斬れぬものなど全くない   作:きんつば

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閑話 秋のこと

 

 

 

 

 

「伝蔵様。なんとかなりませんか?」

 

「……何がでしょう?」

 

お昼時、机を挟み畳の上に座っている俺と幽々子さん。ここにはいない妖夢ちゃんは現在、外で刀をブンブン振り回している。そして刀は大岩にぶつかり、カンカンガンガンと大きな音を鳴らしているのだ。刀が可哀想!っとは思わないでもないが、まぁどんまい。桜なんとか剣は犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな……。

まあとどのつまり、妖夢ちゃんがお昼時に外にいるということは、またまた彼女は昼食の準備をすることを忘れているわけで。よってつまり、またまた俺が昼食を作ることになってしまうわけである。そうして幽々子さんは俺に言葉を紡ぐのだ。

 

「伝蔵様はなんで私に麦茶漬けしかださないんですか?嫌がらせですか?」

 

「いや、なんていうかその。食事も鍛練っていうか。そんな感じですよ」

 

「へぇー」

 

「……じゃあ幽々子さんは作れるんですか?料理」

 

「ふふっーー作れるわけないじゃないですか」

 

ここ一番のどや顔で言う幽々子さん。なぜそんな誇らしげに語れるのか。そこは恥ずかしがるところだよね、と俺は彼女のこの態度に戦慄に等しい困惑を覚える。男の俺でさえ恥ずかしいことを恥じないのはどうかしてるよね。どうかしてるぜ!!

虚しく心の内で響く声。そんな俺のことなど全く気にせず、彼女は言葉を続ける。

 

「そこで伝蔵様、貴方にお願いがあります」

 

「作れる料理の種類を増やしてくれ、とか言わないでくださいよ」

 

「作れる料理の種類を増やしてください」

 

「あっれー?」

 

お前タイムリープしてね?と言わんばかりの返答。時かけは面白い。

なんという理不尽さ。ジャンケンの時に「最初はグー!」が定例なのに、そこでいきなりパーを出して「はい俺の勝ちー!!」とか言い出す奴みたいなめんどくささ。

ここでジャンケンでめんどくさいと言えば……まぁ俺も、実際にじゃんけんでそんな感じのことはした覚えがある。

それは最初に、「俺絶対パーだすから!絶対だかんな!!」と言うような心理作戦のことだ。この作戦、ただやるだけじゃあ大して結果に変化はない。大事なのは『俺最初に~~だすから』と言った後すぐさま相手に有無を言わさずジャンケンを開始することだ。

そうすれば大々勝てる。ほとんどの人は焦ってパーをだすことになるからだ。『やべ、アイツの言うことを信じていいのか?いやダメかも?あ~!、もう何かださないと!』と取り合えず深く考えられず掌を開くだけのパーを出すのである。

 

しかしマイペースな人と、「自分、一人が好きですから」系ボッチにはこの作戦の効果は薄い。例としてこの幻想郷における、ボッチの原点にして頂点のアリスちゃんにこれをやったら、彼女は迷いなくグーをだして来やがった。全戦全敗である。なぜいつも勝てるのと、その理由を彼女に聞くと、

 

「ジャンケンなんて、相手の指の開き具合を見て判断してから出せばいいのよ。そうすればそんな小細工なしで勝てるわ」

 

と言っていた。

君のそれはどこのハンター×ハンター理論だよ。無理だわ。アリス先輩、なんか引きこもってるのに身体能力高くね?いつも人形に話しかけてるのに視力すごくね?いつも物理に全経験値割り振ってね?

なんというか、納得いかないのです。あの細身からなんであんな運動能力が沸き立つのか。こんなの絶対におかしいよ。物理の法則とか理論とかねじ曲げてるから、確実に。ちなみに俺は数多の理論の中でクラピカ理論だけは信じてる。俺のバイブルの一節に組み込んでるほどである。道に迷ったらよく使うし、頼りにさせてもらってますよ(ニッコリ)。

 

それでは話を、七つの大罪の内の一つ暴食を犯しかけている西行寺幽々子さんへと戻す。

といっても幽々子さんのそのお願いは叶えられるのだ。最近になって可能になったのだが。

 

 

「……まぁ、最近は新しいのも作れるようになったんですけどね」

 

「えっ、本当ですか?」

 

俺の言葉に目を丸くして、驚愕を隠すことなく幽々子さんは反応を返した。

 

「はい。ほら、前にあの吸血鬼姉妹の舘に招かれたじゃないですか」

 

「そうですね。異変が終わった後、その妹さんから呼ばれたとか」

 

「その時に新しい料理のレパートリーが増えたんですよね。ご馳走になったものから閃いたんですよ」

 

「へぇ」

 

感心の声をあげる幽々子さん。

そういう反応をされると、やっぱりこっちとしては嬉しく思ってしまうのである。俺はそういうのに慣れていないから、特に。誉めて伸ばすことが大事だと思う。何事も

うん。なんていうか、やる気がでてきた。

 

「それじゃあ今からまた作ってきますよ。幽々子さんの分の麦茶漬けは、訓練でお腹を減らしてくるに違いない妖夢ちゃんに食べて貰いましょう」

 

そう言って俺が姿勢を崩し始めたとき、

 

「……そうですね」

 

と言って、手を合わせ、鎮魂を歌うように幽々子さんはそう返答したのである。どゆことー?まぁ、いいけども。

 

よっこらせ、と腰をあげ料理を作るためにこの場所を後にする。その前に幽々子さんが、そういえばと俺に声をかけてきた。

 

「そういえば、その作る料理の名前は何なのでしょうか?」

 

そんな疑問を投げかけられた。

そういえば言っていなかった。

一番重要なことを伝えないのが俺の悪い癖である。言葉足らずといった方がいいか。

まぁそれは置いておき、幽々子さんの言葉に俺は返答する。そう、その作る料理の名は、

 

 

 

 

 

「紅茶漬けです」

 

 

 

 

一時、場は静寂に包まれる。

その俺の言葉を聞いた幽々子さんは、最初は全ての感情が失われたような顔をしていたが、次に憑き物がおちかのような表情で天を仰ぎ、そうしてーー

 

 

「妖夢ぅー!!!早くきてくれぇー!!」

 

 

と叫んだのであった。

酷くね?

おかしいなぁ。館で初めて作った時は咲夜さんが美味しいって涙を流しながら食べてくれたのに。ちくせう。

 

 

 

 

 

 

寒空の下というにはまだ少し早い、そんな季節の日々の中で、木の葉は淋しく舞っていた。夏の青々とした色は綺麗になくなり、潤いも枯れてしまっている。その彩りと光沢が嘘のような姿に変化した跡は、あの暑さの終わりを確かに示していた。

 

「あの異変からもう3ヵ月ぐらいたったのか」

 

「どうしたの突然?」

 

博霊神社の敷地内、紅白の巫女と白黒の魔法使いはそこで言葉を交わしている。

続けて彼女は軽い調子で、博麗の巫女である霊夢に言葉を紡いだ。

 

「いや、もうそんなに昔の出来事に感じられないか?なんとなくだけど」

 

「ま、人間なんて皆そんなもんよ。前の異変は規模が大きく、それでいて激しかったから余計そう感じられるのでしょうね。……アンタは何もしてなかったけど」

 

霊夢は魔法使い魔理沙にそう言葉を返す。それを聞き魔理沙は分かったのか分かっていないのか、そもそも特に何も考えていないかのような顔で返答した。

 

「ふぅん。そんなもんか」

「そんなもんよ。……アンタはあの異変でこれといった活躍は何もしてないけど」

 

「そういえばこの前レミリアが人里を訪れて来た時、慧音と一悶着あったらしいぜ」

 

「へぇ……アンタはあの異変の時自分の箒の無惨な姿を前にガチ泣きしてたけどね」

 

「くどいんだよッ!!!しかもそれは言うなよッ!!!忘れろッ!!!」

 

そう叫び、ぶんぶんと自分の背丈ほどの箒を振り回しながら抗議する魔理沙。それを見ても霊夢は涼しげな顔でそれを横目にみるだけ。魔理沙の取り合えず話を転換させようと言う目論みは容易く倍に返されたのだった。しかも急所に。

 

「というか、アンタも箒持ってるんだから掃き掃除手伝いなさいよ。それと私が枯れ葉を掃いてる横であんま暴れないでくれない?」

 

今度はうんざりしたかのような表情になって霊夢はそう言う。自分が境内の枯れ葉を集めている最中なのに、隣人はのんびりと声をかけてくるのである。手伝えよ、と暗には言わず直球で言うのは彼女の性格からだった。

それに対し魔理沙ははっきりと断言し、否定する。

 

「嫌だぜ。私はもう箒を大事に使うことに決めたんだ。これからは」

 

「……そう」

 

何のための箒なんだよ、という心の声が霊夢の中で聞こえた。だがそんなことを知らない魔理沙は、大事そうに両手で自分の箒を抱きしめ、あるがままの幸福を噛みしめているだけだった。

 

「でもさ」

 

「何よ」

 

せっせと色素が落ちた茶色の葉を集める霊夢を見、魔理沙はのんびりと言う。

 

「またこの次もあんな異変が起きたらどうする?いや、もしかしたら前よりもっと大きな、そんな異変だったらさ」

 

その言葉に霊夢の枯れ葉を掃く手が止まった。

 

そうね、とまず一つ呟いて、次に霊夢はこちらを見つめる魔理沙に顔だけ向けて言い放った。あまり大きな声ではないが、しかし力強く。

 

 

 

「もちろん潰すわ。だってめんどくさいもの。目障りだし」

 

 

 

それを聞いて魔理沙は、まぁ霊夢だしなと、やれやれといったような表情で頷いた。その様子を見てイラッときた霊夢が0.2秒後に右パンチすることを、彼女はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まあ、いるとは思わなかったけど」

 

人里の外れにある伝蔵の自宅に、アリス・マーガトロイドは訪れていた。

太陽が傾きだし、陽の光が優しいオレンジ色に移り変わってきた黄昏時。体に受ける風は少し肌寒く感じる。

アリスは自身が人里を訪れた後、このように伝蔵の家に向かうのが習慣となっていた。

 

彼が白玉桜へと居候しているのは知っているが、一応念のためとこうして家を確認している。しかし彼女自体に、伝蔵にこれといった用はない。暇だからなんとなく来たといったような、ある意味積極的な感情は彼女には持ち合わせていないのである。彼女はやることがなかったら自分の家で出来ることを考える。それが彼女の本質であった。

 

では何故伝蔵の家へ訪れたのか。それは人里の者たちからの言伝、伝えてほしいと頼まれた用件を伝えるためであった。

アリスは最近、買い出しなどで人里の中を周っていると呼び止められることが多くなってきた。それは大体、伝蔵関係のことでである。

 

伝蔵はこの何か月の間、人里の方へ顔をだすことは滅多になくなった。そのことから彼と親交があった人や妖怪の者たちから「アイツ何してんの?」みたいな事をアリスは聞かれるようになったのだ。比較的彼と仲が良いと思われているのかは知らないが、そのような質問を多くの人たちから受ける。静かに平和に人里を歩きたい彼女にとって、この出来事は疲れを感じるものであった。というよりその疲労は今でも溜まり続けていた。

 

そうしてアリスが『伝蔵が今は用事でここには足を運べない状況にある』と受けた質問に返答すると、「そうなの?じゃあちょっと伝えてほしいことがあるんだけど……」と伝言を頼まれる。

 

今まで頼まれたのは『農作業を手伝ってほしい』だとか、『無縁塚で漫画拾ってきて』だとか、『寺子屋の子供たちの相手を暇な時でいいからみてほしい』だとか、『ツケになってる代金いつ支払いにくるの?』だとか、そのようなことだ。

 

自分から彼には連絡を取ることは出来ないと言ってはいるのだが、会ったら伝えておいてと気軽に頼まれてしまっている。根が律儀なアリスはかったるいとは思いながらも、度々用件を伝えようと彼を探しているのだ。今では言った本人も忘れているかもしれない伝言もあったが、頼まれた自身が了承したことはやり遂げる、彼女は常に真面目な性格であった。

 

(それにしても……)

 

いつも言うだけのことはある、とアリスは心の内で呟いた。

普段から自分に友達を作れ、作りなさいと連呼してくる彼の交友関係は意外に広いのだと今回彼女は知った。それなりには知り合いは多いのだろうなとは漠然と思っていたのだが、それでも予想よりは大分多い。その理由として挙げられるのは、人妖関係なく好意を向けられてるから、だと思われる。

 

実際のところ、彼のように人にも妖怪にも好かれるというのは特異であろう。社会においては自分とは違うというだけで避けられたり嫌われたりすることはよくある。人間のなかでさえそうなのだから、妖怪という種族との違いとうのは避けて通れない問題であろう。そもそも古来より伝えられる、妖怪は恐れる者だという認識は間違っていない。警戒心というものは孫から子へ伝達していることは明らかだ。

 

(……つまるところ、貴方は今でもどっちつかずなのね)

 

アリスは帰路に歩を進める。

きっと、彼は両極端に位置する者。内面という意味では人間よりも人間らしく、それがまさに妖怪らしいのだと彼女は思った。結局のところ、どんなに性格がそうであっても、自身の形は変わらない。例えるとしたそれは脳だけであっても人は生きていけるという馬鹿な話。そんなもの無理に決まっているのに、考えてしまう。

 

人は確かに脳で物事を考え行動する。それは間違いない。しかし、それは考える対象が無ければ話にならない。例えば自身の腕。自分の手で物を触り、それをどう思うのかということ。例えば自身の目。それを実際に見て、そしてどんな感情を抱くのかということ。

 

人はどうしても自分の体に引っ張られる。それは抗うことの出来ない事実だ。

 

だからきっと、伝蔵は。

 

 

「――本当に、つまらない話」

 

 

そう今度は小さく声に出して、彼女は今までの自分の思考をそのように評価した。

 

そんなことを考えても、自分には何の為にもならない。それは確かなことなのだから、それでいいでしょう、と。

そう声にならない独白は希薄で、秋の涼しい風の波に乗って、容易く溶けていったのだった。

 

 

 

 

 

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