色々ぶっ飛んでいます。笑って許してください。
笑えなくても許してください……。
時系列としては、紅霧異変が終了してからの正月というのを題材にしています。そこをご了承願います。
陽があがり、黒い空が明るく染まった。先程まで輪郭しか見えなかった物たちも、今では様々な色彩、書いてある文字や絵がはっきりと視認できる。しかし、いつもと変わらない景色のはずなのに、今日この日は全ての物たちが輝いて見えるのは目の錯覚だろうか。
ーー雲ひとつ無い晴天なり
明けては醒める年初めーー
……新しい年が来た。今年もきっと、自然は四季の変化を明瞭にし、生き物たちは喜怒哀楽を浮かべ続けるだろう。変わらず、ずっと。永遠とまではいかないだろうけれど、出来るだけ長く。そんな当たり前のことを大事にしたいものだ。
さて話は変わるが、様々な生き物がいれば、それらの年初めの過ごし方だって千差万別だ。ある者はいつもよりのんびりとして過ごしたり、またある者はいつもより忙しく過ごすこととなるだろう。それでは、今日はある男と女の妖怪の年初めについてーー御覧いただきたいと思う。
◆
正月といえば『羽根突き』、これで決まりである。
いや、もっと他にあるでしょ?と疑問を投げかけようとする人達。少し待ってほしい。切実に、超究極的に待ってほしいのだ。
確かに正月といえば様々なイベントがあるだろう。凧揚げや駒回しの遊びや、初詣で近くの神社に行ったりしたりなど。とにかく多種多様、たくさんのモノがあると思う。僕もそりゃあね、それらたくさんの遊び、行事をして過ごしたいよ?でも今一番したい遊びがこれ。羽根突きなんだよ。
羽根突きって言うのは羽子板を持って、二人で羽がついた種?みたいな物を打ち返し合う遊びなんだ。俺も最初その遊びを見たときは「何が面白いんだろう?」と思ったものなんだけど、どうもこの遊び、羽がついた種を打ち損じると罰ゲームがあるらしいんだよね。
そして、なんとその罰ゲームは「打ち損じた相手の顔に、墨がついた筆でイタズラ書きをする」と言うモノみたいなんだ。
……感動した。こんな合法的に、相手を心の底から打ち負かせる遊びが、…いや、競技があるなんて!もうこれはやるしかないと決意してしまったのですよ。僕は。ヒヒッ!
しかし、俺がこのことを知ったのは去年の正月の終わり頃、前はもうこの競技の練習をする暇がなく、羽根突きをやっている人も少なかったので取り組めなかった。でも、今年は違う!違うのよ!!……俺は去年からこの日まで、暇を見つけては特訓に明け暮れた。雨の日も、風の日も、全ては羽根突きのために、費やし続けたのだ。
あるスキマ女はそんな俺の姿を見てこう言った。「頭でも打ったの?」と。俺の努力の軌跡を見て、嘲笑ったのだ。その仕返しとし、そいつにはさっき羽根突きをして負かし、額に『肉』と書いてやったが。
ある庭師は汗をかき、努力をしている俺にこう言った。「……伝蔵さん、それは何かの訓練なのですか?」と。……訓練と言わないと恥ずかしかったので「あ、ああ。反射神経を鍛えるには~」と適当に誤魔化してその時は難を逃れた。ちなみにその子とも羽根突きをして勝ったが、流石に肉とは書かず頬にバツ印を書いただけに留めておいた。自重が出来る大人だからね!
ーーしかし、これらは全て前哨戦にすぎない。俺はこの一年、ある人物にその罰ゲームをするためだけに特訓に明け暮れたのだと、そう言っても過言ではない。言い過ぎではないのだ。
ある森の中、西洋チックな家の前に立つ。そして扉を三回ノックした。
すると扉の奥から声が聞こえ、その指示に従って暫し待つ。ーー数十秒後、ようやく向こうから扉が開かれ、その人物の姿を視認することが出来た。
その人物が俺の想定していた者と違わないことをまず確認し、次に俺は決意を力に変え、彼女に声をかける。
「アリスー、羽根突きしようぜー」
その人物とは、アリス・マーガトロイド。
ーー幻想郷のぼっち担当である。
◇
「いやよ」
伝蔵の誘いに対して、アリスは躊躇なく断った。
「即答ですか……」
「…だって面倒くさいじゃない。寒いし」
アリスの断る理由は伝蔵にはなんとなくだが予想出来ていた。今まで彼が「アリスちゃんのぼっち癖を治そう運動」と心の中で名づけている運動に取り組み、様々なアプローチを彼女に施しているのだがそれらはほとんど断られ失敗に終わっている。その断る理由第一位が「面倒くさい」という単純な理由からであった。
「アリスちゃん、僕はね……そろそろ君は自分の家という狭い世界から、他人と親しくなり仲良くしていくという、輝かしい未来に向かって羽ばたいていった方がいいと思うんだ」
「余計な御世話よ。それじゃ」
「まぁまぁちょっと待っ、いや!本当に待ってくださいませんか!扉を閉めようとしないで俺の一年間がパーになっちゃう!」
アリスの扉を閉めようとする手にかなりの力が込もっているのを感じた伝蔵は焦り出す。このままでは彼の羽根突きに対しての努力が無駄になり、もしかすると来年にまた再チャレンジする形になってしまうからだ。しかもここで引いてしまうとアリスはまた同じ理由で来年断ってくるかもしれない。悪循環に陥ってしまう。
だが、先程も言ったが伝蔵にはアリスが断ってくることは予想出来ていた。そしてその対処法も用意していたのである。
それがーー
「ーーあれ、アリスちゃん太った?」
「………は?」
それが、言葉による揺さぶり攻撃である。
伝蔵は頭は良いとは言えないが、これでもそれなりの歳月は経ている妖怪だ。だからこそ彼にだって知恵は身に付くのだ。
女性は、自分の体型について気にすると言う法則(ルール)でさえもーー
「いや、若干太ったかなって」
「…太ってないわよ。規則正しい生活を送っているとは言えないけど、魔法を使ってるから健康には問題ないわ」
「いや、気持ち的に太ったよ」
「気持ち的に太ったって何よ?」
「いや、ね?」
「……?」
「……別にいいじゃない!太ったよ!見た目も気持ちも太ったよ!鳥瞰視点的に視たとしても太ったよ!…だから、運動しよ?汗をかいて脂肪を燃焼だよ!わぁったか!!」
対処法を一つしか用意していないと、失敗に終わったときに結果としてゴリ押しになってしまうのは彼の悪い癖であった。しかもその後彼は何がなんでも折れない、強い意思を持って執拗に迫ってくる。それを理解してしまっているアリスは一つ溜め息をつき、しょうがなく伝蔵に付き合ってあげることした。
「…ハァ、わかったわよ。それじゃあ場所を移しましょう」
「さすがアリスちゃん!デブ!!」
「おいそこは太っ腹だろぶん殴るぞ」
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場所は変わって草原。
周りは木に囲まれていなく、上を見上げると青い空と白い雲が確認できる。地面に生えている草もそれほど長いものではなく、風が吹いても大きくは揺れない。
そんな場所で、二人は対峙していた。お互いに羽子板を持ち、勝負を始める前にルールを確認している。
「それじゃあミスしたら1点取られる形式で、最初に10点とった方の勝ちってことでいいか?アリス」
「それで構わないわよ」
「罰ゲームは羽子板特有のアレだからね。勿論、負けた方が罰ゲームだから。」
「罰ゲームって何よ?」
「あれ?アリスちゃん知らない?……まぁ無理難題ってわけじゃないから気にしないでいいでござる。へっへっへ」
「……まぁ、いいわ。最初は私から始めるわね」
「ああ、わかった。それでは、……油断せずに行こう」
「?それじゃあ始めるわね」
◇
「あれ、アリスちゃんって左利きだっけ?」
「両利きよ」
……言ってみてぇ。なにそれカッコイイ。
まぁ、そんなこんなで始まった羽根突き10点勝負。先程の言葉通り油断せずに行きます。でも、アリスちゃんはルールも知らない完全な初心者みたいだから、最初の5点ぐらいまでは緩くやっていった方が楽しいと思うんだよね。やっぱりお互いが楽しいと思えるのがスポーツでしょ。うん。あんなに練習したんだから流石に初心者に負けることはないと思うしね。ハハッ!(でんぞう は ゆだん の たいせい に はいった! )
「じゃあ、はい」
そう言いアリスは羽のついた種(長いのでこれより以下は『球』と表記します)を打った。それはガキッ!と羽子板とぶつかる音がして、斜め下へと進む軌跡を描いて俺の頭の真横を通り抜けていった。
……え?あれ?見えなかったんだけど。飛んで来る球が羽子板とぶつかった瞬間消えたんだけど。音が遅れて聞こえた感じなんだけど。
「…って、なんで羽根突きでオーバーハンドのガチサーブなんだよ!!!おかしいだろ!!」
「えっ、羽根突きって球を打ち返し合う遊びでしょ?じゃあ相手の返せる範囲だったら何でもいいんじゃないの?」
えっ……そうなのかな?確かに打ち返し合う遊びとしか俺も聞いてないし、アリスの言う通りかもしれない……。でもさぁ、俺とアリスの離れてる距離って、たかが数メートルよ?普通はさぁ、球を打ち上げるでしょ。何で上から下に打ち下ろしてくるんだよ。思いやり無しかよ。
「いや、スマン。何でもない。再開しようぜ」
「そう。あ、私初心者だからこれから最初に球を打たせてもらってもいい?」
「……どうぞ」
もしかして、コイツ俺のこと殺りにきてない?
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「さて、アリス対伝蔵。スコア9対0とアリス選手が早くもマッチポイントとなりましたがどうでしょう?解説の霊夢さん」
「……魔理沙、なんで私をつれてきたのよ?ぶっ飛ばすわよ?」
「そうですか、やはりあのアリス選手のサーブを攻略出来るかが鍵となると言うわけですか」
「よしぶっ飛ばす」
知らない内にだぜっ娘とハクレイの巫女がいるが、そんなことはどうでもいい。いいんだよ。重要なことじゃない。今はこの羽根突きに集中しなくてはならない。
っていうか、やばいよこれ。普通に負けそうなんだけど、ストレートで初心者に負けるんだけど。俺の一年間台無しになるんだけど。
クソッ、あのアリスのガチサーブが悪いんだ!絶対200キロ越えてるでしょ、あのサーブ。というより羽根突きでサーブと表記するほどの威力なのはやっぱりおかしいよね。無秩序だよ。あのサーブで9点取られてるからね。あのサーブのせいで1点も取れてないからね。
…だが、もう大丈夫だ。目がようやく慣れてきた。あのサーブにさえ対応できれば後は問題ない。こっちもガチショットで応戦してやる。初心者だからって手加減しないからね!やぁってやるぜぇ!
アリスの手から球が上に投げられる。そしてそれを、彼女は先程と変わらずに打ち下ろした。それを俺はーー
「おらぁあああっ!!!」
ーー跳ね返した。
よし、もうこれからは俺のターンだ。ここで点を取って次を良い形で迎えられるようにする!
「ああっと!激しい攻防だ!!この数メートルの距離でまるで散弾の雨と言える打ち返し合いが始まっているぅ!!!」
「あんたもう魔法使いやめなさいよ」
第三者から見ると互角の勝負をしているように見えるが、実際は違う。それは今相手にしているアリスもわかっているだろう。そう、この打ち返し合いを掌握しているのは……俺だぁ!!
「……へぇ、そういうこと」
「どうしたんですか?霊夢さん」
「あんたいい加減その喋り方やめなさいよ……よく見なさい。一見するとお互いに返ってくる球に反応してから打っているように見えるけど、伝蔵はあの場から体を動かすことなく腕だけ動かして対応しているわ」
「あ、本当だぜ。でもそれがどうしたっていうんだ?」
「……おそらく伝蔵は打つ球に回転をかけて、返ってくる球を自分の元に導いているのよ」
「それはつまり、球を誘導してるってことか」
「そうね。相手の呼吸、返す球に加える力、角度を把握していないと出来ない芸当よアレは。もうこの打ち返しを制しているのは伝蔵ね」
「なんと!まさかそんなことが出来るとはぁ!!これはまさに伝蔵にしか出来ない技、名付けて『伝ゾーン』だぁ!!!」
「……それ大丈夫?」
「大丈夫だろ。あっちにはファントムもあるから」
そう。まさにあの巫女が言った通りだ。俺はアリスの心理まで見通し、球を打ち返している。これはもう試合(ゲーム)を制したと言っても過言じゃない!この試合、貰ったああ!あと魔理沙そのネーミングつけるのやめろ、わかんない人もいるから。
「クッ!」
アリスは打ち返し合いに耐えきれなくなったらしく、球を大きく上に打ち上げた。
ここだ!これに俺の今までの一年の成果を発揮させる!!
「くらえ!アリスっ!必殺ーー!!!」
「ああっと!伝蔵選手、大きく飛んだぁぁ!」
「あ、まだ実況するんだ」
これが俺の一年と唯一の特技を合わせた奥義!必殺技は必ず殺す技ということを完全に体現させている技!!
「ーー打つと球が二つに斬れて飛んでいくショットおおお!!!」
「球が二つに別れて飛んでいったぁ!それよりもネーミングセンスの無さの方が気になるがアリス選手どうするぅ!?」
「まだ伝ゾーンの方がましよね」
ネーミングセンスがないのは自分でもわかってるが気にしないでほしい。触れないでね?傷つくから。
ーー結果として、二つに分かれた球をアリスは打ち返すことが出来ず、無情にも球は地面に落ちていく。この打ち返し合いを制したのはこの俺。ようやく、ようやく反撃の狼煙があがったのだ。
「よっしゃあ!!これで9対1!まだまだ試合はこれからだぜアリスちゃんよぉ!!」
「……いや、これ反則じゃない?」
「まぁ、反則だぜ」
「まぁ反則よね」
……あれ?
「え?反則?」
「いや、反則でしょ。偶然二つに別れたのならともかく、故意にやったのだから」
「わざとは良くないよな」
「良くないわよね」
…おいやめろよ、そうやって多数決の原理使うの。自分でも反則だと思えてきちゃうだろ。別にいいじゃん!これくらいやらないと必殺技とは言えないし!1点ぐらいちょうだいよぉ!!
「じゃあ10対0で私の勝ちね。それで?罰ゲームってどんなモノなの?」
「……僕が持ってきたこの筆に、墨をつけて顔にイタズラ書きをするとです」
「…何を書けばいいか思いつかないわね」
「本当に何でもいいとです。今思ってることでも悪口でもいいとです。敗者の僕は貴女の行いを咎むことは出来ないとです」
「そう。じゃあ……」
そして、俺の頬に負け犬の印が刻まれる。アリスはその行いを俺にした後、すぐに自分の家の方に帰ってしまった。
ちくせう。来年、来年またリベンジしてやるでござるぅうう!!!
「……はぁ、だぜっ娘と巫女さん。俺の頬に何が書かれた?」
そう近くにいる二人に聞くと、二人は互いに顔を見合せ首を傾げる。
「?どうした。何が書いてあるんだ?」
「いや、なぁ?」
「私たちには、その言葉に至る過程が全く見えて来ないんだけど、ねぇ?」
二人にその疑問に思っている言葉を聞く。その墨で俺の頬に力強く書かれていた言葉はこうだ。
『太ってない』
それを教えてもらった後、俺は上に広がる青い空を仰ぎ、こう思ったのだ。
ーーまだ気にしてたのか、と。
魔理沙「あの後詳しく伝蔵に聞いたんだが、あの言葉は伝蔵がアリスに太ったんじゃないかって面と向かって言ったのを気にしてたかららしいぜ」
霊夢「へぇそうなの。もしかしてあの強烈なサーブも、伝蔵さんへの怒りから放たれていたのかもしれないわね。全部顔の真横の当たるか当たらないかの位置に打っていたし」
魔理沙・霊夢「「まぁ、因果応報だな」」