斬れぬものなど全くない   作:きんつば

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12話 戦闘のこと

 

 

白玉桜の庭にて、魂魄 妖夢は剣を降り続けていた。これは彼女の日課の一つである。彼女はいつもそれを速く、しかし丁寧に取り組むことを頭に入れて行動していたが、今日の彼女の日課には乱れが生じていた。

 

「……伝蔵さん、遅いですね」

 

そう呟いて、妖夢は剣を降る手を止めた。

伝蔵がここ、白玉桜に来て約一月が経つ。彼女はこの一月がとても充実していたものだったのではないかと思った。だってそれは彼女が、伝蔵が来てもう一月経ったのか、と今思えたからだ。

彼女はまだ、伝蔵に多くのことを教えてもらっていない。ほんの少し、一言二言と数えられることぐらいしか言われていないのだ。だが、彼女にはそのたった一言二言が自分にとってとても大きく影響を及ぼしていると感じた。

まだ、彼女は伝蔵に切れと言われた大岩を斬ることが出来ていない。

しかし、それでも彼女は自分が昔よりも強くなったのではないかと思えた。

剣は強くなっていないが。(わたし)が、強くなったのだと。

 

妖夢は、日課を再開する。

自分が手に持つ桜観剣が、上から下へと滑らかな曲線を描いて振るわれる。

桜観剣から反射される太陽の光が、彼女にはいつもより輝いて見えた。

 

「………あれ?」

 

だが妖夢は剣を振り上げた状態のまま、また動きを止めた。

その理由はただ単純な疑問からのものだった。

そう、自分が今では信頼している伝蔵のことについて、自分はあまりにも知らな過ぎるのではないか、と。考えれば考えるほど疑問は数多く妖夢の頭の中に浮かんだ。

 

何故伝蔵は、剣を始めたのだろう?

 

伝蔵はどのように、幻想郷一の剣豪と言われるまでに成長したのだろう?

 

いや、そもそも伝蔵はーー

 

 

 

 

 

「ーー伝蔵さんは、どういう種類の妖怪なんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間が軋む。閃光で視界が覆われる。風は、鳴り響く。

レミリアと伝蔵の戦闘を言葉に表すとしたら、それで充分だった。それが彼と彼女の戦闘風景を創りあげていた。

空間と閃光、風を切る音はレミリアから生じていた。彼女個人だけが、この戦闘を演じているのだ。

彼女の多大な妖力が、さまざま形に変化し伝蔵を襲い続ける。その数は多く、大きさもバラバラ。彼女から発せられる紅色の妖力の塊は、一つ一つが様々な軌跡を描き彼の元へ向かっていく。

そして伝蔵の正面、左右、上下、背後、全ての方位から迫るそれを彼はーーぎりぎりの、しかしここしかないというタイミングでかわしていた。その回避方法は独特のモノだった。

まず今、彼と彼女は空中で戦闘を交わしている。レミリアは先程のスペルカードにおける戦闘のように、空中での戦闘を縦横無尽に速く動きながら『飛んでいる』。

だが、対する伝蔵の方は『立っている』という表現が適切なのだろう。

見にくいが、宙にいる彼の足元には薄く透明に近い、青色の足場があった。彼はそれを使い、空中での戦闘を可能にしている。

移動する時にはその足場を強く蹴り跳躍し、今度はその着地地点に薄い青色の足場を作って宙に留まる、というのを繰り返しているのだ。

故に、直線しか描けない彼の空中での戦闘方法と、彼女の曲線も直線も描ける戦闘方法では後者の方が機転が利くだろう。それは今現在、吸血鬼が男を翻弄していることからも知ることはできた。

 

そしてその戦闘を、博麗 霊夢は少し離れた場所から傍観していた。

別に彼女がそうすることしか出来なかったわけではない。彼女は博麗の巫女、この幻想郷の柱とも言える人物だ。だからあの戦闘の中でも戦える力は当然もっていた。そして通用するのだ。

だが、彼女が動かない理由は大きく分けて二つある。

まず一つ目として、状況が飲み込めないこと。何故レミリアが突然激怒し、あの男の妖怪との戦闘に発展したのか。それもレミリアは前の自分との弾幕ごっことは違い、本気であの男を殺しにかかっているのだ。霊夢はこの戦闘の状況に対して困惑し、どうすれば良いのかわからなかった。戦える戦えないを別にして考えるなら、確かに彼女はこの戦闘を見ることしか出来なかったと言えよう。

二つ目として、あの男の存在だ。

霊夢はあの男が発した言葉を整理する。

まず、彼は自分を『八雲 紫』に雇われた掃除屋だと言った。

八雲 紫。

霊夢はこの人物の事をよく知っていた。それは彼女が自分達が住んでいるこの幻想郷を創った者であり、自分が博麗の巫女と成るのに深く関わり過ぎている者であったからだ。そして、霊夢はこの人物の名前を聞いた瞬間、違和感を感じていたこの異変の全貌が見えてきた。これは、彼女が幻想郷のこれからを考えて起こしたモノなのだろうと結論づけることは容易だった。

でも、だったら自分に話を通してからやった方が方効率が良いのではないか?と霊夢は思ったが即座にその問いのおおよその解答を導き出す。多分面白がってそうしただけなのではないか、と言う単純な解答を。まぁ、もしかしたら自分のためなのかもしれないが。

 

「お疲れ様、霊夢」

 

「やっぱりアンタの仕業か」

 

霊夢の真横の空間が裂け、いま彼女が考えていた張本人が現れた。その人物、八雲 紫は口元を紫色の扇子で隠し、気軽に霊夢に声をかけてくる。霊夢はそんな彼女に一瞬視線を合わせるが、すぐに目の前に拡がる吸血鬼と男との戦闘に目をくれる。

 

「あの男、何なの?突然出てきたと思ったらすぐ戦いだすし。私には何がなんだかさっぱりなんだけど」

 

「彼と彼女(吸血鬼)には色々想うところがあるのよ。ここからは、貴女の出番はないわ。安心なさい」

 

まぁこれは予想外だったのだけれどね、と紫は困ったように笑い言葉を続けた。霊夢は少し驚いていた。紫に予想外なことが起きたと言っていたからではない。それは彼女の言った言葉、表情から、今目の前で戦っている男への多分な信頼が理解できたからだ。

 

「…で、結局あの男は何なの」

 

「そうね、実を言うと、私も彼のことはよく分からないのよ」

 

「はぁ?」

 

霊夢がその返答について追及しようとする前に、紫はでもと言葉を続けた。

 

 

「でも、私の中の認識として言葉にするとしたら。彼と貴女は私の有用な使用人。貴女は、この幻想郷の切り札(エース)。そして彼はーー」

 

 

 

 

 

「ーーこの幻想郷の古兵(ジョーカー)、と言ったところかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼との戦いの感想として、俺が始めに思ったことは単純なことだった。そう、とっても単純。

 

 

 

……相性、悪くね?

 

 

これはもうヤバいですね。はい。正直な話見誤ってました。吸血鬼のスピードを。

言い訳をさせてもらうけれども、俺だってさ、前やってたあのハクレイの巫女とのスペルカードルールによる戦闘を見て、「吸血鬼の女の子、あれより速くなるかもな~」って思ってましたよ?そりゃあ今やってるのはルール無用のガチ戦闘なわけですから。妖怪の彼女にとってはやり易くなるでしょうよ。うん。

 

ーーでもさ、さっきより二倍以上速くなってるのはおかしいよね?

 

もう無理やん。無理ですよね?だいたい俺の戦闘スタイルからしてさ、まず第一として刀で斬らなきゃならんのよ。ぶっちゃけ斬れさえすればこっちのもんなの。こう何かめっちゃ超高速再生するような相手でも意外となんとかなったりする。でも、吸血鬼速すぎるやん。しかも真正面から吸血鬼姉が来たから対応しようとすると、全く別方向から妖力の塊が僕に向かって突っ込んできますからね。何?完全追尾型妖力弾なの?せめて操気弾並みのボディランゲージしてください。お願いします。で、いきなりで悪いのだけれど、クイズを出したいと思う。

 

問、何でも斬れることで有名な伝蔵、その弱点は?

 

答えは限りなく簡単だ。弱点は数多く見つかると思うが、コレがもっとも弱点じゃね?というのを二つ上げてもらいたい。よし、それでは答えを言いましょう。はいっ!

 

 

 

答え、もの凄く速い攻撃・視覚に見えない予測不可能な遠距離攻撃

 

 

……なのですね。よってこの吸血鬼姉、完全な伝蔵アンチなのです本当にありがとうございました。

今まで数多くの伝蔵アンチを見てきたけれども、ベスト3に入るほどの猛者です。はっはっは。勘弁してくだしゃあ。

それではここで、戦闘を始める前の俺の当初の予定をざっくり説明しようと思う。

 

まずば姉に「吸血鬼妹○ったぜ!」と勘違いさせる→姉怒る→「実はそんなことはなかったぜ!」と教え、少し説教をする。→終わったあとアリスの家に行って魔理沙の箒を直してもらう→大団円、と言うのが当初の予定でした。

だけれども、姉怒る→「実はそんなことはなかったぜ!」に移行しようというとき、吸血鬼姉が攻撃を畳み掛けてきて、言うことが出来ず、現在に至るのです。

つまり、最初っから俺の計画は破綻していたんだよっ!うっへい。

 

「チッ!速く、死ねッッ!!!」

 

「ちょ、おま」

 

とりあえず高速近接攻撃と予測不可能遠距離攻撃のコラボはやめてよぅ!どっちにも対応しようとしたら避けるしか選択出来ないじゃん!おま、お前には人の心が分からんのかぁああ!!!

 

「消えろッッ!!」

 

「あぶっ!?」

 

ちくせう。コレがスピードと相性の暴力でござる。レベルを上げて物理で殴る理論なんて、スピードと相性の前では無意味なんや。当たらければ攻撃力は意味をなさないし、相性が悪いと戦況はやっぱり不利になる。ああ、時が見える……。妖夢ちゃんの笑顔が走馬灯のように頭の中を駆け巡る……って走馬灯だコレ。やべぇよ、もう死の一歩手前じゃないっすか。勘弁してくだしゃあ。せめてっ、妖夢ちゃんが嫁入りするまで生きさせて!もしくは「妖夢は俺が育てた」ってドヤ顔で語れるぐらいになるまで生きさせて!!

 

 

「速く、速く死ねえッッ!!!!」

 

「……そうかい」

 

そう、俺が心の中で反論していても、彼女の攻撃は続く。冷静さを失っているだろうか。彼女は確かにハクレイの巫女と戦っていた時より速くなっていたが、巧さの部分では圧倒的に前より劣っていた。

 

まぁ、本気で怒って殺しに来てるのなら、そうなる。全力で、相手を一欠片を残さないようにしようとするから、そうなる。

俺はそれを目の当たりにして、お前はそこまで妹のことを想ってたのか、と嬉しく思う反面、どうしてそこまで想ってたのに、妹にあのような対応をしてしまったのかと怒りの気持ちが大きくなっていった。

だって、

 

「……お前は、何も見ていなかったじゃないか」

 

「あぁ!?何がだッ!!」

 

俺のそんな小さな呟きに対して、目の前で今にも紅の槍を投げようとしている彼女は、俺に強く言葉を浴びせる。

ここからが、俺の本当の戦いだと思った。

そしてこの戦いには、気遣いとか同情は無しにしなくてはいけないと想った。だってこれは、お節介なのだから。お前なんかに言われたくないと、彼女が確実に思うことなのだから。だったら、どうせそう言われてしまうのなら、言いたいことを言わせてもらう。

さっきよりも力を込めて、左手にある箒の棒を握った。両目で、目の前の吸血鬼を睨んだ。息を大きく吸う、声を大きく出すために。そして殴るように、言葉を彼女にぶつけた。

 

 

 

「お前はッ!妹の未来(これから)を、全く見ていなかったじゃないかッッ!!」

 

自分の中の妖力を身体中から放出し、半径約五メートルの位置で留める。俺の身体は、自分の青色の妖力で包まれた。

 

ーーここから言い訳は許されない。負けるわけには、いかない。

箒の棒の先端を吸血鬼に向ける。今までは彼女の戦いだった。だからこれはその閉幕合図。そしてここから開始する俺の戦いへの、開始の合図でもあった。

 

妹の過去(これまで)を知っている彼女なら、未来を見る勇気がなくてはいけない。ただ、それを教えるだけの戦いを始める。それさえ終われば、笑える。夢も現も。そんなもんだ。そして、それが運命に繋がるのだろうさ。

 

 

 

 

 

 

 

ーー少女は檻の中にいた。狭く苦しい、そんな檻の中に。少女はそのことを嘆かない。ただ一人だけで、ずっと、座りながらそれに耐えている。

ーー檻の外にはもう一人、これまた幼い女の子がいた。その女の子は、中にいる少女を外に出してあげようと、檻に手を触れる。

そして今さら女の子は気づいた。この檻には、鍵がかかっていることに。

女の子は檻を開ける鍵を探す。必死になって、力を尽くして。しかしその鍵は見つからない。何処まで遠くを探しても、見つけることはできない。

それは当たり前のことなのだ。だってその鍵は、何時だって一番近くに存在していたから。何時だってその檻の側を離れることはなかったから。

そう、その鍵はーー

 

 

ーー他ならぬ、檻の中にいる少女が持っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 




後々書き直すかもしれません。そして、時期が開いてすみません。すみませんっした!
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