からないじゃないですか。それでも求君は何事もないかのように言いました。
「久石もやれよ」
「え……キャッ!」
私は求君に手を引っ張られ、地面にしりもちをつきました。あまりにも不意打ちだったので情けない声も出てしまいました。
「ちょっと、何するんですか!女の子を地面に倒すなんて!シチュレーションによっては犯罪ですよ!」
「ちゃんと、倒れる前に支えて寝かせただろ」
それとこれとは話が別です!
「大体、私の了承も貰わない内にこんな事を」
「こんな綺麗な芝生はそうそうないって言っただろ。それに俺のジャケット着てるんだから、汚れたって久石には関係ないだろ」
「だからってそんな」
「倒したのは悪いと思ったけど、それを補っても余りあるリターンがあると思うそ」
「リターンって何が」
「空を見て見ろ」
そう言って求君は再び寝そべりました。
「全く……」
何を見せたいのかは分かりませんが、いちいち反論するのも子どもっぽいのであえて彼の思惑に乗ってあげます。私は少しでも砂が付かないように丁寧に地面を払い、頭の部分にバックを敷いて、仰向けになりました。
(空と言っても、どうせ大したことなんて……)
そう思いかけた私でしたが、目の前に映った光景は私の思考力を瞬時に奪ったのです。
「いいもんだろ」
かろうじて覚えているのは求君の言葉だけでした。
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「これは……」
私が目にした夜空に映っていたのは、満天の星空でした。強く輝いている星は勿論、小さく慎ましく光っている星も沢山散りばめられてました。
「素敵……」
思わずこんな声が出ました。先ほどの望遠鏡で見た星も印象的でしたが、今見ている星々はそれ以上の物でした。
「望遠鏡でじっくり見るのもいいけど、夜空をじっくり眺めるのが天体観測の本当の醍醐味だと俺は思っている。やっぱり自分の目で見た方が気持ちいいんだ」
「ええ、そうですね……。私も同感です」
素直にそう思います。特に小さい星ですらこんなに輝きを見せてくれる今の光景の方が、私にとっては格段に魅力的に感じます。
「何て言うかさ。こういう夜空を見てると、北宇治も同じだったなって思う」
「え?」
求君は意外な言葉を口にしました。
「夜空の星は、大きくても小さくても綺麗に見えるだろ。北宇治もさ、色んな考えがあったからいい場所だなって俺はずっと思ってた」
求君は続けます。
「俺たちは全国を目指す実力主義の集団だったけどさ。決してそれが全てじゃないって思ってた人も隠れて何人かいたし。けど、そう思っている部員がいたからこそ、吹部は深みを増していたんだなって。だから黒江先輩もさ、黄前部長と色々ぶつかってたけど、それでも俺はあの人が悪いだなんて思えなかった」
部長には龍聖の事で色々話を聞いてもらってたりもしたから複雑なんだけどね。求君は苦笑いしてそう言いました。
「だから、別に意見が違う奴がいてもいいんじゃないかって。それでその人の価値が全て決まる訳でもないんだし」
実際、色んな輝きがある星空は綺麗だろ?求君は最後にそう言いました。
その言葉を聞いたとたん、私は胸のつかえがストンと落ちたような感覚を覚えました。
私は黒江先輩の事が好きではありませんでした。何度も言うように久美子先輩を困らせていましたし、吹部の方針に反していた人だから。
けど、あの人と縁を切らなかったのも、あの人に対して煮え切らない思いをしていたのも、心のどこかで先輩と通じ合っていて、変わって欲しくなかったからかもしれません。色んな輝きを放つ星空が綺麗なように、私が好きな北宇治がもっと素敵な場所であってほしかったから。
(そっか。私は黒江先輩の事も好きだったのかもしれませんね……)
あの人と出会ってから今まで、ずっとモヤモヤした気持ちが抜けませんでしたが、今日ここでその気持ちが晴れた気がしました。
サァァァ。
そんな風音が聞こえたと同時に、私は体が急に冷え込むのを感じました。さっきまで興奮していた為か、夜が深まるにつれ増していく寒さに対して鈍感になっていたようです。それは一度意識してしまうと抜けないものです。体に貼ってあるカイロもすっかり熱を出し切ってしまっていました。私はついつい体をさすり、手に息を吹きかけます。
「ん」
求君はそんな私に手を差し伸べてくれました。
「なんですか。これ」
「お前は滝先生かよ。俺が握っていれば少しは寒さもマシになるだろ」
求君はぶっきらぼうに言いました。私はその手をきょとんとした顔で見つめます。彼は顔を赤くしているのでしょうか、それとも逆に私の顔が赤くなっているのでしょうか、もうすっかり暗くなったので分かりません。
けれど私はその手をぎゅっと握りしめました。手だけですがさっきより暖かく感じます。それはもしかしたら心も暖かくなったからかもしれません。
(求君、ありがとう)
私は心の中でそう呟きました。
「ねぇ求君」
「何だよ」
「ホントに綺麗ですね」
「俺もそう思う」
私達は互いに手を握りしめながら、二人で星空を眺め続けていました。それは、私たちが一緒になって以来とても心地よい時間であり、彼といる時間が私にとって何にも勝る安らぎになるのだと実感した時間でした。
空の星々は少しずつ動き始めていますが、変わらない輝きを放っています。それと同じように、私たちも二人の日常という次の曲(あした)を始めていきたい。私はそう思うのです。
「それにしても求君、手が冷たいですよ。この年で冷え性とか、流石求君は大人っぽいですね」
「おまえ、本当に嫌な奴だな」
けどラブラブカップルに見られるのはやっぱり癪なのです。
お読みいただきありがとうございます。
この作品はアニメ三期放送前に書いたので、真由のキャラ付けは原作準拠になっています。
書いていた当時は、まさかアニメであんなに真由のキャラが変わるとは思わなかったなぁ…。
少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。