魔法使い♯ちゃんの世界最適化計画   作:ざし

57 / 57
諸刃(ファルマコン)(その7)__疑念

***

 

 

つづら折りの暗い下り階段を父親の背に乗って降りていきながら、♯は薄っすらとした()()を抱いていた。

 

この襲撃は、屋敷の最も高い尖塔が初撃で破壊されるところから始まった。同時に遠距離砲撃によって単騎最大戦力は屋敷から引きはがされた。入念な遠距離砲撃から間髪を置かずに地上部隊が投入され、その中には”無敵の”生物もふくまれていた。

 

これらの事実から、この襲撃全体が入念に()()()()()()()だという事が分かる。

 

そして、襲撃のここまでのフェーズにおける目的も、ある程度までは♯は推測することが出来た。確信できるほどとまではいかないが、それなりに説得力のある説明ができるであろう仮説を思いつくことができた。

 

これまで実行されてきた襲撃内容はどれも非常に有効な一撃でありながら、けれど対処不可能なほど()()()()()()ではなかった。もし仮に、母親が屋敷から離れた直後に数百人規模からなる武装部隊による包囲殲滅が始まっていたら♯達はその瞬間に詰んでいただろう。長距離砲撃が複数個所から同時に絶え間なく降り注いでいたとしても、同様に即座に詰んでいた。詰みへと繋がる選択肢はほかにも大量に思いつくことができる。

 

けれど襲撃者はそうせず、防衛拠点の要である尖塔()()を破壊し、遠距離砲撃拠点を一か所()()にまとめ、数人の襲撃者と一匹の竜()()を投入した。ウィッケンハイザー家はこれらの問題と対峙し、そしてギリギリのところでこれらを食い止めることが出来たにすぎない。結果として単騎最大戦力は屋敷から離れ、霧の竜は♯の発想力によって討伐され、当主とその跡継ぎは屋敷内で最も籠城に適した場所へ移動した。

 

つまり、()()()()が襲撃者の目的だったのではないか?

 

彼らは即座に詰ませるの()()()()、防衛側に強制手を取らせ続けることで()()()()()()()()()()目的だったのではないか?

 

__暗闇の中を父親と女性騎士が降りていくコツコツとした足音にまざり、時折女性騎士の光球魔法の詠唱が響いては消えていく。光球は静止した対象にしか唱えられないため、階段を折り返すたび唱えなおさなければならない。光球は父親の足元に現れてはなめらかな革靴を純白に照らし、そして父親の足音と共に斜め上へと遠ざかっていく。__

 

もし、襲撃者のこれまでの目的が()()()()()()()を作り出すことだとしたら。♯の仮説をひとまず正しいものだと置くとしたら。

 

()()次に考えるべきことは、()()彼らがこの状況を作り出そうとしたのか。彼らは()()()()()()()()にこうしたのか、ということ。

 

単に、地下に毒ガスなどを流し込んで重要人物を確実に無傷で殺害することが目的ではないはずだ。(と信じたい。)

 

彼らの目的は即座に詰ませることではなく意図的に盤面を誘導することである、という仮説を前提に進めている以上、より複雑で高難度な()()が最終的な目的であると判断するのはナンセンスに思える。それは彼らが愚かであるという前提を採用した推論でしかないように見える。

彼らが愚かであることを前提にした瞬間に、推測は成立しなくなる。だからここでは彼らが知性的な敵だと仮定して進めなければならない。

 

襲撃者を知性的と置くのなら、その目的はなんらかの合理的な意図から出発するものであるはずだ。少なくともその目的は不可解で曖昧なものではなく、多少の理解可能性が維持されているものであるだろうと考えられる。

 

♯がこの瞬間に思いつくことのできる仮説はいくつかある。一つ目はやはり、()()()()を目的としている場合。襲撃者が領地の核の正確な位置を知らない場合であれば、こちらを案内役として使おうと考える可能性はないこともない。が、手間をかけずとも当主を捕らえて位置を吐かせればいいという反論も同時に思いつく。この仮説は一見もっともらしく思えるが、けれど()()()()()()()()()()()()()()

 

その仮説の一部を引き継いで次に思いつくことは、そもそも()を目的としている場合。つまり、当主本人や跡継ぎの身柄を狙っているのではないか、ということ。これは彼らが即座に詰ませる手段を選ばないことの説明として一番素直な仮説に感じられる。人間の身柄を目的としている時に手荒な方法は選びにくい。

 

そして♯は、この仮説にわずかな引っかかりを覚えた。爪の先が微かになにかに触れているような感覚。

 

__()()()()()()()()()()__

 

♯は脳内の混濁した言語プールから、まるで尾びれの先だけが揺らめくようにして一瞬視界に現れたその文章をじっと反復した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

彼らには()()がある。そしてそれは()()()()()()()。彼らは同じ目的を共有し、それを念頭に行動している。彼らの背後にはなんらかの大きな目的がある。

 

♯の仮説は多少の飛躍をものともせず進む。

 

()()()()()()()。それはあるいは、()()()目的だったりはしないか?その特定の個人が襲撃を指揮しているという可能性はないか?

 

そして個人として♯が真っ先に思い浮かべるのは、あの()()()()()という老人のこと。♯は彼と10分ほどしか会話をしていないが、あの老人との間の謎めいた問答をときどき思い出してはなにを示唆しようとしていたのかを考えていた。

 

彼は問答の中で、()()()()なんらかの彼固有の目的があることを示唆していた。しかしその内容までは分からない。

 

けれど、その中でもほとんど確信に近い確度で言えることが()()()()()ある。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ここで、ふたつの仮説が合流する。

 

教祖ジョンレンは、観察と推測能力で♯を圧倒するほど知性的な人間だった。彼は組織の単独の最上位者としての地位を持ち、統一の取れた部下を持っていた。彼は襲撃の直前に屋敷へ訪れ、外観や内部構造を詳細に観察する事が出来た。ウィッケンハイザー邸の観察という目的を露骨に明かす事さえした。そして、襲撃は綿密な計画によって運行され、屋敷内の重要人物を生存させることも計画の一部にあった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

__父親の足音が反響を含まないより硬質な音に変化する。階段を降り切った父親はそこにあった扉を開き、奥へと進んでいく。続けて扉をくぐった女性騎士が僅かに感嘆の息を吐き、そしてわずかに遅れて詠唱を始める。光球はふたたび床に設置されるが、細い直線の通路のためそれひとつで奥まで楽に見通せる。父親はわずかに咳ばらいをし、♯を抱えなおしてから最奥の扉に向かう。__

 

ここまでは。

 

ここまでは、推論はおおむね正しい方向に進んでいると♯は判断していた。多少の発想の飛躍がある部分もあるが、全体として問題のある仮説であるとは考えにくかった。

 

ここまでは、()()()()()()()()()()()

 

教祖ジョンレンがこの襲撃の指揮を取っていると仮定した場合、()()()()()注目せざるを得ない事実がもうひとつある。♯は無意識にこの事実について検討する事を先延ばしにしていたが、ことここに来てしまっては思考の俎上に乗せなければならない。

 

()()()() ()()()()()()()()()

 

遥か北から山脈を越えてここへ来た、年齢の割に大人びた仕草の多い少女。卓越した魔法行使技能と戦場での判断能力は年齢平均を軽々と越え、いずれは上位層へ歩みを進めるであろう実力者。待ち合わせに遅れる癖だけは治りにくいようだが、その他の勤務態度は優良で勤勉であり、上司や周囲の人間からの信頼もあつい。

そして、幼いころに親と妹を亡くした、病災孤児。

 

教祖ジョンレンに関連する人物を♯がリストアップした場合、一番初めに名前をあげるであろう人物。彼に関連し、そしてシャロン・P・ウィッケンハイザーに非常に近い位置におかれた人物。

 

護衛として♯にとって非常に都合のいい人物。ともすれば、()()()()()()()人物。♯のために身を挺してかばい、耳が痛くなるほど怒鳴りつけ、大声で泣き叫び、そしてつよくつよく抱擁を交わした人物。

 

女性騎士 エリン・ウリツカヤ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

***

 

 

最奥の扉を開き入ると、前回と変わらず巨大なモノリスが部屋の中央に鎮座している。その巨大な岩から半径数メートルほどの範囲の床を金属板が占め、そこに刻まれた微細な紋様を更に細い光線がソナーの表示のように回転している。

 

自身の鼓動が物理的な音として聞こえそうなほどの無音の空間。父親は歩みを進め、そして広域結界のモニターのための台座付近で♯をゆっくりと降ろした。同時に台座の周囲の装飾に見えた金属棒をいくつか外し、(松明の影になるであろう)壁にあいた細い横穴に差し込んでいく。差し込むたびに特有の重低音が響き、なんらかの物理的な機構が動作したことを伝えてくる。

 

♯は、それらを観察しながら、心拍数を抑えるために息をおちつけた。女性騎士が()()()()()()()()

 

「お父様、手伝えることはありますか?」♯は振り向かない。自然に見える形で杖を取り出し、ほんのりと父親に寄っていく。

 

「いや。適切な順番でないと動かないから、今は一旦平気かな。」父親は♯に一瞬目を向けたが、台座から装飾を外す作業へ戻った。

 

♯はもう一度息をはいた。「そうですか、分かりました。」そして自身の右手と、そこに握られた短杖をみつめる。()()()()()()()()()()()()()()

 

女性騎士に疑わしい部分があることは事実だ。そして♯はその疑念を直接質問して晴らしたい。♯の思い過ごしでしかなく、なんの裏の動機もないと()()()()。彼女の的確な反論によって納得し、もとの状態へ戻りたい。♯の感情的な部分は彼女を疑わしいとおくことにすら苦悩し、呼吸を乱そうとしていた。

 

けれど、今この瞬間に女性騎士に()()()()()()()()()()()()()()を伝えることは出来ない。()()()()()()()()()()()()()。父親と♯の二人と、女性騎士の間には歴然とした戦力差がある。♯は人を無力化する魔法をひとつも知らず、父親も♯とさほど変わらない。戦闘による解決の選択肢は選べず、逃走手段すら存在しない。卓越した魔法使いは、未熟な魔法使いにとって絶望的なまでに強力な敵となりえる。

 

♯は振り向いた。そして女性騎士がいるであろう方向に視界を向けて、真剣な表情を維持しながら口を開いた。「エリンさん。なにかしておくべきことってありますか?」女性騎士の表情を確認する事はしない。ただ平常さだけを意識する。

 

 

そして____

 

 

____無言が広がる。

 

 

♯は、やっとの思いで女性騎士と視線をあわせた。

 

見ると、彼女は。薄く、悲しそうにわらっていた。

 

「___」

 

その声をかき消すように、部屋全体を轟音が襲った。

 

 

***

 




遅くなりました。

次話も来週更新は難しいかもしれません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TS転生したら人類の敵だった(作者:生しょうゆ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

私の名前は伊藤桜。前世の記憶がある女子高生!▼そんな私はある日、自分の家族を惨殺し、この世界に原作があることを知ったのだった。▼この作品はカクヨムにも投稿しています。


総合評価:5553/評価:8.41/連載:29話/更新日時:2026年06月11日(木) 01:42 小説情報

マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~(作者:メスキャン界隈)(オリジナル現代/コメディ)

客がろくに来ないような喫茶店を経営していると、バイトのJKに「このままだとお店潰れちゃいますよ~」って言うノリで、ひたすら変な概念をぶつけられ続ける話▼催眠アプリ会社とかメス堕ちキャンセラーってなんだよ


総合評価:1804/評価:8.6/連載:12話/更新日時:2026年09月08日(火) 07:03 小説情報

TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが(作者:つる植物)(オリジナル現代/戦記)

 TS転生した先は魔法少女が異形の魔物と戦う世界だった。▼ 孤児だった俺に魔法少女の適正があったので魔法少女になった。▼ しかもなんか魔物を適当に斬っていたらSクラスの1位になっちゃった。▼ 同期の2位は俺を殺しに掛かってくるし、他のSランク頭の可笑しい奴らばかり。▼ 一般人の俺は今日も魔物をたたっ斬るのであった。▼ 


総合評価:5018/評価:8.37/連載:20話/更新日時:2026年07月14日(火) 15:00 小説情報

いや、死神とか聞いてないし(作者:おおは)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

死神少女にTS転生してしまった一般人。▼本人はただの下っ端役職だと思っている。▼だがそんなはずもなく。▼9月一日更新です。遅くなります。▼(カクヨムにも載せてます)


総合評価:3886/評価:7.89/連載:12話/更新日時:2026年09月01日(火) 20:34 小説情報

TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ(作者:SIS)(オリジナル現代/ホラー)

SAN値直葬系マスコットとそれを心から愛する転生者(正気)の日常。▼※序盤とタイトルを書き直しました。▼気分転換に書いた作品を投稿欲を満たすために投稿してみます。▼続き書いたら増えます。


総合評価:3338/評価:8.51/完結:57話/更新日時:2026年08月29日(土) 17:38 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>