【完結】空飛ぶ雛と飛べない鳥~ヒナの親友だった少女が狂い彼女の敵になって壊れる話~ 作:詠符音黎
傷ついた体に追い打ちをかけるかのような、無情な雨。
それを傘もささずに私は受けながら、ヒナの部屋があるマンションの扉の前に立っていた。
エデン条約の調印式を丸ごとすべて壊され、今まで彼女が頑張ってきたすべては泡と弾けてしまった。
そこで先生も撃たれ、今はどうなっているかも分からない。
こんな状況で彼女が折れてしまうのもしょうがないだろう。だってヒナも本当は面倒臭がりの普通の女の子なんだから。
ヒナは今きっと自分の部屋に閉じこもっているはずだ。
休憩をすることが趣味なんて笑えない状況の彼女が心を癒せる場所は、きっと自室だけだろうから。
私は、そんな彼女の最後の砦の前に来てしまっていた。
「ヒナ……私は……」
私はヒナも先生も守れなかった。
せいぜいヒナなら耐えられるような弾幕をこの体に受けただけ。何か成果を上げたわけじゃない。
それだけじゃなく、二人に一番に見て欲しくて醜い嫉妬心まで今まで向けていた事にさっき気づいたぐらいだった。
こんな私に、ヒナを励ます資格なんて存在しない。
弱くて愚かで“間違い”の、どうしようもない女、それが私、地羽クイナなんだ。
――……なのに、どうして私はヒナのマンションに入る扉の取っ手を今こうして握ってるんだろう。
「……私は……あなたの、力になりたいよ……ヒナ……」
何の取り柄もなくて、弱者で、全然“正解”になれない私がどう力になるかなんて一切分からない。
それでも、私はなんとかできないかなって、こうしてマンションの扉に手をかけている。
我ながらとても哀れで、女々しい行いだと思う。
何かしたつもりになりたいのかと己で己を心の中で罵倒する。
「でも、私は……」
なんとかぐっと取っ手を握る手に力を込める。
きっと唇を強く結んで目をぎゅっと瞑る。
とにかく、なんとかしてマンションの扉を開こうと私はした。
「……やっぱり、私じゃ、無理だよ」
でも、結局そうする事はできなかった。
マンションの扉を握るなんてのが、私にできた精一杯。
出せたのはほんのひとさじの勇気だけだった。
「本当に、情けないなぁ……私」
自分で自分が嫌になる。
今まで自分なりに頑張ってきたつもりだけど、ここぞというときに踏み出せない私は、結局、どうしようもなく弱者で“間違い”なんだ……。
「……クイナ?」
そんなことを思いながら、私が俯き扉から手を離したときだった。
私の目の前から、声がした。
顔を上げると、そこにはヒナがいた。
扉は開かれ、風紀委員長の制服に身を包んだ彼女……そして、穴が空いて赤く染まったシャーレのコートを着ているけれどいつも通りの顔色の先生も一緒に。
「…………あっ」
私は、二人の姿を見た瞬間頭の中がぐちゃぐちゃになった。
先生がなんとか助かって、ヒナを励まして再起させた。
それはとても良いことで、素直に喜んであげるべきなのに。
――ズキン! ズキン! ズキン! ズキン! ズキン!
私の胸に訪れたのは、あの嫉妬の醜い痛みで。
「……ごっ、ごめんなさいっ!」
だから私は逃げ出そうとした。
二人に背を向けて走り出そうとした。
「待ってクイナっ!」
でもその私の腕を、ヒナが叫んで掴んだ。
後ろにいる彼女の顔を、私は見る事ができなかった。
「……離して」
私にできることは、なんとか冷たい声でヒナを拒絶する事だけ。
「……嫌」
だけれども、ヒナは小さな声で、しかし確固たる意志を感じる声で答えてきて。
「……いいから離して。私、あなたに顔向けできない」
振り向けない。ヒナの顔を見たらもう私は、どうなっちゃうか分からないから。
「……だから、嫌。なんで逃げるの? 私、あなたにお礼が言いたいの。あのとき私を助けてくれたのが本当に嬉しかったから。クイナが心配でたまらなかったから。なのになんで逃げて――」
「――離してよっ!!!!」
ついに、叫んでしまった。
ヒナが驚きビクリと震えるのが分かった。でも、それでも私の腕は動かない。
尚も強く握られているままだ。
「離してよ……私、本当は最低の子なの。弱くて醜いどうしようもない存在なの。ヒナに隠し事されてるのが辛くて強くなろうとしたのに全然なれなくて、先生みたいにちゃんとした人になりたいのにむしろ二人に嫉妬して、結局無意味な弾除けにしかなれなくて……」
今まで思っていた事が、どんどんと流れ出てしまっている。
穢らわしい気持ちが、恥ずべき劣等感が言葉の濁流となって放たれてしまう。
顔からもダラダラと涙が流れ、ひどいことになって余計に顔が向けられなくなっていく。
「こんな私は、ヒナに親友だなんて言ってもらう資格なんてないよ……だから、もう私の事は放っておいて……捨てちゃってよ……私は、こんなどうしようもない、“間違い”でしかない、飛べない鳥なんだよ……」
私が自由に飛び回りたいと思った空は遠くて。
そこを悠々と飛んでいるヒナみたいになりたかったのに、どんどんと惨めになる一方で。
制御できない心のせいで、とうとう言ってしまった……あまりにも汚物めいた私の自己中心的な本質を見せてしまった。
こんなところ、ヒナと先生に見られたくなかったのに、私は……。
「……そうだったのね」
ヒナの落ち着いた声が返ってくる。
ああ、やっぱりヒナはこんな私に失望して――
「――本当に……ごめん、なさい……」
「……え?」
ヒナが、何故か私に謝ってきた。
しかもとても、辛そうな声で。
思わず私は振り返ってしまう。そこにあったのは、目に涙を溜めたヒナの顔だった。
「私……クイナの事……全然、考えてなかった……あなたが隣にいてくれて、話し相手になって、友達になってくれて、ずっと嬉しくて……それで、あなたもきっとそうなんだろうって、勝手に、思い込んで、守らなきゃって……一人で、背負い込んで……」
ヒナの溜まっていた涙はすぐに流れ落ちていく。
静かに、しかし大きな雫として彼女の顔に線を引く涙。
声もどんどんと弱々しく、震えていって最後の方にはもう泣き声なのか言葉なのか判別が難しいぐらいだった。
「私、あなたをずっと、傷つけてたのね……それなのに、守ってもらった事が嬉しいなんて、無神経な事、言っちゃって……ごめんなさい、ごめんなさいクイナ……私の方が、ずっと親友の資格がないわよ……自己満足ばかりで、一切大事なものを顧みれなかった、私なんて……」
ヒナが私の腕を静かに離した。
こんな弱々しい彼女は見たことがないと、私は思った。
「……だから、あなたはもう、逃げてもいい。私のところになんて、いる意味、ない」
彼女は俯き、ぽつりぽつりとあまりにも頼りない声で言った。
彼女は私を開放したい、そんな意図が伝わってきた。自分のせいで私が囚われて不幸になったと思っているんだ。
私のせいで、ヒナは泣いているんだ。
…………だったら。
私にできることは、ひとつだ。
「……そんなこと、ないよ」
私は、そう言って彼女の手をそっと掴んだ。
「え……?」
「確かに……私はヒナと一緒にいたくて、その中でずっと辛い思いをしてきたのは確かだよ……。でもね……それでもあなたと一緒にいられる時間は好きだった。楽しかった。友達って、こんなにいいものなんだって……生まれて初めて思えた」
思いの丈を、私はヒナにぶつける。
彼女が今まで私にくれたものを彼女に返す。
確かに苦しんだけれど、でもそれはヒナのせいだって勘違いして欲しくなかったから。
「クイ、ナ……私も……私もっ!」
すると、ヒナは小声から大声になって、ヒナの手に重ねていた私の手を握り返してきた。
「私もクイナと友達になれて本当に良かったと思ってる! 本当はあなたと別れたくないの! でも私のせいで苦しい思いをさせてしまっていたのが本当に辛くて、ひどいことしたなって思っちゃって……! 本当にあなたは何も悪くないって、知って、欲しくて……!」
「うん……うんっ……!」
涙を流しながらも叫ぶ彼女の姿が、とても心に響いてくる。
素直な叫びと分かる彼女の言葉が嬉しくて、私は頷く事しかできなかった。
「私はあなたを一番の親友だって、そう思ってて……でもそんなあなたにそんな抱え込ませてたなんて……全部、私が悪いのよ……!」
「そ、そんなことないよっ……! 悪いのは私! 私が勝手に拗らせて抱え込んで嫉妬して! 全部全部、こっちが悪いの!」
「いいえ! 私! 悪いのは私っ!」
「いや譲れないよこれは! 私が全部の悪なのっ!」
「違うわ! 絶対に私が悪者なのよっ!」
「はいはいはーい! そこからは終わらない水掛け論だからストーップ!」
私とヒナが叫び合っていると、急に先生がそう言って私達をぎゅっと両脇に抱え寄せて言ってきた。
形としては私とヒナの間に挟まっているみたいに先生はなっていた。
「うん、お互い言いたいこと言えたみたいで良かったよ。にしてもさ、二人共随分と難しく考え過ぎてたんだね……」
「む、難しく考え過ぎって……私にとってはすごく見逃せない問題だったんですよ!?」
「そ、そうよ……! 私も色々と大変で……!」
「分かる、分かるよ……! 二人の気持ちはよく分かるっ……! 私も子供の頃に似たような経験あったよ……でもさ、そこからちょっと先に大人になった私から言わせてもらうなら、友達って実はそんな気負わなくていいものなんだよ」
先生はそこで私達二人にそれぞれ穏やかな笑みを向けてくれた。
見ているこっちも凄く落ち着ける、そんな不思議さすら感じる表情だった。
「ただ一緒にいて楽しい、嬉しい、喧嘩をしても仲直りしたいって思える、離れたら寂しいからずっと遊んでいたい……そんな、簡単な気持ちで友達って成立するものなんだ。ただそれだけいいの」
「簡単な、気持ちで……」
「それだけでいい……」
思わず私とヒナは先生の言葉を復唱してしまう。
すると先生はニッコリと笑ってバッと勢いよく私達を手放した。
「わっ!?」
「あっ……!」
それで慌てて私達はとっさに体勢を整える。
すると、結果的に私達は互いの手を握り合う、ちっちゃな子供が並んで歩くときの姿みたいになってしまった。
「そこで資格とか条件とか、色々考えちゃうのは少なくとも子供のときにはいらないんだよね。そういうのを本当にするのはせいぜい大人の面倒な世界になってからでいい。子供ってのは、気持ちに全力で正直で生きられる、そんな素晴らしい期間なんだからさ」
先生はそう言ってニカっと笑った。
彼女の顔をこうしてヒナと一緒に手を繋いで見ていると、なんだか今までの葛藤や苦悩が遠い過去になっていくのを感じた。
どうやらそれはヒナもらしく、私達はお互い見合って軽く笑い合った。
「……まったく、先生には敵わないね」
「ええ、そうね。……ねぇクイナ、そんな先生のために私、一肌脱ごうと思っているのだけれど、その……もしよかったら、来る?」
それはきっとこれからまた戦いに出るという事なんだろう。そして、そこの奥にはまた私と一緒に戦いたい、しっかりとまた二人でスタートしたい、そんな気持ちもあると思えた。
まあこの流れだしね、分かるよ。
「うん、もちろん。ガンガン援護しちゃうから」
だって私も同じ気持ちだったし。
「よし、ありがとう二人共。じゃあ私も行ってくるよ。……私の助けを今一番求めてる子のところにね」
先生はそこでキリッとかっこいい顔になって言い放って歩いていった。
大人って、ずるい。
彼女を見ると本当にそう思うのだ。
私達も彼女の後ろについて二人で歩き出す。今、風紀委員会が戦っているその場所へと。
「委員長……! それに、クイナさんも……!」
現場についた私達に第一声を向けたのは、アコちゃんだった。
そういや私もヒナも病院抜け出してるんだよね……ちょっと気まずいかも。
「……待たせてごめん、アコ。みんなも無事で良かった」
うわ、ヒナ凄い。一気にかっこよくなった。
ずるくない? 風紀委員長があまりにも様になり過ぎじゃない?
「いえ……はいっ!!」
こっちはこっちで通信越しなのに凄い尻尾振ってるのが分かるなアコちゃん。
でもこういう素直なところはむしろ見習った方がいいのかもね私も……。
「準備はできてるわね。先生の指示を待とう」
「せっかくだし、私も一緒によろしくね」
ヒナが風紀委員のみんなに言った横で、私も軽くみんなに手を振りながら乗っかった。
まあ私って風紀委員会じゃないしね。こうやって謙虚にアピールしておくぐらいでいいでしょう。
「……クイナさん」
「は、はいっ!?」
と、そこでアコちゃんのちょっと怒ってるのが分かる通信が私に向けられた。
まずい……流れで有耶無耶にしようとしたけれど病院を抜け出した事さすがに怒られるかな……?
「私は……本当にあなたを心配してたんですからね」
「えっ……?」
しかし、内容は私が思っていたものとは違った。
怒ってはいるんだと思う。でも、どうやら本当のお叱りというわけでもないようだった。
「それを委員長にしか興味がない冷血女のように扱って……いくら責任を感じていたとはいえ、私に対する見識と扱いの改善をして欲しいですね。……もちろん委員長ほどではなないにしろ、あなたにも私はある程度好意は抱いているのですから」
「あ、えっと……うん」
後半、彼女の言葉は少し柔らかくなって声量も小さめになっていた。
私はそんなアコちゃんに軽く笑って頷いた。
いろいろと暴走する事も多いけれど、アコちゃんはやっぱりヒナを支えられる子だと、そんな優しさがあるんだと、そう思えた。
「ま、まあ! 時折委員長とベタベタするのはあまりよくないのでは? 場と立場を弁えては? とか思ってますが!!!! ある意味一番風紀を乱してるからどうしてやろうかと何度も思いましたが!!!!」
「は、はは……」
これも本当なんだろうなあ……私、下手したらアコちゃんに問題児として処罰されかねなかったのか。
……ただそれと一緒に一瞬「ツンデレ」というワードが頭に浮かんだけれどそのまま飲み込んだ。言ったら絶対めんどくさくなってた。
「……みんな、指示が来たわ。いくわよ」
いきなりヒナが静かに告げる。
彼女の言葉でみんな戦うスイッチを入れ、敵の軍勢を見据える。
私も愛銃《シアターカーペンター》のグリップを握りヒナの隣で構える。
「さあ……行くわよ、クイナ」
私だけに聞こえる小声でヒナが囁いてくれる。
「うん、行こう。ヒナ」
私もそれに彼女だけに聞こえる声でささやき返す。
こうして私達はまた二人並び、親友として駆けた。
◇◆◇◆◇
時は進み、季節は巡る。
エデン条約調印式の後もいろいろな事があった。
あのとき襲いかかってきたアリウス分校の子達をも先生は救ったり、その後もなんだかよく分からないけどキヴォトス滅亡の危機が襲ってきたりもした。
私はそのときは自分にできることをした。先生の指揮下で重要拠点の攻撃、とまではいかなかったけれど風紀委員会や
一方ヒナはミレニアムの生徒と協力して大活躍したらしい。
さすが私の親友だと、話を聞いたら誇らしくなった。
その後もキヴォトスは事件だらけでヒナもちょくちょく忙しそうにしていた。
お互いの本音を晒した後に聞いたのだけれど、どうやら私達が一年のときの生徒会長が凄く悪い人だったらしくてそれで色々苦労して、なんなら今でもしてるんだとか。
その暴露を聞いたときにはなんだか凄い強くなるけど副作用がひどいガスを処分したみたいで「まったくどれだけあるのよ……」ってだいぶボヤいてたなぁ。
まあそのガスの中身を聞くと本当にひどいなぁ……とは思った。
吸ったら強くなれるけど基本的に死ぬから意味ないとか欠陥過ぎるでしょ。さすがに昔の私だってそんなの使わないよ。……多分。
まあそんなこんなでヒナも私もいろいろと飽きのない経験をたくさんした。
そしてその中心にはよく先生がいて、私も結構彼女の横で変だけど楽しい時間を過ごした。
ヒナ、先生、そしてその中で出会ったいろんな子達。そんなみんなで大変だけど充実した時間を過ごしている中で、いつしか寒さが身に染みる冬になっていた。
「……というわけで、準備はいいねヒナ!」
「いいけれど……なんだか思ったより乗り気ね、クイナ」
今、私達はゲヘナ学園にある空き教室の一室にいた。
外は夜で教室の灯りがしっとりとした雪が降る窓の外の闇をうっすらと照らしている。
私とヒナが二人でいる教室は色とりどりの飾り付けがしてあって、中央にはいくつものテーブルを合わせてその上に料理が並んでいる。
その中でも一番目立つのはホールケーキだろう。何せフウカちゃんに頼み込んで作ってもらった特別製のクリスマスケーキだ。見た目から豪華だし味も絶対絶品に決まってる。
というわけで今私達がしていたのはクリスマスパーティーの準備だった。
料理を並べ、きらびやかに窓を飾り付け、ツリーを邪魔にならないけど主張できる位置に設置する。
そして私達も今はそのために赤い帽子と大きめの服のサンタコスを身にまとっているのである。
「そりゃそうだよ。だって私がこのクリスマスパーティーを実行するためにどんだけ苦労したと思ってるのさ。絶対一緒にやりたいヒナ、そして先生のバカみたいに詰め込んでるスケジュールからなんとか合致する休日を探し出してそれが消えないように立ち回ってリスケとかもして……ホントーーーーーーーッに!! 苦労したんだからね!!!!」
いや本当になんでこの二人あんなに仕事のスケジュール詰め込んでたの?
二人共結構即日的な仕事だしそんな先までスケジュールが密になるような予定立つわけじゃないのになんであんなになってたの?
ワーカーホリック怖いんですけど……。
おかげで日にちとしてはクリスマスよりまだ三週間ぐらい前の今日になってしまった。
二人にはまたちょっとそこに関してしっかり説教したい気持ちがあるがまあ今日は置いておこう、せっかく勝ち得たパーティ当日の場だしね。
「えっと、一応当番があるから先生のはともかく、なんで私のスケジュールまでそんな完全把握してて対応できてるのよ……」
「……頼れる同志って、いいよね」
「なるほど、アコね。まったく……」
サムズアップする私に少し呆れた顔を見せるヒナ。
でもアコちゃんと私は二人で『風紀委員長空崎ヒナに休みを与えた委員会』の代表と副代表をやっているので今後もこの点に関してヒナは逃れられないだろう。本人には私達の関係はともかく委員会の存在については内緒だけれど。あと他にもまあまあメンバーがいることも当然セットで内緒です。
「やあヒナ、クイナ。今日はお招きありがとう」
と、そんなことを話していると今日のもう一人の主役である先生がやってきた。
しっかり一日休みにして邪魔が入らないようにしただけあってとても健やかな顔をしている。
この人平気で徹夜重ねるから油断ならないのよね……。
「ええ、今日はよろしくね先生」
先生の笑顔にヒナも落ち着いた笑みで答える。
前はこの二人のこんな姿に嫉妬もしてしまったけれど、今はそんなことはない。
ただ私の大事な人同士が仲良くしている、その事の方がずっと嬉しくなれるようになった。
「うん。しかし二人共可愛いサンタコスだね……なかなかこう、魂に火がつく趣だね……!」
私達のサンタコスに興奮を見せる先生。
だが、私はそこで不敵に笑ってみせた。
「ふふっ……先生。まさかこれで終わりだと? まったく随分と舐められましたね私も……」
「なん……だと……!? まさかまだ何か仕掛けが……!?」
「ええ、しかしそれに気づいたところでもう遅いですよ先生……! さあ、行くよヒナっ!」
「……その、えっと……ねぇクイナ、本当に見せないと駄目……?」
私がハイテンションで行こうとしたところで、ヒナが結構小声で私に言ってきた。
多分先生にはうまく聞き取れてないだろうなぁ。
ともかく対応しないとと、私も小さい声量でヒナに返す。目の前だけどこっそりというていでもあるので先生には二人で背中を見せた。
「駄目だよ! ヒナだってちゃんと飲み込んでくれたでしょ! っていうか私だって本当は恥ずかしいのを無理にハイテンションでやってるんだからね!? うう……! これもこの前レッドウィンターの工務部の子がプリンを宇宙に飛ばしたから……!」
「まずその事件の話となんでそれで私達がこうなってるのかがあまりにも意味分からないんだけれども……意味不明な結果だけじゃなく後でどうしてそうなったのかも教えてよね……私まで巻き込んだわけだし」
「はい、後でちゃんと言うんで……とにかくこの場では協力してもらって……」
「はぁ……面倒くさいけど、仕方ないわね」
ヒナをなんとか説得し直すと、私達は先生にばっと体を向けた。
そして、二人で大きめな赤いサンタ服を掴む。
「さあ先生、ご堪能ください……これが約束の、先生が執着していた水着パーティーですっ!」
言葉と共に私とヒナはあくまで外側でダミーとして着込んでいたサンタ服を脱ぎ去った。
そして私とヒナはそれぞれクリスマスに合わせたサンタ水着衣装に一瞬でチェンジしたのだ。
私のはオーソドックスな赤ビキニである。トップス及びボトムスについている白いフリルと手首にまいたリースを意識した緑のシュシュがワンポイントだ。
一方でヒナは赤を基調としながらも白いラインが斜めに切り込むように入っている競泳水着だ。私にそういう趣味があるわけじゃないけれど、なかなかマニアックな感じになっていてその手の人の気持ちがちょっと分かった気がした。
「お、おおおっ!? す、凄い! なんてサプライズを……! ありがとう、クイナっ……! 嬉しすぎて血の涙流しちゃいそうだよ……! あとその上に着ていたサンタの服ってつまり素肌の上だったんだよね!? なんかいい匂いしそうだし嗅いでいい!?」
「お褒めいただけたのは嬉しいけど嗅ぐのは駄目です! この前も似たような事言って私のジャージ吸ってコレっきりにしろって怒ったじゃないですか! 本当に気持ち悪いですね先生は!? 次はないですよもう!」
「……いっつもそういう感じで怒るのに最後はなあなあの対応してるから先生が殊更クイナに対してセクハラするんじゃないのかしら」
私が先生に怒っている横でヒナが何か言っていた気もするけどうまく聞こえなかった。
まああの様子なら先生への呆れた言葉だろうしいつも通りだろう。
「あらあらまあまあ、既に楽しそうな空気ですわね。特別な催しの食事には相応しい副菜ですね」
「どうも、とりあえず社長達に先んじて来たよ……って、二人共何その恰好」
「まったく、イブキがどうしてもと言わなければ空崎ヒナがいるパーティーになど死んでも来たくはなかったのだが……ん!?!? な、なんだその姿は……!? ハッ!? まさかお前自ら先生を籠絡するために!? キキキッ、おのれ侮れんな風紀委員長空崎ヒナよ……!」
先生の後に、更に他のメンバーがやって来る。ハルナちゃん、カヨコさん、マコトちゃんだ。
とりあえずゲヘナの知り合いに勢いで招待を送ったのだけれど、思ったよりみんな承諾してくれた。
「あっ、みんな! 今日はよろしくね。他の子はみんな後からかな?」
「よろしくお願いしますね。ええ、他の美食研究会のメンバーはもう少ししたら合流しますわ。今ちょうど素晴らしい食材を見つけたのでそこはお任せして私は約束のために一足先に」
「……大丈夫、モノ自体は普通に手に入るし社長達が見張ってるから多分風紀委員会に迷惑はかけないよ。……多分ね。ハルカとかムツキあたりが勢いで行動して社長が変なフラグ立てなければ多分」
「キキキッ、いかなる罠が待ち受けているとも知れぬ場所にイブキをほいほい連れて来るわけがないだろう。私自ら見なければと思ってな。……しかしまさかここまで手段を選ばないとはな。さてこの事実、どうしてくれようか……キキッ!」
「……………………ふう」
「ヒナ! 抑えて! いろいろと流れの結果で不可抗力だしここで怒ったらもう全部水の泡だから! だからそのお仕事モードフェイスはオフ! ねっ!?」
「ふふふふっ。うんうん、みんな楽しそうで何より。じゃ、食事を始めるのは全員揃ってからだね。それまでなんか時間潰しにゲームでもしようか? 一応ボードゲームとかカードゲームとか持ってきてみたけれど」
先生がにこやかな顔で持ってきていたカバンからいろいろと取り出した。
そこにみんな着目し集まってワイワイとしだす。
「……ヒナ、ありがとね」
「えっ?」
先生達からはちょっと離れた位置にいる私はそんな中で、こっそり隣にいるヒナに言った。
「こんな風に友達とワイワイするのって、小さい頃からずっと憧れだったんだ。ただあの頃は何もうまくいかなくて、“正解”とか“間違い”とかにこだわりを持っててさ。でもヒナとあのとき心からぶつかってから……またちょっと、考え方が変えられたんだ」
「……そうなのね」
私の突然な話にも嫌な顔一つせずにヒナは聞いてくれた。
彼女に尚更感謝を心の中でしつつも私は続ける。
「“正解”も“間違い”も結局は最後にならないと分からないけれど、その過程でどんなことを考えてどんな風に頑張ったか。それにも意味があるんじゃないかって、思えるようになったんだよね。私がヒナを信じられなくて、ヒナは私を信じすぎて、でもそれがこうしてうまくまとまったこの今を見ると、どう転ぶか分かんないよね、って」
「……確かにそうね。随分と遠回りしてしまったけれども、私とあなたはあそこで真の意味で親友になれた。そう思うし、それはそこまでの過程があったからこそだものね。どう転ぶか分からないのが人生と聞くけれど、本当にそうみたい」
ヒナはさっと髪をかき上げ、私に不敵な笑みを見せて言った。
とても綺麗で格好良くて、心が満たされる笑みだった。
「うん。きっとこれからも私達はいろいろあるんだと思うよ。それこそ大喧嘩もするかもだし、まったく予想外の事で大変な目にあうかもしれない。でもさ、何があっても私はヒナと親友でいるために、これからは一緒に頑張りたいんだ。付き合ってくれるかな? ヒナ」
「もちろんよ。卒業しても、大人になっても、おばあさんになったとしても、私はクイナとずっと親友でいたいから」
「あ、私もまったく同じ事思ってた! ふふふ……いいね、こういうの」
「そうね……いいわね」
私達はお互い微笑み合った。
とても心地の良い、そんな空気が二人だけの間で満たされる感覚があった。
「よーし、じゃあこれやろうか。学園ゲーム! キヴォトスで誰が一番の大金持ちになるかを競うボードゲームでこれがやっぱり鉄板かなって」
「このマコト様がこのゲームでもトップとなりキヴォトスを支配することで空崎ヒナに格の違いを教え込み先生にも私の偉大さを知ってもらおうではないか。それにイブキに自慢もできる……キキキッ、まさに私のためのゲームだな」
「ふむ、学園で財を成すのは簡単ではないですが……これもテーブルに並ぶ御馳走を美味しくいただくための下準備。勝利もまた、美食を促す美酒なのですから」
「……これしっかりやってたら多分決着が着く前にみんな来ると思うけれど……まあいいか。ほらヒナ、それにクイナ。二人もやるでしょ?」
カヨコさんが落ち着いた、でも楽しそうなのが伝わってくる様子で私達を誘ってくれた。
それに、私はニッコリとして返す。
「はい、もちろん! ねぇヒナ?」
「私も異論はないわ。……そこで調子に乗ってるマコトも黙らせないとだしね」
軽く頷いて、私達は既に準備を始めていた先生のところに向かった。
僅かな距離だったけれど、私とヒナは二人でギュッと手を繋いでみんなのところに歩みを進めていった。
空を舞う雛鳥と地を走る飛べない鳥。互いに生きる場所が違うはずだった私達は、今こうして比翼となれた。
この番外編三つでとりあえず本当に本作は終わりです。
最後までお付き合いくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。
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以下、オマケの別に読まなくてもいい興味ある人だけ向けのクイナの設定データ雑記。
ゲヘナ学園三年生
身長 159cm
趣味 映画・音楽鑑賞(映画は恋愛映画、音楽はシンガーソングライター系が好み)、コーヒーチェーン店通い
所属 無所属
髪色は暗い茶髪、前髪が一部垂れて顔にかかっているミディアムヘアー、瞳は明るい琥珀色、顔つきは優しい寄り。
服装は少し大きめのゲヘナ一般生徒の制服。
ヘイローは紫色の細い六角形。
使用武器は対戦車ライフル《シアターカーペンター》
モデルはWW2時にドイツが使用していた対戦車ライフル「ゾロターン S-18/100」の発展型である「ゾロターン S-18/1000」でこれを赤く塗装したイメージ。
ヒナと同じクラスの親友で普段は柔和で落ち着いているが溜め込みやすい子。
また先生に対しても強い好意を寄せている生徒で、先生から強めのセクハラ被害を受けているタイプでもある。
ゲーム的なイメージとしてはカリンをより高火力にして命中率を下げたピーキーな超高火力アタッカーという感じ。