百鬼姫を闇落ちさせたかっただけの話(旧題:忘却の灯火) 作:you are not
漆黒の瘴気が空間を真っ黒に覆い尽くす。
百鬼姫はその中心に立ち、両腕を天に掲げた。
「邪魔を‥‥するなぁぁ!!」
その瞬間、地面が割れ、黒炎の柱が天へと昇るように降り注ぐ――まるで地獄の業火が人間界に顕現したかのような、破壊的な大技。
「ぐっ‥‥まずい」
すかさず、ゴルニャンが仲間を守るために大きく腕を構えた。ジバニャン、キュウビ、はその後ろへと固まり、ゴルニャンの背を支え、一つの壁となって瘴気の直撃を受け止める。影オロチとぜっこう蝶もまたその背後に立ち、攻撃を防いでいる皆を、できるだけ回復させていた。
「隙ありダニィ!!」
USAピョンはヘルメット上部にあるボタンを押して、エンペラーモードへと変身し、百鬼姫を正確に狙い撃ちする。そのおかげで瘴気が止めることができた。
「あとは‥‥任せる‥‥ダニ‥‥よ」
しかし、USAピョンはもろに瘴気の衝撃を受けてしまい、その場に倒れてしまう。
USAピョンだけではない、その場にいた皆が満身創痍だった。ほとんどの妖怪がその場に伏し、中には絶命した者もいるだろう。かろうじて、闘志を失っていないのは、ジバニャン、キュウビ、影オロチの三人だけだった。ゴルニャンは三人だけでも守ろうと、身を挺し、ぜっこう蝶は彼らを出来るだけ回復させて力を使い果たしてしまった。
「はぁ‥はぁ‥まだ、戦えるかい?ジバニャン?」
「こっちのセリフニャン」
「無駄口‥‥叩けるだけ、余裕そうだな」
かといって、彼らも無傷ではない。ぜっこう蝶によって回復したとはいえ、消耗は激しかった。
「しぶとい。消えろ」
だが百鬼姫はためらわなかった。再び空気が濁り、大技を構える。彼女の頭上で瘴気が渦巻き、さらに大きな破滅の気配を帯びていく。
「させないよ!」
「合わせるニャンよ!」
「どんどろ以来だな!」
だが、同じ轍を踏むほど、彼らは弱くない。なぜなら、天野ケータと共に長年にわたり戦ってきたのだ。イカカモネ議長、トキヲ・ウバウネ、ゴゴゴゴットファーザー、そしてどんどろにあやとりさま。名だたる強敵たちを倒した、彼らにとって、この程度の逆境で負けるほど、落ちぶれてはいないのだ!
【紅蓮地獄!】
キュウビの炎が、百鬼姫を包む黒い霧を焼き尽くし、守りを突破する。
【影流やまたのおろち!】
影オロチの龍のマフラーが、噛みつき、動きを封じる。
【ひゃくれつ肉球!】
そしてジバニャンの肉球の殴打が全て百鬼姫に集約し、襲い掛かる。かつて運命を操る仏の如き大妖怪すら打ち負かしたその技は、厄災の大妖怪と化した、百鬼姫すら打ち破ってみせた。
「ぐっ、がっぁ‥‥!」
瘴気の渦が切り裂かれ、百鬼姫の腕が止まる。彼女はうめき声を漏らし、怯んで構えを崩す。
「小賢しい真似を‼」
百鬼姫の低い声には不敵さが混じっていた。しかし、その目にはほんの一瞬、動揺の光が見えた。
「なんとか、なった‥‥ニャンね」
「だけど、次は‥‥どうする‥‥つもりだい?」
キュウビが地面に膝をつきながらも、視線を上げて言う。
「奥の手は‥‥もう‥‥ないぞ?」
「ガッツがあるニャン」
「それで‥‥どうにかなるなら‥‥もうなってるよ」
仲間たちは大きく息を吸い込むが、体は限界の振動を続けていた。傷にまみれ、魂まで削られたような疲労感が全身を襲う。
その時、闇をきり裂くように、ご神木が水色に輝く。その場の全員がその方を見ると、妖魔界に繋がるエレベーターが光りを放ち、白と青の霊気の渦の中から姿を現した。
「すいません皆さん。遅くなりましたでうぃす」
「ウィスパー!」
ジバニャンが、久方ぶりに見た友の姿に、疲れを忘れて喜びを発する。
その隣には、ゆったりとした足取りで、しかし圧倒的な存在感を持つ――エンマ大王が立っていた。今だ少年の風貌だったが、その覇気は、夜の帳に溶けることなく、輝きを放っていた。
「待たせたな、みんな。俺が来た」
エンマ大王の声は低く、それでいて場の全てを掌握する力があった。その空気と気配に、百鬼姫は真っ黒に染まった双眸でにらみつける。しかし、エンマ大王はどこ吹く風で、全く異に返さなかった。
「百鬼姫。お前の苦しみは理解できる。でもな‥‥」
エンマ大王は、手に持っていた赤と金色の剣『エンマブレード』の切先を百鬼姫に向ける。
「だからと言って、お前の暴走を許すわけにはいかない」
【ドリームリンク!】
ドリームウォッチをエンマブレードにセットし、一枚の妖怪メダルをセットする。
【フウ2!】
「はぁ!」
エンマブレードが妖力を帯びて火花を散らす。エンマ大王の剣先から放たれた一撃が、百鬼姫の胸に深く突き刺さった。
「ぐ……っ!」
百鬼姫は嗚咽をあげ、漆黒の瘴気が断裂するように乱れた。
(なんじゃ、この感覚‥‥どこか、懐かしい?)
そんな動揺している間に、ウィスパーは石のようなカプセルを両手に構えた。瞬間、瘴気がカプセルに吸い込まれる。フウ2の力によって弱体化した百鬼姫は、なすすべなくプセルの内部へと吸い込まれていく。
霧が晴れ、世界が静止したかのような一瞬。
――パチン
カプセルは閉じられ、妖気を封じ込めた音が響いた。
「封印、できました」
ウィスパーは力なく、答える。
「そうか。」
エンマ大王は、一切の崩れも見せずに静かに剣を収めた。その表情は、暗いものだった。ウィスパーはとぼとぼと、ジバニャンたちに声をかけた。
「みんな、大丈夫でうぃすか……?」
ジバニャン、キュウビ、影オロチは傷だらけながらも少しずつ起き上がり、手を繋ぐように支え合った。傷ついた身体の中、それでも心が確かに繋がっている感覚があった。しかしどこか、ピースがかけたような感覚が残った。
「百鬼姫は、大勢の妖怪を殺害した。そして、人間すらも虐殺しようとした。その罪を許すわけにはいかない。おおもり山に封印する」
そして視線をジバニャンたちへと向けて、諭すようにあやすように宣言した。
「もう、百鬼姫は帰ってこないニャンか?」
「いつか、戻ってくるかもしれないな。」
そんな、慰めにすらならない言葉だけがその場に残った。
[newpage]
封印が完了してから数年の月日がたった。桜町には夜明けの光が戻ってきており、人々はまるで夢を見ていたかのように、事件を忘れて行った。
(何だろう?あの夢?)
天野ケータは自室で着替えながら、昨夜、自分に語り掛ける女性の声の正体を考えていた。どこか、他人の気がしなかった。しかし、誰だったかな?
「‥‥?」
ケータは自分の目をさする。濡れていた。きっと、泣いていたのだろう。時々あるのだ。訳もなく、悲しくなり、涙を流してしまう時が。それは決まって、ある女性が関わるときだ。
『ケータ。約束じゃ必ずまた会おう』
「っ!?」
ケータは突然、亀のように丸まってうずくまってしまう。頭を抱えて、先ほど脳裏に浮かんだ光景を必死に追いかける。そうだ、何かを忘れている気がする。でも、思い出せない。名前も、過ごした時間も、好物も。
それでも――
「大丈夫?あなた?」
声をかけられ、顔を上げると、妻の文香が不安そうにこちらを見ていた。
「‥‥大丈夫だよ。文香」
そう言って立ち上がり、平静を装うために笑顔を浮かべる。
「そう?なら、良いんだけど‥‥しっかりしてよね?パパになるんだから?」
そう言って、文香はお腹を撫でる。わずかに膨らんだ腹には、生命の神秘を感じさせた。
「うん、子供の為にも頑張らなきゃね」
そう言って、天野ケータは悲しそうな顔をした。名も知らぬ彼女を頭の隅に追いやった。しかし、ドーナツの穴のようにぽっかりと開いた虚無感だけが確かに、はっきりと残り続け、彼をむしばみ続けた。