Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
太陽が深く信仰と結びついているアステカ。
それを源流とする隠し祭壇の存在する場所としてふさわしい、吹き抜けのように空が見える大空洞の中。
神聖な空気すら感じられる雰囲気の中に似つかわしくないファンシーなナマモノを、とりあえず横に置く。
祭壇となっている一段高い場所に坐するのは、強大な力に呑まれている人影だ。
アレが件の魔術師なんだろうが……。
「完全に取り込まれているな、あれは」
俺と同じく、とりあえずジャガーマンを意識の外に置くことにしたらしいエミヤが俺の横にやってきて言う。
そんなエミヤに肩を竦めて返した。
「介入で儀式を失敗したというのもあるだろうが、完遂できていたとしてうまくいったかは疑問だな」
ティーネの弟君と思しき少年は、壁際の少し離れた位置でうずくまっている。
それに気づいたティーネがそちらに駆けだした。
俺達が現れたからか、神霊の力を纏った魔術師は動きを止めている。
だが、あんな存在がいる場所で迷わず駆け出すのか。
ちゃんとお姉ちゃんをやってるんだな。
思わず口もとに笑みが浮かぶ。
魔術師の動きに気を配りつつ、俺もまた少年の方へ足早に歩み寄った。
途中、恐らくは少年のものと思われる、ヒーローのフィギュアを拾う。
――――この世界線のティーネの部族は、子供がこんなものを買って遊べる程度には平和な時間をすごせていたわけか。
床に落ちていたフィギュアには踏まれたような土の汚れがついていた。
それを取り出したハンカチで丁寧に拭った。
この世界で子供の頃に見た覚えがあるヒーローであった。
こっちで再放送でもされていたんだろう。
――――そして、あの魔術師は、こんなささやかな平和を、文字通り踏みにじったわけだな?
冷え切った内心を隠して、抱き合って喜ぶ二人の横に膝をついた。
少年の目元に、泣いたような跡はない。
それでも姉に抱きしめられてもなお、震えの収まらない少年の頭を優しく撫でた。
「泣かなかったのか。勇敢だな」
なるべく優しく言って、ヒーローのフィギュアを渡す。
少年はそれを大事そうに抱え込んで、こちらを見上げた。
拭いきれない恐怖の中、それでも不器用に笑顔を浮かべて強がって見せた少年の顔を見て俺は心を決める。
少し遅れてついてきていたエミヤと、その周囲を妙に煽る様にうろちょろしているジャガーマンに振り返った。
あの様子だと、魔術師にはもうまともな自我は残ってなさそうだが。
それでも奴は、俺の敵だ。
「悪いが、譲ってもらうぞ。アステカの神々には本人の要望だと言ってくれていい」
思った以上に低い声が出た。
ジャガーマンはぶるっと身震いした後で、少し顔を青くしてどーぞどーぞとジェスチャーで返してきた。
やってみせている程は恐れてもいないだろうに、付き合いの良いことである。
その証拠にコロッと表情を変えてサムズアップ。
「ヤッチマイナ☆」
まっこと、ふざけたヤツである。
だがお陰で少し頭が冷えた。
「二人を頼む」
二人の守りをジャガーマンに任せてゆっくりと、神の力を纏った魔術師へ歩き出す。
その横にエミヤが並んできた。
「で、どう攻める。本来であれば神の力とは言え魔術師が器ではたかが知れたものだが……」
歩きながら軽く頷いて返す。
「そうだな。よっぽど相性が良かったのか、推定でサーヴァント上位クラスってところか」
通常空間でましてや広いとはいえこんな閉じた空間で、護るべき相手もいる。
あまり大きな力は使えない。
使えるのはイーリアスあたりまでだろう。
だがまあ、力に呑まれてそれを振り回すだけの手合いには十分だ。
だから考えるべきは別にある。
「それでもギルガメッシュほどじゃあない。俺とお前なら、あの程度どうとでもなるさ。でもな、神の力に呑まれる程度の魔術師の所為で、あんな勇敢な少年の心につまらない傷が残るのは不愉快だと思わないか?」
俺の言葉に、エミヤがニヤリと笑う。
「どちらも同感だが、何をするつもりだ?」
サプライズの為に少年には聞こえないように念のため軽く耳打ちをして、企みを伝える。
エミヤが噴き出し、しばし笑ってから楽しそうに聞いてきた。
「俺が赤い方で良いのか?」
お互いの服を指さした俺に、なるほどと納得を返すエミヤ。
俺の服は黒を基調としたもので、エミヤのそれは赤を基調としている。
「で、どうする。乗るか?」
俺が改めて確認をとれば、エミヤは楽しそうに手で催促してきたので、チート由来のアバターアイテムを渡した。
ベルトの形をしたそれをかっこよく身に着けて、エミヤは笑みを浮かべたまま言った。
「この状況だぞ? 乗るに決まっているだろう!」
OK。
そう言ってくれると思ってたぞ。
「そっちこそ、しくじるなよ?」
こっちを揶揄うように告げられた言葉に俺も一時、腹の底の怒りを忘れて思わず笑う。
言ってくれるじゃないか。
「舐めるなよ。こいつは元男の子の嗜みってもんだ。体に沁みついてるからしくじりようがない」
笑って言って返し、魔術師とある程度の距離がある場所で二人立ち止まった。
俺はアバターアイテムではなくイーリアスの偽装能力を応用して、ベルトを腰もとに。
息を合わせてかつての少年の心を呼び起こし、一つの間違いもなくそのヒーローお決まりの変身モーションを執行して。
二人同時に叫んだ。
『変身!』
少年の持っていたフィギュアのヒーローとその相棒ポジションのヒーローに変身した俺達を見て、笑うジャガーマンに歓声を上げる少年。
また思考停止したティーネにはちょっと悪いことをしたかもしれないが。
さあ、勇敢な少年の為に特別ヒーローショーを始めようじゃないか。
名を得られなかった神の力を得ようなんてくだらない企みを潰すというのならば。
名は広く知られども世界に存在しない架空のヒーローの姿をもってするなんて言うのは、実に皮肉の利いた似合いのやり方だろうさ。
二人同時に弾けたように別々の方向に走り出す。
こちらの戦意に反応したのか、魔術師もまた攻撃を再開してきた。
一発一発は確かに重い。
だが、力の使い方がなっちゃいない。
片手のエクスカリバーで直撃弾だけ切って散らし、もう片手のエクスカリバーの射撃モードで相手に攻撃を仕掛ける。
こちらの射撃は動こうともしない魔術師にそのまま直撃したが、相手の纏う力が障壁となってまともに届かなかった。
「通常の射撃では守りを抜けないか」
曲がりなりにも神霊の力というわけだな。
俺とは逆方向から攻撃を仕掛けているエミヤの矢も届いていない。
しかし、わざわざ弓のデザインをヒーローの使っていたやつに合わせているあたり、ノリノリだな。
「射撃で駄目なら、次は近接と行こうか!」
一気に踏み込み距離を詰めて、二刀で切りつける。
流石に棒立ちのままで受けるのは無理があったのか軽く手を振って高密度の魔力で迎撃してきた。
なるほど。
この攻撃なら、アクションが必要な程度の守りなわけだな?
ヘルメット越しに、エミヤへと視線を送る。
軽く頷いたエミヤが、投影宝具フルンディングによる攻撃を交ぜ始めた。
こちらは相手に張り付き、相手からの攻撃を捌きながら投影宝具の攻撃に意識がそれた瞬間に何度が有効打を入れた。
が、しかし。
「さすがに、そう簡単に済むとは思わなかったがな」
ぼやく様なエミヤの声の通りに、傷ついた傍から即座に復元していく魔術師の体。
使いこなせてこそいないが、力の総量は膨大と言って良い。
その力が、この世界に在る為の楔になっている魔術師の肉体の破壊を許さないといったところか。
真っ向勝負で削るのは骨が折れそうだし、下手にバランスを崩すと膨大な力がどんな反応を起こすか分からない。
戦闘の間中、フルで動かしていた義眼での解析を元に詰め筋を組み立てる。
『位置にして、丹田にあたるあたり。そこが核だ』
戦闘を続けながらエミヤに念話を飛ばす。
『了解した。どちらが決める?』
『流れ次第で、詰めに届いたほうで』
頷いてエミヤがいったん大きく距離をとった。
高まる魔力。
魔術師がそちらに反応するが、二刀による攻撃の圧力を高めて釘付けにする。
「
真名解放と共に矢として投影宝具が放たれた。
タイミングを合わせて魔術師の体勢を崩して距離をとる。
魔術師を捉えたかに思われた一撃はしかし、護りに全力を費やしかろうじて逸らされた。
残心の姿勢を見せる一見無防備なエミヤに反撃を放とうとしていた魔術師に対し、当のエミヤは不敵に笑う。
「凌いだ、と、安堵したな?」
エミヤのその言葉に動きが鈍ったのは、いかにも人間らしい反射であった。
魔術師は自我を完全に飲まれていたようだが、神霊の力もまた魔術師の影響から無縁ではいられなかったようである。
ほとんど無色の力という話だったからある意味では当然か。
最早、人とも神ともいえない成りそこないが今目の前にいるモノである。
儀式を完遂し、しばしの時間が持てたならばあるいは何かになれていたのかもしれない。
しかし、それは存在しない未来の話である。
「憐れとは言うまい。お前は己の欲望のために他者のささやかな平穏を踏みにじった。その代償、しっかりと受け取れ!」
これは言ってしまえばごっこ遊びで、俺は所詮は本物のヒーローではない。
だから世界のどこへだって倒しに行くだなんて言わないが。
それでも俺の目の前でそれをやるなら、それはもう倒すしかないだろう?
右腕にヒーローのデザインに寄せた偽装を施したホロウ・ピアッサーを呼び出し、虚を突かれて一瞬の隙を晒す魔術師のその刹那に差し込んだ。
狙いたがわず丹田へ杭を押し込み撃鉄が落ちて、爆発的な勢いで打ち出された杭がその護りを貫いた。
衝撃波が魔術師を突き抜けて奔り、床に大きな亀裂を残す。
魔術師を覆っていた力は解けていき、同時に過大な力に浸されていた体は灰となって崩れ去った。
その後の話をしよう。
まず、ジャガーマン。
本人は俺たちについてくる気満々だったようだが、事が済んですぐに送還が始まった。
「絶対迷惑になるから、帰ってこい!? 半ば無理やり送り込んでおいて何たる無体!?」
何かぎにゃーと喚いていたが、そっと目を逸らしておいた。
わざわざ逸らした目線の方に割り込んでからサムズアップして消えていくあたり、ホントにジャガーマンだった。
「あいるびーばっく!」
少年は目をキラキラさせて俺とエミヤに終始まとわりついていて、すっかり恐怖に色は見えなくなっていた。
あんな格好で大立ち回りをした甲斐があるというものである。
え、ノリノリだっただろうって?
ああいうのって、やってると楽しくなってくるんだよなあ。
ティーネはそんな弟に少し困った様子ではあったが、なんだかんだで笑っていたので良しとしよう。
思った以上に姉として少女として、魔術師なりの平穏の中を生きている彼女の姿は感慨深いものがあった。
しかし、そんな感慨を抱く時間は残念ながら長くは続かない。
氏族の拠点へ二人を送り届け感謝の印に歓待をという話になったのだが、それは固辞することとなった。
イギリスから急報が届いたからである。
はくのんが目を覚まさない。
意識がどこかへと攫われている疑いがある。
そんな凶報であった。
いつも閲覧ありがとうございます。
評価や感想、お気に入りにも心から感謝を。
誤字報告にもいつも助けられています。
今回もちょっと間が開いてしまいましたが、何をしていたかというと、純粋に体調を崩してダウンしていました。
なんか変な風邪が流行っている様なので、皆さんもお気を付けください。
小話
そんなこんなで、ジャガーマンは退場です。
色々イレギュラーすぎるんだ。
どこかで再登場の可能性もあったりなかったり。
なおエミヤは、露骨に胸をなでおろしました。
色んな意味で残当。
ティーネは後々エルメロイ教室に来るわけなんですが、実は数年遅れで弟君もやってきます。
教室で魔術師としての欠点を克服し姉以上の魔術師になった彼は、しかし部族長となる道は選ばずに幼き日に見たヒーローの背中を追って、質の悪い魔術師や怪異案件を潰して回るフリーランスの魔術師になったりするのですが、それはまた別の話です。
二世は胃を痛め、姉は頭痛を覚え、主人公は厄ネタを潰してくれてもいるので注意がしにくく頭を悩ませるという。
なお主人公だけは自業自得であることは言うまでもありません。