例によって一人称や口調等は想像によって書いておりますが、どうかよろしくお願いします。
シリーズ物では無い作品は初めてですが、どうかお手柔らかに…
とある影に包まれた世界の、極夜に侵された街に悠々と聳え立つ、どの建物よりも高い尖塔。
その塔の螺旋階段に、白髪の少女が佇んでいた。
「目が見えるようになってから、身体も元気になったけれど…これも全部貴方のおかげなの?」
少女が独り言を呟くと、背後の影が白い光のように輝いて悪魔の姿を取る。
そして少女の独り言に答えるように、言葉を紡いだ。
「そうだ。我が其方の光となり、その命を繋ぎ止めている。
恐らくその影響で其方の身体は、人のそれとは大きく変わってしまったのだろう」
少女はその言葉を聞くと影の悪魔に少し微笑み、話を続けようと言葉を続ける。
「そう、なんだ…じゃあ貴方は私を助けてくれたのね、本当にありがとう…ございます。
ええっと、じゃあ、もう一つ質問…貴方は、どうして…私を助けてくれたの…?」
その言葉はどこか辿々しかったが、影の悪魔はそれを特に気にすることもなく少女の言葉に耳を傾けて、会話を続けた。
「それは、其方がこの塔にわざわざ訪れ、我に触れだからだ。病に侵された身体と光の宿らぬ瞳でこの塔を登り、光を望んだ。
我は其方を不憫に思い、手を貸したのだが…その時其方は我の事を『綺麗』だと称したのだ。
その時に我は今までに感じた事がないような感情を覚え、其方の為に出来る事はないだろうかと思い…光となる事を選んだ。
それが、其方の助けになったようで何よりだ」
その言葉を聞いた少女は面を食らったようにきょとんとして、すぐに頬を紅潮させてしまった。何故なら彼女は、このように直接的な好意を向けられるのは生まれて初めての出来事であったからだ。
更には盲目で病に侵されていた事から、そういったことを経験する事もなく命を散らすと思っていた。そんな彼女にとって好意を持って接した上でその命を繋ぎ止めてくれる存在が、その事を伝えてくれたのだ。
彼女にとっては予想すら出来ない事態であり、驚きと行為に対しての嬉しさと恥ずかしさが顔に出てしまった。
その事を不思議に思った影の悪魔は、少女がまだ身体に馴染めずに体調を崩してしまったのだと思い、心配するような声色で尋ねた。
「頬が紅潮しているが…どこか具合でも悪いのだろうか…? 寝具のある部屋へ連れて行くので、そこで休むといい」
そう言うと少女と影の悪魔は一瞬で塔の中の寝室へと移動していた。
少女はまた驚きつつも、影の悪魔が自分を気遣ってくれている事に感謝の意を伝えなければと思い、深呼吸をしてから話し始めた。
「あの…その…私の事を気遣ってくれて、ありがとうございます…
でもっ、体調が悪い訳じゃなくて…その身体は今までと比べると信じられないくらい元気で…えぇっと、これは…多分っ、病気は病気でも…
恋の病、って物だと思うの…
つまり私は…貴方に、恋をしてしまったのかも…」
少女は、感謝の言葉と共に自分の今の体調…と言うより頬を紅潮させたであろう理由を影の悪魔に伝えた。
その理由を聞いて、悪魔は少女と初めて出会った時のように困惑してしまった。彼女の瞳はその時と同じような光を宿し、紅潮する頬も相俟ってその考察は恐らく事実なのだろうと悪魔も思案を巡らせた。
だが、悪魔には懸念する事があった。それはいくら命を繋ぎ止めているとはいえ、異形の存在であろう自分が少女に愛される事は正解なのだろうかという事である。
しかも彼女の発言からして、今抱いている感情が恋愛的な物かどうかは本人も断定出来ない程に曖昧な物であるようだ。
それ故に、少女の気持ちに応える事は自分には出来ないと結論付けた。全ては彼女を傷つけない為に、その想いに応える訳にはいかないと…
「そうか…だが、己でも曖昧な気持ちであるならば、その想いは胸にしまっておいた方が良いだろう。
既に我は其方と一心同体とも差し支えない身なれど、元は異形の存在…人々に噂話とやらで呼ばれる通りの悪魔そのものだ。人であった其方の想いに応える事は出来ないと判断する」
悪魔の言葉を聞いた少女は、不思議そうな顔をしながら悪魔に尋ねる。
「…? どうして悪魔は人と恋愛をしてはいけないの? 貴方はとても綺麗な姿をしているのに…
それに…一心同体というなら、離れ離れになれないでしょうから、恋愛関係で無くとも仲良くしなければいけないはず…そうなったら、気まずくなる様な事はダメだと思うの…」
その質問の中で、少女が初めてこちらを認識した時と同じように、自分の事を綺麗な姿と称した事を悪魔は不思議に思ったが、すぐに合点がいった。恐らく少女の盲目は生まれついての事であり、見た目による美醜の判断がつかないのだろうと。
それ故に彼女が初めて見た自分の事を綺麗、美しいと感じてしまったのだと…
その事を踏まえると、自分の発言は彼女からすれば疑問に思う事は必然であったのだ。
更に一心同体である事でもこちらに意見を返されたので、悪魔はもう観念するしかなかった。
「ふむ…そう言われると、確かに其方の発言は尤もだな。
隠し事も出来ぬ距離である我らに柵を作るのも良い事では無いだろう…それに我らは一心同体なのだ、恋人なんぞよりも深い関係と言える。
故に我の判断は最初から間違っていたのだろうな…」
悪魔は諦めたかの様に、だが何処か安堵した様な気持ちで少女の疑問に答える。
何故なら悪魔も、少女と同じく一心同体の相手に恋焦がれる様な想いを抱いてしまった事に気づいたのだ。
そして悪魔は間髪を入れずに、こう少女に尋ねる。
「ところで、其方は恋人同士でする事は何か知っているだろうか…?
我はこの塔に縛られた身故、そういった事柄には疎いのだ」
その質問を聞いた少女は、顔を先程よりも赤らめつつも、困った表情でこう答えた。
「うぅ…えっと、その…ごめんなさい…私もそういう事には疎くて…
抱き合ったり、キスしたり…スキンシップをするものらしいとは聞いた事があるのだけれど…それに一心同体って事は、結婚したも同然と考えれば…でも、それはまだ…出会ったばかりの私達には…」
不治の病に侵されていた彼女もまた、恋愛についてはあまり知る機会はなかったのか曖昧な答えを返すしかなかった。
その答えを聞いて悪魔は何も言わずに翼のような物を折りたたんで、彼女を包み込んだ。
「!? あの、これは…急にどうして…?」
突然の行動に少女は戸惑いを隠せず、悪魔へと問いかける。すると悪魔はすぐに答えてくれた。
「これが…我が今其方にできる、恋人らしい行為だ。驚かせてしまっただろうか…?」
その答えを聞いて少女は、悪魔と初めて邂逅したあの時のように瞳を輝かせて、顔の横の悪魔の瞳のような赤い物を見つめながら話し始めた。
「確かに驚いてしまったけれど…凄く嬉しい…これで私と貴方は、正真正銘の一心同体になれた気がする…!
それに初めて会ったあの時のように、貴方は優しくて温かくて…綺麗…!」
悪魔にそう告げる彼女の瞳もまた、初めて会った時と同じように輝いている…と悪魔は思うのであった。
影が演じる、光なき影の物語。
この一時のやり取りも、その物語の一部とならんことを…
ア=バオ・ア・クゥーちゃんの話が書いてみたくなったので書いてみましたが…書き方が今までとは違うので上手く出来てるといいのですが…
彼女達の話そのものは、今回の短編以外で書く予定は今の所ありませんが、他の作品に登場する時にこの話の設定を反映させる可能性はありますので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。